種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

機人族

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レノ達が侵入してから30分が経過し、彼等は最上階に目指して複雑な通路を移動していた。上に通じる坂を移動したと思ったら、今度は地下にまで続くのではないかという急斜面に陥ったり、部屋を発見したと思ったら兵士たちの待機所だったりと、一行に進んでいるのかどうかも判断できない。


「見つけたぞ‼ 覚悟しろ‼」
「ちっ‼またかよ‼」
「だから迂闊に扉を開けないで下さい‼」
「しょうがねえだろ‼来るぞ‼」


森人族の兵士たちに見つかり、レノ達は身構える。すぐにベータは右腕を構え、銃口を出現させようとするが、コウシュンが刃を前に出して止める。


「駄目だ‼この場所で火器は使うな‼」
「どうしてですか?」
「大樹を傷つけちまうだろうが‼」
「そんな今更……」
「どんな理由があろうと、植物を傷つけるのは駄目だろうが‼」
「言いたいことは分かる」
「たくもう……森人族の方々はどうしてこうも植物馬鹿なんですか」
「それが彼等の習性だからね」


大樹の中では一切の魔法の使用は禁止されており、森人族にとってこの緑葉塔は神聖な場所であり、無闇に傷つけることは許されない。それはコウシュンもレノも同じであり、実際にこの大樹の内部に入ってからは一度も魔法を使用していない。

それは相手側も同じであり、森人族の兵士たちもこの大樹の中では一切の魔法を使用せず、武器だけでレノ達を捕獲しようと試みる。彼等にとってもこの大樹は大切な存在であり、傷つけるような真似はできない。


「来るぞ‼20人程度、何とかするぞ‼」
「あまり接近戦は得意じゃないんだけどね」
「ホーリーランス‼」
「仕方有りませんね~カンフー映画で修得したうろ覚え拳法を披露しますか」
「お前、本当に人類を滅ぼすアンドロイドなの?」



レノ達は武器を所有した兵士たちに向けて構えると、双方が交わる前に異変が生じる。



――ゴゴゴゴゴッ……‼



「うわっ⁉」
「きゃあっ⁉」
「地震か⁉」
「いや……大樹が揺れてやがる‼」


唐突に激しい振動が大樹に走り、その場にいる誰もが体勢を崩す。レノは咄嗟に壁に手を押し当てて体勢を保つと、不意に掌越しに大樹の異変を感じ取る。恐らくは森人族の血が植物の異変を感じ取り、すぐにレノは大樹が悲鳴を上げているように感じられる。


(何が起きた……? )


大樹の樹皮に耳を押し当てて神経を集中させると、まるで樹木と意識をマジわせたような感覚に陥り、ここより上の方で何かが起きた事を理解する。


「……くそっ、何処の馬鹿だ‼行くぞ‼」
「ど、何処にですか?」
「上だ‼」


コウシュンも異変を感じ取ったのか、そのまま一人で先行を始め、先ほどまでとは違って迷いない足取りで通路を進み始める。彼は純粋な森人族であり、レノと同様に植物と心通わせる力を所有していてもおかしくなく、先ほどまで迷っていたにも関わらずに通路を疾走する。


「道が分かるんですか?」
「知るか‼だが、勝手に身体が動くんだよ‼」
「森人族の本能という奴かい?後に続こう」
「え、ええ‼」


レノ達もコウシュンの追跡を行い、後方の森人族の兵士たちは何が起きているのか理解できずに立ち止まり、大樹の異変に戸惑いの表情を浮かべる。その間にもレノ達は通路を進み、上に続く道を移動する。


「飛ばすぞ‼」
「ちょ、私の体重は言いたくないですけど貴方達よりずっと重いんですよ?飛ぶことは出来ても走る事は苦手でして……」
「じゃあ、良いダイエットになる‼」
「し、失礼な‼私の場合は兵器を内蔵しているから重いのであって、私自身の体重はそんなに重くは……」
「こんな時に何の話をしてるんですか⁉」
「ほっとけ‼さっさと来い‼」


コウシュンを先頭に坂道の通路を登ると、遂に今までとは雰囲気が違う場所に辿り着く。今までは床だけが水晶壁で覆われていたが、今度は壁や天井に至るまで透明度が高い水晶壁に覆われた通路に辿り着き、どうやら最上階に辿り着いたらしい。


「何時の間にか私達も結構上にあがってたんですね」
「ですが……おかしいですね。最上階の警備は厳重だと聞いていましたが、見張りが1人も見当たりません……?」
「……確かにな、罠が仕掛けられているのは間違いないだろうが……何が起きてやがる」
「……ねえ、あれなに?」


周囲を見渡しながら警戒していると、レノが通路の奥を指差し、全員が視線を向けるとそこには異様な存在が仁王立ちしていた。


「こ、これは……人形ですか?」
「随分と変わった形をしているね……」
「ああ、それは昔からここに存在する訳の分かんねえ人形だ。やたらと重くて、ここに銅像代わりに立ててるんだよ。なんでも、俺達がこの森に住む前から存在した遺物だとか……」
「ベータ……これって」
「うわぁっ……まだこんな物が地上に残っていたんですか」



――通路の中央には明らかに旧世界の技術で生み出されたと思われる西洋風の甲冑を想像させる「ロボット」が仁王立ちしており、大きさは3メートルを超え、全身に苔が生えており、既に機能は止まっているのか動く気配はない。



ベータが甲冑型のロボットに接近し、デザインは地下迷宮に存在した「甲冑の騎士」と酷似しており、円を描くようにロボットの周囲を歩きながら確認すると、


「これ、触れても大丈夫ですか?」
「ああ、俺も前に何度か触ったことはあるが、デュラハンみたいに動くわけじゃないから大丈夫だ」
「では失礼……あ~やっぱりこれ、機人族(マシンナーズ)ですね」
「ま、ましんなーず?」
「なんか知ってんのか姉ちゃん?」
「いろいろと説明は省きますけど、これは旧世界の世代に開発されたロボットです。この機体は……ただの運搬用のロボットの名称ですね」
「運搬用?」
「主に普通の人間では危険な場所に派遣されて、資材の持ち運びを行ってくれるロボットです。但し、力は強いのでいざというときは大型トラックだろうと持ち上げる事も出来ますよ」
「へえ……動かせないの?」
「そうですね……充電が切れただけみたいですから、シュンさんがいる施設に持っていけば再稼働できるとは思いますよ」
「何でもいいから先に行こうぜ。そんな人形よりも何が起きたのか確かめないとならねえだろ」


コウシュンの言葉に全員が頷き、機人族の事は気になるが先に急ぐ事にした。通路を進むと、全員の視界に驚愕の光景が映し出される。



「こ、これは……⁉」
「酷いね……」
「……くそがぁっ‼」



――通路の途中でまるで大爆発でも生じたように、大樹の樹皮が内側から破壊され、巨大な穴が形成されていた。恐らくは火属性の砲撃魔法か、もしくは爆発物によって生み出されたのは間違いなく、エルフ達にとって神聖なはずの大樹を破壊した者がいるのは間違いなかった。


「何が起きたんでしょうか?」
「知るか‼誰であろうが、ぶっ殺してやる‼」
「落ち着いて下さいっよ。それより、ここのやたらと頑丈そうな扉が目的地なんじゃないですか?」
「……ああ、そうだな」


焼け焦げた穴の前には金属製の扉が存在し、表面には森人族の象徴である「大樹」のマークが刻まれており、コウシュンは頷く。どうやらここが彼が告げていた最上階に存在するという広間であり、どうやら目的地に辿り着いたようである。
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