種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
1,054 / 1,095
大迷宮編 〈後半編〉

ジャングルの王

しおりを挟む
「あ~ああ~」
「その台詞を言う必要があるんですかい?」


現在、レノを先頭に森人族達は密林を移動中であり、彼等全員が猿のように身軽な動きで樹木の間を飛び移り、蔦を利用しながら次の木に乗り移りながら移動を行う。黒柱に向けて移動を開始してから30分近くが経過するが、第一階層と違ってこの階層は密林で覆われている分、移動するのにも時間が掛かる。


「ま、待ってください護衛長!!」
「も、もう少しだけ速度を落としてくれませんか!?」
「仕方ないで……レノさん、少し待ってください」
「いいよ」


ハヤテはレノと共に軽快な動きで後に続くが、他の森人族は2人を見失わないように追跡するのが限界であり、仕方なく一度休憩を取るために立ち止まる。大分進んではいるが、まだまだ黒柱との距離は存在し、急がなければならない。


「ブヒィイイッ!!」
「プギィッ!!」
「魔物も多くなってきたな……」
「心なしか、あの塔に近づく度に魔物の数も増えている気がしやす」


枝の上から地面に視線を向けると、そこには無数の魔獣の群れが存在し、先ほどから猪型の魔物がレノ達を狙うように追跡してくるが、木には登れないのか地面で鳴き声を上げるだけでこちらに襲い掛かる様子はない。


「それにしても……こいつらって初めて見るけど、どうにも違和感があるんだよな……イノブタに似ているような気がするけど」


猪型の魔獣はレノノ森に生息しているイノブタと酷似した魔獣だが、レノが知っているイノブタよりもやせ細っており、体毛の色も微妙に違いがあり、別の種である可能性が高い。だが、それにしては多少の差異はあれど外見はイノブタと酷似しており、もしかしたら放浪島のように環境の違いで大きく成長が変化したイノブタなのかも知れない。


「わっしの記憶が確かなら、こいつらはイノブタの原種だと思いやす。昔、書物で見た事がありやす」
「原種?」
「要はイノブタの先祖の事でやんす。元々、イノブタは昔はアトラス大森林にしか存在しない種でしたが、魔王によって結界が一時期崩壊し、イノブタ達が外部の世界に流れ込んだ事が原因で世界中に生息するようになったと聞きやす。こいつらはもしかしたらその原種かもしれやせん」
「イノブタが?」


イノブタの出生がアトラス大森林だった事は驚いたが、確かに長い時を掛けて世界中に散らばり、独自の進化を遂げて今の姿に変化したのならば可笑しくはないが、どうしてこの場所にイノブタの原種が存在するのか不明である。アトラス大森林にしか存在しないはずの原種がこの巨大迷宮の階層で生息しているのかは不明だが、よくよく考えれば大迷宮は放浪島の地下迷宮のように魔物を生産する仕組みが存在し、仮に原種が存在したとしても可笑しくはない。


「ハヤテ様、この階層の植物の一部と種子を回収しました」
「種子?」
「わっし等も初めて見る植物ですからね……帰って調べてみたい事がありやす。レノさんもどうですか?」


何時の間にか回収していたのか、ハヤテは植物の種子を差し出し、外見は緑色の豆にしか見えないが、レノは受け取って置く。必要になる時が来るのかは不明だが、後でベータに差し出せば何かが分かるかも知れない。

ほどほどに休憩を終えると、レノ達は再び行動を開始しようとした時、不意に足元で騒いでいたイノブタ達の鳴き声が止む。


「プギィッ……!?」
「ブヒィィイイイッ!!」



ドドドドッ……!!



何事なのかイノブタ達は血相を変えてその場を移動し、派手に煙を巻き上げながら移動を行う。レノ達はその光景を樹木の上から確認していると、不意に茂みが揺れ動き、巨体が姿を現す。


「ブフゥッ……」


レノ達の前に出現したのは猪や豚を想像させる顔つきの二足歩行の生物であり、大きさは2メートルを軽く超え、人間のように魔物から剥ぎ取った毛皮を全身に巻き付け、右手には竹槍のように先端が研ぎ澄まされた樹木を握りしめており、現実世界ではゴブリンに並んで有名な存在の出現にレノは内心驚く。何気にこの世界に訪れてから初めて見たかもしれない「オーク」の姿であり、相手は樹木の枝の上に立つレノ達に視線を向け、



「プギィイイイイイイイイッ!!」



獲物を見つけたとばかりにオークは雄叫びを上げ、ゴリラのように胸元を拳で叩き付けると、そのままレノ達が避難している樹木に体当たりする。



バキィィイイイッ!!



「うそっ!?」
「散りなさい!!」
「はっ、はい!!」


サイクロプス並の膂力で樹木を根元から薙ぎ倒し、レノ達は咄嗟に周囲の他の樹木の枝の上に移動する。森人族だからこそ対応できたが、これが人間だったら為す術もなく地面に墜落していただろう。


「ブフゥッ……!!」


オークは木の槍を片手に振るいあげ、人間の武芸者のように槍を回転させながらレノ達を挑発するように舌なめずりを行う。その光景に森人族達は怒りよりも不気味さに顔を引きつらせ、ハヤテは興味深く観察する。


「驚きやしたね……地上では滅多に姿を見せないオークとこんな場所で遭遇出来るとは……いやはや、長生きしてみるもんだ」
「え?オークってそんなに希少種なの?」
「彼等はサイクロプスのように生涯を森の中で暮らす種でやんす。但し、サイクロプスやミノタウロスと違って知能の発達には限界があるから他の種とは馴染まず、同族だけにしか心を許さない魔物でやんす」
「ご、護衛長!!来ますよ!?」


呑気に会話を行うレノとハヤテに隊員の1人が声を上げ、オークは2人が立っている樹木に近づき、もう一度攻撃を加えて樹木を薙ぎ倒そうとしたが、流石に立て続けに樹木を破壊されるのは森人族の本能が許さず、レノが掌を構えて魔法を放とうとした時、



「――斬り捨て、御免」



ズバァアアアアッ!!



「プギィイイイッ!?」
「「おおっ!!」」



何時の間にか地上に移動を果たしていたハヤテが目にも止まらぬ速度で剣を振り抜き、オークの右腕を切り落とす。その光景に隊員達は歓喜の声を上げるが、当のオークは切断された右腕の傷口を抑え、切り落とされた右腕に近づき、


「プギィイイイッ……!!」
「な、なんだ!?」
「何をしている!?」


オークは自分の腰元に括り付けた毛皮の袋から緑色の粉のような物を取り出し、傷口に擦り込む。その光景に誰もが驚愕する中、オークは右腕を拾いあげ、切断面に押し付ける。



ジュワァアアアッ……!!



その直後、切断面の部分に煙が沸き起こり、接着剤のように右腕が張り付いたと思うとオークは口元に笑みを浮かべ、



「プギャァアアアアアッ!!」
「なんとっ……」
「治療した?」


何事も無かったようにオークの右腕が握り拳を造り上げ、その場で激しく回転させる。先ほど間違いなく切断されたはずだが、右腕は神経まで完全に神経まで繋がったのか、問題なく動かす。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...