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大迷宮編 〈後半編〉
ジャングルの王
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「あ~ああ~」
「その台詞を言う必要があるんですかい?」
現在、レノを先頭に森人族達は密林を移動中であり、彼等全員が猿のように身軽な動きで樹木の間を飛び移り、蔦を利用しながら次の木に乗り移りながら移動を行う。黒柱に向けて移動を開始してから30分近くが経過するが、第一階層と違ってこの階層は密林で覆われている分、移動するのにも時間が掛かる。
「ま、待ってください護衛長!!」
「も、もう少しだけ速度を落としてくれませんか!?」
「仕方ないで……レノさん、少し待ってください」
「いいよ」
ハヤテはレノと共に軽快な動きで後に続くが、他の森人族は2人を見失わないように追跡するのが限界であり、仕方なく一度休憩を取るために立ち止まる。大分進んではいるが、まだまだ黒柱との距離は存在し、急がなければならない。
「ブヒィイイッ!!」
「プギィッ!!」
「魔物も多くなってきたな……」
「心なしか、あの塔に近づく度に魔物の数も増えている気がしやす」
枝の上から地面に視線を向けると、そこには無数の魔獣の群れが存在し、先ほどから猪型の魔物がレノ達を狙うように追跡してくるが、木には登れないのか地面で鳴き声を上げるだけでこちらに襲い掛かる様子はない。
「それにしても……こいつらって初めて見るけど、どうにも違和感があるんだよな……イノブタに似ているような気がするけど」
猪型の魔獣はレノノ森に生息しているイノブタと酷似した魔獣だが、レノが知っているイノブタよりもやせ細っており、体毛の色も微妙に違いがあり、別の種である可能性が高い。だが、それにしては多少の差異はあれど外見はイノブタと酷似しており、もしかしたら放浪島のように環境の違いで大きく成長が変化したイノブタなのかも知れない。
「わっしの記憶が確かなら、こいつらはイノブタの原種だと思いやす。昔、書物で見た事がありやす」
「原種?」
「要はイノブタの先祖の事でやんす。元々、イノブタは昔はアトラス大森林にしか存在しない種でしたが、魔王によって結界が一時期崩壊し、イノブタ達が外部の世界に流れ込んだ事が原因で世界中に生息するようになったと聞きやす。こいつらはもしかしたらその原種かもしれやせん」
「イノブタが?」
イノブタの出生がアトラス大森林だった事は驚いたが、確かに長い時を掛けて世界中に散らばり、独自の進化を遂げて今の姿に変化したのならば可笑しくはないが、どうしてこの場所にイノブタの原種が存在するのか不明である。アトラス大森林にしか存在しないはずの原種がこの巨大迷宮の階層で生息しているのかは不明だが、よくよく考えれば大迷宮は放浪島の地下迷宮のように魔物を生産する仕組みが存在し、仮に原種が存在したとしても可笑しくはない。
「ハヤテ様、この階層の植物の一部と種子を回収しました」
「種子?」
「わっし等も初めて見る植物ですからね……帰って調べてみたい事がありやす。レノさんもどうですか?」
何時の間にか回収していたのか、ハヤテは植物の種子を差し出し、外見は緑色の豆にしか見えないが、レノは受け取って置く。必要になる時が来るのかは不明だが、後でベータに差し出せば何かが分かるかも知れない。
ほどほどに休憩を終えると、レノ達は再び行動を開始しようとした時、不意に足元で騒いでいたイノブタ達の鳴き声が止む。
「プギィッ……!?」
「ブヒィィイイイッ!!」
ドドドドッ……!!
何事なのかイノブタ達は血相を変えてその場を移動し、派手に煙を巻き上げながら移動を行う。レノ達はその光景を樹木の上から確認していると、不意に茂みが揺れ動き、巨体が姿を現す。
「ブフゥッ……」
レノ達の前に出現したのは猪や豚を想像させる顔つきの二足歩行の生物であり、大きさは2メートルを軽く超え、人間のように魔物から剥ぎ取った毛皮を全身に巻き付け、右手には竹槍のように先端が研ぎ澄まされた樹木を握りしめており、現実世界ではゴブリンに並んで有名な存在の出現にレノは内心驚く。何気にこの世界に訪れてから初めて見たかもしれない「オーク」の姿であり、相手は樹木の枝の上に立つレノ達に視線を向け、
「プギィイイイイイイイイッ!!」
獲物を見つけたとばかりにオークは雄叫びを上げ、ゴリラのように胸元を拳で叩き付けると、そのままレノ達が避難している樹木に体当たりする。
バキィィイイイッ!!
「うそっ!?」
「散りなさい!!」
「はっ、はい!!」
サイクロプス並の膂力で樹木を根元から薙ぎ倒し、レノ達は咄嗟に周囲の他の樹木の枝の上に移動する。森人族だからこそ対応できたが、これが人間だったら為す術もなく地面に墜落していただろう。
「ブフゥッ……!!」
オークは木の槍を片手に振るいあげ、人間の武芸者のように槍を回転させながらレノ達を挑発するように舌なめずりを行う。その光景に森人族達は怒りよりも不気味さに顔を引きつらせ、ハヤテは興味深く観察する。
「驚きやしたね……地上では滅多に姿を見せないオークとこんな場所で遭遇出来るとは……いやはや、長生きしてみるもんだ」
「え?オークってそんなに希少種なの?」
「彼等はサイクロプスのように生涯を森の中で暮らす種でやんす。但し、サイクロプスやミノタウロスと違って知能の発達には限界があるから他の種とは馴染まず、同族だけにしか心を許さない魔物でやんす」
「ご、護衛長!!来ますよ!?」
呑気に会話を行うレノとハヤテに隊員の1人が声を上げ、オークは2人が立っている樹木に近づき、もう一度攻撃を加えて樹木を薙ぎ倒そうとしたが、流石に立て続けに樹木を破壊されるのは森人族の本能が許さず、レノが掌を構えて魔法を放とうとした時、
「――斬り捨て、御免」
ズバァアアアアッ!!
「プギィイイイッ!?」
「「おおっ!!」」
何時の間にか地上に移動を果たしていたハヤテが目にも止まらぬ速度で剣を振り抜き、オークの右腕を切り落とす。その光景に隊員達は歓喜の声を上げるが、当のオークは切断された右腕の傷口を抑え、切り落とされた右腕に近づき、
「プギィイイイッ……!!」
「な、なんだ!?」
「何をしている!?」
オークは自分の腰元に括り付けた毛皮の袋から緑色の粉のような物を取り出し、傷口に擦り込む。その光景に誰もが驚愕する中、オークは右腕を拾いあげ、切断面に押し付ける。
ジュワァアアアッ……!!
その直後、切断面の部分に煙が沸き起こり、接着剤のように右腕が張り付いたと思うとオークは口元に笑みを浮かべ、
「プギャァアアアアアッ!!」
「なんとっ……」
「治療した?」
何事も無かったようにオークの右腕が握り拳を造り上げ、その場で激しく回転させる。先ほど間違いなく切断されたはずだが、右腕は神経まで完全に神経まで繋がったのか、問題なく動かす。
「その台詞を言う必要があるんですかい?」
現在、レノを先頭に森人族達は密林を移動中であり、彼等全員が猿のように身軽な動きで樹木の間を飛び移り、蔦を利用しながら次の木に乗り移りながら移動を行う。黒柱に向けて移動を開始してから30分近くが経過するが、第一階層と違ってこの階層は密林で覆われている分、移動するのにも時間が掛かる。
「ま、待ってください護衛長!!」
「も、もう少しだけ速度を落としてくれませんか!?」
「仕方ないで……レノさん、少し待ってください」
「いいよ」
ハヤテはレノと共に軽快な動きで後に続くが、他の森人族は2人を見失わないように追跡するのが限界であり、仕方なく一度休憩を取るために立ち止まる。大分進んではいるが、まだまだ黒柱との距離は存在し、急がなければならない。
「ブヒィイイッ!!」
「プギィッ!!」
「魔物も多くなってきたな……」
「心なしか、あの塔に近づく度に魔物の数も増えている気がしやす」
枝の上から地面に視線を向けると、そこには無数の魔獣の群れが存在し、先ほどから猪型の魔物がレノ達を狙うように追跡してくるが、木には登れないのか地面で鳴き声を上げるだけでこちらに襲い掛かる様子はない。
「それにしても……こいつらって初めて見るけど、どうにも違和感があるんだよな……イノブタに似ているような気がするけど」
猪型の魔獣はレノノ森に生息しているイノブタと酷似した魔獣だが、レノが知っているイノブタよりもやせ細っており、体毛の色も微妙に違いがあり、別の種である可能性が高い。だが、それにしては多少の差異はあれど外見はイノブタと酷似しており、もしかしたら放浪島のように環境の違いで大きく成長が変化したイノブタなのかも知れない。
「わっしの記憶が確かなら、こいつらはイノブタの原種だと思いやす。昔、書物で見た事がありやす」
「原種?」
「要はイノブタの先祖の事でやんす。元々、イノブタは昔はアトラス大森林にしか存在しない種でしたが、魔王によって結界が一時期崩壊し、イノブタ達が外部の世界に流れ込んだ事が原因で世界中に生息するようになったと聞きやす。こいつらはもしかしたらその原種かもしれやせん」
「イノブタが?」
イノブタの出生がアトラス大森林だった事は驚いたが、確かに長い時を掛けて世界中に散らばり、独自の進化を遂げて今の姿に変化したのならば可笑しくはないが、どうしてこの場所にイノブタの原種が存在するのか不明である。アトラス大森林にしか存在しないはずの原種がこの巨大迷宮の階層で生息しているのかは不明だが、よくよく考えれば大迷宮は放浪島の地下迷宮のように魔物を生産する仕組みが存在し、仮に原種が存在したとしても可笑しくはない。
「ハヤテ様、この階層の植物の一部と種子を回収しました」
「種子?」
「わっし等も初めて見る植物ですからね……帰って調べてみたい事がありやす。レノさんもどうですか?」
何時の間にか回収していたのか、ハヤテは植物の種子を差し出し、外見は緑色の豆にしか見えないが、レノは受け取って置く。必要になる時が来るのかは不明だが、後でベータに差し出せば何かが分かるかも知れない。
ほどほどに休憩を終えると、レノ達は再び行動を開始しようとした時、不意に足元で騒いでいたイノブタ達の鳴き声が止む。
「プギィッ……!?」
「ブヒィィイイイッ!!」
ドドドドッ……!!
何事なのかイノブタ達は血相を変えてその場を移動し、派手に煙を巻き上げながら移動を行う。レノ達はその光景を樹木の上から確認していると、不意に茂みが揺れ動き、巨体が姿を現す。
「ブフゥッ……」
レノ達の前に出現したのは猪や豚を想像させる顔つきの二足歩行の生物であり、大きさは2メートルを軽く超え、人間のように魔物から剥ぎ取った毛皮を全身に巻き付け、右手には竹槍のように先端が研ぎ澄まされた樹木を握りしめており、現実世界ではゴブリンに並んで有名な存在の出現にレノは内心驚く。何気にこの世界に訪れてから初めて見たかもしれない「オーク」の姿であり、相手は樹木の枝の上に立つレノ達に視線を向け、
「プギィイイイイイイイイッ!!」
獲物を見つけたとばかりにオークは雄叫びを上げ、ゴリラのように胸元を拳で叩き付けると、そのままレノ達が避難している樹木に体当たりする。
バキィィイイイッ!!
「うそっ!?」
「散りなさい!!」
「はっ、はい!!」
サイクロプス並の膂力で樹木を根元から薙ぎ倒し、レノ達は咄嗟に周囲の他の樹木の枝の上に移動する。森人族だからこそ対応できたが、これが人間だったら為す術もなく地面に墜落していただろう。
「ブフゥッ……!!」
オークは木の槍を片手に振るいあげ、人間の武芸者のように槍を回転させながらレノ達を挑発するように舌なめずりを行う。その光景に森人族達は怒りよりも不気味さに顔を引きつらせ、ハヤテは興味深く観察する。
「驚きやしたね……地上では滅多に姿を見せないオークとこんな場所で遭遇出来るとは……いやはや、長生きしてみるもんだ」
「え?オークってそんなに希少種なの?」
「彼等はサイクロプスのように生涯を森の中で暮らす種でやんす。但し、サイクロプスやミノタウロスと違って知能の発達には限界があるから他の種とは馴染まず、同族だけにしか心を許さない魔物でやんす」
「ご、護衛長!!来ますよ!?」
呑気に会話を行うレノとハヤテに隊員の1人が声を上げ、オークは2人が立っている樹木に近づき、もう一度攻撃を加えて樹木を薙ぎ倒そうとしたが、流石に立て続けに樹木を破壊されるのは森人族の本能が許さず、レノが掌を構えて魔法を放とうとした時、
「――斬り捨て、御免」
ズバァアアアアッ!!
「プギィイイイッ!?」
「「おおっ!!」」
何時の間にか地上に移動を果たしていたハヤテが目にも止まらぬ速度で剣を振り抜き、オークの右腕を切り落とす。その光景に隊員達は歓喜の声を上げるが、当のオークは切断された右腕の傷口を抑え、切り落とされた右腕に近づき、
「プギィイイイッ……!!」
「な、なんだ!?」
「何をしている!?」
オークは自分の腰元に括り付けた毛皮の袋から緑色の粉のような物を取り出し、傷口に擦り込む。その光景に誰もが驚愕する中、オークは右腕を拾いあげ、切断面に押し付ける。
ジュワァアアアッ……!!
その直後、切断面の部分に煙が沸き起こり、接着剤のように右腕が張り付いたと思うとオークは口元に笑みを浮かべ、
「プギャァアアアアアッ!!」
「なんとっ……」
「治療した?」
何事も無かったようにオークの右腕が握り拳を造り上げ、その場で激しく回転させる。先ほど間違いなく切断されたはずだが、右腕は神経まで完全に神経まで繋がったのか、問題なく動かす。
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