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大迷宮編 〈前半編〉
調査部隊結成
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――レノ達が生存者の救出に無事に成功し、王国に帰還してから1週間が経過した。生存者たちの回復は順調であり、ゴンゾウ達の方も1~2週間で無事に退院する予定だった。その一方、王国では調査部隊のメンバーが無事に選出され、執務室に集められる。
「今回の会議の結果、最初に調査を試みるのは獣人族の領土に存在する大迷宮に決定した。やはり、僕が提案しておきながら勝手に自国の大迷宮の調査に乗り込んでいたことは責められたよ……」
「すっごい切れてたね。レフィーアだけが」
先日の世界会議の際、アルトは正直に自分が調査部隊を提案した理由と、既に自分たちだけで大迷宮を捜索していたことを告げると、レフィーアのみが激怒した。自分から提案しておきながら、真っ先に取り決めごとを破るような真似をした事は事実であり、今回ばかりは他の種族代表からも責められた。
そのため、今後調査する大迷宮の優先順位は王国が一番最後となり、会議の結果、大迷宮の魔物の被害が大きい獣人族と巨人族の領土に存在する迷宮から調査を開始する事になった。
「今回の獣人族の領土はレノ、リノン、ポチ子に行ってもらいたい。王国を空けるわけにもいかないから、カノン将軍とデルタさんは王城で待機してもらう」
「獣人族の領土か……私も初めて訪れるな」
「わぅんっ‼ 私の故郷です‼」
「聖導教会からも助っ人が来るんだっけ」
「……私」
「お前かっ」
アルトの前にはレノ、ポチ子、リノン、そして教会から訪れたコトミが存在し、この4名が調査隊のメンバーの主力である。本来ならばもっと人員を用意すべきなのだろうが、この4人は一騎当千(内1人は万夫不当)の強者揃いであり、無駄に犠牲者を生まないという理由では十分だろう。
「獣人族は今回の調査に300名の兵士を用意している。森人族側からは腕利きの戦士が15名、魔人族は10名、巨人族は30名、人魚族からは多量の救援物資が送られている。君たちは彼等と共に行動してくれ」
「調査するのにそれだけの人数で大丈夫なの?」
「今回は討伐が目的ではなく、あくまでも調査だけだから大軍を率いる必要はない。それに獣人族側としても同盟国とはいえ、他国の軍勢を受け入れるわけにはいかないだろう?」
「でも、こっちは4人だけってのは失礼じゃないの?」
「いや……その事は僕も告げたんだが、君が参加すると言っただけで頑なに他のメンバーの参加は拒否されて……結局、3人分の枠しか譲ってくれなかったよ」
「今では雷光の英雄も世間では有名だからな……レノ1人を受け入れるというだけでも他国にとっては利益(メリット)と不利益(デメリット)が大きいんだろう」
「そんなに怖がられてるの俺?」
実際、レノは単独で都市の1つや2つを殲滅できるほどの能力を秘めており、獣人族側としては彼一人が参加するだけで十分だと言える。何らかの理由で自国でレノが暴れられた場合は手が付けられず、彼以外の王国側の手練れが大勢参加するのは避けたい。
同盟が結成してからはバルトロス王国と獣人族も良好の関係を築いているが、一昔前はこの両国は激しく領土を争い合い、未だに王国の人間を信用しきれていない古参の大臣や将軍も数多く存在するらしく、獣人族代表の獣王としては王国と共に歩み寄りたいと考えているが、頭が固い彼等の説得には時間が掛かる。
「ちなみに今回の作戦は交易都市からもホノカさんが出場するそうだ」
「え、なんで?」
「本人曰く、大迷宮には前々から興味を抱いていたらしい。もしかしたら珍しい財宝が眠っているのかもしれないと言っていたが……」
「あんだけ金持ちなのに、まだ財宝が欲しいの?」
「……欲張りだから、盗賊王と呼ばれている」
「なるほどっ‼」
コトミの的を射た発現にレノとポチ子が掌の上に手を置き、確かにホノカは忘れがちだが商人ではなく盗賊であり、金銀財宝に強い興味を抱いている。特に聖遺物に関しては人一倍執着心があり、何度かレノが遊びに訪れたときにも彼が所持するカリバーンの拝見を頼まれたことがある。
「それじゃあ、王国側は私達だけというわけか……森人族がレノを襲わないだろうな」
「僕もそこが心配なんだが……レフィーアからは自分の信頼できる者達だけを呼び寄せるらしい。だが、もしもの場合も考えてレノも用心してくれ。皆も彼を守ってくれ」
「わぅんっ‼もしも刺客が訪れたとしても、私達が追い払います‼」
「誰が相手であろうと切り伏せてやる」
「……ぶっ殺」
「頼りになるけど、最後のは怖い」
「だが、重ねて告げるが気を付けてくれ。レノ、もしも刺客に襲われた場合は立場など考えずに返り討ちにしてくれても構わない。君を失う事は国王としても、そして親友としても大きな痛手だ。決して無理はしないでくれ」
「了解」
アルトの心配そうな表情にレノは笑みを浮かべ、一先ずは今日の所は解散となる。調査は3日後であり、その間に各自は入念な準備の必要がある。アルトは思い出したようにリノンに顔を向け、
「ポチ子、リノン。2人には前々から依頼されていた品物が届いているよ」
「なにっ⁉本当か⁉」
「新しい武器ですか⁉」
「あ、ああっ……もうそろそろ届く手筈だが……」
「こうしてはいられん‼ 行くぞポチ子‼」
「わぅんっ‼」
「あ、ちょっ‼何処に行くんだ2人とも⁉」
何処に届けられるかも聞いていないのにリノンとポチ子が駆け出し、慌ててアルトが2人の後を追いかける。残されたレノは苦笑を浮かべ、コトミは眠たげに欠伸を行う。
「さてと……コトミはどうする?」
「……レノと一緒にいる」
「別にいいけど、修行はどうした」
「……今日の分は終わった」
甘える猫のように自分に張り付くコトミに対し、レノは溜息を吐きながらベータから受け取った「イヤホン型端末」を取り出す。これを使用すればベータとデルタといつでも連絡が可能であり、すぐに遠方の土地にいるベータに通信を行う。
ベータには先日に交易都市で発見した遺跡で回収したタブレット端末を渡しており、既に中身のデータの復元を試みているらしい。そのデータの内容が解析できたのか確かめるため、彼女に連絡を行う。
プルプルプルッ……プルプルプルッ……
奇怪な着信音が鳴り響き、丁度レノが連絡しようとした時にあちらの方から電話をかけてきたようであり、レノはすぐに耳に取り付ける。
「もしもし?」
『あ、やっと出ましたね。例のタブレットのデータの解析が終了しましたよ』
「それで、中身は?」
『それがどうやら大したデータは入っていませんでしたね。だいたい、私達が保有している情報しかありませんでした。肝心の「犠牲者」の方々の身体を戻す方法の手掛かりも見つかりませんでした』
「そうか……」
「今回の会議の結果、最初に調査を試みるのは獣人族の領土に存在する大迷宮に決定した。やはり、僕が提案しておきながら勝手に自国の大迷宮の調査に乗り込んでいたことは責められたよ……」
「すっごい切れてたね。レフィーアだけが」
先日の世界会議の際、アルトは正直に自分が調査部隊を提案した理由と、既に自分たちだけで大迷宮を捜索していたことを告げると、レフィーアのみが激怒した。自分から提案しておきながら、真っ先に取り決めごとを破るような真似をした事は事実であり、今回ばかりは他の種族代表からも責められた。
そのため、今後調査する大迷宮の優先順位は王国が一番最後となり、会議の結果、大迷宮の魔物の被害が大きい獣人族と巨人族の領土に存在する迷宮から調査を開始する事になった。
「今回の獣人族の領土はレノ、リノン、ポチ子に行ってもらいたい。王国を空けるわけにもいかないから、カノン将軍とデルタさんは王城で待機してもらう」
「獣人族の領土か……私も初めて訪れるな」
「わぅんっ‼ 私の故郷です‼」
「聖導教会からも助っ人が来るんだっけ」
「……私」
「お前かっ」
アルトの前にはレノ、ポチ子、リノン、そして教会から訪れたコトミが存在し、この4名が調査隊のメンバーの主力である。本来ならばもっと人員を用意すべきなのだろうが、この4人は一騎当千(内1人は万夫不当)の強者揃いであり、無駄に犠牲者を生まないという理由では十分だろう。
「獣人族は今回の調査に300名の兵士を用意している。森人族側からは腕利きの戦士が15名、魔人族は10名、巨人族は30名、人魚族からは多量の救援物資が送られている。君たちは彼等と共に行動してくれ」
「調査するのにそれだけの人数で大丈夫なの?」
「今回は討伐が目的ではなく、あくまでも調査だけだから大軍を率いる必要はない。それに獣人族側としても同盟国とはいえ、他国の軍勢を受け入れるわけにはいかないだろう?」
「でも、こっちは4人だけってのは失礼じゃないの?」
「いや……その事は僕も告げたんだが、君が参加すると言っただけで頑なに他のメンバーの参加は拒否されて……結局、3人分の枠しか譲ってくれなかったよ」
「今では雷光の英雄も世間では有名だからな……レノ1人を受け入れるというだけでも他国にとっては利益(メリット)と不利益(デメリット)が大きいんだろう」
「そんなに怖がられてるの俺?」
実際、レノは単独で都市の1つや2つを殲滅できるほどの能力を秘めており、獣人族側としては彼一人が参加するだけで十分だと言える。何らかの理由で自国でレノが暴れられた場合は手が付けられず、彼以外の王国側の手練れが大勢参加するのは避けたい。
同盟が結成してからはバルトロス王国と獣人族も良好の関係を築いているが、一昔前はこの両国は激しく領土を争い合い、未だに王国の人間を信用しきれていない古参の大臣や将軍も数多く存在するらしく、獣人族代表の獣王としては王国と共に歩み寄りたいと考えているが、頭が固い彼等の説得には時間が掛かる。
「ちなみに今回の作戦は交易都市からもホノカさんが出場するそうだ」
「え、なんで?」
「本人曰く、大迷宮には前々から興味を抱いていたらしい。もしかしたら珍しい財宝が眠っているのかもしれないと言っていたが……」
「あんだけ金持ちなのに、まだ財宝が欲しいの?」
「……欲張りだから、盗賊王と呼ばれている」
「なるほどっ‼」
コトミの的を射た発現にレノとポチ子が掌の上に手を置き、確かにホノカは忘れがちだが商人ではなく盗賊であり、金銀財宝に強い興味を抱いている。特に聖遺物に関しては人一倍執着心があり、何度かレノが遊びに訪れたときにも彼が所持するカリバーンの拝見を頼まれたことがある。
「それじゃあ、王国側は私達だけというわけか……森人族がレノを襲わないだろうな」
「僕もそこが心配なんだが……レフィーアからは自分の信頼できる者達だけを呼び寄せるらしい。だが、もしもの場合も考えてレノも用心してくれ。皆も彼を守ってくれ」
「わぅんっ‼もしも刺客が訪れたとしても、私達が追い払います‼」
「誰が相手であろうと切り伏せてやる」
「……ぶっ殺」
「頼りになるけど、最後のは怖い」
「だが、重ねて告げるが気を付けてくれ。レノ、もしも刺客に襲われた場合は立場など考えずに返り討ちにしてくれても構わない。君を失う事は国王としても、そして親友としても大きな痛手だ。決して無理はしないでくれ」
「了解」
アルトの心配そうな表情にレノは笑みを浮かべ、一先ずは今日の所は解散となる。調査は3日後であり、その間に各自は入念な準備の必要がある。アルトは思い出したようにリノンに顔を向け、
「ポチ子、リノン。2人には前々から依頼されていた品物が届いているよ」
「なにっ⁉本当か⁉」
「新しい武器ですか⁉」
「あ、ああっ……もうそろそろ届く手筈だが……」
「こうしてはいられん‼ 行くぞポチ子‼」
「わぅんっ‼」
「あ、ちょっ‼何処に行くんだ2人とも⁉」
何処に届けられるかも聞いていないのにリノンとポチ子が駆け出し、慌ててアルトが2人の後を追いかける。残されたレノは苦笑を浮かべ、コトミは眠たげに欠伸を行う。
「さてと……コトミはどうする?」
「……レノと一緒にいる」
「別にいいけど、修行はどうした」
「……今日の分は終わった」
甘える猫のように自分に張り付くコトミに対し、レノは溜息を吐きながらベータから受け取った「イヤホン型端末」を取り出す。これを使用すればベータとデルタといつでも連絡が可能であり、すぐに遠方の土地にいるベータに通信を行う。
ベータには先日に交易都市で発見した遺跡で回収したタブレット端末を渡しており、既に中身のデータの復元を試みているらしい。そのデータの内容が解析できたのか確かめるため、彼女に連絡を行う。
プルプルプルッ……プルプルプルッ……
奇怪な着信音が鳴り響き、丁度レノが連絡しようとした時にあちらの方から電話をかけてきたようであり、レノはすぐに耳に取り付ける。
「もしもし?」
『あ、やっと出ましたね。例のタブレットのデータの解析が終了しましたよ』
「それで、中身は?」
『それがどうやら大したデータは入っていませんでしたね。だいたい、私達が保有している情報しかありませんでした。肝心の「犠牲者」の方々の身体を戻す方法の手掛かりも見つかりませんでした』
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