種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

封印されていた存在

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ホノカの助言通り、レノは全身に紅の魔鎧を纏わせ、この状態ならば火炎放射器、高圧電流、銃弾だろうと防ぐ事が出来る。


「気を付けるんだよ」
「せぇのっ……‼」


ガコォンッ……‼


念のためにホノカを下がらせ、レノは扉に手を伸ばすと、意外なほどに簡単に左右に開く。中の様子を確認すると、流石に電源は死んでいるのか、異様なまでの暗黒空間が広がっている。放浪島の地下の研究施設も同様であり、あの施設も異様な暗闇に覆われていた。


(……おかしいな)


レノは内部を確認し、建物の中から奇妙な気配を感知する。まだ、生きている人間がいるとは思えないのだが、どういう事か奥から多人数の魔力を感じ取る。


「どうしたんだい? 何か見つけたのか?」
「いや……けど、嫌な予感がする。もう少し待ってて」
「分かった」


後方のホノカたちに待機を命じると、レノは室内に入り込む。彼が纏う紅の炎で周囲が照らされ、レノはすぐに室内の異変に気が付く。


「ここは……⁉」


視界に入ったのは病院の受付のような光景であり、複数のベンチや観葉植物と思われる置物まで設置されている。壁際には旧世界のセカンドライフ社のマークが刻まれており、天井には蛍光灯も取り付けられていた。

自分がまるで旧世界の病院に入り込んだような気に陥るが、建物の内部は随分と埃臭い。長い間放置されていたのは間違いなく、大量の埃が舞っており、口元を覆いながら室内を進む。



(……医療施設か? )



周囲を見渡しながら受付の方に移動すると、薄型のタブレットとタッチペンらしき物が放置されており、試しに触れてみるが反応はない。バッテリーが切れているのか、それとも機械その物が寿命を迎えているのかは分からないが、元に戻して先に進む。


「……エレベーターしかない」


上の階が存在するのは間違いないのだろうが、階段の類は見当たらず、エレベーターだけが存在した。壁際には指紋認証装置らしき機器が取り付けられ、恐らく職員だけの専用のエレベーターだろう。ベータを連れて来るべきかと悩むが、不意に奥の通路から物音が聞こえる。



ズチャッ……ズチャッ……



足音というよりは地面を這いずるような物音であり、レノはすぐに身構える。そして、暗闇から姿を現したのは見覚えのある全身が白い肌に覆われた人型の生物が現れた。


「ウウッ……アアッ……‼」
「……人間?」



ズチャッ……ズチャッ……



両足を引きずりながら現れた生物は立ち止まり、レノに顔を向ける。眼球も鼻も口の部分に穴だけが空いてるような顔面であり、レノは掌を向ける。


「……貴方は人間ですか?」
「ウウッ……?」


この世界の言葉ではなく、旧世界の「日本語」で問いかけると、人型の生物が反応を示し、戸惑ったように身体を震わせる。


「俺は外から来た人間です。貴方はこの建物の人ですか?」
「ニン、ゲン……」


レノの言葉に生物が人語で返し、どうやらまだ理性は残っているのか会話を試みようとすると、


「オマエ、モカ……」
「えっ?」
「オマエモ、ジッケンサレタノカ……?」
「実験?」


生物の言葉に首を傾げ、彼が何を言っているのか分からないが、直後に生物は頭を抑える。


「ドウシテ、オマエハ……カラダヲタモッテイル‼」
「身体? 何を言って……」
「フザケルナッ‼」


ガタァンッ‼


生物はすぐ傍のベンチを蹴り上げ、レノは咄嗟に避ける。生物は身体中を震わせ、徐々に形状を変化させていく。


「ハナシガチガウッ……チョウジンニナレルトイッテイタノニ、コンナミニクイスガタハノゾンデイナイ‼カエセッ‼オレノカラダヲカエセッ‼」


ゴキゴキィッ……‼


人型の生物の腕が変形し、研ぎ澄まされた刃物のような形に変化する。レノはそれを見た瞬間に話し合いが通じる相手ではない事を悟り、掌を構える。


「ウァアアアアッ‼」
「乱刃」



ドォオオンッ‼



そのまま掌から三日月状の嵐の刃を放出し、生物を吹き飛ばす。相手は勢いよく転がり込み、壁に激突して立ち止まる。話が出来るほどの知能は残っているようだが、どうやら話し合いをする様子はなく、レノは一度退散するために出入口に向かおうとした時、



ガタァンッ……‼



扉が閉ざされたはずのエレベーターの方から音が聞こえ、視線を向けると絶句する。エレベーターの扉が内側からゆっくりと開かれようとしており、無数の白い指が扉に手をかけ、やがて完全に開け放たれる。



ガコォオンッ……‼



「ウウァッ……‼」
「ドケェッ……‼」
「ヒカリィッ……‼」


そこには扉の内側から複数の人型の生物が姿を現し、ゾンビ映画のように這いずり出す。レノはその光景に寒気を覚え、とてもではないが話を試みる状況ではない。


「退散‼」



ダァンッ‼



瞬脚並の速度でその場を移動し、出入口に向かおうとしたが、受付を横切る際にレノの視界に先ほど見かけたタブレットに気付き、一瞬だけ躊躇したが、すぐにタブレット端末を回収して扉に向かう。


「大きな音がしたが、何か起きたの……うわっ⁉」
「入るな‼」


レノが戻ってこない事に疑問を抱いたホノカが出入口に顔を出すが、すぐに彼とその後方から追いかけてくる無数の得体の知れない生物に気付き、流石の彼女も驚愕する。そんなホノカを無理矢理抱き寄せ、レノは外に抜け出す。


「下がってて‼」
「あ、ああっ……」


瞬時に扉を閉めると、直後に閉め切られた扉の内側から生物達が拳を叩き付ける音が聞こえ、



『アケロォッ‼』
『ソトォッ‼』
『ガァアアアアッ‼』



ドォオオンッ‼



扉の内側から強い衝撃が走り、このままでは突破されなかねない。レノは扉の取っ手を握りしめながら、ホノカたちに声をかける。


「ここを封印する‼ 手伝って‼」
「どうすればいいんだい?」
「扉を抑えてて‼」
「分かった。君たち‼」
「は、はいっ‼」


ホノカの号令で彼女の配下達が動き出し、レノの代わりに扉を抑えつけてくれる。相当に頑丈な素材で造られているはずだが、内側から強い衝撃が次々と走り、このままでは壊れかねない。レノはすぐに指先に転移魔方陣を書き込む際に利用するチョークを利用し、五芒星の魔方陣を書き込む。



「これでよし……離れて‼」



レノの言葉にホノカたちがすぐに離れ、彼はあらん限りの魔力を送り込む。その瞬間、魔方陣が光り輝き、扉の内側から叩いていた生物達の悲鳴があがる。



ドォンッ‼



『イギャッ⁉』
『ウギィッ⁉』


五芒星の防御魔方陣により、扉全体に結界が形成され、内側から叩いていた生物達が跳ね返される。物理的な攻撃を跳ね返す性質のため、彼等ではこの結界は突破できない。



――ダセェエエエエエエッ……‼



建物の内部からまるで死者の怨念のような声を上げ、生物達が何度も跳ね返されながらも扉を叩き付ける音が響き渡り、その光景にレノは哀れみを抱く一方、これでは内部を調べる事は不可能と察し、ホノカたちに振り返る。


「……事情は後で話すから、今は戻ろう」
「……そうかい? それならすぐに戻ろう。もうすぐ砂嵐がやってくる。この場所もまた埋め尽くされるだろうね」


レノの結界に加え、砂嵐によって地面を砂山で覆いつくされれば建物の内側の生物達が地上に姿を現すことはない。様々な疑問を残したまま、レノ達は一度飛行船に帰還することにした。
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