種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

雨湖

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「ここが大雨期で出来た湖? 随分と大きいな……」
「旧世界の琵琶湖に匹敵する大きさです」
「名前が無いのもあれなので、私達は雨湖(あまこ)と呼んでいます」


レノ達の目前には広大な湖が広がっており、本来ならばこの場所は平原だったらしいが、大雨期の影響で巨大な湖が出来た。この湖の中心に見える島のように浮かんでいる場所が存在し、そこに大迷宮と呼ばれる遺跡が何時の間にか出現したという。


「薄らと見えるけど、あれが大迷宮か……デザインは古代ローマ風だな」
「私のデータにもない場所です。ベータならば知っている可能性もありますが……」
「そう言えばデルタはベータが復活したの知ってる?」
「大迷宮を出たときに通信が入りました。どうやら、大迷宮内では通信が遮断されてしまうようです」
「電波を遮断する素材でも使われているのかな……」
「2人とも何を話しこんでいるんだ?」
「いや、なんでもない」


デルタと内緒話を行っているとリノンが首を掲げて歩み寄り、レノは話を切り上げて移動する。大迷宮が存在する島までかなり距離があるが、瞬脚を利用すれば移動出来なくもない。


「じゃあ、言ってくるよ」
「あ、ちょっと待ってください。これを使えばいいんじゃないですか?」


レノが移動しようとすると美香が引き留め、彼女は青白い水晶を取り出し、以前にも見かけたことがある「転移結晶」と呼ばれる魔道具だった。


「それは転移結晶か? どうしてそんな物を……」
「これは私がまだ勇者時代に手に入れた魔道具ですよ。アルト様の力になるために念のために用意しておいたんですけど、これを使えば視界に入る場所なら転移できますよ」
「へえっ……すごいな」


視界に入る場所に転移するという美香の言葉に、レノは幼少期に体内に埋め込んでいた魔石を思い出す。あれはクズキが用意してくれたものだが、美香の転移結晶のように視界の範囲ならば転移出来た(実際には距離に制限が存在するが)。もしかしたらあの魔石も転移結晶の能力を取り込んだ代物かもしれず、クズキが何処で手に入れたのかが気にかかる。


「これを使えば一気に転移できますよ。あ、でも一度使用すると壊れて使えなくなりますけど」
「そんな希少な物をいいのかい?」
「別にいいですよ。アルト様の役に立てるのなら、たった14個しかない転移結晶なんて惜しくもありません‼」
「けっこうありますね⁉」


美香の了承も得ると、皆は彼女の傍に集まる。転移結晶の範囲は5メートル圏内であり、しっかりと大迷宮が存在する島に視線を向けて美香は結晶を掲げる。


「それじゃあ、行きますよ。テレポート‼」
「おおうっ⁉」
「わぅうっ⁉」
「こ、これは⁉」



――ブゥンッ‼



彼女の言葉に反応するように周囲の景色が一変し、転移魔方陣とは違う浮揚感がレノ達を襲う。そして次の瞬間、気が付いたらレノ達の目の前には巨大な遺跡が存在していた。


「はい、終りましたよ」
「す、すごい……一瞬で⁉」
「あ、私達がいた対岸が見えますよ⁉」
「あ、竜車を置いていったままだった……俺達がいなくなって騎竜達が困惑してるよ」
「君たち、目が良いね本当に……」


随分と距離が離れているにも関わらずに先ほど自分たちがいた場所を確認するレノとポチ子にアルトは呆れたような感心したような声を上げ、人間である彼の視力では到底捉えられない。


「それでは参りましょうか……出入口はこちらです」
「魔物が待機している可能性があります。お気をつけて」


カノンとレミアの案内の元、レノ達は遺跡の中へ足を踏み入れる。巨大な建物はローマ風に作り込まれており、無数の石柱を潜り抜け、建物の出入口と思われる門の前に移動する。レノ達は潜り抜けると、建物の中に入ってすぐに地下に繋がる螺旋階段を発見する。


「ここが出入口?」
「はい。この階段を降った先に迷宮が存在します」
「レノ……やはり、ここはあの場所と似ているな」
「うん。地下迷宮と同じだ」


放浪島に存在する地下迷宮の階段と酷似しており、明らかにこの遺跡の出入口は地下迷宮と同じ構造で造られている。レノ達はお互いに頷きあい、階段を降り始める。


「レノ、転移魔方陣は設置したのか?」
「一応は対岸のほうに設置したけど、多分……」


階段を降りる際中、レノは壁際に転移魔方陣を書き込む。全員がそれを見守ると、彼は書き終えた転移魔方陣に掌を押し当てる。


「……やっぱりだめだ。この空間が悪いのか、地上には戻れない」
「そこも地下迷宮と同じなのか……やはり、ここは地下迷宮と何か関係があるのか?」
「うぇええっ……転移不可って、本当にゲームのダンジョンみたいですね」
「みたいというより、ダンジョンその物と考えた方がいいかも知れない……ここはきっとそういう風に造り出された場所だろうし」
「?」


美香の言葉に適当に返しながら、レノは考え込む。この場所が旧世界の技術で生み出された場所である事は間違いなく、古代の遺跡風に造られているがきっと内部の何処かには地下迷宮のように研究施設が存在し、魔物を生み出す仕組みが存在するのだろう。

デルタにはこの場所に関するデータは所持していないようだが、ベータならば何か知っているかもしれず、こんな事ならば入り込む前に彼女と連絡を取り合えばよかったが、今更後悔しても遅い。


「……すんすん、レノさん‼」
「分かってる。俺も感じた」
「え、どうしたんですか?」
「下の方から何か近づいている」
「えっ⁉」


レノの言葉に美香は驚愕し、他の者達は構える。ポチ子は臭いで勘付き、レノは魔力感知で相手の居場所を察知し、それほど距離は離れていない。螺旋階段の上でレノ達は下方に注意を向け、やがて階段を昇る音が聞こえてくる。



カツンッ……カツンッ……



「……この足跡……獣じゃないな」
「まさか……生存者か⁉」
「いや、この魔力は……」


レノの言葉にリノンが反応するが、すぐに掌を壁に押し当てて準備を行う。



――ウオォオオオオッ……‼



彼等の目の前に現れたのは両腕がやたらと肥大化したミノタウロスであり、すぐに全員が身構える。ミノタウロスは血走った眼で彼らを見つめ、やがて口元から涎を垂らす。


「ブモォッ……‼」
「喰ってやる……って、言ってる?」
「だろうね……皆、下がっててくれ」
「アルト様⁉」


アルトが皆を下がらせてデュランダルを抜き放ち、彼は階段の下にいるミノタウロスと向かい合う。実戦に戻るのも久しぶりであり、彼は深呼吸をしながらミノタウロスを見下ろす。



「……実戦の勘を取り戻すいい機会だ。皆、手を出さないでくれ」
「でも……」
「美香さん、ここはアルトを信じよう」



美香が何を言いたげだが、すぐにリノンが説得する。レノは掌を壁際から離し、自分の親友を信じる事にした。


「ブモォッ‼」


ミノタウロスが腕を振りかぶり、巨体からは想像できない攻撃速度だった。アルトは咄嗟に後ろにさがると、薙ぎ払うように放たれた拳が壁に衝突する。



ドォオンッ‼



拳が壁に衝突し、衝撃音が広がる。間違いなく真面に喰らえばアルトの肉体ではただでは済まず、彼はデュランダルを構える。


(力は使わない……無駄に魔力を消費して足を引っ張るわけにはいかない)


アルトは決して聖剣に頼り過ぎないように注意を行い、通常の個体とは違う発達をしたミノタウロスと向かい合う。


「ふんっ‼」
「ブモォッ⁉」


ブォンッ‼


大剣を薙ぎ払い、今度はミノタウロスが慌てて後ろに下がる。だが、相手は階段という不利な場所に慣れていないのか、そのまま踵を段差に躓いて体勢を崩してしまう。


「ブモォオオオオオッ⁉」
「なっ……⁉」



ドスゥウウンッ‼



そのままミノタウロスは派手に後方に倒れ込み、勝手に壁際に頭をぶつけ、動かなくなった。
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