種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

結界内部

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「ここがアトラス大森林……」
「レノさんから聞いた深淵の森よりも凄い場所みたいですね」
「一体、この樹木は何千年生きてるんだ?」
「分かりません……想像すらできませんね」


レノ達は視界に広がる巨木を見上げ、少なくとも数千年は生きているのではないかというほどの大きさの大木が周囲一面に広がっている。下からでは頂点は見えず、一本の大木だけで1つの船が1つ造り出せるのではないかというほどに大きい。

深淵の森と良く似た雰囲気ではあるが、違いがあるとすれば動物の気配が感じられない。これ程の規模ならば昆虫や動物もいそうなものだが、どういう事か見当たらない。それに大結界があるとはいえ、エルフ達の見張りも見当たらない。


「何か感じますか?」
「いや……近くに生物の気配はない。お前のセンサーは?」
「そうですね……特殊な磁場が形成されているのか、監視衛星とリンク出来ませんね。ですけど、生体センサーによればあちらの方角にエルフの人たちだと思われる反応が密集してますね」
「ほ、本当ですか?」


ベータが北東の方角を指示し、彼女の予想だとこの場所から数十キロは離れており、ここから先は徒歩で移動しなければならない。


「……だめだね、どうやら転移魔法は使えないようだ。という事はさっきのようにレノ君が先行して、僕たちを転移魔方陣で迎える事は出来ないようだ」
「楽は出来ないって事ですか」


ホノカが試すように掌を差し出すが、この結界内では大迷宮のように転移魔法は発動できず、レノは試しにシュンから受け取った「転移装置(テレポーター)」の指輪を使用してみる。


「えっと……こうかな?」


眼の前の大木の枝を視界に捉え、レノは指輪を向けて魔力を注ぎ込むと、すぐに指輪から光が発光し、瞬時に視界の光景が変化する。


「おおっ……」


子供の頃に使用していた「転送」の魔法と同じ感覚で使用したが、要領は同じであり、レノは巨木の枝の上に移動していた。真下を見ると、ホノカ達が辺りを見回している光景が見え、どうやら急に消えたレノを探しているらしい。


「れ、レノ様が消えた⁉」
「転移魔法?どうして彼だけが……」
「おおっ、シュンさんもたまには役に立ちますね」


上手く転移が発動したらしく、レノはそのまま枝の上から降りる。だいたい数十メートルほど転移したが、シュンの言葉なら視界の範囲内ならばどこにでも転移できるらしい。


「ただいま」
「うわっ⁉天からレノ様が⁉」
「今のは転移かい?……どうやったんだい?」
「この指輪のお蔭でね」


手短にレノはコウシュンから受け取った指輪の事を2人に説明し、ホノカが感心した風に覗き込む。


「へえ……まるで聖遺物のような性能の指輪だね。僕にくれないかい?」
「借り物だから駄目」
「別にいいんじゃないんですか? シュンさんは私の奴隷、そして私とデルタさんはレノさんの所有物ですから、所有物の奴隷の所持品は主人の物ですよ」
「その言い方は止めろ。誤解されるから」


指輪の力を使えば一気に移動も楽になる。今度はレノはホノカ達を引き寄せ、指輪を発動させる事にする。


「全員俺から離れないように」
「分かりました‼」
「こうかい?」
「どうぞ~」
「そんなにひっつかんでもいい」


レミアが左腕に絡みつき、ホノカが右手を握りしめ、ベータがレノの背中に張り付く。美女三人に纏わりつかれる状況になるが、今は一刻も早く森人族の集落に移動しなければならない。


「木が邪魔でちょっと使いにくいな……」
「視界の範囲内というのが厄介ですね。開けた場所なら使いやすいんでしょうけど、こんなに大木が密集した地域では扱いにくいですね」


レノは周囲を見渡すが、あまりにも巨大な樹木の群が視界一面を覆っており、遠方には移動できない。仕方なく、一気に移動するために上空を見上げ、


「全員、しっかりしがみ付け‼」
「何をする気……うわっ⁉」



――ブゥンッ‼



転移した先は巨木の枝の上であり、四人は無事に着地する。そして間髪入れずにレノは次の巨木を視界に捉え、転移する。



「次‼」
「わあっ⁉」



瞬時に次の巨木の上に移動し、レノは繰り返し指輪を発動させる。幼少期に使用していた「転送」の魔法と違いウシュンから受け取った指輪は何度でも連続に使用が可能であり、転移を繰り返す。大分使用方法も慣れてきたのか、数十秒もする内には最初に居た場所から随分と奥にまで移動する。


「これは便利ですね。私も内蔵しますかね」
「だが、これだけ転移を繰り返して大丈夫かい?」
「問題ない。次、行くよ‼」
「は、はい‼」


転移魔法は魔力消費が激しいが、膨大な魔力容量を誇るレノは転移を何十回も繰り返し、やがてどんどんと周囲の光景も変化する。


「ん? ちょっと待ってくれ、これは……」
「どうしたの?」
「この樹皮を見てくれ。もしかしたら、何かの印じゃないか?」


ホノカが転移の最中に樹木に斬り付けられた印を発見し、レノも確認するとまるで「弓矢」を想像させるマークが切り刻まれていた。


「これは……確か森人族の狩猟を行う際に刻み込む印ですね。この印を刻まれた場所で狩りを行う事を知らせるはずですが、この印があるという事は……」
「エルフがこの場所を立ち寄ったという事だね……そろそろ、見張りも出てくるかもしれない」
「俺は何も感じないけど……ベータ」
「待ってください……見つけました。まだ、距離はありますけどここから北の方角に生体反応が複数あります」


ベータのセンサーによると数百メートル先にエルフと考えられる反応を感知し、レノは魔力感知で確かめるが、彼からは何も感じられない。どうやら相手も相当な手練れであり、魔力を覆い隠す「隠密」の魔法を習得しているかも知れない。


「レノ君が魔力を感じられないところを見ると、例の緑影という奴かい?」
「長老会に従う暗殺者集団……俺とも色々と因縁がある」
「ど、どうしますか?戦闘は避けたいところですが……」
「う~ん……私のセンサーによると、この人たちの向こう側にもっと多くの生体反応が感じられるんですよね。多分、集落がそこにあると思います」
「という事は見張り役か?迂回できる?」
「無理ですね。密集した生体反応の周囲に散らばっています。多分、集落を囲むように見張り番を配置してますよ」


長老会の緑営は周辺に散らばるように見張りを行っており、彼等を素通りして進むのは難しいらしい。レノ達は戦闘準備を整えると、全員が頷く。


「よし……殺るぞ」
「え、殺すんですか?」
「いや……でも、手加減できる相手じゃないから気を付けるように」
「出来る事なら目立たないように仕留めて、他の仲間に気付かれない内に進もうか」
「私は憑依した方が良いでしょうか?」
「いや、レミアの憑依術は魔力をかなり消費するんでしょ?ここは俺に任せて」
「何か作戦があるんですか?」
「ない。だけど、どうにかする」


それだけを告げるとレノは巨木を潜り抜け、地上から見張り番と思われる影達の位置にまで移動する。
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