種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

大集落脱出

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「アマミズ、わっしとこの人たちを乗せて貰いますよ」
「ウォオオオンッ‼」
「うわっ⁉」
「きゃっ⁉」
「おわっ⁉」


ハヤテの言葉に反応し、嵐水竜は細長い胴体をしならせて彼を頭に乗せ、コウシュン達を背に乗せる。「アマミズ」と呼ばれた嵐水竜はそのまま身体中に黒雲を纏わせて飛翔する。


「助かりやしたよアマミズ……このままレノさん達を迎えに行きやしょう」
「ウォオオオオッ……‼」


子供の嵐水竜の両角をハンドルのように掴み上げ、ハヤテはゆっくりと下降させる。その光景に胴体にしがみ付くホノカたちは呆然とし、コウシュンは口笛を吹く。


「す、すごい……あの伝説の嵐水竜を本当に手懐けている……」
「ハヤテ護衛長の噂は僕の砂漠にも届いていたが、まさかこんな竜まで召喚獣にしているとは……やれやれ、コウシュン君やフウカ君が可愛く思えて来たよ」
「あの人と俺達を比べんじゃねえよ……俺の召喚獣だって負けてねえぞ」
「おや……あそこにいるのは……」


嵐水竜が大集落の上空を移動していると、前方の方角から何かが近づいてくるのをハヤテは感じとり、すぐに飛行ユニットを展開したベータと、その彼女に抱き付かれる形で持ち上げられたレノの姿だった。


「あ、レノさん見てください‼やっぱり、私のセンサー通りホノカさん達ですよ‼」
「こいつって確か嵐水竜じゃ……?」
「ご無事で何よりです」


無事に地上のエルフ達を打ち破り、ベータに迎えられたレノに対してハヤテは笑みを浮かべ、すぐにアマミズを接近させる。


「お、おい‼あれはハヤテ様じゃないのか⁉」
「どうして嵐水竜をこの場所に……⁉」
「あ、あいつらまで一緒だぞ‼まさか、裏切ったのか⁉」


地上のエルフの戦士たちが空中の光景に驚愕し、ハヤテの召喚獣である嵐水竜の出現、そして彼等の優れた視力は嵐水竜の元に集まるレノ達にも気が付き、2人の護衛長が彼等側に付いた事実に気付く。


『何をしている‼早く撃ち落とせ‼』
「れ、レイラ様⁉」


緑葉塔の方角からレイラの声が響き渡り、核音石を利用した放送であり、大集落中に彼女の声が響き渡る。


「あの者達から何としてもレフィーアを取り戻せ‼我等の代表を奪われるぞ‼」
「は、はい‼」


レイラの声に反応し、冷静さを取り戻したエルフ達が地上から弓矢を構える。弓術に長けた彼等ならば高度300メートルを超える目標物であろうと狙撃が可能であり、更に言えば嵐水竜の巨体が仇となると思われたが、


「ベータ、消せ」
「その言い方だと私が誰かを殺すように聞こえるんですけど……はいはい」
「兄さん?」
「ちょっと後に乗せてもらうよ」


レノがベータから嵐水竜の背中に飛び乗り、そのまま毛皮を掴んでベータに頷く。彼女もそのまま飛行ユニットを収納して嵐水竜に飛び乗り、


「迷彩装置・起動(インビジブル・オン)」



――次の瞬間、張り付いたベータの姿が透明と化し、さらに彼女に触れていた嵐水竜の身体が薄れはじめ、遂には完全に消え去る。唐突に空中から姿を消した嵐水竜に地上で狙撃しようとした弓兵達が驚愕し、すぐに周囲を見渡すが嵐水竜の姿は確認できない。


「き、消えた⁉ どういうことだ⁉」
「転移したのか⁉」
「馬鹿な……あれほどの巨体が一瞬で転移するはずがない‼ 何処かに隠れているはずだ‼」
「で、ですが……」


結界によって隔離された大集落の空中には隠れられる場所は無く、嵐水竜の巨体が何処に消えたのかとエルフ達は目を凝らすが、姿は見えない。だが、嵐水竜が先ほどまでいた場所には不自然に嵐水竜の身体に纏っていた黒雲が浮かんでおり、そのまま結界の方角に移動していた。

黒雲の動きに気付いたエルフの戦士が訝し気に観察し、すぐに嵐水竜が消えた真相に気が付き、有り得ない事だが嵐水竜が「隠密」の魔法か何かで姿を隠蔽した事に気が付く。


「惑わされるな‼奴等は消えていない‼ただ、姿を見えなくさせただけだ‼」
「えっ⁉」
「あの巨体で……フウカ様のように姿を消したと言うのですか⁉」


エルフ達に動揺が走り、彼等の誰もが黒雲に視線を向ける。確かに嵐水竜が姿を消したにもかかわらず、不自然に竜の身体に纏わりついていた黒雲だけは空中に残っており、そのまま大集落の東側の端にまで高速接近する。


「……どうやらバレたようですよ。私の迷彩装置もそろそろ限界ですし、ここで切りますね」
「まあ、15秒ぐらいは稼げたかな」
「いやはや……兄さんたちには驚かされてばかりですね」
「まさかこの巨体を消すとは……とんでもねえなおい」
「ウォオオオオンッ……‼」



――地上のエルフ達が気が付いた頃、彼等の読み通りベータの「迷彩装置」で隠蔽した嵐水竜の身体が出現し、既に大集落の端にまで移動を果たす。



終末者の肉体であるベータには「迷彩装置」が取り付けられており、自分の肌に触れるものならば透明化させることも可能であり、嵐水竜の巨体でさえも十数秒程度ならば隠蔽できる。最も、流石に電池を使いすぎたのか彼女はそのまま嵐水竜に倒れ込み、気分が悪そうに身体を任せる。


「お疲れさん」
「後は頼みます……全く、引きこもりにはきつい労働量ですよ」
「助かりやした……ですが、どうやって抜け出しやすかね」
「やっと僕の出番だね」


そう告げるとホノカは自分の腕に纏わせたアイギスを構え、彼女は前方の大集落の結界を確認し、守護壁を展開させる。


「アイギス‼」



――ブォンッ‼



一瞬にして森人族の結界に守護壁が誕生し、そのまま大穴を形成するように結界を阻み、そのまま嵐水竜が飛び込む。無事に嵐水竜が通過すると、守護壁が解除され、再び結界が遮断された。


「ひゅうっ♪やるな姉ちゃん‼」
「僕も役に立たないと、ヨウカ達に合わせる顔が無いからね」
「助かりやした……さあ、このまま外に行きやすよ‼」
「ウォオオオオンッ‼」


全員を乗せたまま、嵐水竜が一気に上昇し、アトラス大森林の上空を飛翔する。そのままレノ達は竜の背に揺らされながら、レノは嵐水竜の先頭にいるハヤテに話しかける。


「ハヤテさん……あの」
「……何か起きたんでやんすね。だから、兄さんはわっしの言葉を破って堂々と塔に向かってきてたんですね」
「……うん」



――レノがハヤテと別れた後、彼の助言通りに屋敷に訪れ、そして既にレイラとその配下によって屋敷が襲撃されており、ハヤテが屋敷に置いていたという「緑葉刀」と呼ばれる刀が奪われた事、そして彼の使用人の男性から受け取った「結界石」の欠片と思われる水晶を手渡す。



彼は屋敷にいた男性のエルフが死んだことに少しだけ眉を動かし、彼が最後に託してくれた結界石を受け取ると、強く握りしめる。


「そうですか……ナオさんが最後にわっしにこれを……」
「……ごめん」
「いや、兄さんが悪いわけじゃありやせん。状況から考えても、わっしが兄さんに味方した事がばれてレイラさんに報復されたわけではないでしょう……恐らく、あの人の狙いはわっしが守っていた緑葉刀でしょうね」
「レイラさんが仲間に手を掛けるなんて……確かに罰を犯した奴には容赦しない人だが、それでも同族に手を掛けるような人じゃなかったのによぉっ……」


ハヤテとコウシュンはレイラの変貌ぶりに顔を暗くし、彼等は幼少の頃からレイラに目を掛けられたと言われても過言ではなく、どうして彼女がここまで豹変してしまったのか信じられなかった。だが、レノ達が気になっているのはレイラの変化だけではなく、先ほどから聞く「緑葉刀」という単語であり、ホノカもレノもベータも聞き覚えが無いが、伝説マニアであるレミアだけは反応する。


「あのっ……先ほどから気になっていたのですが、緑葉刀というのはもしかして、森人族に伝わる至宝の聖遺物の事ですか?」
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