966 / 1,095
大迷宮編 〈前半編〉
何が起きたのか
しおりを挟む
全てのグリフォンが退散したのを確認すると、調査部隊は墜落した飛行船に集まる。レノはライオネルに背負われ、一応は薬で回復してはいるが、まだまだ動くのには時間が掛かりそうだった。
「全く……無事だったのは何よりだが、また修理する必要があるな」
「申し訳ありません……」
「君たちのせいじゃないさ」
ホノカは墜落した飛行船に視線を向けて溜息を吐く。幸い、レノとミアのお蔭で飛行船自体は墜落の衝撃による損傷は少なく、以前にホムラに破壊された時よりは軽傷だった。だが、飛行するのは不可能であり、しばらくの間はここで修復作業を行うしかない。
本来ならば交易都市にまで転移させて専門の人間に任せるのが一番なのだが、流石のホノカもフライングシャーク号のような巨大船を転移させる魔力は持っておらず、嘗て自分が転移の聖痕にどれだけ救われていたのか実感する。
「それでどうしてセンリさんがここにいるんだい? さっきは聞きそびれたけど……」
「その事で話があります。ですが、今は負傷者の方々の治療に専念したいので、後でも構いませんか?」
「僕としても助かるよ」
飛行船の前には大勢の人間達が治療中であり、先ほどのグリフォンとの戦闘でこちらも深手を負った者が多い。すぐに彼等は飛行船から運び出された薬品と医療魔術師に治療されており、比較的に元気な者は飛行船の周囲を見回りしていた。
「それにしてもどうしてグリフォンの奴等がここに……お前たちは何か知っているのか?」
「いえいえ~グリフォンは確かに獣人族の領土に生息しますけど~基本的には北の地方の山岳地帯から出てこないはずですよ~」
「山岳地帯で何かが起きたのでしょうか?」
「分からん。だが、可能性はあるな」
この場所は獣人族の領土の東側であり、グリフォンが生息している北部の山岳地帯とは1000キロ以上も離れているはずだが、どうしてこの場所に姿を現したのか。もしかしたら北部地方で何らかの異変が生じ、グリフォン達が住処を追われた可能性も否定できない。
「センリの方は仕方がないが、お前ならば事情を説明してくれるのだろうな? 鮮血の騎士よ」
「その呼び方は止めてください……分かりました。私が知る限りの事情を説明させてもらいます」
ライオネルの視線が聖剣の使用によって疲労しているジャンヌに注がれ、彼女は疲れた表情を浮かべながらも頷く。
調査部隊の隊長格と、リノン、ポチ子、ホノカを交えて彼等は飛行船から運び出された机に集まり、レノはまだ本調子ではないため、コトミに膝枕される形で話を聞くことになる。正面に座っているジャンヌがコトミに羨ましそうな視線を向けるが、ここまでの経緯に至るまでの過程を語り出す。
「申し訳ありませんが、私も詳しい事は分かりません。ですが、ここに到着するまでの出来事ならば話せます。それでも構いませんか?」
「問題ないよ。詳細は後でセンリさんから聞けばいいだけだしね」
「何が起きたんだジャンヌ? どうして聖導教会に入院している貴女がここに……?」
「はい……実は――」
――ジャンヌはレミアとゴンゾウと共に剣乱武闘の傷を癒すために入院していた。だが、唐突に彼女の前にベータが顔を見せ、既に彼女の従者同然となったシュンから薬を受け取る。
『僕の国に伝わる薬品です。これを使えばきっと貴女の火傷も治るでしょう』
『正確に言えば細胞を活性化させて、細胞分裂を活発化させて……まあ、分かりやすく言えば「万能細胞」つまりは「回復液」ですよ。飲んでも良し、傷口に振りかけるのも良し、好きに使っちゃってください』
『は、はあ……』
二人から受け取った薬を半信半疑で肌に擦り付けると、エンとの戦闘で受けた火傷の跡が瞬く間に消え去り、それを見たレミアとゴンゾウも心底驚いた。この世界の伝説に語り継がれる万能薬「エリクサー」を想像させる薬に対し、ジャンヌはどうやってこんな薬を造り出せたのかと問うと、
『あ~……生産方法は聞かないで下さい。毎日少量しか生み出せないんで、あんまり当てにしちゃだめですよ?』
『本当ならばレノ様に用意した品物ですが、彼が皆に送ってくれと頼まれたので……』
『そうですか……レノさんは不思議な方々とばかり知り合いですね』
『まあ、それは私も同感です』
ベータとシュンのお蔭により、ジャンヌはゴンゾウとレミアよりも一足先に完治し、残りの2人にも回復液を渡されたが、2人とも拒否する。
『俺は、自然に治るまで我慢す。レノとの戦闘の傷は、残しておきたい』
『私は魔力の不調だけなので、どうか他の方に……』
『そうですか? なら、遠慮なく……』
『た、大変です‼』
回復液をベータが引っ込めた瞬間に唐突に治療室にセンリが駆け込み、全員が驚いた表情を浮かべる。すぐにセンリはベータとシュンが立ち寄っていたことに気付くが、2人を通り過ぎてジャンヌの元に駆け付ける。
『ジャンヌさん⁉貴女、傷はもう大丈夫なのですか⁉』
『あ、はい。こちらのお二人のお蔭で……』
『そうですか、それはありがとうございます‼ですが、傷が完治したのならば急いで私達と供に来てください‼』
『え、ええっ⁉』
半ば無理やりにジャンヌはセンリに引きずられ、老体からは考えられないほどの力と素早さであり、そのまま呆然とするゴンゾウたちを置いて彼女は部屋の外に移動する。
『な、何が起きたんですか?』
『説明している暇はありません‼ 詳しい話は飛行船の中で‼』
『飛行船って……うわぁっ⁉』
センリは教会本部に存在する世界各地の教会に設置されている転移魔方陣に繋がる建物に到着する。この建物の名前は「転移門」であり、外見はバルトロス王国の「転移の門」と同じく四角形の建物であり、こちらは白いサイコロを想像させるデザインである。
建物の前にはワルキューレ騎士団の団員が待機しており、何事なのか既に全員が戦闘準備を整えており、総団長であるテンも待ち構えていた。
『センリさん‼準備は出来てるよ‼』
『では、ワルキューレ騎士団は世界各地に散っている団員たちを集結させてください‼この教会総本部の警備も最高警戒体制にまで引き上げます‼』
『了解‼お前たち、行くよ‼』
『『はい‼総団長‼』』
テンの掛け声に女騎士達はすぐに行動を起こし、全員がその場を立ち去るのを確認すると、センリは「転移門」の中に移動する。ジャンヌも後に続こうとすると、テンが後方から引き留め、
『ジャンヌ‼ あんたから王国宛の荷物だよ‼』
『荷物?』
『中身は知らないけど、やたらと重くて困ってるんだ‼ さっさと持っていきな‼』
『は、はい‼』
建物の出入口の横にはテンが運び出したと思われる木箱が用意されており、中身を確認してみると、
『レーヴァティン……⁉ どうしてここに……⁉』
『アルト国王から、この教会本部に今朝送り込まれました。きっと、この聖剣を必要とする機会が訪れるからだろうと……』
木箱の中には厳重に保管されたレーヴァティンが収納されており、ジャンヌが王国で何かが起きた事だけは理解した。
「全く……無事だったのは何よりだが、また修理する必要があるな」
「申し訳ありません……」
「君たちのせいじゃないさ」
ホノカは墜落した飛行船に視線を向けて溜息を吐く。幸い、レノとミアのお蔭で飛行船自体は墜落の衝撃による損傷は少なく、以前にホムラに破壊された時よりは軽傷だった。だが、飛行するのは不可能であり、しばらくの間はここで修復作業を行うしかない。
本来ならば交易都市にまで転移させて専門の人間に任せるのが一番なのだが、流石のホノカもフライングシャーク号のような巨大船を転移させる魔力は持っておらず、嘗て自分が転移の聖痕にどれだけ救われていたのか実感する。
「それでどうしてセンリさんがここにいるんだい? さっきは聞きそびれたけど……」
「その事で話があります。ですが、今は負傷者の方々の治療に専念したいので、後でも構いませんか?」
「僕としても助かるよ」
飛行船の前には大勢の人間達が治療中であり、先ほどのグリフォンとの戦闘でこちらも深手を負った者が多い。すぐに彼等は飛行船から運び出された薬品と医療魔術師に治療されており、比較的に元気な者は飛行船の周囲を見回りしていた。
「それにしてもどうしてグリフォンの奴等がここに……お前たちは何か知っているのか?」
「いえいえ~グリフォンは確かに獣人族の領土に生息しますけど~基本的には北の地方の山岳地帯から出てこないはずですよ~」
「山岳地帯で何かが起きたのでしょうか?」
「分からん。だが、可能性はあるな」
この場所は獣人族の領土の東側であり、グリフォンが生息している北部の山岳地帯とは1000キロ以上も離れているはずだが、どうしてこの場所に姿を現したのか。もしかしたら北部地方で何らかの異変が生じ、グリフォン達が住処を追われた可能性も否定できない。
「センリの方は仕方がないが、お前ならば事情を説明してくれるのだろうな? 鮮血の騎士よ」
「その呼び方は止めてください……分かりました。私が知る限りの事情を説明させてもらいます」
ライオネルの視線が聖剣の使用によって疲労しているジャンヌに注がれ、彼女は疲れた表情を浮かべながらも頷く。
調査部隊の隊長格と、リノン、ポチ子、ホノカを交えて彼等は飛行船から運び出された机に集まり、レノはまだ本調子ではないため、コトミに膝枕される形で話を聞くことになる。正面に座っているジャンヌがコトミに羨ましそうな視線を向けるが、ここまでの経緯に至るまでの過程を語り出す。
「申し訳ありませんが、私も詳しい事は分かりません。ですが、ここに到着するまでの出来事ならば話せます。それでも構いませんか?」
「問題ないよ。詳細は後でセンリさんから聞けばいいだけだしね」
「何が起きたんだジャンヌ? どうして聖導教会に入院している貴女がここに……?」
「はい……実は――」
――ジャンヌはレミアとゴンゾウと共に剣乱武闘の傷を癒すために入院していた。だが、唐突に彼女の前にベータが顔を見せ、既に彼女の従者同然となったシュンから薬を受け取る。
『僕の国に伝わる薬品です。これを使えばきっと貴女の火傷も治るでしょう』
『正確に言えば細胞を活性化させて、細胞分裂を活発化させて……まあ、分かりやすく言えば「万能細胞」つまりは「回復液」ですよ。飲んでも良し、傷口に振りかけるのも良し、好きに使っちゃってください』
『は、はあ……』
二人から受け取った薬を半信半疑で肌に擦り付けると、エンとの戦闘で受けた火傷の跡が瞬く間に消え去り、それを見たレミアとゴンゾウも心底驚いた。この世界の伝説に語り継がれる万能薬「エリクサー」を想像させる薬に対し、ジャンヌはどうやってこんな薬を造り出せたのかと問うと、
『あ~……生産方法は聞かないで下さい。毎日少量しか生み出せないんで、あんまり当てにしちゃだめですよ?』
『本当ならばレノ様に用意した品物ですが、彼が皆に送ってくれと頼まれたので……』
『そうですか……レノさんは不思議な方々とばかり知り合いですね』
『まあ、それは私も同感です』
ベータとシュンのお蔭により、ジャンヌはゴンゾウとレミアよりも一足先に完治し、残りの2人にも回復液を渡されたが、2人とも拒否する。
『俺は、自然に治るまで我慢す。レノとの戦闘の傷は、残しておきたい』
『私は魔力の不調だけなので、どうか他の方に……』
『そうですか? なら、遠慮なく……』
『た、大変です‼』
回復液をベータが引っ込めた瞬間に唐突に治療室にセンリが駆け込み、全員が驚いた表情を浮かべる。すぐにセンリはベータとシュンが立ち寄っていたことに気付くが、2人を通り過ぎてジャンヌの元に駆け付ける。
『ジャンヌさん⁉貴女、傷はもう大丈夫なのですか⁉』
『あ、はい。こちらのお二人のお蔭で……』
『そうですか、それはありがとうございます‼ですが、傷が完治したのならば急いで私達と供に来てください‼』
『え、ええっ⁉』
半ば無理やりにジャンヌはセンリに引きずられ、老体からは考えられないほどの力と素早さであり、そのまま呆然とするゴンゾウたちを置いて彼女は部屋の外に移動する。
『な、何が起きたんですか?』
『説明している暇はありません‼ 詳しい話は飛行船の中で‼』
『飛行船って……うわぁっ⁉』
センリは教会本部に存在する世界各地の教会に設置されている転移魔方陣に繋がる建物に到着する。この建物の名前は「転移門」であり、外見はバルトロス王国の「転移の門」と同じく四角形の建物であり、こちらは白いサイコロを想像させるデザインである。
建物の前にはワルキューレ騎士団の団員が待機しており、何事なのか既に全員が戦闘準備を整えており、総団長であるテンも待ち構えていた。
『センリさん‼準備は出来てるよ‼』
『では、ワルキューレ騎士団は世界各地に散っている団員たちを集結させてください‼この教会総本部の警備も最高警戒体制にまで引き上げます‼』
『了解‼お前たち、行くよ‼』
『『はい‼総団長‼』』
テンの掛け声に女騎士達はすぐに行動を起こし、全員がその場を立ち去るのを確認すると、センリは「転移門」の中に移動する。ジャンヌも後に続こうとすると、テンが後方から引き留め、
『ジャンヌ‼ あんたから王国宛の荷物だよ‼』
『荷物?』
『中身は知らないけど、やたらと重くて困ってるんだ‼ さっさと持っていきな‼』
『は、はい‼』
建物の出入口の横にはテンが運び出したと思われる木箱が用意されており、中身を確認してみると、
『レーヴァティン……⁉ どうしてここに……⁉』
『アルト国王から、この教会本部に今朝送り込まれました。きっと、この聖剣を必要とする機会が訪れるからだろうと……』
木箱の中には厳重に保管されたレーヴァティンが収納されており、ジャンヌが王国で何かが起きた事だけは理解した。
0
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
猿以下の下半身野郎は要りません
ひづき
恋愛
夫の膝の上に、年若いメイドが乗っている。
鋼の女と揶揄される公爵夫人はこの時を待っていた。
離婚するのに必要な証拠が揃う、この時を。
貴方の人生に私が要らないように、私にも、我が家にも、貴方は要りません。
※設定ゆるゆるです
※男尊女卑社会
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる