種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

守護者

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『レノさん達が遭遇したというのは、貴方達が大迷宮と呼んでいる建物を管理する守護者(ガーディアン)と呼ばれる存在ですね』
「守護者(ガーディアン)?」
『はい。レノさんが訪れたという迷宮……正式名称は「ラビリンス」と私達は呼んでるんです。デルタさんが持ち帰ったこの機械を調べたところ、色々と判明しましたよ』
「ラビリンス……」


レノが話しこんでいる間、コトミがつまらなそうに彼の袖を引き、偉そうに踏ん反り返る。


「……構えっ」
「よしよし(ふにふに)」
「あんっ……ま、また先っぽぉっ……」
『ちょっと、人と真面目な話をしている時に何をしてるんですか?私も混ぜてください』
「いいから続き」


コトミの胸を鷲摑みながら彼女を引き寄せ、慣れた手つきで聖導教会一を誇る胸を揉みながらイヤホンに集中し、ベータが話を続ける。


『デルタさんが持ち帰った守護者の武装ユニットを調べてみたところ、だたの武器の役割持つ機器じゃなかったそうです。どうやらカメラも内蔵されていたみたいで、戦闘の状況を何処かに配信していたようですね』
「配信……」
『その配信先を調べたところ、どうやら他の場所に存在するラビリンス……レノさん達が大迷宮と呼んでいる場所に送り込まれているようです』
「俺達のデータが?」


あの時の戦闘状況が外部に送り込まれていた事に驚きの声を上げ、あのアンドロイドの両腕に取り付けられていた機器にそのような機能があるなど予想出来るはずがなかった。


『まあ、レノさんが派手に吹き飛ばしたところでカメラが壊れちゃったみたいですけど、この武装ユニットを装備していたアンドロイドは私達の前の世代の物ですね。多分、終末者の基となった存在です』
「俺が相手にしていたのは男の形をしていたけど……」
『守護者は全て男性型のアンドロイドですよ。この人たちはラビリンスを守るために生み出された存在であって、私達ほどAIは発達してません。その変わり、敵対生物と判断した相手は何がなんでも排除するようにプログラムされているようですね』
「そんなのがこれから潜る大迷宮に居るのか……」
『ご愁傷さまです』


どうやら今後、大迷宮の最深部に進む際は「守護者ガーディアン」と遭遇する事を考慮しなければならず、また厄介な敵が出てきた事にレノはコトミの胸を強く揉む。


ぐにぃいっ


「……はうっ……⁉も、もうだめぇっ……」
『いや、本当に何をやってんですか?人と話している間にふざけないで下さいよ』
「おっと、忘れていた」


コトミの胸を手放し、彼女は頬を赤らめて少し距離を取る。レノはそんな彼女を尻目に執務室の席に座り込み、会話に集中する。


「それで、守護者の事は分かったけど肝心の大迷宮ラビリンスの秘密は分かったの?」
『私の憶測も入りますけど、これまでの情報を纏めて報告しますね。まず、大迷宮ラビリンスの正体は旧世界の技術で生み出された「伝説獣」の育成施設です』
「はっ?」


途轍もない事をさらりと告げるベータにレノは呆気に取られるが、ここで「伝説獣」という単語が出て来るとは想像出来なかった。


『レノさんは疑問に思ったことはないですか? 伝説獣がどうして数百年単位で地上に姿を現す理由を』
「ないっ‼」
『そんな力強く言わないでも』


言われてみれば不思議な話ではあり、どうして伝説獣が歴史上でも数百年の間を置いて誕生するのか、それ以前にどのような手段で成長しているのかが気にかかる。


『伝説獣が誕生する理由……それは彼等は人工的に飼育された生物だからです。その飼育場所というのがレノさん達が大迷宮と呼ぶ育成施設なんです。全ての伝説獣はこの大迷宮で生み出され、じっくりと時間をかけて成長し、地上に放逐されるんです』
「でも、確かアイリィが出現場所を見抜いて封印を施したんじゃなかったけ?」


随分昔の話だが、以前にアイリィがまだ原初の英雄と呼ばれていた頃、彼女は伝説獣が誕生するという場所を探し出し、彼女自身が封印を施した事で伝説獣の誕生が大幅に遅れたと聞いていたが、


『確かにそのアイリィさんとやらのせいで、本来なら100年単位で地上に放逐されるはずの伝説獣が大迷宮に閉じ込められて、余計に厄介な存在にまで成長したようですね。本来ならば6体が同時に出現する事で世界を滅亡させるだけの力を発揮するはずなのに、300年とか400年も無理矢理閉じ込められていたせいで成長し過ぎて強大な力を得たり、地上に出る前に寿命を終えた個体もいたそうです』
「なんじゃそりゃっ……」


アイリィの所業によって伝説獣は100年に1度の復活から、300~400年に1度の割合で復活するようになったらしく、地上に放逐された個体は従来の伝説獣よりも兇悪で強力な能力を持つ一方、地上に出る前に寿命で死亡した個体も存在したらしい。


『話は戻しますけど、この大迷宮が造られた目的は2つあると思われます。1つは伝説獣の育成施設として、そしてもう一つは……勇者を育てるための訓練場なんです』
「訓練場?」
『レノさんも知り合いに勇者の方がいましたよね? あの、爆裂魔法が得意な女の人』
「美香さん?」


レノの脳裏にアルトにベタ惚れの少女の姿が思い浮かび、言われてみれば彼女は勇者としてこの王国に召喚された人間だった。正確には旧世界の記憶を刷り込まれた旧世界人のクローンであり、実際に過去の世界からこの世界に呼び出された存在ではないが。


『この世界はあるRPGゲームを参考にして生み出された事は前にも説明しましたけど、勇者という存在は私達管理者にとっても重要な存在だったんです。だからこそ、地上に送り込んだ勇者の方々を鍛えるために大迷宮ラビリンスは訓練場の役割を与えられました』
「でも、その割には最近に姿を現したね」


この世界の歴史に詳しいわけではないが、過去に何度か勇者という存在が呼び出されており、その時にどうして大迷宮という存在が出現しなかったのか、レノはすぐにその理由が思い当たる。


「……ああっ、そう言えば魔王から地上に隔離されたから、大迷宮も操作する事が出来なかったのか」
『そういう事になりますね』
「でも、それならどうして早く教えてくれなかったの? わざわざ調べなくても、管理者のお前なら全部知っていたはずだろ」
『あ~……その事なんですけど、実はレノさんが今話している私と、放浪島で出会った私は別人だと考えてください』
「……どういう事?」
『えっとですね、今の私はレノさんが出会ったベータというアンドロイドの人格と記憶の一部をコピーした存在、酷い言い方をすれば複製品なんです。だから、昔の私が知っていた情報を全て覚えているわけじゃないんですよ』
「そういう事は先に言えっ‼」


どうりで今まで抱いていた違和感の正体に気が付き、口調や考え方は確かにベータその物だが、どうりで彼女が大迷宮の事や地上の施設の情報に疎い理由が判明した。


『まあ、記憶の一部だけしか残っていないのは理由があります。レノさんも知っていると思いますけど、私のオリジナルはもう生きている事が嫌になるほど長い時を過ごしていました。だから、レノさんに頼んで自爆装置を作動させました。そこまでは知っていますね?』
「うん」
『ですから、もしも私がオリジナルと全く同じ人格と記憶を引き継いでいたら、私も自殺願望を抱いた精神状態のままになります。そうなると、色々と不都合があるでしょう?』
「あ~……」


彼女の言いたいことが分からなくもなく、確かにアンドロイドとは言え、生物である事に変わりはなく、数千年という長すぎる歴史を過ごした事でベータは追い詰められていた。そんな彼女と全く同じ精神状態の複製品が誕生したとしても、きっと彼女のように自殺を試みるだろう。


『記憶を一部しか引き継がなかった事で、今の私は普通に離せますし、オリジナルのように精神面が追い詰められてもいません。むしろ、地上に戻れたことでテンションが跳ね上がってますよ‼うりぃいいいっ‼』
「最後の発音はもう少し英語らしくしろ」


大迷宮の謎、伝説獣の誕生秘話、そしてベータの意外な真実が明らかになり、レノは頭を抑える。一体どのようにアルト達にこれらの出来事を上手く説明しなければならないのか頭が痛む。
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