種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈後半編〉

巨大迷宮の謎

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「やれやれ……結局、今回もお前だけで解決したのか」
「対して役に立たず、申し訳ない……」
「ですが……本当にこれでこの大迷宮から魔物が排出される事は無くなったのでしょうか?」
「その辺りは大丈夫だと思うよ。守護者が倒されれば、この場所は維持できないはずだから」


皆の元に帰還し、レノは大迷宮を管理する守護者を打ち倒した事を伝え、既に大迷宮の機能は停止しており、各階層にも異変が起きていた。第一階層はともかく、第二階層の密林と第三階層の荒野では魔物達が忙しなく動いており、共食いを行っていた。まるで籠の中に押し込められた肉食獣同士が争うように魔物達は生態系の頂点を掴むために動き出しており、これも大迷宮を管理している守護者が失ったことが原因だと思われる。

守護者がいなくなった事で魔物達を管理するシステムも崩壊し、現在では各階層の魔物達が争い合い、勝手に自滅している形になる。レノ達は第三階層と第二階層の繋がる黒柱に避難しており、この場所だけは魔物に襲われない安全地帯なのか、理性を失った魔物達も近付いてくる様子は見せない。

しばらくの間はここで休憩を行い、レノの転移魔方陣で第一階層に移動を果たし、守護者を打ち倒した事で開閉されている出入口に向かう手筈だった。


「それにしても……この建物はとんでもない構造だな。塔というよりは、まるで別の世界に迷い込んだようだ」
「まさか室内に森や荒野が広がっているとは……一体、なんなのでしょうかこの場所は」
「気になる点があるとすれば、今までこの塔から排出された魔物の何体かが姿を見かけていない事だな。クラーケンが現れたとは聞いていたが、あの密林や荒野には奴等が生息できるような環境が整っているとは思えん」


今までに塔内から排出された魔物の中には密林や荒野では生息出来ない種も含まれており、この塔内には他に複数の階層が存在する可能性は高く、それならばどうして第三階層から上の階層に続く黒柱が無かったのかが気にかかるが、既に守護者を打ち倒した以上は巨大迷宮の攻略は果たした。

巨大迷宮の守護者は損傷が激しすぎたため、武装の回収は出来なかったが、ベータによって大迷宮の謎は解き明かされており、流石にこれほどの巨大な迷宮を守護する存在であるため、今までも最も戦闘能力が秀でた種である事は間違いないなかった。


「…………」
「どうしたレノ?」
「いや、何でもない」


レノは内心、ここまでの大迷宮の攻略に上手く行き過ぎている事に疑念を感じる。今回の巨大迷宮は規模だけならば人間迷宮や獣族迷宮とは比べ物にならないが、実質的に一日程度で守護者と遭遇し、撃破に成功している。その事実にどうにも違和感を拭えず、自分たちがまるで何者かの掌で泳がされているような気がしてならない。


「さて……そろそろ戻るとするか、あまり外の奴等を待たせる訳には行かんからな」
「レノさん、申し訳ありやせんが転移をお願いしやす」
「はいよ」


休憩を切り上げ、外で待機しているはずの仲間達の元に移動するため、レノは第一階層の転移魔方陣に皆を移動させるため、魔方陣を発動させようとした瞬間、


「……?」


どういう事なのか転移魔方陣が上手く起動せず、何度も試すがやはり第一階層に繋がる転移魔方陣だけが発動できない。彼の異変に気付いたのか、ハヤテが訪ねてくる。


「どうかしやしたか?」
「……発動できない。誰かに転移魔方陣が掻き消されたと思う」
「何だと!?」


レノの発言に全員が驚愕の表情を浮かべ、第一階層の転移魔方陣が書き込んだ場所は魔物が存在しない黒柱の内部であり、偶然にも魔物が魔方陣を消したとは考えられない。万が一、守護者が死亡した事で魔物が第一階層に出現した事態が起きていたとしても、今までの階層の魔物達が近づこうとしなかった黒柱の内部に書き込まれた転移魔方陣を掻き消すとは考えられない。


「……人為的に掻き消された可能性がある」
「何!?」
「……この中の誰かが消したと言いたいの?」


塔の内部の魔方陣が?き消された可能性の一つとして、調査部隊の隊員の誰かが転移魔方陣を掻き消した可能性もあり、レノの発言に全員が御互いに視線を向ける。


「お、俺じゃないぞ!!こいつの方が俺より後に転移魔方陣で帰ってきたんだからな!!」
「それを言ったら俺よりもこいつが後かやってきたぞ!!」
「ち、違う!!俺は魔方陣なんて知らねえ!!」
「落ち着きなさい!!」


騒ぎ始める隊員達に四柱将のカイリが一括し、すぐにレノに視線を向け、


「我々は全員が貴方の転移魔方陣でここまで辿り着きました。仮に魔方陣を掻き消そうとした者が居たとしても、その人間だけが転移できずに第一階層に取り残されているはずです。ですが、先ほど確認した限りでは調査部隊は全員この場に揃っています」
「迂闊な予測は混乱を招く……不用意な発言は控えて貰いたい」


カイリの発言にリキが賛同し、調査部隊の面々も安堵の息を吐くが、レノは首を振ってカイリの発言を否定する。


「全員がここにいるはずがない。途中で消えた人間が必ずいる」
「そんな事は……事前に確認しましたが、確かに全部隊の隊員は揃っている――」
「揃っていない」


彼女の発言にフウカが途中で口を挟み、何事かとカイリとリキが眉を顰めて視線を向けると、そこには苛立ちが混じった笑みを浮かべるフウカの姿があり、周囲に立っていた者達が彼女の殺気に当てられ、背筋が震える。


「……そういう事ですかい」


ハヤテも何かに気付いたのか、彼としては珍しく怒気を露わにした声音であり、すぐに勘の良い者達は2人の反応からレノの転移魔方陣を掻き消した人物の心当たりが浮かび、


「わっし等の部隊、つまりは第二階層でわっし以外に全滅したはずの同胞、その中の誰かが寄生樹に侵された者達に襲われた際に逃げ延びて生き残り、そして第一階層に戻ってレノさんの転移魔方陣を封じた……としか考えられませんね」


彼の発言に全員が目を見開き、同時にハヤテとレノは舌打ちする。確かに寄生樹に憑りつかれた兵士に襲われた際、二人は森人部隊の守護戦士が全員攫われたと思い込んでいたが、あの時は植物兵の奇声で感覚が乱され、正常な判断が出来なかったため、拘束から逃れた守護戦士の誰かが逃げ延びていた可能性も存在する。

その何者かはわざわざ黒柱を移動し、第一階層にまで帰還した後、レノの転移魔方陣を封じ込めたのか、それとも掻き消した可能性が高い。


「あ、あの……そういえば俺、休憩している時に戻ってきたエルフを1人見かけてます」
「お、俺もだ……何をしに戻ってきたのかを聞いたら、ハヤテ護衛長の使いでフウカさんを呼び戻しに来たって聞いていたけど……」
「そんな話、聞いていない!!」


どうやら黒柱に残っていた隊員たちにも心当たりがあるらしく、レノ達の予測を証明するように1人だけ密林から帰還した守護戦士が存在するらしく、どうして今まで誰も疑問を抱かなかったのかと悔やまれる。
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