7 / 215
特訓編
2年後
しおりを挟む
――レノが森人族の里を追い出されてから2年の月日が経過し、晴れて10才の誕生日を迎えたレノは養父の小髭族のダリルと共に狩猟を行う。彼はレノのために弓矢を作ってやり、他にも狩った獲物の捌き方なども教えてくれた。
「……どうだ、レノ?いい獲物は見つかったか?」
「うん、見つけた。この先に一角兎がいる」
「マジかよ、よく見えるな……俺には何処にいるのかさっぱりだ」
ダリルはレノを肩車しながら森の中を歩いていると、レノは数十メートル先に存在する兎のような生物を発見する。額の部分に角を生やした兎のような姿をした魔物は「一角兎」と呼ばれ、基本的には魔物の中では力が弱く、臆病な性格をしているので滅多に人前には姿を現さない。肉は珍味なので人気が高く、人里に持って行けば高く買い取って貰える。
レノはダリルが作った弓に矢を構え、森人族の血を継いでいる彼は普通の人間よりも視力に優れていた。一角兎に狙いを正確に定めて矢を放つ。発射された矢は木々を潜り抜けていき、見事にレノが放った矢は生物の首筋に的中した。
――キュイイッ!?
森の奥の方から悲鳴が響き渡り、ダリルの肩から降りたレノは急いで茂みを掻き分けて向かうと、そこには首を貫かれて苦しそうな一角兎の姿があった。その姿を見てレノは矢を当てた事を喜ぶよりも苦しそうな表情を浮かべる一角兎を見て罪悪感を覚える。
「おお、よく当てたな!!だが、まだ生きているようだな……レノ、楽にしてやれ」
「う、うん」
「キュイイッ……」
自分に近付いてくるレノとダリルに対して一角兎は悲し気な声を上げるが、その声を聞いてレノは腰に差していた短剣を抜き、ゆっくりと刃を一角兎へと伸ばす。早く殺して楽にさせた方がいい事は分かっているが、どうしても躊躇してしまう。そんな彼にダリルは肩を掴み、自分がやろうかと尋ねた。
「どうする?儂が楽にさせてやろうか?」
「……いや、やるよ」
覚悟を決めたレノは一角兎に向けて短剣を構え、首元を切り裂く。その結果、一角兎の体内から血液が放出され、やがて事切れたのか一角兎は動かなくなった。その様子を見てレノは額の汗を拭い、やはり生き物を殺すときはどうしても緊張してしまう。
ダリルはレノが一人で獲物を狩り、苦しませずに命を絶った姿を見て安堵した。1年前のレノは獲物を殺すときに泣き出してしまい、あやすのに苦労したが今はしっかりと一人で狩猟が出来るように成長していた。
(こいつも成長したな……それにしてもよくこの距離で一発で当てたな。大したもんだ)
ここでダリルは先ほどレノが矢を射った場所を確認し、相当に距離が離れているのに的確に一角兎の急所を貫いた事に驚く。彼がレノに弓を教えたのは半年足らずなのだが、レノは今ではダリルよりも巧みに弓を扱えるようになっていた。
平地ならばともかく、障害物が多い森の中でしかも数十メートルは離れた距離、更には本物の兎と殆ど変わらない小さな標的にレノが矢を当てたという事実にダリルは感心を通り越して不思議に思う。
(いくら弓の才能があるといっても、こいつはまだガキだぞ。こんなに弓の上達が早い事なんてあるのか?)
ダリルは一角兎の死骸の解体を行い始めるレノに視線を向け、疑問を抱く。彼の先ほどの射撃を思い出し、ダリルの目にはまるでレノが発射した矢が勝手に動いて標的に突き刺さっている様に見えた。
(最初の頃は真っ直ぐ飛ばす事も出来なかったのに半年足らずでここまで出来るようになるもんか?まあ、俺は弓の腕はからっきしだからな……もしかしたらこのぐらいの森人族のガキなら誰でも出来る事かもしれねえ)
森人族は弓矢を得意とする種族だとダリルは聞いた事があるため、その森人族の血を継いでいるレノも類まれな弓矢の才能があるのだろうとダリルは納得した。しかし、実際の所は彼の予想は半分は外れており、半分は当たっていた――
――その日の夜、山小屋にてダリルと共に休んでいたレノだったが、ダリルが眠った後に彼は小屋を抜け出す。夜の間にレノは一人で抜け出して弓矢の練習を行うのが日課になっていた。どうして夜に行うのかというと、ダリルのいびきがうるさいのでレノは寝付けず、仕方なく彼のいびきが気にしないほどに疲れるまで弓矢の練習を行うのが癖になっていた。
「ふうっ……ここならいいかな」
レノは弓矢を構えると15メートルほど離れた樹木の枝にぶら下げた的に狙いを定める。的はダリルが切り株から作り出してくれた物であり、かなり分厚いので普通に矢を射抜いても壊れる心配はない。
木の枝にぶら下げた的に視線を向け、弓を構えたレノは矢を番える。狙いを定めてレノは撃ち込むと、見事に矢は的の中央に的中した。しかし、それを見てレノは眉を顰める。
「また、当たった……どうしてだろう、なんで外れないんだろう?」
これまでにレノは何度も弓矢の練習を行ってきたが、ある時を境にレノは的から矢が外れる事がなくなった。最初は自分の腕が上達しているのかと思ったが、最近では不気味な程に矢はレノの狙い通りに的中し、今日も一角兎を仕留める事が出来た。
別に標的に矢が当たるのならば喜ぶべき事だが、レノの場合は異常なまでに命中力が高かった。本人は特に当てる事に意識せずに射抜いても的は必ず標的に命中するため、ここまでくると矢が勝手に動いて標的を狙い撃ちしているような感覚に陥る。
「まさか……」
レノは上空を見上げると、試しに的に一度視線を向けた後、空に向けて矢を放つ。当然だが見当違いに放たれた矢が的に当たる事など有り得ず、そのまま矢は弧を描いて地面に落下する――はずだった。
――パァンッ!!
森の中に矢が的に突き刺さる音が鳴り響き、レノは信じられない表情を浮かべて15メートル先の的に視線を向ける。そこには斜めの角度から的の中央に的中した矢が存在し、それを見たレノは弓を握りしめる自分の両手に視線を向けた。
「そんな馬鹿な……」
先ほど上空に放った矢は落下の途中で軌道が確かに変更し、心の中でレノが狙いを定めていた的に的中した。しかし、真上に放った矢が15メートルも離れた的に正確に貫いたという事実にレノは信じられない思いを抱き、ここまでくると恐怖さえも抱いてしまう。
「……どうだ、レノ?いい獲物は見つかったか?」
「うん、見つけた。この先に一角兎がいる」
「マジかよ、よく見えるな……俺には何処にいるのかさっぱりだ」
ダリルはレノを肩車しながら森の中を歩いていると、レノは数十メートル先に存在する兎のような生物を発見する。額の部分に角を生やした兎のような姿をした魔物は「一角兎」と呼ばれ、基本的には魔物の中では力が弱く、臆病な性格をしているので滅多に人前には姿を現さない。肉は珍味なので人気が高く、人里に持って行けば高く買い取って貰える。
レノはダリルが作った弓に矢を構え、森人族の血を継いでいる彼は普通の人間よりも視力に優れていた。一角兎に狙いを正確に定めて矢を放つ。発射された矢は木々を潜り抜けていき、見事にレノが放った矢は生物の首筋に的中した。
――キュイイッ!?
森の奥の方から悲鳴が響き渡り、ダリルの肩から降りたレノは急いで茂みを掻き分けて向かうと、そこには首を貫かれて苦しそうな一角兎の姿があった。その姿を見てレノは矢を当てた事を喜ぶよりも苦しそうな表情を浮かべる一角兎を見て罪悪感を覚える。
「おお、よく当てたな!!だが、まだ生きているようだな……レノ、楽にしてやれ」
「う、うん」
「キュイイッ……」
自分に近付いてくるレノとダリルに対して一角兎は悲し気な声を上げるが、その声を聞いてレノは腰に差していた短剣を抜き、ゆっくりと刃を一角兎へと伸ばす。早く殺して楽にさせた方がいい事は分かっているが、どうしても躊躇してしまう。そんな彼にダリルは肩を掴み、自分がやろうかと尋ねた。
「どうする?儂が楽にさせてやろうか?」
「……いや、やるよ」
覚悟を決めたレノは一角兎に向けて短剣を構え、首元を切り裂く。その結果、一角兎の体内から血液が放出され、やがて事切れたのか一角兎は動かなくなった。その様子を見てレノは額の汗を拭い、やはり生き物を殺すときはどうしても緊張してしまう。
ダリルはレノが一人で獲物を狩り、苦しませずに命を絶った姿を見て安堵した。1年前のレノは獲物を殺すときに泣き出してしまい、あやすのに苦労したが今はしっかりと一人で狩猟が出来るように成長していた。
(こいつも成長したな……それにしてもよくこの距離で一発で当てたな。大したもんだ)
ここでダリルは先ほどレノが矢を射った場所を確認し、相当に距離が離れているのに的確に一角兎の急所を貫いた事に驚く。彼がレノに弓を教えたのは半年足らずなのだが、レノは今ではダリルよりも巧みに弓を扱えるようになっていた。
平地ならばともかく、障害物が多い森の中でしかも数十メートルは離れた距離、更には本物の兎と殆ど変わらない小さな標的にレノが矢を当てたという事実にダリルは感心を通り越して不思議に思う。
(いくら弓の才能があるといっても、こいつはまだガキだぞ。こんなに弓の上達が早い事なんてあるのか?)
ダリルは一角兎の死骸の解体を行い始めるレノに視線を向け、疑問を抱く。彼の先ほどの射撃を思い出し、ダリルの目にはまるでレノが発射した矢が勝手に動いて標的に突き刺さっている様に見えた。
(最初の頃は真っ直ぐ飛ばす事も出来なかったのに半年足らずでここまで出来るようになるもんか?まあ、俺は弓の腕はからっきしだからな……もしかしたらこのぐらいの森人族のガキなら誰でも出来る事かもしれねえ)
森人族は弓矢を得意とする種族だとダリルは聞いた事があるため、その森人族の血を継いでいるレノも類まれな弓矢の才能があるのだろうとダリルは納得した。しかし、実際の所は彼の予想は半分は外れており、半分は当たっていた――
――その日の夜、山小屋にてダリルと共に休んでいたレノだったが、ダリルが眠った後に彼は小屋を抜け出す。夜の間にレノは一人で抜け出して弓矢の練習を行うのが日課になっていた。どうして夜に行うのかというと、ダリルのいびきがうるさいのでレノは寝付けず、仕方なく彼のいびきが気にしないほどに疲れるまで弓矢の練習を行うのが癖になっていた。
「ふうっ……ここならいいかな」
レノは弓矢を構えると15メートルほど離れた樹木の枝にぶら下げた的に狙いを定める。的はダリルが切り株から作り出してくれた物であり、かなり分厚いので普通に矢を射抜いても壊れる心配はない。
木の枝にぶら下げた的に視線を向け、弓を構えたレノは矢を番える。狙いを定めてレノは撃ち込むと、見事に矢は的の中央に的中した。しかし、それを見てレノは眉を顰める。
「また、当たった……どうしてだろう、なんで外れないんだろう?」
これまでにレノは何度も弓矢の練習を行ってきたが、ある時を境にレノは的から矢が外れる事がなくなった。最初は自分の腕が上達しているのかと思ったが、最近では不気味な程に矢はレノの狙い通りに的中し、今日も一角兎を仕留める事が出来た。
別に標的に矢が当たるのならば喜ぶべき事だが、レノの場合は異常なまでに命中力が高かった。本人は特に当てる事に意識せずに射抜いても的は必ず標的に命中するため、ここまでくると矢が勝手に動いて標的を狙い撃ちしているような感覚に陥る。
「まさか……」
レノは上空を見上げると、試しに的に一度視線を向けた後、空に向けて矢を放つ。当然だが見当違いに放たれた矢が的に当たる事など有り得ず、そのまま矢は弧を描いて地面に落下する――はずだった。
――パァンッ!!
森の中に矢が的に突き刺さる音が鳴り響き、レノは信じられない表情を浮かべて15メートル先の的に視線を向ける。そこには斜めの角度から的の中央に的中した矢が存在し、それを見たレノは弓を握りしめる自分の両手に視線を向けた。
「そんな馬鹿な……」
先ほど上空に放った矢は落下の途中で軌道が確かに変更し、心の中でレノが狙いを定めていた的に的中した。しかし、真上に放った矢が15メートルも離れた的に正確に貫いたという事実にレノは信じられない思いを抱き、ここまでくると恐怖さえも抱いてしまう。
1
お気に入りに追加
659
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第一部
Hiroko
ファンタジー
異世界に行けると噂の踏切。
僕と友人の美津子が行きついた世界は、八岐大蛇(やまたのおろち)が退治されずに生き残る、奈良時代の日本だった。
現在と過去、現実と神話の世界が入り混じる和の異世界へ。
流行りの異世界物を私も書いてみよう!
と言うことで書き始めましたが、どうしようかなあ。
まだ書き始めたばかりで、この先どうなるかわかりません。
私が書くと、どうしてもホラーっぽくなっちゃうんですよね。
なんとかなりませんか?
題名とかいろいろ模索中です。
なかなかしっくりした題名を思いつきません。
気分次第でやめちゃうかもです。
その時はごめんなさい。
更新、不定期です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる