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最終章 ヤマタノオロチ編
最後の聖痕
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――レノが次に目を覚ますと、視界には何処か懐かしい光景が広がっていた。まだ、放浪島を抜け出して聖痕の回収を行っていた頃、アイリィから呼び出された精神空間とよく似た場所だった。違いがあるとすればアイリィの精神空間は全体的が白色だったが、今回は青色に染まっており、どういう事なのか実体があるように思える。
「ここは……死後の世界?」
周囲を見渡しても自分以外の誰も存在せず、レノは自分が死んでしまったのかと思ったが、どうにも奇妙な感覚が広がる。
バリィイインッ!!
「うわっ!?」
唐突に胸元にぶら下げていたペンダントが砕け散り、何事かと視線を向けると地面に落ちたペンダントの残骸からレノがケムケムと名付けたガス状の生命体が出現し、レノの前に浮き上がる。
『ふうっ……やっと、話せることが出来るな』
「えっ?」
何時もはふわふわと周囲を浮き上がるだけだったケムケムが流調に女性の声音で喋り出し、徐々に形状を変化させる。やがてレノの目の前には今は亡きアイリィの面影を想像させる1人の女性が立っており、剣士のような出で立ちの彼女は自分の肉体を確認すると、満足気に頷く。
「やっと話せる事が出来るな……まずは、初めましてというべきかな」
「え、えっ?け、ケムケムが人になった……」
「正確に言えばこっちが本当の姿なんだが……」
ケムケムと思われる女性は苦笑いを浮かべ、外見はアイリィとよく似ているが性格は似通っておらず、彼女はレノに向けて掌を差し出す。
「まずは礼を言わせてくれ。妹を救ってくれてありがとう」
「はあっ……妹?」
差し出された右手を握り返すと、彼女はレノの右手に視線を向け、溜息を吐きながら囁きかける。
「アイリィ、そこにいるんだろう?出て来い」
『……いや、ばれちゃいましたか』
「えっ?」
女性に握りしめられている右手の甲が光り輝き、見覚えのある紋様が浮き上がったと思うと、白色の光を放つ球体が出現する。女性は球体に掌を差し出すと、困った風にレノに振り返る。
「一応は自己紹介しておくか。私の名前はフォルム、そしてこちらは……」
『どもども~レノさんの愛しのアイリィちゃんですよ~』
ぽんっ!!
球体が人型の形に変化したと思うと、フォルムと名乗る女性の掌に乗れるサイズの「アイリィ」が姿を現し、レノは驚愕する。
「うわぁっ!!アイリィが化けて出たぁっ!!」
「誰がお化けですか!!まあ、否定はしませんけど」
「落ち着け。君も死んでるような物だろ」
「あ、それもそうか……」
レノは唐突に現れたフォルムと手のひらサイズのアイリィに視線を向け、何が起きているのか理解できないが、少なくとも自分が死んだ事は認識できた。
「えっと……フォルムさんって、アイリィの姉の?」
「そういう事ですね。私のお姉様です」
「姉妹、という事になるかな」
「……ケムケムがアイリィの姉?」
名前から薄々と察する事は出来たが、まさか自分がペットとして買っていたケムケムの正体がアイリィの姉だったという事実に驚きを隠せず、どうしてフォルムがあのような姿形で地上を彷徨っていたのか問い質す。
「いや……実は私も魔王が打ち倒された時に魂だけの存在として解放されたんだが、肉体を失った私は意識が薄れて自分が何者なのか理解できなかったんだ。だから彷徨っている内に気付けば教会に忍び込んでいたんだが、偶然にもアイリィの力を宿す君を発見して近づいたことになる」
「本当は私も魔王の奴と一緒に死ぬはずだったんですけど、レノさんの寿命を延ばすために送り込んだ私の力が予想外に多すぎて、ほんの少しだけ意識が残っちゃったんですよね。今の私は元々の魂の一部でしかありません」
「へえ……なら、ずっと俺と一緒に居てくれたのか」
「そういう事ですね。正直に言えばこのままレノさんと一緒に生きていくのも悪くはないかな~と思ってたんですけど、そういう訳にも行かなくなりましたね」
「ああ、死人は現世に残る事は出来ない。私と共に行こう」
人形のような大きさのアイリィはフォルムの肩に飛び乗り、2人はそのまま前方に進み始め、レノは慌てて追いかけようとするが、
「あれ……?」
身体が動かない事に気づき、それどころか徐々に身体が薄れている事に気付く。先を進む二人は振り返ると、レノに笑みを浮かべて、
「レノさんはこっちに来るのはまだ早いですよ」
「そうだな。君にはまだ帰るべき場所があるだろう。私達の力を上手く活用してくれ」
「期間限定ですけど、原初の英雄姉妹からプレゼントですよ」
「アイリィ……!!」
「今度こそ、本当のさよならです……愛してますよ、今度は世界で誰よりも……ね」
フォルムの肩に乗ったアイリィは最後に満面の笑みを浮かべ、レノの意識が途切れた――
――次にレノは目が覚めると、自分が窮屈な空間に閉じ込められている事に気付く。息をする事も出来ず、まるで自分が壁の中に埋め込まれたような感覚に陥る。
(……地獄じゃないよな)
身体の感覚を確かめ、胸元に僅かな痛みが走り、間違いなく先ほど触手が貫かれた痛みであり、レノは自分の身体が無数の触手に拘束されている事に気付く。
(まだ諦めれてないのか……!!)
どうやら自分が死亡した後にヤマタノオロチは地中深くに招き寄せているようであり、レノは魔力を集中させ、勢いよく拳を突き上げる。
ズドォオオオンッ!!
予想以上の出力で電撃が放出され、自分を拘束していた触手を薙ぎ払い、レノは地上に抜け出した事に気付く。
「ぶはぁっ!!死ぬかと思った!!」
『……えっ?』
耳元のテレピアから呆気に取られたようなベータの声が繋がり、どうやら通信はまだ通じているようであり、レノは仲間達を安心させるために声を掛ける。
「生き返ったよ~」
『え、ちょっ……はい!?』
『れ、レノなのか!?本当にレノなのか!?』
珍しく驚いた声を上げるベータの声が響き渡り、レノは上空に存在する監視用のドローンに手を振ると、テレピアから数多くの人間達の声が流れてくる。
『レノ!!驚かせやがって!!本当に死んだかと思ったじゃないかい!!』
『うわぁああああんっ!!兄貴、生きててよかったす!!』
『レノ様……!!よくぞご無事で……!!』
「あれ、バル達も見てたの?」
どうやら王城に全員が帰還したらしく、現在の映像は王城に流れているらしく、完全に復活した事を証明するように握り拳を向ける。
『そんな……完全に生体反応は途絶えていたのに……どういう原理で生き返ったんですか?』
「愛かな」
『この状況でふざけてるんですか?』
「嘘じゃないよ」
レノは自分の右手の甲に視線を向け、何時の間にかそこには懐かしい紋様が浮かんでおり、アイリィの力が感じ取れる。それだけではなく、右手の甲の部分には時計を想像させる「聖痕」が浮き出ており、どうやらフォルムも力を貸してくれるようだ。
ビキィイイイイイイイッ……!!
生還を喜ぶのも束の間であり、周囲に地面に亀裂が走り、レノは上空に飛び上がる。いつも以上に身体が軽く感じられ、遥か上空にまで浮き上がると地面を見下ろし、亀裂がどんどんと広まっていく光景に気が付く。
「……出て来い」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ――!!
激しい地震が発生し、まるで大陸中が揺れ動いているのではないかという勢いの揺れの中、地面が大きく盛り上がり、遂に地中に潜んでいた本体が姿を現す。
――オアァアアアアアアアアッ……!!
赤子の鳴き声を想像させる鳴き声を喚き散らしながら姿を現したのは、全長が10キロを超える巨大な生命体であり、レノはその姿を確認して最初に浮かんだ名前は「スライム」だった。
「これが……ヤマタノオロチ?」
魔の前に広がる生物の形状は全身が漆黒で覆われた山のように巨大な化物であり、ヤマタノオロチの名前に似つかわしない容姿であり、どちらかというと巨大なスライムを想像させる。但し、頭の部分には模倣獣達が繋がっていたと思われる触手が存在し、ヤマタノオロチは巨大な口を開いて咆哮を上げる。
――アァアアアアアアッ……!!
鳴き声を上げながらヤマタノオロチは身体の全身から無数の触手を生み出し、上空に存在するレノに伸ばす。七体の模倣獣を操り、最後に残された八体目の頭がこの生物その物であり、レノは触手に向けて掌を翳す。
「乱刃」
ゴォオオオオッ……!!
何時もの調子で風属性の魔法を放とうとした時、何故か左手に渦巻きを想像させる「嵐の聖痕」が浮き上がり、今までの数倍もの規模の三日月状の刃が放たれ、触手を薙ぎ払う。
ズバァアアアアンッ!!
「おおっ!?」
想像以上の出力に驚いていると、レノは何時の間にか身体のあちこちに今まで回収してきた聖痕が浮き出ている事に気が付き、どうやらアイリィのプレゼントはとんでもないサービスを追加していたらしく、今ならば自由に空を飛べる気がした。
「ミキのように……」
バサァアアアッ……!!
ミキの空を飛ぶ姿を思い浮かべ、レノが彼女の翼を願うと額に聖属性の聖痕が浮き上がり、背中に光の羽根が生える。両翼に生やした翼は自在に動かせ、これならば自由自在に動ける。
「これなら……ベータ!!衛星からレーザーの発射まであとどれくらいだ!?」
『計算します!!……あと5分後に発射しますよ!!』
『どうする気だレノ?』
「こいつを弱らせる!!」
このまま退避すればヤマタノオロチは再び地中に潜り込む可能性があり、それだけは避けるためにレノは右肩に雷の聖痕を発光させ、電撃を送り込む。
「落雷!!」
ズドドドドォオオオオッ!!
無数の雷がヤマタノオロチに降り注ぎ、雷属性を得意とするレノと雷の聖痕は最高に相性であり、ヤマタノオロチは悲鳴を上げる。
「それと樹の聖痕!!」
左肩に浮かんだ樹の聖痕が光り輝き、ヤマタノオロチの周囲に植物の蔓が誕生し、そのまま巻き付く。森人族の血が流れているお蔭なのか自在に植物を操る事が可能であり、ヤマタノオロチの巨体が植物に覆い尽くされていく。
オアァアアアアッ……!!
それでもヤマタノオロチは自分に纏わりつく植物を引き千切り、覚えたての聖痕では拘束するまでには至らず、植物が引き裂かれる。
ブチィイイッ!!
植物がなぎ倒される光景にレノは苛立ちを浮かび、今度は右足の水の聖痕を発動させ、雨雲を生み出す。更に左腕に浮き出た重力の聖痕も発動させ、降り注ぐ雨粒を超重力で解き放つ。
チュドドドドドッ……!!
重力によって加速した雨粒の一つ一つが弾丸と変化し、ヤマタノオロチに降り注ぐ。威力はあまり期待できなかったが、超重力も加算してヤマタノオロチの触手が全て潰される。
オアガァアアアアッ……!!
苦しむようにヤマタノオロチの鳴き声が変化すると、レノは右腕の磁力の聖痕を発動させ、過去にリーリスが行った宇宙空間の隕石を引き寄せる。
「メ〇オ!!」
――ゴゴゴゴゴゴッ……!!
周囲が薄暗くなり、上空から巨大な隕石が出現し、その規模はヤマタノオロチの10分の1を誇り、レノは巻き添えを喰らう前に転移の聖痕を発動させ、安全な場所に避難を行う。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオンッ……!!
今日一番の轟音が鳴り響き、巨大隕石を受けたヤマタノオロチの絶叫が響き渡り、周囲が閃光に覆われた―――
――その一方、転移の聖痕で王城に避難を行っていたレノは裏庭でベータがわざわざ用意してくれたと思う巨大なモニターの映像を確認すると、感嘆の声を上げる。
「うわ~……凄い光景だな。怪獣映画みたい」
「全く、何を呑気な事を言って……うおおっ!?レノ!?」
「え、レノたん!?」
「……レノ!!」
何時の間にか帰還していたレノに誰もが驚愕の表情を浮かべ、すぐに大勢の人間が駆けつけるが、レノはドローンが巨大隕石の衝突の際に破壊され、モニターの映像が途切れた事を確認すると、すぐにベータに視線を向ける。
「ベータ、あとどれくらいで発射する?」
「え、あ、えっと1分くらいだと思いますけど……」
「1分か……よし、様子見てくる」
「え、レノ!?」
「すぐに戻ってくるから~」
レノは外を散歩してくるように告げると、そのまま皆の目の前で転移魔方陣を発動させ、ヤマタノオロチの元に帰還する――
――無事に転移が終了し、周囲が凄まじい煙と熱気に覆い尽くされながらもレノは真下を確認すると、そこには随分と歪な形で残ったヤマタノオロチの姿が存在し、どうやらヤマタノオロチがクッションの役割を行って周囲の被害はそれほど酷くは無いようである。
オゴァアアアアアッ……
その鳴き声は弱弱しく、既に致命傷を負っているが、間もなく天空から衛星兵器のレーザーが発射され、半径10キロの全てが焼き尽くされる勢いの火力の熱線が降り注ぐ。
「さてと……お前だけは許せない」
レーザーが降り注ぐ前にやるべき事、それは単なる八つ当たりであり、レノはヤマタノオロチに殺された人々を思い浮かべ、最後の一撃を繰り出す。
「風、火、水、雷、聖、重力」
ボウッ!!
単語を呟くだけでレノの周囲に各属性の魔力の球体が形成され、最後に行うのは現在扱える魔法を組み合わせた一撃であり、ミキのように同時に複数の属性の魔法を発動させ、レノは全ての魔力を融合させる。
「集え」
ギュオォオオオオッ……!!
全ての魔力が重なり合い、やがてバスケットボールほどの大きさの形状に変化すると、レノは腰に差したカリバーンを構え、聖剣の刃に触れる。
ゴォオオオオオオオオッ……!!
魔力を光の刃に変換させる聖剣は膨大な魔力密度の魔力の球体を吸収し、レノは聖剣を冗談に構えると、ヤマタノオロチに向けて振り落す。
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
渾身の思いを込めて聖剣を振り切り、直後に直径10キロを超えるヤマタノオロチを上回る規模の光の刃が出現し、顔面部に衝突する。
アガァアアアアアアッ……!?
顔面を左右に切り開かれ、光の刃は地面を切り裂き、そのまま星の中心部にまで到達するのではないかという勢いで沈み込む。二つに裂かれたヤマタノオロチは機能を失った機械のように停止し、そのまま崩れ落ちる。
――カッ!!
その直後、上空から凄まじい光が輝き、宇宙空間に存在する衛星からレーザーが放射された事を確認すると、レノは転移魔方陣を発動させて一早く避難する。その直後、二つに裂かれたヤマタノオロチの元にレーザーが到達し、凄まじい大爆発が生じた――
「ここは……死後の世界?」
周囲を見渡しても自分以外の誰も存在せず、レノは自分が死んでしまったのかと思ったが、どうにも奇妙な感覚が広がる。
バリィイインッ!!
「うわっ!?」
唐突に胸元にぶら下げていたペンダントが砕け散り、何事かと視線を向けると地面に落ちたペンダントの残骸からレノがケムケムと名付けたガス状の生命体が出現し、レノの前に浮き上がる。
『ふうっ……やっと、話せることが出来るな』
「えっ?」
何時もはふわふわと周囲を浮き上がるだけだったケムケムが流調に女性の声音で喋り出し、徐々に形状を変化させる。やがてレノの目の前には今は亡きアイリィの面影を想像させる1人の女性が立っており、剣士のような出で立ちの彼女は自分の肉体を確認すると、満足気に頷く。
「やっと話せる事が出来るな……まずは、初めましてというべきかな」
「え、えっ?け、ケムケムが人になった……」
「正確に言えばこっちが本当の姿なんだが……」
ケムケムと思われる女性は苦笑いを浮かべ、外見はアイリィとよく似ているが性格は似通っておらず、彼女はレノに向けて掌を差し出す。
「まずは礼を言わせてくれ。妹を救ってくれてありがとう」
「はあっ……妹?」
差し出された右手を握り返すと、彼女はレノの右手に視線を向け、溜息を吐きながら囁きかける。
「アイリィ、そこにいるんだろう?出て来い」
『……いや、ばれちゃいましたか』
「えっ?」
女性に握りしめられている右手の甲が光り輝き、見覚えのある紋様が浮き上がったと思うと、白色の光を放つ球体が出現する。女性は球体に掌を差し出すと、困った風にレノに振り返る。
「一応は自己紹介しておくか。私の名前はフォルム、そしてこちらは……」
『どもども~レノさんの愛しのアイリィちゃんですよ~』
ぽんっ!!
球体が人型の形に変化したと思うと、フォルムと名乗る女性の掌に乗れるサイズの「アイリィ」が姿を現し、レノは驚愕する。
「うわぁっ!!アイリィが化けて出たぁっ!!」
「誰がお化けですか!!まあ、否定はしませんけど」
「落ち着け。君も死んでるような物だろ」
「あ、それもそうか……」
レノは唐突に現れたフォルムと手のひらサイズのアイリィに視線を向け、何が起きているのか理解できないが、少なくとも自分が死んだ事は認識できた。
「えっと……フォルムさんって、アイリィの姉の?」
「そういう事ですね。私のお姉様です」
「姉妹、という事になるかな」
「……ケムケムがアイリィの姉?」
名前から薄々と察する事は出来たが、まさか自分がペットとして買っていたケムケムの正体がアイリィの姉だったという事実に驚きを隠せず、どうしてフォルムがあのような姿形で地上を彷徨っていたのか問い質す。
「いや……実は私も魔王が打ち倒された時に魂だけの存在として解放されたんだが、肉体を失った私は意識が薄れて自分が何者なのか理解できなかったんだ。だから彷徨っている内に気付けば教会に忍び込んでいたんだが、偶然にもアイリィの力を宿す君を発見して近づいたことになる」
「本当は私も魔王の奴と一緒に死ぬはずだったんですけど、レノさんの寿命を延ばすために送り込んだ私の力が予想外に多すぎて、ほんの少しだけ意識が残っちゃったんですよね。今の私は元々の魂の一部でしかありません」
「へえ……なら、ずっと俺と一緒に居てくれたのか」
「そういう事ですね。正直に言えばこのままレノさんと一緒に生きていくのも悪くはないかな~と思ってたんですけど、そういう訳にも行かなくなりましたね」
「ああ、死人は現世に残る事は出来ない。私と共に行こう」
人形のような大きさのアイリィはフォルムの肩に飛び乗り、2人はそのまま前方に進み始め、レノは慌てて追いかけようとするが、
「あれ……?」
身体が動かない事に気づき、それどころか徐々に身体が薄れている事に気付く。先を進む二人は振り返ると、レノに笑みを浮かべて、
「レノさんはこっちに来るのはまだ早いですよ」
「そうだな。君にはまだ帰るべき場所があるだろう。私達の力を上手く活用してくれ」
「期間限定ですけど、原初の英雄姉妹からプレゼントですよ」
「アイリィ……!!」
「今度こそ、本当のさよならです……愛してますよ、今度は世界で誰よりも……ね」
フォルムの肩に乗ったアイリィは最後に満面の笑みを浮かべ、レノの意識が途切れた――
――次にレノは目が覚めると、自分が窮屈な空間に閉じ込められている事に気付く。息をする事も出来ず、まるで自分が壁の中に埋め込まれたような感覚に陥る。
(……地獄じゃないよな)
身体の感覚を確かめ、胸元に僅かな痛みが走り、間違いなく先ほど触手が貫かれた痛みであり、レノは自分の身体が無数の触手に拘束されている事に気付く。
(まだ諦めれてないのか……!!)
どうやら自分が死亡した後にヤマタノオロチは地中深くに招き寄せているようであり、レノは魔力を集中させ、勢いよく拳を突き上げる。
ズドォオオオンッ!!
予想以上の出力で電撃が放出され、自分を拘束していた触手を薙ぎ払い、レノは地上に抜け出した事に気付く。
「ぶはぁっ!!死ぬかと思った!!」
『……えっ?』
耳元のテレピアから呆気に取られたようなベータの声が繋がり、どうやら通信はまだ通じているようであり、レノは仲間達を安心させるために声を掛ける。
「生き返ったよ~」
『え、ちょっ……はい!?』
『れ、レノなのか!?本当にレノなのか!?』
珍しく驚いた声を上げるベータの声が響き渡り、レノは上空に存在する監視用のドローンに手を振ると、テレピアから数多くの人間達の声が流れてくる。
『レノ!!驚かせやがって!!本当に死んだかと思ったじゃないかい!!』
『うわぁああああんっ!!兄貴、生きててよかったす!!』
『レノ様……!!よくぞご無事で……!!』
「あれ、バル達も見てたの?」
どうやら王城に全員が帰還したらしく、現在の映像は王城に流れているらしく、完全に復活した事を証明するように握り拳を向ける。
『そんな……完全に生体反応は途絶えていたのに……どういう原理で生き返ったんですか?』
「愛かな」
『この状況でふざけてるんですか?』
「嘘じゃないよ」
レノは自分の右手の甲に視線を向け、何時の間にかそこには懐かしい紋様が浮かんでおり、アイリィの力が感じ取れる。それだけではなく、右手の甲の部分には時計を想像させる「聖痕」が浮き出ており、どうやらフォルムも力を貸してくれるようだ。
ビキィイイイイイイイッ……!!
生還を喜ぶのも束の間であり、周囲に地面に亀裂が走り、レノは上空に飛び上がる。いつも以上に身体が軽く感じられ、遥か上空にまで浮き上がると地面を見下ろし、亀裂がどんどんと広まっていく光景に気が付く。
「……出て来い」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ――!!
激しい地震が発生し、まるで大陸中が揺れ動いているのではないかという勢いの揺れの中、地面が大きく盛り上がり、遂に地中に潜んでいた本体が姿を現す。
――オアァアアアアアアアアッ……!!
赤子の鳴き声を想像させる鳴き声を喚き散らしながら姿を現したのは、全長が10キロを超える巨大な生命体であり、レノはその姿を確認して最初に浮かんだ名前は「スライム」だった。
「これが……ヤマタノオロチ?」
魔の前に広がる生物の形状は全身が漆黒で覆われた山のように巨大な化物であり、ヤマタノオロチの名前に似つかわしない容姿であり、どちらかというと巨大なスライムを想像させる。但し、頭の部分には模倣獣達が繋がっていたと思われる触手が存在し、ヤマタノオロチは巨大な口を開いて咆哮を上げる。
――アァアアアアアアッ……!!
鳴き声を上げながらヤマタノオロチは身体の全身から無数の触手を生み出し、上空に存在するレノに伸ばす。七体の模倣獣を操り、最後に残された八体目の頭がこの生物その物であり、レノは触手に向けて掌を翳す。
「乱刃」
ゴォオオオオッ……!!
何時もの調子で風属性の魔法を放とうとした時、何故か左手に渦巻きを想像させる「嵐の聖痕」が浮き上がり、今までの数倍もの規模の三日月状の刃が放たれ、触手を薙ぎ払う。
ズバァアアアアンッ!!
「おおっ!?」
想像以上の出力に驚いていると、レノは何時の間にか身体のあちこちに今まで回収してきた聖痕が浮き出ている事に気が付き、どうやらアイリィのプレゼントはとんでもないサービスを追加していたらしく、今ならば自由に空を飛べる気がした。
「ミキのように……」
バサァアアアッ……!!
ミキの空を飛ぶ姿を思い浮かべ、レノが彼女の翼を願うと額に聖属性の聖痕が浮き上がり、背中に光の羽根が生える。両翼に生やした翼は自在に動かせ、これならば自由自在に動ける。
「これなら……ベータ!!衛星からレーザーの発射まであとどれくらいだ!?」
『計算します!!……あと5分後に発射しますよ!!』
『どうする気だレノ?』
「こいつを弱らせる!!」
このまま退避すればヤマタノオロチは再び地中に潜り込む可能性があり、それだけは避けるためにレノは右肩に雷の聖痕を発光させ、電撃を送り込む。
「落雷!!」
ズドドドドォオオオオッ!!
無数の雷がヤマタノオロチに降り注ぎ、雷属性を得意とするレノと雷の聖痕は最高に相性であり、ヤマタノオロチは悲鳴を上げる。
「それと樹の聖痕!!」
左肩に浮かんだ樹の聖痕が光り輝き、ヤマタノオロチの周囲に植物の蔓が誕生し、そのまま巻き付く。森人族の血が流れているお蔭なのか自在に植物を操る事が可能であり、ヤマタノオロチの巨体が植物に覆い尽くされていく。
オアァアアアアッ……!!
それでもヤマタノオロチは自分に纏わりつく植物を引き千切り、覚えたての聖痕では拘束するまでには至らず、植物が引き裂かれる。
ブチィイイッ!!
植物がなぎ倒される光景にレノは苛立ちを浮かび、今度は右足の水の聖痕を発動させ、雨雲を生み出す。更に左腕に浮き出た重力の聖痕も発動させ、降り注ぐ雨粒を超重力で解き放つ。
チュドドドドドッ……!!
重力によって加速した雨粒の一つ一つが弾丸と変化し、ヤマタノオロチに降り注ぐ。威力はあまり期待できなかったが、超重力も加算してヤマタノオロチの触手が全て潰される。
オアガァアアアアッ……!!
苦しむようにヤマタノオロチの鳴き声が変化すると、レノは右腕の磁力の聖痕を発動させ、過去にリーリスが行った宇宙空間の隕石を引き寄せる。
「メ〇オ!!」
――ゴゴゴゴゴゴッ……!!
周囲が薄暗くなり、上空から巨大な隕石が出現し、その規模はヤマタノオロチの10分の1を誇り、レノは巻き添えを喰らう前に転移の聖痕を発動させ、安全な場所に避難を行う。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオンッ……!!
今日一番の轟音が鳴り響き、巨大隕石を受けたヤマタノオロチの絶叫が響き渡り、周囲が閃光に覆われた―――
――その一方、転移の聖痕で王城に避難を行っていたレノは裏庭でベータがわざわざ用意してくれたと思う巨大なモニターの映像を確認すると、感嘆の声を上げる。
「うわ~……凄い光景だな。怪獣映画みたい」
「全く、何を呑気な事を言って……うおおっ!?レノ!?」
「え、レノたん!?」
「……レノ!!」
何時の間にか帰還していたレノに誰もが驚愕の表情を浮かべ、すぐに大勢の人間が駆けつけるが、レノはドローンが巨大隕石の衝突の際に破壊され、モニターの映像が途切れた事を確認すると、すぐにベータに視線を向ける。
「ベータ、あとどれくらいで発射する?」
「え、あ、えっと1分くらいだと思いますけど……」
「1分か……よし、様子見てくる」
「え、レノ!?」
「すぐに戻ってくるから~」
レノは外を散歩してくるように告げると、そのまま皆の目の前で転移魔方陣を発動させ、ヤマタノオロチの元に帰還する――
――無事に転移が終了し、周囲が凄まじい煙と熱気に覆い尽くされながらもレノは真下を確認すると、そこには随分と歪な形で残ったヤマタノオロチの姿が存在し、どうやらヤマタノオロチがクッションの役割を行って周囲の被害はそれほど酷くは無いようである。
オゴァアアアアアッ……
その鳴き声は弱弱しく、既に致命傷を負っているが、間もなく天空から衛星兵器のレーザーが発射され、半径10キロの全てが焼き尽くされる勢いの火力の熱線が降り注ぐ。
「さてと……お前だけは許せない」
レーザーが降り注ぐ前にやるべき事、それは単なる八つ当たりであり、レノはヤマタノオロチに殺された人々を思い浮かべ、最後の一撃を繰り出す。
「風、火、水、雷、聖、重力」
ボウッ!!
単語を呟くだけでレノの周囲に各属性の魔力の球体が形成され、最後に行うのは現在扱える魔法を組み合わせた一撃であり、ミキのように同時に複数の属性の魔法を発動させ、レノは全ての魔力を融合させる。
「集え」
ギュオォオオオオッ……!!
全ての魔力が重なり合い、やがてバスケットボールほどの大きさの形状に変化すると、レノは腰に差したカリバーンを構え、聖剣の刃に触れる。
ゴォオオオオオオオオッ……!!
魔力を光の刃に変換させる聖剣は膨大な魔力密度の魔力の球体を吸収し、レノは聖剣を冗談に構えると、ヤマタノオロチに向けて振り落す。
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
渾身の思いを込めて聖剣を振り切り、直後に直径10キロを超えるヤマタノオロチを上回る規模の光の刃が出現し、顔面部に衝突する。
アガァアアアアアアッ……!?
顔面を左右に切り開かれ、光の刃は地面を切り裂き、そのまま星の中心部にまで到達するのではないかという勢いで沈み込む。二つに裂かれたヤマタノオロチは機能を失った機械のように停止し、そのまま崩れ落ちる。
――カッ!!
その直後、上空から凄まじい光が輝き、宇宙空間に存在する衛星からレーザーが放射された事を確認すると、レノは転移魔方陣を発動させて一早く避難する。その直後、二つに裂かれたヤマタノオロチの元にレーザーが到達し、凄まじい大爆発が生じた――
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