種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

閑話 〈レノの日常〉

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――雷光の英雄「レノ」の朝は聖天魔導士の屋敷にある寝室から起床する事から始まる。既に聖天魔導士の称号は返上しているが、一度でも位に就いた人間はこの屋敷の出入りと居住を許可されており、基本的にレノはこの屋敷で過ごしている。


「ふぁあっ……」
「……すぅすぅっ」
「また潜り込んでたな……」


レノは自分の隣で毛布にくるまったコトミに視線を向け、何度注意しても彼女はレノが眠っている間に潜り込む。彼女の事は半ば諦めており、レノはコトミの頭を撫でながらベッドから起き上がる。


コンコンッ……


『レノ様、お食事の用意が出来ました』
「はいはい」


テンペスト騎士団の副団長の制服に着替えている最中に扉からノックされ、使用人の声が聞こえてくる。黒猫酒場で暮らしていた時はレノが食事を作っていたが、今では他人に食事が用意される立場であり、今日の朝食を楽しみながら振り返ると、


「……おはよ」
「な、何時の間に背後に……⁉」


コトミが後ろから抱き付き、何故か寝間着ではなく聖天魔導士の礼装に着替えている。彼女にしがみ付かれる形でレノは部屋から出る。


「あ、おはよ~」
「おはよう。ヨウカも来てたのか」
「おはようございます」
「……おはよ」


食堂には既にヨウカとセンリが座っており、レノ達も机に座ると使用人のメイドたちが食事を運んでくる。基本的に朝は普段は3人で食事を行っており、時折このようにヨウカが立ち寄って食事を行う事もある。



――朝食を終えると、ヨウカとセンリはそのまま聖導教会総本部に移動を行い、レノもすぐに準備を終えて転移魔方陣で城塞都市に向かう。総本部の転移魔方陣を使用して王城の転移の門に移動し、すぐに彼の出迎えのためにジャンヌとデルタが待ち構えていた。



「おはようございます、ご主人様」
「おはようございますレノ様」
「おはよう……二人とも立場的には俺より上なんだから出迎えなくてもいいのに」
「そういう訳にはいきません。職務上の立場はともかく、レノ様こそが実質この王国を支える重要人物なのですから」


副団長であるレノを出迎えるために団長のジャンヌと、専属騎士補佐という謎の職業に就いたデルタは書類仕事が得意のため、リノンの補佐としてアルトが新しく役職を生み出した)は立場的には副団長のレノよりも上だが、2人は毎日レノの出迎えを行っている。

基本的にレノは副団長と言っても、テンペスト騎士団の仕事は団長のジャンヌに任せきりであり、基本的に彼はアルトの仕事の補佐を行っている。


「デルタ、今日のスケジュールは?」
「はい。まず、これから午前の騎士団会議を行い、その後はアルト国王と共に交易のために来訪しているホノカ様と会食を行います。午後からはソフィア様の姿で大将軍の共同訓練に参加し、夕方は三国会談に向けての王国の料理人たちが生み出した創作料理の審査を行ってもらいます」
「食事がやたらと多いような気がする」
「その、頑張ってください……どれも大切な仕事なので」
「分かってるよ……胃薬でも持って来るべきだったかな。コトミ、いざという時は回復よろしく」
「……回復魔法も食あたりには効果ない」
「……って、コトミさん⁉ どうしてここにいるんですか⁉」
「あっ、やべっ……いつもの感覚で連れて来ちゃったよ」


聖導教会の魔導士のコトミが同行している事にジャンヌが驚愕し、レノも当たり前のように連れてきた事に頭を抑える。昔と違い、彼女は現在は魔導士見習いのため、仕事は山積みである。だが、彼女は離れないとばかりレノの腕にしがみ付き、


「……今日は一緒にいる」
「帰りなさい。ハウス‼」
「……のぉ」
「じゃ、仕方ないな……」
「諦めるのが早すぎませんか⁉」


結局、今日一日はコトミも特別に同行する事を許可し、後でセンリに説教されるだろうが、来てしまった物は仕方がないと諦めるしかない。一緒に怒られるのを予想しながら、レノは溜息を吐きだす。



――正午を迎え、午前中の仕事を終えたレノは今度はソフィアの姿に変化して大将軍として他の三人の大将軍と共に共同訓練を行う。今回の訓練は兵士たちの前で大将軍同士の模範試合を行い、彼等に自分たちの戦う姿を観戦させる。自分たちの戦闘を見せつけ、兵士たちに今後の彼等の戦闘方法に生かせる技術が無いかを確認させるための行為だが、今回は長らく実戦から離れていたゴンゾウの戦闘の勘を取り戻すためにソフィアは彼と向かい合う。


「ふんっ‼」
「おっと‼」


ドゴォオオンッ‼


「ひぃっ⁉」
「う、受け止めた⁉」
「す、すげぇっ……」


ゴンゾウはレノ達が獣人迷宮から回収した鉞を振るい、ソフィアに向けて横薙ぎに放つが彼女は魔鎧を腕に纏って受け止める。ソフィアの姿ならば彼と同等に渡り合える膂力であり、そのまま二人は激しい攻防戦を繰り広げる。



「せいっ‼」
「ふんっ‼」


ドォオオオンッ‼


魔鎧で武装したソフィアの右足の回し蹴りをゴンゾウは片腕で受け止め、相当な威力を誇る彼女の蹴りを真面に受けても彼は怯まず、そのまま振り払う。


「金剛撃‼」
「魔弾撃‼」


ドゴォオオオオオンッ‼


御互いの全力の攻撃が激突し、周囲に衝撃波が走る。最早、試合という事を忘れて熱中する2人に兵士たちは後退り、自分たちの上に立つ人間がどれほど恐ろしい存在なのか思い知らされた――



――夕方を迎え、ソフィアは仕事を終えて帰る支度を行う。但し、今回の行先は聖天魔導士の屋敷ではなく、彼女が領主として治めているレノノ森である。ソフィアの姿からレノの姿に戻り、転移魔方陣を何度も使用して闘人都市に近いレノノ森に移動する。


「おお、レノ様‼ お帰りなさいませ‼」
「お帰りなさい領主様‼」
「どうぞこちらへ‼」
「ただいま」
「……お邪魔します」


緑が生い茂る森の中に存在する街に到着し、すぐに出入口からハイ・ゴブリン達が出迎える。


「族長、お疲れ様です」
「お帰りなさいませ」
「その呼び方は止めい」


彼等以外にもレノを出迎えに訪れたのは10人程度のエルフであり、彼等は元は深淵の森のエルフであったが、ムメイが死亡してから帰る場所を失った彼等は他の森人族から目の敵にされており、1年ほど前にレノが治めているこの森に訪れた。

最初の内はこの森の護衛隊長を務めているフレイが激怒したが、彼等はムメイが森人族を裏切ったせいで森人族の間では嫌われており、何処のエルフの森にも受け入れられなかったらしく、相当に辛い生活を送っていたらしい。

ムメイの息子であるムミョウは彼等を不憫に感じ、今までのレノに対する行為を深く謝罪させ、これから先は彼の管理下に入る事を誓ってこの森の守護を行っている。レノもレフィーアに取り計らい、彼女としては深淵の森のエルフは目障りな存在だが、レノノ森の外に出ない条件で彼等の罪を許す。


「今日はどうされましたか?」
「街の様子を見に来ただけだよ」
「そうですか。では、すぐに馬を用意させましょう」
「別にいい」


レノはそのまま彼等を通り過ぎると、後方から少し安堵したような吐息が聞こえてくる。彼等とレノの間には未だに溝が存在し、わだかまりが解けるまでもうしばらく時間が掛かるだろう。


「それにしても随分と大きくなったな」
「……もっと大きくなる」
「かもね……」


街の様子を伺い、昔と比べると随分と規模が大きくなっており、住民達も増えている。以前は木の柵で囲んでいたが、今では街の周囲に城壁を建設中であり、世界中から雷光の英雄が治めている街として観光客まで訪れるほどである。


「レノ様、今日はご自宅に戻りますか?」
「ムミョウの見舞いをすれば戻るよ」
「分かりました。ではこちらへ……」


――カイに案内されるまま、レノは街の中を移動する。その後、久しぶりに再会したムミョウとフレイと談笑を行い、結局は夜明けまで彼等と共に過ごしてしまい、帰りが遅かったことでセンリにコトミ共々激しく説教されてしまうのは後の話である。
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