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特訓編
隻腕の剣聖
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「そういえばあんた、橋から落ちたとか言ってたよな。何処へ行くつもりだったんだ?」
「ん?ああ、渓谷を通った先に俺の妻の墓があるんだ。昔、この山に暮らしていた時に一緒に暮らしていたんだが、色々とあって墓参りも碌に行けなかったからな」
「なるほど、だが橋が壊れたのならどうしようもないだろう。急ぎ旅じゃなければしばらくはここにいな。仕事を手伝ってくれるのなら飯と寝床ぐらいや用意してやる」
「それは有難いが、迷惑じゃないのか?」
「はっはっはっ!!こんな山奥の小屋に尋ねる人間は滅多にいないからな、あんたは客だ、うちのガキの話し相手になってくれよ」
ロイはダリルの言葉に戸惑うが、レノとしても別にロイがしばらくの間は山小屋に寝泊まりする事に文句はなかった。山にいる間はダリル以外の者と話す機会もないため、レノとしても旅人であるロイがどんな話をしてくれるのかは気になった。
この日以降、ロイは山小屋の世話になり、レノ達と共に暮らす事になる。そしてすぐにレノとダリルはロイがただの旅人ではない事を思い知らされる――
――翌朝、レノはいつもより少し遅い時間帯に目を覚ますと、小屋の外から薪を割る音を耳にする。慌てて起きたレノは外へ出ると、そこには右腕のみで薪を割るロイの姿が存在した。
「ロイさん?」
「おお、起きたか。昨日は迷惑を掛けたからな、お主の仕事を手伝おうと思ってな」
「わざわざ気を遣わなくてもいいのに……」
ロイの気遣いにレノは苦笑いを浮かべるが、ここで彼が片腕のみで手斧を扱い、次々と薪を割る様子をみてレノは驚く。ロイは片腕でありながらも見事に手斧を扱い、次々と薪を切断していく。
彼が切った薪の切断面を確認すると、レノが薪を割った物よりも綺麗な切口であった。しかもロイはレノが斬るよりも素早く薪割りを終わらせてしまう。その様子を見てレノは昨日助けた時もロイが剣を持っていた事を思い出し、自分よりも刃物の扱いが長けている事からレノは彼の正体を尋ねる。
「もしかしてロイさんは……剣士なんですか?」
「剣士、か……確かに昔はそうだった。だが、今はもうただの老いぼれじゃよ」
「あの、昨日は剣を渡した時、どうして最初は受け取るのを断ったんですか?」
「……ふむ」
レノの質問にロイは考え込み、何かまずい事を聞いたのかとレノは不安を抱くが、ロイは過去の事を思い出すように語り始めた。
「まあ、一言で言えばあの剣はもう儂には必要のない物だと思っていたからだ」
「剣が必要ない?」
「ああ、儂は元々は傭兵だった。若いころから仲間と共に世界中を渡り歩き、いつの間にか「剛腕の剣聖」ともてはやされた時期もあった」
過去の事を思い出すようにロイはため息を吐き出す。若いころの彼は血気盛んで怖いもの知らずで戦場を駆け巡り、多大な功績を残してきたという。
「だが、儂はある戦場で巨人族の剣士に敗れ、左腕を奪われてしまった。それからの儂の人生は一変し、片腕を失ってからは儂はもう以前のように戦える事は出来なくなった。腕っぷしだけが自慢だったが、よりにもよってその腕の半分を斬られてしまった。しかもよりにもよって自分よりも圧倒的な力を持つ剣士にな」
「ロイさん……」
「ふふふ、滑稽な話じゃ。所詮、儂は井の中の蛙にしか過ぎなかった。人間の中ではいくら腕力が強いと言っても、巨人族やドワーフと比べればどうという事はない」
ロイは確かに人間の剣士の中では一、二を争う怪力を誇っていた。しかし、そんな彼の怪力も巨人族やドワーフなどの種族の者と比べれば大したことはなく、結局は彼は自分よりも力を持つ巨人族の剣士に敗れてしまう。
片腕を失った事で自慢の剛腕も意味を為さず、いくら力が強いと言っても片腕だけでは力任せの戦闘には無理が生じた。いくら怪力自慢でも、腕が1本になれば力は半減し、両腕を扱う剣士との戦闘では不利に陥る事も多くなった。
「皮肉にも儂は腕を失ってから自分がどれだけ剣士としては未熟だったのかを思い知らされた。片腕を失い、もう力任せに剣を振るうだけでは戦場は生き残れない。そう考えた儂は今度は技術を磨き、片腕でも戦える剣技を生み出した」
「剣技?」
「儂はどうしても自分の腕を切り落とした巨人族の剣士に復讐したかった。そのため、儂は片腕であろうと敵を倒すための剣技を身に付けようとがむしゃらに訓練し、技術を磨いた。両腕がある時は小手先の技術など覚える必要もないと思っていたが、強くなるためならば儂は手段を選ばず、そして遂に完成させた」
「ど、どんな剣技なの?」
レノは隻腕になったロイがどのような剣を扱うのか気にかかり、思い切って尋ねてみる。するとロイはレノに視線を向け、一本の薪を手渡す。
「ふむ……剣技をみたいのならばこれを儂の方に目掛けて投げてくれんか?」
「え?薪を?」
「ああ、遠慮はいらん。全力で投げてくれ」
「わ、分かった……投げるよ!!」
ロイの言葉にレノは驚くが、彼がそういうのならばとレノは薪を持ち上げると、ロイに目掛けて言われた通りに投げつける。
自分に向かって放たれた薪に対し、彼は目を見開くと手斧を握りしめていた右腕を下から振りかざし、空中にて薪を真っ二つに切り裂く。
「ふんっ!!」
「うわっ!?」
凄まじい迫力と速度で下から繰り出された手斧は薪を真っ二つに切り裂くと、地面に割れた薪が落ちてしまう。その光景を見てレノは驚き、一方でロイの方は手斧を切り株に置くと、レノに説明する。
「今のが儂の編み出した剣技じゃ……最も、本来は剣を使って行う技だがな」
「す、凄い……空中で投げた薪が切れるなんて」
半端な速度と威力では空中に放り出された薪を綺麗に真っ二つに切り裂けるはずがなく、普通ならば薪が弾かれるか、あるいは刃に食い込むだけだろう。それほどまでにロイが繰り出した斬撃は素早く、威力もあった事が証明された。
刃物を振り下ろすのではなく、下から振り上げる形の剣技などレノは見た事も聞いた事もない。誰かが剣を扱う姿はエルフの里に暮らしていた時に大人達が剣の稽古をしている時に見た事はあるが、誰もロイのように真下から剣を振りかざすような真似をした剣士など見た事がなかった。
「ん?ああ、渓谷を通った先に俺の妻の墓があるんだ。昔、この山に暮らしていた時に一緒に暮らしていたんだが、色々とあって墓参りも碌に行けなかったからな」
「なるほど、だが橋が壊れたのならどうしようもないだろう。急ぎ旅じゃなければしばらくはここにいな。仕事を手伝ってくれるのなら飯と寝床ぐらいや用意してやる」
「それは有難いが、迷惑じゃないのか?」
「はっはっはっ!!こんな山奥の小屋に尋ねる人間は滅多にいないからな、あんたは客だ、うちのガキの話し相手になってくれよ」
ロイはダリルの言葉に戸惑うが、レノとしても別にロイがしばらくの間は山小屋に寝泊まりする事に文句はなかった。山にいる間はダリル以外の者と話す機会もないため、レノとしても旅人であるロイがどんな話をしてくれるのかは気になった。
この日以降、ロイは山小屋の世話になり、レノ達と共に暮らす事になる。そしてすぐにレノとダリルはロイがただの旅人ではない事を思い知らされる――
――翌朝、レノはいつもより少し遅い時間帯に目を覚ますと、小屋の外から薪を割る音を耳にする。慌てて起きたレノは外へ出ると、そこには右腕のみで薪を割るロイの姿が存在した。
「ロイさん?」
「おお、起きたか。昨日は迷惑を掛けたからな、お主の仕事を手伝おうと思ってな」
「わざわざ気を遣わなくてもいいのに……」
ロイの気遣いにレノは苦笑いを浮かべるが、ここで彼が片腕のみで手斧を扱い、次々と薪を割る様子をみてレノは驚く。ロイは片腕でありながらも見事に手斧を扱い、次々と薪を切断していく。
彼が切った薪の切断面を確認すると、レノが薪を割った物よりも綺麗な切口であった。しかもロイはレノが斬るよりも素早く薪割りを終わらせてしまう。その様子を見てレノは昨日助けた時もロイが剣を持っていた事を思い出し、自分よりも刃物の扱いが長けている事からレノは彼の正体を尋ねる。
「もしかしてロイさんは……剣士なんですか?」
「剣士、か……確かに昔はそうだった。だが、今はもうただの老いぼれじゃよ」
「あの、昨日は剣を渡した時、どうして最初は受け取るのを断ったんですか?」
「……ふむ」
レノの質問にロイは考え込み、何かまずい事を聞いたのかとレノは不安を抱くが、ロイは過去の事を思い出すように語り始めた。
「まあ、一言で言えばあの剣はもう儂には必要のない物だと思っていたからだ」
「剣が必要ない?」
「ああ、儂は元々は傭兵だった。若いころから仲間と共に世界中を渡り歩き、いつの間にか「剛腕の剣聖」ともてはやされた時期もあった」
過去の事を思い出すようにロイはため息を吐き出す。若いころの彼は血気盛んで怖いもの知らずで戦場を駆け巡り、多大な功績を残してきたという。
「だが、儂はある戦場で巨人族の剣士に敗れ、左腕を奪われてしまった。それからの儂の人生は一変し、片腕を失ってからは儂はもう以前のように戦える事は出来なくなった。腕っぷしだけが自慢だったが、よりにもよってその腕の半分を斬られてしまった。しかもよりにもよって自分よりも圧倒的な力を持つ剣士にな」
「ロイさん……」
「ふふふ、滑稽な話じゃ。所詮、儂は井の中の蛙にしか過ぎなかった。人間の中ではいくら腕力が強いと言っても、巨人族やドワーフと比べればどうという事はない」
ロイは確かに人間の剣士の中では一、二を争う怪力を誇っていた。しかし、そんな彼の怪力も巨人族やドワーフなどの種族の者と比べれば大したことはなく、結局は彼は自分よりも力を持つ巨人族の剣士に敗れてしまう。
片腕を失った事で自慢の剛腕も意味を為さず、いくら力が強いと言っても片腕だけでは力任せの戦闘には無理が生じた。いくら怪力自慢でも、腕が1本になれば力は半減し、両腕を扱う剣士との戦闘では不利に陥る事も多くなった。
「皮肉にも儂は腕を失ってから自分がどれだけ剣士としては未熟だったのかを思い知らされた。片腕を失い、もう力任せに剣を振るうだけでは戦場は生き残れない。そう考えた儂は今度は技術を磨き、片腕でも戦える剣技を生み出した」
「剣技?」
「儂はどうしても自分の腕を切り落とした巨人族の剣士に復讐したかった。そのため、儂は片腕であろうと敵を倒すための剣技を身に付けようとがむしゃらに訓練し、技術を磨いた。両腕がある時は小手先の技術など覚える必要もないと思っていたが、強くなるためならば儂は手段を選ばず、そして遂に完成させた」
「ど、どんな剣技なの?」
レノは隻腕になったロイがどのような剣を扱うのか気にかかり、思い切って尋ねてみる。するとロイはレノに視線を向け、一本の薪を手渡す。
「ふむ……剣技をみたいのならばこれを儂の方に目掛けて投げてくれんか?」
「え?薪を?」
「ああ、遠慮はいらん。全力で投げてくれ」
「わ、分かった……投げるよ!!」
ロイの言葉にレノは驚くが、彼がそういうのならばとレノは薪を持ち上げると、ロイに目掛けて言われた通りに投げつける。
自分に向かって放たれた薪に対し、彼は目を見開くと手斧を握りしめていた右腕を下から振りかざし、空中にて薪を真っ二つに切り裂く。
「ふんっ!!」
「うわっ!?」
凄まじい迫力と速度で下から繰り出された手斧は薪を真っ二つに切り裂くと、地面に割れた薪が落ちてしまう。その光景を見てレノは驚き、一方でロイの方は手斧を切り株に置くと、レノに説明する。
「今のが儂の編み出した剣技じゃ……最も、本来は剣を使って行う技だがな」
「す、凄い……空中で投げた薪が切れるなんて」
半端な速度と威力では空中に放り出された薪を綺麗に真っ二つに切り裂けるはずがなく、普通ならば薪が弾かれるか、あるいは刃に食い込むだけだろう。それほどまでにロイが繰り出した斬撃は素早く、威力もあった事が証明された。
刃物を振り下ろすのではなく、下から振り上げる形の剣技などレノは見た事も聞いた事もない。誰かが剣を扱う姿はエルフの里に暮らしていた時に大人達が剣の稽古をしている時に見た事はあるが、誰もロイのように真下から剣を振りかざすような真似をした剣士など見た事がなかった。
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