種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

雷光の英雄

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レノは両拳を握りしめ、両手に「撃雷」を発動させる。一瞬にして風雷を拳に纏わせたレノにエルフ達は一瞬怯むが、すぐに気を取り直して突撃してくる。


「死ね‼」
「はあっ‼」
「半端者が‼」


槍を抱えた兵士たちが彼に向けて突き刺し、レノは空中に飛んで避ける。それを見た兵士たちは笑みを浮かべ、空中に浮かんだ相手に弓矢を向ける。


「射ろ‼」
「「「はっ‼」」」



 ドドドドッ……‼



数百の弓兵が空に浮き上がったレノに向けて矢を放ち、普通ならば自由が利かない空中では避けられないだろうが、レノは足元に嵐の魔力を集中させ、


「瞬脚」


ドォンッ!!


そのまま空中で上昇し、無数の矢を躱す。弓兵たちは空を駆け上がるように移動を行うレノに驚愕するが、構わずに追撃を行う。


「射続けろ‼奴も必ず疲労するはずだ‼」
「は、はい‼」
「舐めんなっ」


自分に向けて矢を放ち続ける弓兵に対し、レノは瞬脚で移動を行いながら急降下する。自分に向い来る全ての矢を避け続け、両腕に発動させた撃雷を構え、


「撃雷‼」
「「「うわぁああああああっ⁉」」」



ズガァアアアアンッ‼



慌てて弓兵たちが蜘蛛の子を散らすように逃走を開始し、レノは勢いよく両拳を地面に叩き付け、周囲に振動が走る。この大集落は湖の上に建てられた巨大な木造船であり、彼の一撃で島が傾く。



グラァアアアッ……‼



「うおおっ⁉」
「あ、足場が……‼」


足場が傾いた事で兵士たちが体勢を崩し、大勢の人間が転倒する。レノはすぐに起き上がると、カリバーンを握りしめ、


「行くぞ……カリバーン‼」



――カッ‼



剣を引き抜いただけで周囲に閃光が走り、エルフ達は視界を奪われる。その隙にレノは柄から魔力を送り込み、カリバーンの刀身に光の刃が纏われ、横薙ぎに振り払う。


「薙ぎ払え‼」



ズガァアアアンッ‼



『ぐぁああああああっ⁉』



カリバーンから放たれた光の奔流が周囲のエルフ達を吹き飛ばし、レノは手元から魔力を吸収される感覚を確認し、この調子ならば問題ない。先代のカラドボルグやカリバーン(アイリィ作)と比べたら魔力の吸収量は少なく、どちらかというとジャンヌのレーヴァティンに近い。

レノはそのままカリバーンを片手で握りしめ、アルトから教わった剣技を試す。彼は聖剣を持っていないが、王国の継承者の定めとして聖属性を習得しており、幼い頃にはワルキューレ騎士団のテン団長から剣技を教わっている。そんな彼から教えて貰った剣技の中で唯一レノが習得出来た技を使用する。



「三日月切り‼」



――ブォンッ‼



横薙ぎにカリバーンを振り払うと、先ほど違って三日月状の光の刃が放たれ、エルフの週案に放たれる。彼等は慌てて避けようとしたが、カリバーンの光刃が先に到達した。



ドォオオオオンッ‼



『うぐぁあああああああっ⁉』


光の刃に触れた途端にエルフ達は弾き飛ばされる。他の聖剣と違い、カリバーンは破壊に特化した聖剣ではなく、単純な火力は全ての聖剣の中でも下位に位置する。だが、それでも浄化に特化した聖剣のため、腐敗竜やオルトロスといった「呪詛」を扱う魔物には絶大な威力を発揮する。

しかし、今回の相手は森人族であり、カリバーンでは致命傷は与えられない(流石に直接切りかかれば死ぬが)。それでもレノの膨大な魔力を吸収させて振るえば彼等を圧倒する事は可能であり、瞬く間に3分の1の1000名の兵士たちを戦闘不能に陥らせた。


「く、くそっ……‼ 護衛長はどうした⁉ フウカ様とハヤテ様は⁉」
「は、ハヤテ様は先ほど緑葉塔の護衛に戻ったと連絡がありました‼フウカ様は姿を消されて何処にいるのかは……」


戦闘の途中でレノの聴覚に兵士たちの会話が聞こえ、どうやらハヤテは無事に緑葉塔に侵入したらしいが、あの厄介な能力を持っているフウカが姿を見せない事が気にかかる。


(……いや、もう近くにいるのか? )


フウカは自分の姿を透明化し、魔力感知やベータのセンサーですら察知する事がない隠密性を誇る。原理は不明だが、ベータの推測によれば風の力で光の反射を操作し、姿を消しているのかもしれないと言われている。

ハヤテは心眼で彼女の居場所を探る事は出来るが、レノには同じ芸当は出来ない。もしもこの場にフウカがいるとしたら何時攻撃されるのかも不明であり、周囲に大勢の人間に囲まれた時ほど厄介な相手である。


「……ん?」



ブゥウウウンッ……‼



唐突に聖剣の刃が振動を始め、レノはこの反応が聖剣の共鳴なのかと考えたが、すぐに違う事に気付く。聖剣同士は共鳴する機能が存在し、近くに聖剣が存在するなら刃が振動するのは確かだが、今回の振動は前回の共鳴反応の時とは違い、レノは刃に引かれるように身体が動かされる。

聖剣が自動的に動くようにレノは誘導され、ある方向に刀身を向けると振動が停止する。レノは視線を前に向けるが、そこには遠方で弓矢を破壊された弓兵達が腰を抜かして自分を見ている光景だけが映し出されており、彼等が襲ってくる様子は見えないが、



「また……」



聖剣が再び振動を行い、今度は左側にレノを誘導すると再び聖剣の震えが止まる。数秒後にはまた振動を行い、今度は右側に刃を向けると停止する。


(これは……まさかっ)


レノは直感でカリバーンが自分に何を伝えてたいのかを理解すると、刃の振動が止まった方向に視線を向け、やはり何も見えないが聖剣を信じて光の刃を発動させる。


「はっ‼」


ドォオオオンッ‼


カリバーンを振り下ろし、光刃を解き放つ。真っ直ぐに放たれた光の奔流はそのまま何もない空間を飲み込み、


「……あうっ⁉」
「えっ⁉」
「ふ、フウカ様⁉」


唐突に女性の悲鳴が上がり、光の刃に弾き飛ばされた彼女が姿を現す。急に姿を現したフウカにエルフ達は驚愕し、慌てて彼女を受けとめる。カリバーンの攻撃によってどうやら気絶したのか、もう戦える様子ではない。


「そ、そんな……フウカ様が敗れた……⁉」
「どうしてあの方の居場所がバレたんだ⁉」
「それにあの剣……聖剣じゃないか‼もしかして……こいつ、本当に雷光の英雄……⁉」
「か、勝てない……」



森人族最強の守護兵士(ガードナー)の護衛長の一角であるフウカが敗れた事により、エルフ達に激しい動揺が走る。その間にもレノはカリバーンを鞘に納め、戦意を失いかけているエルフ達に向けて動き出す。



「解放術式(リリース)」



バチィイイイッ……‼



腕に事前に仕込んだ紋様から電流を迸らせ、レノは自分の持つ最強の雷撃を解放させる準備を行う。それを見た兵士たちは顔色を変え、


「に、逃げろぉおおおおおっ‼」
「殺される‼」
「うあぁああああああああっ⁉」


六種族の中でも誇り高いはずのエルフ達が無様に逃走を開始する。彼等の多くは森人族の戦士として選ばれた時点で戦闘による命を落とす覚悟は出来ているが、これでは最早戦闘ではなく、ただの一方的な蹂躙であり、戦闘ではないと判断したのだ。

怯え逃げ惑うエルフ達の姿を見つめ、レノは拍子抜けしたように解放術式から発動した電流を掻き消し、深い溜息を吐く。



「……どっちが半端者だ」



半端な覚悟で自分に勝負を挑んできた兵士たちに溜息を吐きだし、過去に相対した深淵の森のエルフ達の方が手応えがあった気がした。
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