力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
10 / 215
特訓編

レノの能力

しおりを挟む
――朝日を迎えるとダリルはとりあえずはボアの死骸を解体して手に入れた肉から豚汁を作り出すと、まずは飯を食べながらレノに事情を問う。彼は夜の間に弓矢の練習を行っていた事、そして勝手にダリルの弓矢を借りてしまった事を謝罪するが、別にダリルは弓矢を持ち出した事に関しては怒りはしなかった。


「なるほどな、自分の矢が外れないから俺が渡した弓に何か仕掛けがあるのかと思っていたのか。だけどな、俺がお前に渡した弓は別に普通の弓だぞ」
「うん、それは分かってる……義父さんの弓でも俺の矢は外れなかった」
「そうだろうな、俺の弓も別に特別に頑丈なだけで特に仕掛けなんて施してないからな。でも、まさかお前の矢が絶対に当たる理由が魔法の力のお陰とはな……」
「ううん、俺のは魔法じゃなくて魔力だよ。魔法というのは魔力を固定化させて撃ち込むんだけど、俺の場合は魔力を固定化させる事が出来ないから……」
「そうか、まあそこら辺は良く分からねえが……とにかく、お前の矢が絶対に当たる理由はその魔力が関係しているんだな」


魔法と魔力の違いはよく分からないダリルだったが、とりあえずはレノの矢が今までに一度たりとも外れなかった理由を聞いて納得する。いくら才能があるといっても10才の子供が出来る芸当ではない。

今までにもレノが放った矢が軌道を変更して標的に的中したように見えたのはダリルの勘違いではなく、実際に矢が目標に追尾している事が判明する。他人に話したところで信じて貰える内容ではないが、息子のように育てているレノの言葉ならばダリルは疑いはしない。だが、やはり実際に目で見て確かめないと心の底から信じる事は出来ないとも考えた。


「レノ、ちょっと今から矢を撃ってくれんか?本当にお前さんの矢が何処を射抜いても当たるのかを確かめたいんだ」
「あ、うん。そうだよね、義父さんにも見て貰いたいんだ」


レノはダリルの言葉に頷き、二人は小屋から抜け出すと適当な木に的を吊るし、そこから20メートルほど離れた場所からレノは狙いを定めた。今回は事前に自分の意思で矢に魔力を送り込み、弓を構える。


「よく見ててね……とりあえず、空に向けて撃つから」
「お、おう」


ダリルの前でレノは弓を上空へと構えると、矢を放つ。空へと飛びあがった矢を見てダリルは目で追うと、放たれた矢は弧を描いて的の中心に的中した。その光景を見てダリルは驚き、レノは少し自慢げな表情を浮かべた。


「どう?当たったでしょ?」
「こ、こいつは凄いな……だが、まぐれの可能性もあるんじゃないのか?」
「それなら今度は下に向けて撃つね」
「は?おいおい、何を言ってんだ。そんなの地面に矢が突き刺さる……うおっ!?」


会話の途中でレノは矢を放つと、斜めの角度から地面に放たれた矢は衝突の寸前に軌道が変更し、砂煙を舞い上げながらも浮上すると的の中心に再び的中した。それを見てダリルは驚き、一方でレノは次の矢を番える。

今度は上空でも下でもなく、的の反対方向に向けてレノは矢を放つと、発射された矢は旋回するように軌道を変更してレナとダリルの間を潜り抜けると、的の中心に的中した。その光景を確認してダリルは唖然とするが、レノは成功した事に安堵した。


「ふうっ……ね、当たったでしょ?」
「なっ、なっ……」


レノの言葉にダリルは大口を開いて驚き、腰を抜かす。今までにレノが矢を射る時は外さなかった理由が判明し、彼の放った矢は外さないのではなく、外れないのだ。どんな方向や角度で撃ち込もうと矢に纏った風の魔力が原因で軌道が変化し、標的を確実に射抜く。狩人として生まれた者ならば喉から手が出るほどに素晴らしい能力であった。


(こ、こいつは……もう才能とか、技術の問題じゃねえ。こんな能力があれば魔法なんていらねえじゃねえか!!)


魔法を使えない事にレノは負い目を感じていたが、ダリルからすればこんな凄い芸当が出来るのならば魔法など必要はなく、それほどまでにレノは素晴らして同時に恐ろしい能力を身に付けている事を自覚していない。どんなに遠くに離れていようと矢が届く範囲ならばレノは狙った獲物に矢を撃ち抜く事が出来る。これがどれほど凄い事なのか本人は理解していない。

仮にもしも他の人間がレノの能力を持ち合わせていた場合、必ずや悪用を考える輩も現れるだろう。この能力の恐ろしい点は矢の射程範囲ならば標的を絶対に外さず、確実に射抜く事が出来る点である。相手が魔物ならばともかく、これをもしも人間相手に使用したらとんでもない事態に陥ってしまう。


(まずい、こいつは絶対にまずい……この能力を他の奴等に知られたらきっとレノを利用しようとする輩が現れるだろう。そんな事になれば人を疑う事を知らないこいつはいいように利用されちまう。それだけは避けなければならねえ……!!)


ダリルはレノの頭を撫でやり、この能力がどれほど危険な事なのかを伝えなければならないと考えていた。しかし、それと同時にダリルはレノが抱えていた魔法が使えないという弱点を補って余りあるこの能力を禁じる事は出来ないとも思っていた。


(ああ、くそっ……やっと魔法に代わる凄い能力を手に入れたのにこいつにもう二度と使うな、なんて言えるはずがねえ!!どうすりゃいいんだ……そうだ、要はこいつが騙されないようになればいいんだ!!)


折角手に入れた能力を封じるなどという酷な真似は出来ず、むしろダリルはレノの能力を伸ばすべきだと考えた。もちろん、人に知られたら大変な能力である事は間違いはない。だが、逆に言えば人に知られないように心掛けて行動すれば問題はない。

今までダリルは子供であるレノを若干甘やかして育てていたが、彼のためを思えばこそこれからは厳しく育て、レノの能力がどれほど危険であるかを自覚させる事を決めた。いずれレノも自分の元を離れる日が来るとは覚悟していたが、彼が自分の元に離れる前にダリルはレノに外の世界の社会を教える事を決めた。


「レノ、お前は一人前の男に育て上げるからな!!」
「え、男……うん?」


ダリルの唐突な発言にレノは不思議そうに首を傾げるが、そんな彼を見てダリルは一大決心を抱く。必ず自分の手でレノに外の世界の常識を叩き込み、彼自身がどれほど危険で同時に素晴らしい能力を持っているのかを自覚させるため、ダリルは奮起した――
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第一部

Hiroko
ファンタジー
異世界に行けると噂の踏切。 僕と友人の美津子が行きついた世界は、八岐大蛇(やまたのおろち)が退治されずに生き残る、奈良時代の日本だった。 現在と過去、現実と神話の世界が入り混じる和の異世界へ。 流行りの異世界物を私も書いてみよう! と言うことで書き始めましたが、どうしようかなあ。 まだ書き始めたばかりで、この先どうなるかわかりません。 私が書くと、どうしてもホラーっぽくなっちゃうんですよね。 なんとかなりませんか? 題名とかいろいろ模索中です。 なかなかしっくりした題名を思いつきません。 気分次第でやめちゃうかもです。 その時はごめんなさい。 更新、不定期です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...