種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

結界を通過する方法

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「ん? 待てよ……確か、結界って魔鎧でも通過できたような……」
「魔鎧? それはもしや魔闘術の事ですか?」
「知ってるんですか?」
「え、ええ……私の知り合いに魔闘術と呼ばれる魔法と体術を組み合わせた武術を習得している方が居まして……」
「もしかしてレグの事?」
「ああ、ご存知でしたか。記憶が曖昧ですが、彼女の事は覚えています」


ミキはレグとも知り合いだったようであり、どれほどの付き合いなのかは分からないが彼女も魔闘術を知っているらしい。レノが時折使用する「魔鎧」はレグから教わった物であり、これまでに幾度も救われている。

今のミキは若かりし頃の姿だが、レグの年齢(40代?)を考えても彼女達が出会ったのはもう少し年齢を重ねた状態のはずだが、ミキは曖昧ながらに生前の記憶は残っている。


「魔鎧を使って何度か結界を突破した事があるけど、アトラス大森林にも通じるかな?」
「可能性はあると思います。あの魔法は優れた技術で、私も習得はしていますが滅多に使う機会がないので忘れていました」
「まあ、普通の魔術師が攻撃型の魔鎧を使う機会なんてないよね」



レノと違い、ミキは遠距離攻撃を得意とする魔術師であり、相手に近づかせる前に終わらせる戦法を得意とするため、魔鎧を使用する機会はそれほどなかった。一応はワルキューレ騎士団に在籍していた時は愛用していたらしいが、聖天魔導士の称号を受けてからは殆ど使用していないらしい。


「その、魔鎧ていうのは確か魔力で自分を守る術でしたよね? 分かりやすく言えばバリアみたいなもんですか?」
「そうだよ。これのお蔭で何度も助けられた」


レノは右腕に魔鎧を発動させ、紅色の炎を想像させる魔力が腕全体を覆う。この炎は高熱を発しているが本物の火ではなく、油などには引火しない。レノの防御型の魔鎧はゴムのような弾力性も存在し、外部からの衝撃に強い。

ソフィアの場合は攻撃型の魔鎧であり、こちらは防御型とは真逆の硬質性を保ち、まるで高密度の金属を纏ったように硬い魔力の鎧を形成する(但し、防御型と比べて破壊されやすい)。以前に枯葉の森に閉じ込められた際、この攻撃型の魔鎧で結界を破壊した事もある。


「攻撃型の魔鎧を使用すれば結界に干渉する事も可能ですが、恐らくアトラス大森林の強固な結界は壊せないでしょう。ですが、レノ様のような防御型の魔鎧ならば結界を通り抜けられるかもしれません」
「でも、その場合だとレノさん1人が大森林に侵入する事になりますよね? 大丈夫ですか?」
「……転移魔方陣で、皆を呼べないかな」
「無理ですね。森人族の結界魔法は空間を隔離しているので、転移系統の魔法は一切使用できませんよ。まあ、結界内部ならば転移は可能ですが……」


言われてみればレノも結界に閉じ込められたときは転移魔方陣が使用できなかったことを思い出し、そう考えるとレノが1人でアトラス大森林に潜り込んで長老会と対峙しなければならないが、危険が大きすぎる。大森林は森人族の聖地であり、そんな場所にハーフエルフであるレノが忍び込んだ事が発覚したらただ事では済まない。


「ていうか、レミアさんも……いや、今はミキさんでしたっけ? 貴女も魔鎧が使えるなら手伝ったらどうですか?」
「申し訳ありません……私の魔鎧はレノさんとは性質その物が違うので、結界を通過する事はできないんです。ですから私は大森林には入れません」
「使えない人ですね~」
「す、すいません……」
「おいこら、人の恩人に何てこというんだ」
「あうちっ」


やたらと態度が偉そうなベータの頭を叩き、こうなると頼れるのは同じエルフであるフレイとムミョウだが、出来れば彼等を巻き込みたくはない。アトラス大森林は2人にとっても聖地であり、そんな場所に忍び込む事に賛成するとは思えず、強力は頼みがたい。

事情を話せば2人とも手伝ってくれるだろうが、身体が不自由なムミョウと色々とおっちょこちょいなフレイに強力を頼むは避けたいが、1人だけで忍び込むのは危険すぎる。


「レグに協力してもらえないかな?」
「確かに彼女は攻撃型と防御型のどちらの魔鎧も使用できますが、基本的に彼女は自分の興味があること以外で行動しないので……きっと断ると思いますが」
「だろうね」


レグは基本的には酒に溺れており、お金に困ったら魔闘術を押している弟子を募集し、彼等から指導料を受け取って生活している。レノも昔はよく酒を購入しては渡しており、今でもレグは黒猫酒場に寄ってはただ酒を楽しんでいる。


「参ったな……地面を掘って結界を通り抜けられないかな?」
「そんな方法が通じるのなら、もう既に誰か試してます」
「だよね……ん? でも、そんなに面倒な結界を張っているのならどうやって森に住んでいるエルフ達は結界を通過してるの?結界石?」
「いえ、アトラス大森林で生まれたエルフ達には結界は作動しません。彼らは神木で生み出された武器を装備しており、そのお蔭で結界を通過できるのです」
「ん?それは初耳ですね?神木には結界を通過する能力まで携わっていたのですか?」
「はい。私の友人……ある男性から聞いたことがあります」


ミキは遠い目で何かを思い出すように語り、恐らく彼女が語っている男性とは彼女の元想い人の「ハーフエルフ」なのだろう。ミキは彼に裏切られた勘違いされて仲違いしており、辛いことを思い出させたかもしれない。


「神木製の武器にそんな能力も備わっているのか……」
「勿論、全ての武器が結界を通過する能力を持っているわけではありません。我らが聖導教会が管理している世界樹(教会が管理している神木)から生み出された物では効果が無いでしょうが、もしかしたら森人族が管理している神木制の物ならばあるいは……」
「神木か……そう言えば、聖遺物にも使われているんだっけ?」
「はい。大抵の武器系の聖遺物には神木が使用されています」


レノはカリバーンを確認すると、この聖剣の柄は神木製であり、もしかしたら魔鎧を使用しなくてもレノはアトラス大森林の結界を通過できるかもしれない。ならば他の人間にカリバーンを渡して結界を通過させようかと考えたが、聖剣は使い手以外の人間には決して触れられないため、その方法は却下する(デュランダルの場合は重量が増し、選定者以外の誰も持ち上げることが出来ない)。


「聖遺物をそういう事ならジャンヌも連れて来れば良かったかな……レーヴァティンも神木が使われてるなら通れたかもしれないのに」
「成分さえ分かれば私が複製できるかもしれませんけど、時間が掛かり過ぎるし、そこまでの設備もありませんからねぇ」
「面白そうな話をしてるね。僕も混ぜてくれないか?」
「なになに? 何の話~?」


全員がアトラス大森林の侵入方法に考えが行き詰まる中、不意に医療室の扉の方から声を掛けられる。振り返るとそこには飛行船と連絡を取っているはずのホノカが存在し、その隣にはヨウカの姿もあった。2人とも用事を終えたのか、医療室の中に入り込む。


「飛行船の連絡は?」
「終わったよ。今、全速力でクラーケン三号機がセンリさん達の迎えに行っている。それより何の話をしてるんだい?」
「わふ~(事情説明)」
「……なるほど、何故か一言で説明されたような気が気がするけど、そういう事か」


そう告げるとホノカは考える素振りを行い、すぐに何かを思いついたのか、


「なら、僕のアイギスの出番かも知れないね」
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