1,072 / 1,095
大迷宮編 〈後半編〉
破壊の化身
しおりを挟む
出現した六匹の伝説獣、そして鳳凰学園を崩壊させたキメラを想像させる姿形の化物に対し、調査部隊の面々は何も行動できなかった。否、正確に言えば行動を起こす前に相手が先に動き出す。
『ゴォアアアアアアアアアッ……!!』
全ての生物が同時に咆哮を放ち、顎が外れるのではないかという程に口内を開き、すぐにその行動の意味に気付いたレミアは咄嗟に憑依術を発動しようとしたが、先手を打つようにキメラが左腕の砲身を構え、砦の方向に向けて発砲を開始する。
『ダァクフレイィムッ!!』
――カッ!!
砲身から黒色の炎を想像させる爆炎が放たれ、砦に拡散する。その炎は間違いなくレミアの身体に宿る紅蓮のエンのように闇属性の力を含んだ「黒炎」であり、瞬く間に砦全体に広がっていく。
「う、うわああああああああっ!?」
「逃げろぉっ!!」
「ぎゃあぁあああああっ!!」
あちこちと悲鳴が響き渡り、黒煙に次々と兵士達が飲み込まれていく。特に魔法を扱えない巨人族達はその巨体を黒煙に飲み込まれ、為す術もなく喰らいつくされる。まるで炎自体に意識があるかのように黒炎が流れ込み、誰もがその光景に恐怖を抱く。
「ぼ、防御魔法陣を……!!」
「無駄だ!!さっさと逃げろ!!」
咄嗟に魔法の心得がある者は黒炎を防ごうとしたが、コウシュンは長剣を引き抜いて刃を振るう。
ズバァアアアンッ!!
風の精霊の加護を受けた彼の斬撃は不可視の風属性の刃を生み出すが、黒炎の一部を振り払うだけで限界であり、周囲に広がる全ての炎を防ぐ事は出来なかった。
「せ、セイント……いやぁあああっ!?」
「これは……いかん!!」
聖導教会から派遣された医療魔導士が聖属性の力で浄化を試みるが、魔法を発動する前に黒炎に飲み込まれ、隊員達は激しい混乱を起こして炎から逃げるために移動を開始する。コウシュンは他の者達の逃げる時間を稼ぐため、何度も剣を振るう。
「レミア!!早く変身しろ!!ミキを呼び出せ!!」
「わ、分かりました!!すぐに浄化を……!!」
「違う!!逃げろ!!」
コウシュンの言葉にレミアは驚いた表情を浮かべ、コウシュンは真面目な表情を浮かべて彼女に視線を向け、周囲を伺うように指示を出す。既に黒炎は急速的に広がっており、まるで火山流のように砦内を覆いつくす。
このまま何もしなればミキを召喚して空を飛べるレミア以外に助かる者は存在せず、だからこそ彼女は黒炎を浄化出来る可能性を持つミキを憑依させようとしたが、コウシュンの予想ではもう誰も助からない。
「お前だけでも逃げろ!!生き延びて、レノに伝えろ!!ここで無駄死にするんじゃねえ!!」
「し、しかし!!それでは皆が……」
「ふんっ!!」
ドパァアアアンッ!!
四柱将のゴウカイが棍棒を振るいあげ、地面ごと抉るように黒炎を吹き飛ばし、コウシュンの前に立つ。既に彼等の周囲は黒炎で埋め尽くされており、最早逃げる事は不可能だった。
「話は聞いていたぞ……行け!!そして伝えるのだ!!我等の死を無駄にするな!!」
「はっ……恰好良い事をいうじゃねえかおっさん」
「貴様の方が年上だろうが!!」
「な、なにを言って……」
レミアは加速度的に広がる黒炎に視線を向け、既に大部分の隊員達が飲み込まれており、このままでは他の砦に待機している者達も危険であり、確かにミキを召喚して空を飛行できるレミア以外に生き残れる者はいないだろう。
コウシュンは風の刃で黒炎を振り払い、ゴウカイは地面を叩き付けて黒炎ごと吹き飛ばすが、誰が見ても限界は迫っており、この2人を救い出す術はレミアは持っていない。
「早く行け!!そして他の者に避難を伝えろ!!このままでは全滅してしまうぞ!!」
「そんな……」
「最後にレノと旦那に伝えろぉっ!!ついでにフウカの奴にも……お前等と出会えて俺は、楽しかったとなぁっ!!」
ドォオオオンッ!!
徐々に2人の周囲から迫る黒炎が狭まり、最早一刻の猶予もなく、レミアが立っている場所も炎が迫っている。既に北の砦の者達は黒炎に飲み込まれ、ゆっくりと身体全身を焼き尽くされる。黒炎はホムラの真紅の炎とは違い、まるで痛めつけるように身体に損傷を与え、生きながらえる程に苦しみが続く。
レミアは自分の足元にまで迫った炎に唇を噛み締め、コウシュンとゴウカイの「遺言」を果たすため、彼女はミキを呼び出す。
「……必ず、お伝えします!!」
ゴォオオオオッ!!
レミアの身体に白色に光り輝く魔力が溢れだし、瞬時に片翼に天使の羽根を想像させる翼を生やした美しい聖天魔導士に変化を果たし、彼女は飛翔する。その光景にコウシュンは笑みを浮かべ、最期の最期に自分の想い人の姿が見れた事に満足する。
「……あばよ、初恋」
「ふっ……まさか、こんな形で貴様と運命を共にするとはな」
「うるせえよ」
ゴウカイと背中合わせの形でコウシュンは悪態を吐き、既に黒煙は2人の足を飲み込み、蟻地獄のように身体が飲み込まれていく。恐ろしい激痛と高熱が2人に襲っているはずだが、それでもコウシュンとゴウカイは笑みを浮かべ、最期の瞬間まで空を駆け抜けるミキの姿を見送る。
「後は頼むぜ……レノォオオオオオオオオッ!!」
コウシュンの咆哮が砦中に響き渡った直後、上空を移動するミキはその言葉に一瞬だけ反応したが、すぐに自分の役目を果たすために移動を行う。しかし、その目元には涙が零れ落ち、一途に自分を想い続けた仲間の最期さえも、今の彼女には悲しむ余裕と時間もない。
――ゴォオオオオオオオオオオオオオッ……!!
コウシュンの雄叫びに反応したように伝説獣達が咆哮を上げ、ミキは視線を向けると、そこには全ての伝説獣が身体中から煙を噴き上げ、全身の皮膚が赤色に変色している事に気づき、すぐに彼女は奴等の目的を見抜き、目を見開く。
「逃げてぇええええええええええええええっ!!」
――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
届くはずがない事は分かっているが、それでもミキは巨大迷宮を取り囲む全ての砦に待機している隊員達に叫び声を上げるが、無常にも6体の生物は口内から火山の噴火を想像させる勢いの熱線を吐きだし、その方角は全ての砦に向かって一直線に吐き出され、凄まじい衝撃と爆風と地震が周囲数十キロにまで及んだ――
『ゴォアアアアアアアアアッ……!!』
全ての生物が同時に咆哮を放ち、顎が外れるのではないかという程に口内を開き、すぐにその行動の意味に気付いたレミアは咄嗟に憑依術を発動しようとしたが、先手を打つようにキメラが左腕の砲身を構え、砦の方向に向けて発砲を開始する。
『ダァクフレイィムッ!!』
――カッ!!
砲身から黒色の炎を想像させる爆炎が放たれ、砦に拡散する。その炎は間違いなくレミアの身体に宿る紅蓮のエンのように闇属性の力を含んだ「黒炎」であり、瞬く間に砦全体に広がっていく。
「う、うわああああああああっ!?」
「逃げろぉっ!!」
「ぎゃあぁあああああっ!!」
あちこちと悲鳴が響き渡り、黒煙に次々と兵士達が飲み込まれていく。特に魔法を扱えない巨人族達はその巨体を黒煙に飲み込まれ、為す術もなく喰らいつくされる。まるで炎自体に意識があるかのように黒炎が流れ込み、誰もがその光景に恐怖を抱く。
「ぼ、防御魔法陣を……!!」
「無駄だ!!さっさと逃げろ!!」
咄嗟に魔法の心得がある者は黒炎を防ごうとしたが、コウシュンは長剣を引き抜いて刃を振るう。
ズバァアアアンッ!!
風の精霊の加護を受けた彼の斬撃は不可視の風属性の刃を生み出すが、黒炎の一部を振り払うだけで限界であり、周囲に広がる全ての炎を防ぐ事は出来なかった。
「せ、セイント……いやぁあああっ!?」
「これは……いかん!!」
聖導教会から派遣された医療魔導士が聖属性の力で浄化を試みるが、魔法を発動する前に黒炎に飲み込まれ、隊員達は激しい混乱を起こして炎から逃げるために移動を開始する。コウシュンは他の者達の逃げる時間を稼ぐため、何度も剣を振るう。
「レミア!!早く変身しろ!!ミキを呼び出せ!!」
「わ、分かりました!!すぐに浄化を……!!」
「違う!!逃げろ!!」
コウシュンの言葉にレミアは驚いた表情を浮かべ、コウシュンは真面目な表情を浮かべて彼女に視線を向け、周囲を伺うように指示を出す。既に黒炎は急速的に広がっており、まるで火山流のように砦内を覆いつくす。
このまま何もしなればミキを召喚して空を飛べるレミア以外に助かる者は存在せず、だからこそ彼女は黒炎を浄化出来る可能性を持つミキを憑依させようとしたが、コウシュンの予想ではもう誰も助からない。
「お前だけでも逃げろ!!生き延びて、レノに伝えろ!!ここで無駄死にするんじゃねえ!!」
「し、しかし!!それでは皆が……」
「ふんっ!!」
ドパァアアアンッ!!
四柱将のゴウカイが棍棒を振るいあげ、地面ごと抉るように黒炎を吹き飛ばし、コウシュンの前に立つ。既に彼等の周囲は黒炎で埋め尽くされており、最早逃げる事は不可能だった。
「話は聞いていたぞ……行け!!そして伝えるのだ!!我等の死を無駄にするな!!」
「はっ……恰好良い事をいうじゃねえかおっさん」
「貴様の方が年上だろうが!!」
「な、なにを言って……」
レミアは加速度的に広がる黒炎に視線を向け、既に大部分の隊員達が飲み込まれており、このままでは他の砦に待機している者達も危険であり、確かにミキを召喚して空を飛行できるレミア以外に生き残れる者はいないだろう。
コウシュンは風の刃で黒炎を振り払い、ゴウカイは地面を叩き付けて黒炎ごと吹き飛ばすが、誰が見ても限界は迫っており、この2人を救い出す術はレミアは持っていない。
「早く行け!!そして他の者に避難を伝えろ!!このままでは全滅してしまうぞ!!」
「そんな……」
「最後にレノと旦那に伝えろぉっ!!ついでにフウカの奴にも……お前等と出会えて俺は、楽しかったとなぁっ!!」
ドォオオオンッ!!
徐々に2人の周囲から迫る黒炎が狭まり、最早一刻の猶予もなく、レミアが立っている場所も炎が迫っている。既に北の砦の者達は黒炎に飲み込まれ、ゆっくりと身体全身を焼き尽くされる。黒炎はホムラの真紅の炎とは違い、まるで痛めつけるように身体に損傷を与え、生きながらえる程に苦しみが続く。
レミアは自分の足元にまで迫った炎に唇を噛み締め、コウシュンとゴウカイの「遺言」を果たすため、彼女はミキを呼び出す。
「……必ず、お伝えします!!」
ゴォオオオオッ!!
レミアの身体に白色に光り輝く魔力が溢れだし、瞬時に片翼に天使の羽根を想像させる翼を生やした美しい聖天魔導士に変化を果たし、彼女は飛翔する。その光景にコウシュンは笑みを浮かべ、最期の最期に自分の想い人の姿が見れた事に満足する。
「……あばよ、初恋」
「ふっ……まさか、こんな形で貴様と運命を共にするとはな」
「うるせえよ」
ゴウカイと背中合わせの形でコウシュンは悪態を吐き、既に黒煙は2人の足を飲み込み、蟻地獄のように身体が飲み込まれていく。恐ろしい激痛と高熱が2人に襲っているはずだが、それでもコウシュンとゴウカイは笑みを浮かべ、最期の瞬間まで空を駆け抜けるミキの姿を見送る。
「後は頼むぜ……レノォオオオオオオオオッ!!」
コウシュンの咆哮が砦中に響き渡った直後、上空を移動するミキはその言葉に一瞬だけ反応したが、すぐに自分の役目を果たすために移動を行う。しかし、その目元には涙が零れ落ち、一途に自分を想い続けた仲間の最期さえも、今の彼女には悲しむ余裕と時間もない。
――ゴォオオオオオオオオオオオオオッ……!!
コウシュンの雄叫びに反応したように伝説獣達が咆哮を上げ、ミキは視線を向けると、そこには全ての伝説獣が身体中から煙を噴き上げ、全身の皮膚が赤色に変色している事に気づき、すぐに彼女は奴等の目的を見抜き、目を見開く。
「逃げてぇええええええええええええええっ!!」
――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
届くはずがない事は分かっているが、それでもミキは巨大迷宮を取り囲む全ての砦に待機している隊員達に叫び声を上げるが、無常にも6体の生物は口内から火山の噴火を想像させる勢いの熱線を吐きだし、その方角は全ての砦に向かって一直線に吐き出され、凄まじい衝撃と爆風と地震が周囲数十キロにまで及んだ――
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる