種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

これからの行動

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「……と、まあ、今頃コウシュンさんはそんな事をぼやいている頃でしょう」
「まるで見てきたように語りますね」
「彼は赤ん坊の頃から面倒を見てますからね……さて、そろそろこの場所も危険でしょう。わっしたちも移動しやしょう」
「その変な喋り方も慣れてきた気がする……」


コウシュン達が緑葉塔で休憩している一方、レノとハヤテは共に行動して地上の建物の中に転々と移動していた。街路には無数のエルフ達がレノの捜索を行っているが、ハヤテの能力のお蔭で見つからずに先に進む事が出来た。


『おっと、そこの角の方には気を付けて下せえ。兵士の気配が二人ほど感じやす』
『了解……それにしても盗賊以外で無音術を扱える人がいたのは驚きですよ』
『わっしも長く生きてやすからね……一時期はコウシュンさんのように世界各地を旅して、様々な人たちと交わりやしたから、この会話方法も盗賊の知人に教わりやした』


レノとハヤテは口パクだけで相手の語る言葉を理解し、出来るだけ音を立てないように移動していた。ハヤテは盗賊たちの間にしか伝わっていない「無音術(いわゆる読唇術)」を巧みに扱い、普通は唇の動きだけで何を語っているのかを理解するのだが、目も見えない状態でどうやってレノが話している事を理解できるのか不思議でならない。

だが、現在の状況では彼の「感知能力」は頼りであり、ハヤテによると半径50メートル以内ならば範囲内の何処にエルフ達が居るのかを感じ取ることが可能らしく、兵士たちを避けながら緑葉塔に向けていどうしていた。


『……そろそろ建物の数も少なくなってきやしたね。ここらで休憩しやしょう』
『また、何処かの建物の中に?』
『いえ、あそこの路地裏で十分でしょう。少しぐらいなら音を出してもばれないでやんす』
『思い出したように変な語尾を使いますね』


彼に指示されるまま、レノは人気のない路地裏に移動し、すぐに片耳に取り付けたイヤホンに手を押し当てる。ベータから渡されたこの機器には通話機能も付いているはずだが、いつもならばレノの「脳波」を感じ取ってベータとすぐに通信が繋がるはずだが、今回は着信音が響くだけで繋がる様子がない。


「……充電中なのかな」


この機器が繋がらないパターンは二つ考えられ、一つはベータの身に何かが起きて彼女が損傷して通信機能が使えない状態か、もう一つはベータがソーラー発電を行っている間は通じない。充電中はあらゆる機能が停止するらしく、通信も繋がらないのは事前に教えて貰っている。

仕方なく、イヤホンから手を外すとレノはハヤテと向き直る。彼は杖を握りしめたまま座り込み、特に緊張感を抱いていない。こんな状況でこれほど余裕を保つ辺りは流石であり、レノもその場に座り込む。


「少し休憩したら、緑葉塔に侵入しやしょう。わっしならば怪しまれずに入り込めやすが、兄さんはそういうわけにはいかないでしょうが」


緑葉塔の内部に入る方法二つ存在するらしく、一つは地上に存在する正門、もう一つはレノ達が脱出した大穴であり、どちらも一筋縄では通れない。地上の出入口はエルフの兵士たちが警備しており、もう一つの大穴に関しても地上から移動するだけでも危険である。魔法の類で空中を飛翔して浮き上がったとしても、エルフの兵士たちに見つかれば狙撃されてしまうだろう。


「ここはわっしがコウシュンさん達を迎えに行き、兄さんが無事な事を伝えやしょう。そして夜に全員が集合し、結界の外に脱出しやしょう」
「脱出?どうやって?」


この大集落は周囲を結界によって封じられており、結界を通過するには結界石やホノカのアイギスが必要のはずだが、流石にエルフ達も結界の傍には大勢の兵士たちを配備させているのは間違いないだろう。


「いえ、こういう事は他国の方に告げるのはどうかと思わなくもないですが……実はある場所だけでこの結界が覆っていない場所がありやす」
「え、本当っすか?」
「その場所は……この大集落の水源である緑葉塔の水門でやんす」



――ハヤテの話によると、この大集落の水源は湖から補給しているらしく、緑葉塔の内部に存在する水門から水が送り込まれているらしい。そのため、大集落の結界も緑葉塔の水門にだけは展開させておらず、そのまま水門を通って湖に移動し、結界の外に出る事が可能らしい。



この方法を用いて長老会の緑影は外界に移動しているらしく、ハヤテの予想だと恐らく警備も厳重だと思われるが、上手く外に脱出できれば後はハヤテの召喚獣で無事にアトラス大森林を抜け出せるらしい。


「ですが、この方法は賭けでもありやす。長老会の影達を打ち破り、水門から湖に出られたとしても水中にはクラーケンなどの生物が潜んでいやす。それに上手くそれらを相手に外に出られたとしても、きっと兵士の方々も大森林の中で包囲網を作って待ち構えているでしょうね。それらを全て打ち破り、脱出するには色々と準備が必要でやんす」
「というと?」
「まあ、まずはわっしがコウシュンさん達と合流してこの作戦の内容を伝えなければなりやせん。レノさんはその間、何とか逃げ延びてください。夕方を迎えた頃、この集落の東の方角の一番端に存在するわっしの屋敷に訪れてください。使用人の方々には話は通してあるので、これを見せれば中に入れてくれるはずです」


ハヤテは懐から木造のペンダントを取り出し、彼の家の家紋らしき紋様が刻まれており、レノは受け取る。


「申し訳ないが、ここから先は別行動と行きやしょう。わっしは緑葉塔に入ってコウシュンさん達と合流するので、兄さんはそれまで無事に逃げ延びてください」
「……どうしてそこまでしてくれるんですか?俺達の事をどうしてそこまで信用して……」
「ふふふっ……確かに自分でも不思議ですが、わっしはあの不貞腐れていたコウシュンさんを真っ当な道に戻してくれた兄さんに前々から興味があったんですよ」



それだけ告げるとハヤテはパイプを取り出し、火を点けて煙を吸いあげながら、



「わっしの目の傷は、実を言うとレイアさんにやられたものでしてね。ですが、その事に関してわっしはあの人を恨んでいません。むしろ視力に頼らない方法を編み出す切っ掛けであり、ここまで自分でも強くなれたという実感が沸き上がりましたよ」
「レイア……?」
「だから、まあこれはわっしなりのレイアさんに対する恩返しでやんす。彼女のお蔭でわっしはここまで強くなれた……それにコウシュンさんはいい加減な性格に思われがちだが、決して間違った人間に強力はしない……だからわっしは、兄さんたちを信じることにしたんですよ」


それだけ答えると、ハヤテは一瞬だけ瞼を開き、紅色の瞳を見せたかと思うと深々と頭を下げ、そのまま路地裏を立ち去る。
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