種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

大迷宮捜索3

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「キュロロロロロッ‼」
「うっさい‼」
「ギュロォッ⁉」


ドォオオオンッ‼


起き上がろうとしたサイクロプスの頭部に踵を叩き込み、レノは体術だけでサイクロプスを圧倒する。その光景に誰もが唖然とし、デルタだけは主人の勇姿に誇らしげに頷く。


「素晴らしい身体能力です。以前のように切れが戻っています」
「身体能力だけでサイクロプスを圧倒するなんて……僕の幼馴染はどれだけ先に行くんだ」
「うわぁっ……あの人、格闘家の職業(ジョブ)でも獲得してるんですか?」
「私の知る中で、一番の化物がレノさんのような気がします……」


レノはそのままサイクロプスと距離を取り、右手に電流を迸らせ、そのまま掌底を叩き込む。


「雷掌(ライショウ)」


ドォンッ‼


「ギュロロロロッ⁉」


中国拳法の発勁のように吹き飛ばし、サイクロプスは地面に倒れて動けなくなる。完全に意識を失っているのか白目を剥いており、決着が着いた。


「ふうっ……ロプスに免じて殺さないよ」
「お、終ったのか?」
「しばらくは目を覚まさないよ」


レノの言葉を聞いて皆が安堵し、激怒したサイクロプスほど厄介な存在はいない。しかし、気になるのはどうしてこの個体が襲い掛かってきたのかが気にかかる。


「サイクロプスは普通は大人しくて、滅多に自分から襲う事はないはずなのに……それに上から落ちてきたのも気になる」
「天井に仕掛けでもあるのか?」


サイクロプスが出現した頭上を見上げると、そこには蛍光灯のように光り輝く石が存在し、だからレノ達は松明無しにこの迷宮を進める事を認識した。恐らくは「蛍光石(光石とも呼ばれている)」と呼ばれるこの世界の特殊な鉱石であり、これのお蔭で迷宮内は常に明るさを保っているようだ。

天井を確認した限りは不審な点は見つからず、高さは10メートル近くあるこの迷宮の壁を乗り越えて降りて来たと考えるべきだろう。


「こいつは左右の壁の向こう側からやってきたと考えるのが妥当かな……それに興奮していたことも考えると、壁を乗り越える前に何かに刺激されて怒っていたのか……」
「わ、私達がさっきの女の人の死体を燃やした事が関係しているんでしょうか?」
「サイクロプスはそんなに鼻は良くないから、死体の焼けこげる臭いに反応したとは思えないけど……ホウレイさんをここに置いた奴の事もあるし、もしかしたら俺達を罠に嵌めようとしている奴がいるのか?」
「罠を仕掛ける魔物がここにいるのか? まるで、トラップモンキーのようだな……」


放浪島でレノ達が遭遇した罠を仕掛ける賢い魔獣の名前が出た事に対し、レノは考え込む。少なくともホウレイの死体をこんな地下に存在する階段へと続く通路に放置している輩がいるのは間違いなく、もしもレノ達の存在を知って罠に嵌めようとする存在がいたとしたら、あまりこの場所に長居は出来ない。一刻も早く、隊員たちと合流して帰還しなければならない。


「美香さん。魔物除けのスキルは……」
「ご、ごめんなさい……もう少しクールタイムが必要というか……」
「でしたら、先に進みましょう。随分と時間を取られましたから……」
「念のためにここにも転移魔方陣を……」


レノは転移魔方陣を設置すると、一行は先に進む。今回は速度重視のため、防御魔法陣は展開は書き込まずに移動を行い、デルタの案内でレノ達は目的地の半分ほどの距離に辿り着く。


「あと20分ほどで到着します。ですが、ここから先の生命反応が桁違いに増加しています」
「またゴブリン?」
「いえ、恐らく数値の高さ、更にはここから広間に出る事も考えても違うと思われます」
「この場所は……気を付けてください。ここから先は油断できません」
「ここって……なんか懐かしいな」
「ああ……君が住んでいた場所と似ているな」
「んんっ……?なんか見覚えがある様な……」


円形状に広がる広間に出た途端、レノは無意識に笑みを浮かべ、アルトと美香も見覚えがある景色が広がっていた。眼の前の光景はあの地下迷宮の第二階層の中心部に存在する大広間と非常に酷似しており、違いがあるとすれば水人華の湖と植物が存在せず、代わりに無数の岩石が所狭しと並んでいた。


「気を付けてください。岩石に紛れて複数の生体反応が感じられます」
「今度はロック・ゴーレムか……どうする?」
「進むしかないでしょ。デルタのセンサーと俺の魔力感知を頼りに行くしかないね」
「ううっ……またあのでっかいゴーレムが現れたら今度こそ跡形もなく吹き飛ばしますよ」
「気を付けてください……この広間のゴーレムは大きな音に反応して近づいてきます。ここから先は大きな音は立てない様にしましょう」


5人は岩石が並ぶ大広間に足を踏み入れ、レノ達は周囲に気を配りながら先に進む。デルタのセンサーで岩石に扮しているゴーレムを見抜き、迂闊に近づかない様に気を付けながら先に進む。


「……あちらの岩から生体反応を感知しました。上手く擬態していますが、ゴーレムです」
「向い側の岩もきな臭い気がする」
「本当に頼りになるな君たちは……」
「私達は違いが分かりませんが……」
「くっ……私も魔力感知スキルを発動させれば……あ、駄目です。スキルポイントがもうありませんでした……」
「美香さんは時折、可笑しなことを口走りますね……」


勇者の存在をよく理解していないカノンは首を傾げ、レノ達は岩石を潜り抜ける。随分と広い広間なので、移動する際も慎重に行動せねばゴーレム達に気付かれてしまう。今のところは順調に先に進み、あと少しで向い側の迷宮の通路に辿り着こうとした時、



ズシンッ……‼ ズシンッ……‼



振動が地面を走り、レノ達は慌ててすぐ傍の安全な岩石に身を隠す。方向的には彼等の右斜めの岩石群から5メートル級のゴーレムが出現し、ゆっくりと移動してくる。


「……気付かれてはいないみたい」
「なら、このまま先に……」
「……いえ、あれは⁉」


ゴーレムに気付かれぬように先に進もうとした時、カノンが大きく目を見開く。彼女が何を見たのかと全員が視線を向けると、その光景にレノは唇を噛み締める。



「――あっ……ううっ……」



ゴーレムの真正面には岩に背もたれる女性の「生存者」が存在し、両脚が異様な角度で捻じ曲がっており、意識も朦朧としているのか動けないようだった。


「ゴォオオオオッ……‼」


生存者を前にしてゴーレムは覗き込む仕草を行い、やがて赤い瞳を輝かせ、そのままゆっくりと手を伸ばそうとした時、


ドォンッ‼


発砲音が響き渡り、ゴーレムの頭部に弾丸が弾く。レノ達は振り返るとそこには拳銃を構えたカノンの姿があり、彼女は冷や汗を流しながら口を開き、


「申し訳ありません……」


ゴゴゴゴッ……‼


カノンの発砲音に反応したように周囲に存在する岩石が動き出し、無数のゴーレム達が出現する。その数は大広間に存在する岩石の4分の1を占め、凄まじい咆哮が響き渡った。



――ゴォオオオオオオオオッ‼



「走れ‼」
「邪魔だぁっ‼」


アルトの声が響き渡り、レノは右腕に螺旋状の風雷を纏わせ、生存者に襲い掛かろうとしたゴーレムを殴りつける。


ズガァアアンッ‼


悲鳴を上げる暇もなく、ゴーレムは木っ端微塵に砕け散り、レノは生存者を担ぎ上げる。まだ生きてはいるが重傷であり、すぐに治療しなければならないが周囲から新たなゴーレム達が接近してくる。



「皆‼ 通路まで走れぇえええええっ‼」



大剣を抜いたアルトが大声で叫び、全員が大広間の出口である通路に向けて駆け込んだ。
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