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特訓編
巨人殺しの剣技
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「でも、どうして下から振りかざしたの?」
「ふむ……前に儂が片腕を巨人族の剣士に斬られた事は話したな?」
「あ、うん……」
「巨人族と人間の場合はそもそも体格が大きく違う。身長が小さい女の巨人族でも身長は軽く2メートルを超えると言われている。ましてや戦場に出向くような屈強な巨人族の男は3メートルを超えているのは当たり前だった」
戦場にてロイは幾度か巨人族の剣士と戦った事があるらしく、彼によると巨人族は人間の倍近くの大きさを誇るという。実際に身長が4メートル近くも存在する巨人族もいるらしく、そんな相手に剣で挑む場合は意外な事に舌からの攻撃が友好的らしい。
「巨人族の剣士と戦う場合、上段から剣を振り抜いたとしても元々相手とは体格差に大きな差がある。だから身体が小さいこちらが剣を上から振り抜いたとしても、相手が剣を上からか、横に振り抜くだけでも弾かれてしまう」
「だから、下から?」
「そうだ。巨人族の剣士と戦う時、儂はまずは奴等の足元や膝を狙う。戦場では卑怯という言葉はない、巨人といえども人間と急所は同じ位置にある。しかし、奴等の場合は身長という点で頭や胸元を狙うのは難しい。だからこそ足や膝を斬って体勢を崩した瞬間を逃さずに仕留める」
「そ、そうなんだ……」
「また、下から攻撃を行う時は体勢を低くする。そうする事で巨人族からすれば元々背丈が小さい相手が更に体勢を低くさせた事で攻撃がしにくい。身長が大きいからといっても必ず優位に立つわけではない」
かつてロイは隻腕になった後にも巨人族の剣士と戦った際、彼は巨人族の攻撃を回避しながら攻撃を行った事を思い返す。巨人族の剣士が剣を横に振り払った瞬間、ロイは体勢を低くして攻撃を躱すだけではなく、逆に巨人族の剣士に攻撃を仕掛けて勝利した。
下からの攻撃に対して巨人族の戦士には意外な程に有効的である事が判明し、かつて巨人族に敗れて隻腕になったロイだったが、いつの間にか数多くの巨人族の剣士を破った事で彼は「巨人殺し」の異名がいつの間にか名付けられていたという。
「儂の戦法は世間の剣士から見れば卑怯な剣技だろう。敵の弱点を突き、正々堂々と戦えぬ剣技だと嘲笑された事もある。しかし、そんな事は儂にはどうでもよかった。戦場でもう一度、儂の腕を切り落としたあの剣士と戦えるのならばと儂は戦場を渡り歩いてきたが……結局はその夢は叶わなかったがな」
「どうして?まさか、その人は死んじゃったの?」
「いいや、儂の腕を切り落とした剣士は生きていた。しかし、奴は巨人の国の将軍の座に上り詰めていたらしいが、ある時に怪我をしてもう現役を引退している。それでも奴との決着をつけるために儂は巨人の国に赴いたが……奴は戦場で両足を失っていたんじゃ」
「両足を……」
「戦場ではよくある話だ。身体の一部が無くなり、もうまともに戦えなくなった者は戦場から離れる事は仕方ない事……ましてや儂のように片腕ならばともかく、両足を失った奴に儂は勝負を挑む事が出来なかった……結局は儂自身も戦場で戦う理由を失い、目的もなく旅をしていた所、お主に命を救われた」
ロイは自分の傍に置いてある剣に視線を向け、もう傭兵を辞めたというのに彼は剣を手放す事が出来ず、川に落ちた時さえも意識がないのに剣を握りしめていた。剣に生きる事に人生を捧げてきたが、宿敵の変わり果てた姿を見て彼はもう剣士として生き続ける事に意味を見出せなかった。
「レノ、この話をするのはお主が初めてだ。こんな爺の愚痴に付き合ってくれた例じゃ……この剣を受け取って欲しい」
「えっ!?でも、そんな大切な物……」
「いや、正直に言ってもうこの剣は儂には必要ない。剣士として生きる事を辞めた以上、何時までも剣を持ち歩くわけにいかん。一応は護身用に持っていたが、ダリル殿から頂いた手斧もあるからな」
「けど……」
「ふむ、そういえばダリル殿が息子には狩人以外の仕事をさせてみたいと言っていたな。ならば剣を教えてやろうか?」
「えっ!?本当に!?」
剣技を教えてくれるという言葉にレノは反応し、その姿を見てロイは苦笑いを浮かべた。レノぐらいに年齢の男の子ならば剣士などに憧れを抱くのは珍しくはなく、世話になっているお礼も兼ねてロイはレノに剣の指導を行う。
レノとしても狩人以外の仕事をやれる機会は滅多になく、ダリルの言葉もあったのでロイから剣の指導を受け、自分が剣士として通用するのかを確かめるためにこの時からロイの指導の元で剣術を習い始めた――
――それから更に半年の月日が流れ、レノは早朝の仕事を終えると毎日のようにロイと木刀で組手を行う。隻腕でありながらも「剣聖」とまで謳われたロイの実力は本物であり、年老いた老人だとは思えないほどの俊敏な動作と重い一撃でレノを圧倒する。
「くっ……このぉっ!!」
「無暗に大振りするなっ!!」
「あぐっ!?」
剣を上段から振り下そうとしたレノに対してロイは身体を半歩だけ左に動くと、最小限の動作でレノの木刀を回避する。大振りして体勢を崩したレノの後頭部に木刀の柄を叩き込む。
あまりの痛みにレノは倒れそうになるが、涙目を浮かべながらもロイと距離を取ると、木刀を構える。毎日の訓練で何度もロイの攻撃を受けたせいか、打たれ強さが鍛え上げられていた。
「くっ……まだまだ!!」
「全く、体力だけはあるのう……そろそろ休憩にせんか?」
「あ、あと少しだけ!!」
山育ちで普段から身体を鍛えているレノは体力は人一倍あるため、彼の指導を行うロイの方が疲れてきた。だが、言葉とは裏腹にロイの方は汗も流しておらず、一方でレノは全身から汗を流して衣服が身体に張り付くほどだった。
若者のレノの方が体力があるにも関わらず、老人のロイよりも疲労が大きいのは動きに無駄が多いからであり、ロイの方は最小限の動作だけで体力の消耗を抑えている。このまま戦い続ければレノが限界を迎えるだろうが、今日こそはロイから一本を取るためにレノは事前に考えていた作戦に移る。
「ふうっ……行くよ、ロイ爺ちゃん!!」
「ほう、随分と自信があるのう?自分だけの剣技でも身に付けたのか?」
「前に爺ちゃんは言ったよね?戦場では卑怯なんて言葉はないって……なら、俺も全力で行くよ」
「むっ?いったい何を……」
ロイに対してレノは距離を置くと、木刀を構えた状態で上段へと構える。その姿を見てロイは疑問を抱き、距離が遠すぎるのでレノが木刀を振り抜いても彼に当たるはずがない。
「ふむ……前に儂が片腕を巨人族の剣士に斬られた事は話したな?」
「あ、うん……」
「巨人族と人間の場合はそもそも体格が大きく違う。身長が小さい女の巨人族でも身長は軽く2メートルを超えると言われている。ましてや戦場に出向くような屈強な巨人族の男は3メートルを超えているのは当たり前だった」
戦場にてロイは幾度か巨人族の剣士と戦った事があるらしく、彼によると巨人族は人間の倍近くの大きさを誇るという。実際に身長が4メートル近くも存在する巨人族もいるらしく、そんな相手に剣で挑む場合は意外な事に舌からの攻撃が友好的らしい。
「巨人族の剣士と戦う場合、上段から剣を振り抜いたとしても元々相手とは体格差に大きな差がある。だから身体が小さいこちらが剣を上から振り抜いたとしても、相手が剣を上からか、横に振り抜くだけでも弾かれてしまう」
「だから、下から?」
「そうだ。巨人族の剣士と戦う時、儂はまずは奴等の足元や膝を狙う。戦場では卑怯という言葉はない、巨人といえども人間と急所は同じ位置にある。しかし、奴等の場合は身長という点で頭や胸元を狙うのは難しい。だからこそ足や膝を斬って体勢を崩した瞬間を逃さずに仕留める」
「そ、そうなんだ……」
「また、下から攻撃を行う時は体勢を低くする。そうする事で巨人族からすれば元々背丈が小さい相手が更に体勢を低くさせた事で攻撃がしにくい。身長が大きいからといっても必ず優位に立つわけではない」
かつてロイは隻腕になった後にも巨人族の剣士と戦った際、彼は巨人族の攻撃を回避しながら攻撃を行った事を思い返す。巨人族の剣士が剣を横に振り払った瞬間、ロイは体勢を低くして攻撃を躱すだけではなく、逆に巨人族の剣士に攻撃を仕掛けて勝利した。
下からの攻撃に対して巨人族の戦士には意外な程に有効的である事が判明し、かつて巨人族に敗れて隻腕になったロイだったが、いつの間にか数多くの巨人族の剣士を破った事で彼は「巨人殺し」の異名がいつの間にか名付けられていたという。
「儂の戦法は世間の剣士から見れば卑怯な剣技だろう。敵の弱点を突き、正々堂々と戦えぬ剣技だと嘲笑された事もある。しかし、そんな事は儂にはどうでもよかった。戦場でもう一度、儂の腕を切り落としたあの剣士と戦えるのならばと儂は戦場を渡り歩いてきたが……結局はその夢は叶わなかったがな」
「どうして?まさか、その人は死んじゃったの?」
「いいや、儂の腕を切り落とした剣士は生きていた。しかし、奴は巨人の国の将軍の座に上り詰めていたらしいが、ある時に怪我をしてもう現役を引退している。それでも奴との決着をつけるために儂は巨人の国に赴いたが……奴は戦場で両足を失っていたんじゃ」
「両足を……」
「戦場ではよくある話だ。身体の一部が無くなり、もうまともに戦えなくなった者は戦場から離れる事は仕方ない事……ましてや儂のように片腕ならばともかく、両足を失った奴に儂は勝負を挑む事が出来なかった……結局は儂自身も戦場で戦う理由を失い、目的もなく旅をしていた所、お主に命を救われた」
ロイは自分の傍に置いてある剣に視線を向け、もう傭兵を辞めたというのに彼は剣を手放す事が出来ず、川に落ちた時さえも意識がないのに剣を握りしめていた。剣に生きる事に人生を捧げてきたが、宿敵の変わり果てた姿を見て彼はもう剣士として生き続ける事に意味を見出せなかった。
「レノ、この話をするのはお主が初めてだ。こんな爺の愚痴に付き合ってくれた例じゃ……この剣を受け取って欲しい」
「えっ!?でも、そんな大切な物……」
「いや、正直に言ってもうこの剣は儂には必要ない。剣士として生きる事を辞めた以上、何時までも剣を持ち歩くわけにいかん。一応は護身用に持っていたが、ダリル殿から頂いた手斧もあるからな」
「けど……」
「ふむ、そういえばダリル殿が息子には狩人以外の仕事をさせてみたいと言っていたな。ならば剣を教えてやろうか?」
「えっ!?本当に!?」
剣技を教えてくれるという言葉にレノは反応し、その姿を見てロイは苦笑いを浮かべた。レノぐらいに年齢の男の子ならば剣士などに憧れを抱くのは珍しくはなく、世話になっているお礼も兼ねてロイはレノに剣の指導を行う。
レノとしても狩人以外の仕事をやれる機会は滅多になく、ダリルの言葉もあったのでロイから剣の指導を受け、自分が剣士として通用するのかを確かめるためにこの時からロイの指導の元で剣術を習い始めた――
――それから更に半年の月日が流れ、レノは早朝の仕事を終えると毎日のようにロイと木刀で組手を行う。隻腕でありながらも「剣聖」とまで謳われたロイの実力は本物であり、年老いた老人だとは思えないほどの俊敏な動作と重い一撃でレノを圧倒する。
「くっ……このぉっ!!」
「無暗に大振りするなっ!!」
「あぐっ!?」
剣を上段から振り下そうとしたレノに対してロイは身体を半歩だけ左に動くと、最小限の動作でレノの木刀を回避する。大振りして体勢を崩したレノの後頭部に木刀の柄を叩き込む。
あまりの痛みにレノは倒れそうになるが、涙目を浮かべながらもロイと距離を取ると、木刀を構える。毎日の訓練で何度もロイの攻撃を受けたせいか、打たれ強さが鍛え上げられていた。
「くっ……まだまだ!!」
「全く、体力だけはあるのう……そろそろ休憩にせんか?」
「あ、あと少しだけ!!」
山育ちで普段から身体を鍛えているレノは体力は人一倍あるため、彼の指導を行うロイの方が疲れてきた。だが、言葉とは裏腹にロイの方は汗も流しておらず、一方でレノは全身から汗を流して衣服が身体に張り付くほどだった。
若者のレノの方が体力があるにも関わらず、老人のロイよりも疲労が大きいのは動きに無駄が多いからであり、ロイの方は最小限の動作だけで体力の消耗を抑えている。このまま戦い続ければレノが限界を迎えるだろうが、今日こそはロイから一本を取るためにレノは事前に考えていた作戦に移る。
「ふうっ……行くよ、ロイ爺ちゃん!!」
「ほう、随分と自信があるのう?自分だけの剣技でも身に付けたのか?」
「前に爺ちゃんは言ったよね?戦場では卑怯なんて言葉はないって……なら、俺も全力で行くよ」
「むっ?いったい何を……」
ロイに対してレノは距離を置くと、木刀を構えた状態で上段へと構える。その姿を見てロイは疑問を抱き、距離が遠すぎるのでレノが木刀を振り抜いても彼に当たるはずがない。
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