種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

砦の復興

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調査部隊が昨夜に破壊された個所の修理を行う間、レノは巨人族と共に大迷宮の洞穴を閉鎖していた木柵を撤去し、新しく柵を仕掛ける。砦から巨人族と共に木材と縄を運び出し、急ごしらえだが出入口を塞ぐ新しい柵が完成する。


「おめぇっ、小さいくせに力持ちだなぁっ……」
「舐めんなっ」
「おらたちも負けていられねえぞ‼」


巨人族と共に巨大な木材を運び込み、彼等のお蔭で順調に柵が形成された。肉体強化無しでも単純な腕力はレノは彼等にも劣らず、ちなみにダイア達は表門の修理に当たっており、レノの他には5人の巨人族が集まっていた。


「よし……これで大丈夫だろう」
「それにしてもおらたちが眠っている間に敵に襲われていたとはなぁ……」
「気付かないですっかり眠りこけてたなぁ……」


昨夜の魔獣が襲撃の際、巨人族はあれほど騒いでいたにも関わらずに宿舎で爆睡しており、結局朝になるまで事態の異変に気付かなかった。呑気というか、緊張感がないというか、ある意味では巨人族らしい豪快な性格だった。


「でも、昼間の内はおらたちがしっかりと守るから安心してくれよ」
「迷惑をかけた分、頑張るからな‼」
「頼りにしてるよ」


巨人族達は胸元を叩き、笑い声を上げる。その光景にレノは笑みを浮かべ、彼等が共に居るだけで確かに心強い。レノ達は大迷宮を離れ、砦の方に移動する。


「おうっ‼ 戻ってきたかお前等‼ なら早速手伝え‼」


表門の方では頭に鉢巻を撒いたダイアがトンカチとノコギリを手に表門の修理を行っており、随分と様になっている。彼の指示で木材を加工し、破壊された表門の修理が進められる。


「調子はどう?」
「派手にぶっ壊されているが、俺達の建築技術なら半日で元に戻せる。それより、巫女姫の姉ちゃんがあんたを探してたぜ?」
「ヨウカが?」
「なんでも、魔除けの儀式を行うから必要な物を運んできてほしいんだとよ。中央の幕舎で待ってるらしいから、さっさと行ってこい‼」
「分かった」


レノはそのまま表門を通過し、中央部に向かう途中で森人族の戦士の団体が前方から向かってくる事に気が付く。


「あっ……」
「……どうも」
「ミア様‼」


先頭を歩いていたミアがレノに気付いて声を上げ、軽く会釈したが、彼女の周囲に控えていた戦士たちが長剣の柄に手を伸ばしてくる。レノはその光景を見て眉を顰め、ミアがすぐに彼等を注意した。


「止めなさい‼ 彼は味方ですよ‼」
「……こ、これは失礼を」
「いや……」


どうやら反射的に反応したか、戦士たちは剣を収める。だが、彼等の視線は明らかにレノを警戒しており、ハーフエルフである彼を信用しきれていないらしい。



――世間ではレノの活躍のお蔭で各種族のハーフエルフの虐待も和らいだが、未だに森人族はハーフエルフを目の敵にしており、ここまで来ると遺伝子レベルで嫌っているように思える。彼等の中では世間でどれだけ英雄と崇め立てられていようとレノがハーフエルフである限りは「敵」に等しい。



レフィーアやカイザン、レイアやムメイは比較的に友好的だが、それはあくまでもレノが相手だからであり、前者の2人は彼以外のハーフエルフと遭遇した場合、他のエルフ達同様に嫌悪感を露わにするだろう。


「部下が失礼な真似をしました……お許しください」
「いや、別に気にしてませんけど……」
「くっ……」
「み、ミア様……」


頭を下げるミアにレノが首を振るが、周囲の戦士たちが睨み付けてくる。自分達の隊長がハーフエルフであるレノに頭を下げる行為が気に入らないのか、中には今にも襲い掛かりそうな物までいる。


(不味いな……)


ここで争い事を起こせば森人族と王国の関係に影響が出る以上、深淵の森の刺客のように彼等を打ち倒すわけにはいかない。ミアとしてもレノと同じ立場であり、人間とエルフの種族間の関係に罅が入らないように気を付けなければならない。


「それでは私達はこれで……」
「あ、はい」
「……失礼」


ミア達はレノの横を通り過ぎ、そんな彼女達の後姿を見送り、レノは頭を搔く。


(あの子……相当に強いな)


あくまでも直感だが、隊長格を勤めるミアの後姿を見つめ、レノは彼女がリノンのような剣士の雰囲気を纏っている事に気付く。恐らくは相当な手練れであり、彼女が味方である事は心強い一方、他の者達の動向が気にかかる。



(まあ、心配していても仕方ないか……)



レノはヨウカが待っている中央部の幕舎に向けて移動し、その途中で知り合いに出会う。


「あ、レノさん~」
「ポッキーさん?」
「なんだかお菓子みたいな名前ですね~ラッキーですよ~」


そこには獣人族の隊長を務めるラッキーがバスケットボール程の大きさの水晶玉を抱えており、レノも聖導教会の方で見た事がある魔道具だった。


「それって魔除けの水晶?」
「はい~巫女姫様が必要との事なので、飛行船から送り込まれた物資の中から運んできたんですよ~」
「そうなのか~」
「そうですよ~」


何故だか口調が移ったような気がするが、レノは水晶玉を確認し、森人族の結界石と似ているような気がした。結構な重量があるのか、ラッキーは口調とは裏腹にぷるぷると震える腕で支えており、レノがすぐに彼女から水晶玉を受け取る。


「そういう事なら、俺からヨウカの方に渡しておくよ。ヨウカはまだ幕舎にいる?」
「あ、巫女姫様ならあちらの方にいますよ~?」


ラッキーは幕舎とは見当違いの方向を指差し、そこには何故かパラソルとテーブルを用意して寛ぐホノカとヨウカの姿があり、2人はティーカップを片手に談笑していた。


「ふうっ……ホノカちゃんの紅茶は美味しいね~」
「そうだろう? もっと褒めてくれ」
「何してんねん」
「あ、レノたん」


皆が汗水を流しながら働いている中、2人で優雅にティータイムを満喫しているレノがツッコミを入れる。


「やあ、君の事を待ってたんだよ。ヨウカが何やら用があるらしくてね。待っているのも退屈なんで、少し休ませてもらったよ」
「何処からテーブルとパラソルを取り出した」
「なに、飛行船が飛び立つ前に一通りの家具も用意しておいたのさ」
「ホノカちゃん凄かったよ。転移魔法ですぐに机と日傘を取り出して、紅茶と容器まで出してくれたよ」
「まあ、そのお蔭で指輪一つ分の魔力を消費してしまったけどね」
「貴重な魔力を使用するな」


現在のホノカの魔力は魔水晶の指輪を媒介としており、指輪を失えば転移魔法は使用できない。一応は考えたうえで使用しているのだろうが、出来るならもう少し真面なことに使ってほしいが。


「それよりヨウカ、ほら魔物除けの儀式のための水晶玉」
「あ、ありがと~これで準備が整ったよ」
「魔除けの儀式か、何度か見た事があるけどどれくらい効果があるんだい?」
「う~んっ……正直に言って、私の力だとあんまり強い魔物には効果が無いんだよね。それに儀式をしても一年くらいで効果は消えちゃうし……」
「それでもやらないよりは良いんだろう?早速始めようか」
「俺はなんで呼ばれたわけ?」
「あ、レノたんも手伝ってほしいな。魔除けの儀式って凄い魔力を使うから、回復してほしいんだ~」
「なるほどね」



どうやらレノが呼ばれたのは儀式の際に使用する魔力の補給のためであり、すぐにヨウカは儀式に取り掛かる。本来ならば祭壇や儀式前の演説を必要とするが、今回は時間がないためすぐに執り行われた。



――数十分後、無事に儀式は終了し、これで砦全体に魔物が近づきにくい結界が形成される。ヨウカの話では結界の効果はこの周辺に生息している魔物達だけに有効らしく、大迷宮から出現する魔獣にまで効果があるのかは不明らしい。
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