力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
21 / 215
特訓編

滝から流れてきた老人

しおりを挟む
――翌朝、レノは以前に「嵐拳」を習得する際に訓練場として利用していた滝に赴いていた。ここに来たのは魔物が滅多に近寄らず、自分が成長した事を初めて実感した場所だからである。


「狩人以外の生き方か……そう言われてもすぐには思いつかないな」


エルフの里を追い出された後、レノはダリルに拾われてずっと彼の元で狩人としての技術を学んでいた。だから狩人として生活する事には何の不満もない。だからいきなり狩人以外の生き方を考えろと言われても思いつかない。

この山を離れない限りはレノは狩人以外の人生など送る事も出来ず、そもそもレノとしては外の世界に出向いても一人で生きていける自信はない。



――かつてのダリルはレノが付与魔術でボアを仕留めた時に彼の力が他人に知られるのはまずいと考えていた。だが、立派に成長して自分の事を自分で決められる年齢に達した今のレノならば問題ないと判断し、敢えて彼に外の世界で生きる道も諭した。



父親として息子の将来を心配するのは当然だが、同時に彼に期待を抱くのも親としては当たり前である。レノの能力は狩人として生きるためだけに使うのは勿体ない、そう考えるようになったからこそダリルはレノに外の世界で生きるべきか選択肢を与えたのだ。


「ふうっ……久しぶりに修行でもしようかな」


レノは相も変わらず激しい勢いで流れる滝に視線を向け、拳を握りしめた。かつては滝の裏側から流れ落ちる水を吹き飛ばした事を思い出し、今の自分ならばどの程度の事が出来るのかを試す。


「よし、やってみる……何だ!?」


だが、ここで滝から流れ落ちる水を見てレノは目を見開く。この滝はよく流木などが流れてくるが、明らかに流木ではない物体が紛れ込んでいる事に気付いた。その物体の正体を見てレノは驚愕の表情を浮かべる。

流れ落ちてきたのは人の形をしており、すぐにそれが人間のような姿をしている事に見えた。慌ててレノは滝壺に移動すると、躊躇なく飛び込む。


(……いた、やっぱり人間だ!!)


滝から流れ落ちてきたのは人間の男性である事が判明し、その人物は意識がないのかどんどんと水底に沈んでいく。相当に年老いており、片手には剣を掴んでいた。


(助けないと……でも、水の流れが強すぎる!!)


レノは沈んでいく人物を見てすぐに助けようと潜り込むが、水の流れが思っていた以上に強く、上手く泳ぐことが出来ない。そこでレノは両手を後ろに構えると掌に「竜巻」を作り出し、風の魔力を利用して下の方向へと移動を行う。

スクリューの要領でレノは水中を移動すると、男性の身体を掴み、今度は両足から風の魔力を放出して水面へと浮かぶ。どうにか男性を陸地まで運び込むと、レノは男性が生きているのかを確かめる。


「お爺さん!!しっかりして!!お爺さん!!」
「ぐふっ……げほっ、げほっ!!」
「ああ、良かった。大丈夫?」


耳元でレノが叫ぶと男性は口から水を吐き出し、意識を取り戻す。彼は自分を覗き込むレノを見て呆然とした表情を浮かべるが、すぐに自分の身体が濡れている事に気付き、何があったのかを思い出す。


「儂は……そうだ、確か橋を渡ろうとした時に突然に崩れて川の中に落ちて……それから、どうなったのだ」
「お爺さん、この滝から落ちてきたんだよ」
「こ、こんな滝から落ちたのか……それでお主が助けたのか、ありがとう」
「そうだよ。あ、それと……この剣もお爺さんのでしょ?」


レノは老人が起きた時に手放した剣を拾い上げ、老人に渡す。すると老人は彼の持っている長剣に視線を向け、黙って首を振った。


「いや、それは……いらん」
「え?でも、この剣はお爺さんが持ってたんだよ。意識を失ってもずっと握りしめたままだったから、大切な物じゃないの?」
「儂がこれを……そうか」


気絶しても尚も握り続けたという話を聞いて老人はため息を吐き出し、レノから長剣を受け取る。あまり嬉しくなさそうな表情を浮かべる老人にレノは不思議に思うが、とりあえずは冷えた身体を温めるためにレノは彼を山小屋まで連れていく事にした――




――山小屋へと戻ると、ダリルは水浸しのレノが老人を連れて帰ってきた事に驚き、すぐに二人の服を脱がせて火を焚く。毛布に包まった老人は改めてレノに礼を言い、自分が何者かを話す。


「すまん、お主のお陰で命が助かった……儂の名はロイ、旅人じゃ」
「旅人……こんな辺境の山奥にまでくるとは随分と変わってるな、あんた」
「うむ、実は儂は一時期この山に暮らしていた時があってな。といっても、もう何十年も前の話だが……渓谷に繋がっている橋を渡ろうとした時、急に足場が崩れてしまってな。そのまま落ちてしまったのだ。川に流されている途中で水底の大きな石に頭をぶつけて気絶した後、滝に落ちた所をそこにいる子に助けてもらったんじゃ」
「そうだったのか……レノ、よくやったな!!人助けは偉いぞ!!」
「あはは……」


ダリルはレノが老人を救ったという話に満足気な表情を浮かべ、レノは照れ臭そうな表情を浮かべる。老人は改めて自分を助けてくれたレノと、暖かい毛布を貸してくれたダリルに礼を言う。


「改めて礼を言わせてくれ。命を助けていただき、感謝する。それにしてもこんな山奥にドワーフとの少年が暮らしているとは……」
「ははは……なっ!?」
「えっ……!?」
「ん?どうした、何か変な事を言ったか?」


ロイの言葉にレノは慌てて耳元を隠し、ダリルは驚いた表情を浮かべて老人へと振り返った。現在のレノは横紙を伸ばして耳元が見られないように隠しており、外見は人間の少年にしか見えないはずである。それにも関わらずにレノの正体をハーフエルフだと見抜いた事に動揺を隠せない。

二人の反応を見てロイは自分がまずい事を言ったのかと不思議に思うが、ダリルは頭を掻きながら率直にレノの正体を見抜いた理由を問う。


「あんた、こいつがハーフエルフだと気づいていたのか?」
「ん?ああ、助けてくれた時にその少年の耳が偶然にも見えてな。最初は黒髪のエルフかと思ってダークエルフかと考えたが、肌が褐色ではないからのう。だから、人間とエルフの間に生まれたハーフエルフだと思ったのだが、違ったか?」
「いや、間違ってはいないです……」
「そうか、髪の毛で耳元を隠しているのは何か事情があるのか?」
「……爺さん、悪いがこれ以上は何も聞かないでくれ。こいつは他の奴等にハーフエルフだと気づかれたら色々とまずいんだ」
「そうか……分かった。ではこの事は誰にも話さない事を約束しよう。それでいいのだろう?」


ロイの言葉にレノとダリルは安堵した表情を浮かべ、その様子を見てロイは何か訳ありだと勘付き、それ以上の追求はしなかった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...