983 / 1,095
大迷宮編 〈前半編〉
大樹内部
しおりを挟む
「ここが……大樹の中なのですか?」
「思っていたよりも立派な造りだね」
「なんだかテンションが上がってきた気がする」
「森人族の血ですね」
コウシュンを除いた四人が大樹の中に侵入し、すぐに破壊された扉にはミキが防御魔法陣を発動させて塞ぐ。扉の内部には巨人族でも通れるほどの通路が広がっており、地面には水晶壁が張り巡らされ、侵入者対策なのか窓の類は見当たらない。左右に別れた通路を確認してどちらに進むべきか悩んでいると、後方から騒がしい音が聞こえてくる。
「しつこいんだよお前‼」
「逃がさない‼」
扉の外を確認すると、そこにはコウシュンがこちらに向けて疾走しており、背後から彼を追いかけるようにユニコーンに騎乗したフウカの姿があり、彼女はコウシュンを踏みつぶさない勢いで追跡してくる。
「あ、お前等‼ ちょっとこいつ何とかならねえ⁉」
「貴方さっき、格好良く「ここは自分に任せて、先に行きな‼」的なこと言ってたじゃないですか?」
「きつかった‼思ったよりもきつかったの‼」
「情けない人ですね……」
仕方がないとばかりにミキが杖を向け、それを確認したコウシュンは慌てて「やべっ‼」と呟きながら頭を伏せると、
「聖導教会の象徴でもあるユニコーンに危害を加えるのは心が痛みますが……フラッシュ‼」
――カッ‼
ミキの杖の先端から閃光が放たれ、傍にいたレノ達も瞼を塞ぐ。少し離れた所では「あうっ⁉」という可愛らしい悲鳴と共に馬が倒れこむような音が聞こえ、霞む視界で確認するとそこにはユニコーンから落馬したフウカの姿が見えた。
「め、目眩まし……汚い」
「……こんの、馬鹿っ‼俺まで失明させる気か‼」
「そういう割にはしっかりと自分だけ視界は守っているじゃないですか」
「腐れ縁だからな‼ 今度やる時は事前に言えよ‼」
何時の間にかアイマスクのようにコウシュンは布を目元で覆っており、流石にミキとは古い付き合いなだけはあり、彼女の行動を読んでいたらしい。
「ふ、フウカ様がやられたぞ‼」
「おのれ‼」
「うざってぇんだよ‼」
ブォンッ‼
コウシュンの後方から兵士たちが追いかけてくるが、彼はすぐに剣を振り抜くと、周囲に突風が巻き上がる。それを受けた兵士たちは体勢を崩して転倒する。
「早く来てください‼ 入口を封じますよ‼」
「分かってるよ‼」
「レノさん、足止めお願いします」
「はいはい」
彼が扉に辿り着くまでにミキは六芒星の防御魔法陣を書き込み始め、レノはコウシュンを後方から弓矢で射ろうとした兵士たちに掌を向け、
「紫電砲」
ズドォオオオンッ‼
「「うわぁあああああああっ⁉」」
紫色のレーザーを想像させる砲撃魔法を放出し、そのまま彼等を吹き飛ばす。一応は手加減しているが、その気になればエルフ達を消し炭にする事も出来る。最も今回はレフィーアの奪還のために来ただけであり、別に戦争を仕掛けに来たわけではない。
「よし‼やれ‼」
「はっ‼」
コウシュンが内部に到達した瞬間、ミキは六芒星の防御魔法陣を展開させ、そのまま出入口を塞ぐように結界が生み出される。すぐに視力を取り戻したフウカが異変に気付き、レノ達に接近して長剣を放つ。
「このっ……‼」
ガキィインッ‼
彼女の刃は結界によって弾かれ、彼女は悔し気に何度も剣を振るうが結果は同じであり、人間の中でも最高クラスの魔術師が生み出した結界はそう易々と破壊は出来ない。
「これでしばらくは持つと思いますが……あまり余裕はありません。すぐに向かいましょう」
「ちょっと待て、その前にレフィーアが何処にいるのか分かる?」
レノは魔力感知を発動させるが、大樹の内部には数多くのエルフ達が滞在しているのか相当な数の魔力を感じ取り、とてもではないがレフィーアの魔力だけを捉えることはできない。それはミキも同じなのか難しい表情を浮かべており、ベータも首を振る。
「私の生体センサーによると大樹に存在するエルフの方々だと思われる反応の数は300名ほどですね。レフィーアさんという方の生体反応は知らないので、正確な位置は把握できませんね」
「おいおい……すげえな姉ちゃん。詳しい人数まで分かるのかよ? たいした感知能力だ」
「ですけど、生体数値がやたらと高い反応が地下の方から感じられます。この反応から察するに「人」じゃなさそうですね」
「……地下? あそこには痛めつけられた罪人しかいないはずだが……まさか、処刑獣か?」
「処刑獣?」
「森人族の処刑手段の一つに彼等が飼育している魔獣に罪人を喰わせるという方法があるんだよ。最も、今では非人道的すぎるという理由で廃止されたと聞いているが……」
「正確に言えばレフィーアの姐さんの代になってから廃止された……だが、長老会の連中が内密に処刑獣を未だに飼育している噂は聞いていたが……姉ちゃんの言葉が本当なら実在するのかもな」
「どうするんですか? このまま最上階に向かうんですか?」
レフィーアが隔離されている思われる部屋は最上階であり、コウシュンの話によれば特別な場所で最も警備が厳重なはずだが、
「ここから先は悪いが俺もあんまり覚えてねぇ……この大樹は本当は滅多に立ち寄っちゃだめなんだよ。ガキの頃に何度か足を運んだ事はあるが、構造が複雑すぎてよく迷子になっていたよ」
「地図とかないのかい?」
「あったら苦労しねえよ。それにこの大樹は未だに成長を続けていて、年齢を重ねるごとに通路が変化しやがる。かと言って外部から最上階を目指すわけには行かねえ。この大樹は幾重もの結界が展開されていて、この表門の出入口と湖に繋がる水門からしか侵入できないからな」
「水門まであるのかい?」
「ああ……だが、湖の方からの侵入は不可能だ。一見するだけだと綺麗な湖だが、水中にはクラーケンやデビルシャークが潜んでいるからな。どっちも本来は海に生息する種なんだが、先代の代表が子供の頃に悪戯で湖に放逐したら大きく育ちすぎて手が付けられなくなったんだよ」
「なんてはた迷惑な……」
レノの脳裏に伝説獣の討伐の時に紹介されたレフィーアの両親を思い出し、どちらも呑気な性格だったが、子供の時にそのような問題を起こして置いてよく代表に選ばれたとある意味では感心する。もしかしたら森人族の代表という立場は世襲制なのかもしれない。
「まあ、道が分からないなら先に進むしかねえだろ。後、ここから先は階段なんてないから上に行くとしたら斜面になっている通路を移動するしかねえ。体力のない奴はせいぜい頑張れよ」
「そういう事は事前に説明して置いて下さい……」
「やれやれ……こんな事ならちゃんと体力を付けるべきだったね」
「私は疲労なんて感じませんけど、人間の方々は不便ですね~」
「時々、お前が羨ましい」
コウシュンを戦闘にレノ達は通路を進み始め、最上階に監禁されていると思われるレフィーアを救い出すために動き出す。
「思っていたよりも立派な造りだね」
「なんだかテンションが上がってきた気がする」
「森人族の血ですね」
コウシュンを除いた四人が大樹の中に侵入し、すぐに破壊された扉にはミキが防御魔法陣を発動させて塞ぐ。扉の内部には巨人族でも通れるほどの通路が広がっており、地面には水晶壁が張り巡らされ、侵入者対策なのか窓の類は見当たらない。左右に別れた通路を確認してどちらに進むべきか悩んでいると、後方から騒がしい音が聞こえてくる。
「しつこいんだよお前‼」
「逃がさない‼」
扉の外を確認すると、そこにはコウシュンがこちらに向けて疾走しており、背後から彼を追いかけるようにユニコーンに騎乗したフウカの姿があり、彼女はコウシュンを踏みつぶさない勢いで追跡してくる。
「あ、お前等‼ ちょっとこいつ何とかならねえ⁉」
「貴方さっき、格好良く「ここは自分に任せて、先に行きな‼」的なこと言ってたじゃないですか?」
「きつかった‼思ったよりもきつかったの‼」
「情けない人ですね……」
仕方がないとばかりにミキが杖を向け、それを確認したコウシュンは慌てて「やべっ‼」と呟きながら頭を伏せると、
「聖導教会の象徴でもあるユニコーンに危害を加えるのは心が痛みますが……フラッシュ‼」
――カッ‼
ミキの杖の先端から閃光が放たれ、傍にいたレノ達も瞼を塞ぐ。少し離れた所では「あうっ⁉」という可愛らしい悲鳴と共に馬が倒れこむような音が聞こえ、霞む視界で確認するとそこにはユニコーンから落馬したフウカの姿が見えた。
「め、目眩まし……汚い」
「……こんの、馬鹿っ‼俺まで失明させる気か‼」
「そういう割にはしっかりと自分だけ視界は守っているじゃないですか」
「腐れ縁だからな‼ 今度やる時は事前に言えよ‼」
何時の間にかアイマスクのようにコウシュンは布を目元で覆っており、流石にミキとは古い付き合いなだけはあり、彼女の行動を読んでいたらしい。
「ふ、フウカ様がやられたぞ‼」
「おのれ‼」
「うざってぇんだよ‼」
ブォンッ‼
コウシュンの後方から兵士たちが追いかけてくるが、彼はすぐに剣を振り抜くと、周囲に突風が巻き上がる。それを受けた兵士たちは体勢を崩して転倒する。
「早く来てください‼ 入口を封じますよ‼」
「分かってるよ‼」
「レノさん、足止めお願いします」
「はいはい」
彼が扉に辿り着くまでにミキは六芒星の防御魔法陣を書き込み始め、レノはコウシュンを後方から弓矢で射ろうとした兵士たちに掌を向け、
「紫電砲」
ズドォオオオンッ‼
「「うわぁあああああああっ⁉」」
紫色のレーザーを想像させる砲撃魔法を放出し、そのまま彼等を吹き飛ばす。一応は手加減しているが、その気になればエルフ達を消し炭にする事も出来る。最も今回はレフィーアの奪還のために来ただけであり、別に戦争を仕掛けに来たわけではない。
「よし‼やれ‼」
「はっ‼」
コウシュンが内部に到達した瞬間、ミキは六芒星の防御魔法陣を展開させ、そのまま出入口を塞ぐように結界が生み出される。すぐに視力を取り戻したフウカが異変に気付き、レノ達に接近して長剣を放つ。
「このっ……‼」
ガキィインッ‼
彼女の刃は結界によって弾かれ、彼女は悔し気に何度も剣を振るうが結果は同じであり、人間の中でも最高クラスの魔術師が生み出した結界はそう易々と破壊は出来ない。
「これでしばらくは持つと思いますが……あまり余裕はありません。すぐに向かいましょう」
「ちょっと待て、その前にレフィーアが何処にいるのか分かる?」
レノは魔力感知を発動させるが、大樹の内部には数多くのエルフ達が滞在しているのか相当な数の魔力を感じ取り、とてもではないがレフィーアの魔力だけを捉えることはできない。それはミキも同じなのか難しい表情を浮かべており、ベータも首を振る。
「私の生体センサーによると大樹に存在するエルフの方々だと思われる反応の数は300名ほどですね。レフィーアさんという方の生体反応は知らないので、正確な位置は把握できませんね」
「おいおい……すげえな姉ちゃん。詳しい人数まで分かるのかよ? たいした感知能力だ」
「ですけど、生体数値がやたらと高い反応が地下の方から感じられます。この反応から察するに「人」じゃなさそうですね」
「……地下? あそこには痛めつけられた罪人しかいないはずだが……まさか、処刑獣か?」
「処刑獣?」
「森人族の処刑手段の一つに彼等が飼育している魔獣に罪人を喰わせるという方法があるんだよ。最も、今では非人道的すぎるという理由で廃止されたと聞いているが……」
「正確に言えばレフィーアの姐さんの代になってから廃止された……だが、長老会の連中が内密に処刑獣を未だに飼育している噂は聞いていたが……姉ちゃんの言葉が本当なら実在するのかもな」
「どうするんですか? このまま最上階に向かうんですか?」
レフィーアが隔離されている思われる部屋は最上階であり、コウシュンの話によれば特別な場所で最も警備が厳重なはずだが、
「ここから先は悪いが俺もあんまり覚えてねぇ……この大樹は本当は滅多に立ち寄っちゃだめなんだよ。ガキの頃に何度か足を運んだ事はあるが、構造が複雑すぎてよく迷子になっていたよ」
「地図とかないのかい?」
「あったら苦労しねえよ。それにこの大樹は未だに成長を続けていて、年齢を重ねるごとに通路が変化しやがる。かと言って外部から最上階を目指すわけには行かねえ。この大樹は幾重もの結界が展開されていて、この表門の出入口と湖に繋がる水門からしか侵入できないからな」
「水門まであるのかい?」
「ああ……だが、湖の方からの侵入は不可能だ。一見するだけだと綺麗な湖だが、水中にはクラーケンやデビルシャークが潜んでいるからな。どっちも本来は海に生息する種なんだが、先代の代表が子供の頃に悪戯で湖に放逐したら大きく育ちすぎて手が付けられなくなったんだよ」
「なんてはた迷惑な……」
レノの脳裏に伝説獣の討伐の時に紹介されたレフィーアの両親を思い出し、どちらも呑気な性格だったが、子供の時にそのような問題を起こして置いてよく代表に選ばれたとある意味では感心する。もしかしたら森人族の代表という立場は世襲制なのかもしれない。
「まあ、道が分からないなら先に進むしかねえだろ。後、ここから先は階段なんてないから上に行くとしたら斜面になっている通路を移動するしかねえ。体力のない奴はせいぜい頑張れよ」
「そういう事は事前に説明して置いて下さい……」
「やれやれ……こんな事ならちゃんと体力を付けるべきだったね」
「私は疲労なんて感じませんけど、人間の方々は不便ですね~」
「時々、お前が羨ましい」
コウシュンを戦闘にレノ達は通路を進み始め、最上階に監禁されていると思われるレフィーアを救い出すために動き出す。
0
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
異世界メイドに就職しました!!
ウツ。
ファンタジー
本日、九ノ葉楓(ここのはかえで)は就職試験に臨んでいた。
普通に仕事をして、普通に生きていく。
そう決めた彼女を突如眩暈が襲う。
意識を失い、次に目を覚ますと、楓はスピカというメイドになっていた。
王国?!魔法?!
「ここって異世界…?!」
見たことのない世界に驚きながらも、彼女はメイドとして働き始める。
なぜ彼女は異世界へ召喚されたのか。
彼女に与えられた使命とは。
バトルあり、恋愛ありの異世界ファンタジー。
漫画版も連載中です。そちらもよろしくお願いします。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる