種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

砂漠観光

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――世界会議から三日後、レノはホノカのフライングシャーク号に乗船し、飛行船の上から周囲に広がる砂漠の景色に感嘆の声を上げる。


「おお~……本当に砂漠だ」
「意外と綺麗だろう?」
「でも、相変わらず暑いね~」


レノの傍にはホノカとヨウカが立っており、現在飛行船は交易都市ではなく、ホノカが最近発見したという謎の遺跡に向けて進行していた。レノがどうして飛行船に同行しているのかというと、アルトからの指示により、大迷宮の調査に乗り出す前に調べるように頼まれたからだ。

現在、王国は調査隊を編成するために人員が選抜されており、ゴンゾウやジャンヌやレミアも入院中のため、王国の戦力を割くわけにもいかず、レノだけがホノカと同行する事になった。当初は聖導教会からも援護を頼めないかと相談したところ、何故か教会のトップのヨウカが飛行船に乗船している。


「この砂漠って本当に暑いよね~……レノたんも脱いだら?」
「いやん、えっち」
「というか、ヨウカは少し気が抜き過ぎじゃないか?」


ヨウカは何時もの修道服ではなく、水着のような軽装であり、極め付けに手元にはかき氷を想像させる食べ物まで持っている。普通は砂漠を移動するときは軽装である事が逆に危険なのだが、ホノカが何も言わないところは問題ないのだろう。


「レノ君も少しきつそうだね」
「暑いのは大丈夫だけど、自然が無いのはきつい……バルから渡されたこれが無ければホームシックに陥りそう」
「だから花飾りを被っているのかい? というより、それで大丈夫なのかい?」


レノは頭に花飾りを飾っており、森人族の血が定期的に緑の自然を求め、定期的に植物に触れていなければ気が落ち着かない。アマラ砂漠には一切の植物は育たず、森人族にとってはきつい環境である。


「それでも普通の森人族と比べて平気そうだね。僕の部下にもエルフはいるが、この砂漠に訪れる度に気分を害するけど」
「俺はダークエルフの血も流れてるから」


基本的にダークエルフは森人族の中でも特殊であり、火属性を操れる点から考えても熱に対する耐性はあるかもしれない。それでも植物がないというだけでレノのテンションは下がり気味であり、バルが冗談で用意した花飾りに触れて気を落ち着かせる。


「ううっ……少し緑が恋しい。家に帰って引き籠りたい……ポチ子をもふもふしたい、コトミのオッパイが恋しい、ヨウカの太腿を撫でたい……」
「前半はともかく、後半は関係ないと思うだが」
「私の太腿はともかく、オッパイが恋しいなら私の揉む?」
「どれどれ……(むにむに)」
「あんっ……て、手つきがやらしいよぉっ」
「眼の前で親友を辱めないでくれるかな」


ヨウカのたわわな胸を揉みながら、レノは砂漠を確認し、旧世界でも写真でしか見た事がないが、延々と広がる砂丘に少し感動する。こんな光景を見るのは生まれて初めてであり、出来る事ならば観光で訪れたかった。


「この砂漠から火属性の魔石が取れるの?」
「何処からでも取れるという訳ではないが、そういう事になるね。但し、砂漠の砂の中から発見されるわけではなく、砂山の下層の地面から発掘できるね」
「どういう原理で魔石が生まれるの?」
「さあね……考えた事もないが、もしかしたら太陽の熱を砂漠の砂が吸収して、下層の地面に送り込んで岩石に影響を与えているんじゃないかな」
「つまり、この砂漠が無くなったら火属性の魔石も入手できないのか……」
「あくまで僕の予想だけどね」


ホノカの推論が事実だとしたら、この砂漠も必要不可欠な存在かもしれない。レノは周囲の砂漠を見渡し、疑問に抱いたことを問い質す。


「この砂漠に魔物とかいないの? えっと、サンド・ゴーレムだっけ?」
「ここはまだ砂漠の入口部分だからね。飛行船でも交易都市に辿り着くまで半日はかかる。サンド・ゴーレムはもう少し奥の方にしかいないね」
「他に魔物は?」
「あまりいないね。ゴーレム系が大半を占めているが、大抵の生物はこの砂漠には適応しない。逆に言えば魔物に襲われない安全地帯とも言えるね」
「へえ……」
「その代わり、交易都市から流通している品物を狙った盗賊は山ほどいるけどね」
「何処が安全だ」


こちらの世界の砂漠では基本的にゴーレム以外の生物は滅多に生息しておらず、その代わりに盗賊が数多く存在するらしい。盗賊王の異名を持つホノカではあるが、砂漠全土の盗賊全てを支配下に収めているわけではないらしい。


「ホノカって交易都市の主なんだよね?」
「まあね」
「実際、兵力とかどれくらいいるの?」
「兵力か……それほど多くは無いね。僕は政治面で他の種族と交渉を持ちかけているからね。それにこの場所をわざわざ好き好んで侵攻するような輩はいないしね」


あの魔王でさえもこのアマラ砂漠を侵攻する事は一番最後に後回しにしており、この砂漠は外部から隔離された空間に等しい。攻め入れば火属性の魔石の産出という莫大な利益は入手できるが、飛行船以外の方法で移動するにはきつすぎる環境であり、それに位置的にもこの砂漠は大陸の端の方に存在するため、各種族の領土とはかなりの距離がある。


「それにこの砂漠の周囲は岩山に覆われているからね。尚更攻め入るような奇特な輩はいないよ」


アマラ砂漠は周囲が岩山に囲まれており、砂漠に進軍するだけでもかなり疲労を必要とする。だからこそアマラ砂漠は1000年以上も戦果に巻き込まれたことはなく、ある意味では世界で一番の安全な場所なのかもしれない。交易都市が繁栄したのもそれが原因かもしれない。


「さて……僕の見つけた場所までたどり着くまでもう少し時間が掛かりそうだから、食堂の方でアマラ砂漠の名物料理を楽しまないかい?」
「生物がいないのに料理とか出来るの?」
「意外に思われるかも知れないが、この砂漠には大きな川が流れているんだ。この砂漠にしか存在しない魚類の魔物が豊富だからね。野菜の方も十分予備ストックがあるから安心してくれ」
「基本的にこの砂漠の人たちってどう生活してるの?」
「大半は盗賊だからね。時々、この砂漠を訪れる商人を襲って品物を強奪したり、もしくは僕の配下として生活を保障されるかの二つだけだね。僕の配下になった人間は定期的に食料を支給しているよ」
「一般人はいないの?」
「生憎とこの地方では農業は絶望的だからね。発掘作業のために巨人族が何百人かいる程度だよ」
「ねえねえっ……ここ暑いから中に入ろうよ~」


ヨウカの催促に2人は了承し、ひとまずは飛行船の食堂に戻る事にした。
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