種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

復活のアンドロイド

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「というか、終末者の事まで知ってたの?」
「一応は……この世界が管理者の目に余る場合、世界を滅ぼす存在として作り出された兵器だと記録に残っていますね」
「間違ってはいないけど、もう倒したよそいつ」
「そうですか……」


終末者が既に倒されたという事実を聞いてもシュンの反応は薄く、先ほどからレノの質問に応答はしているが、意識が朦朧としている。聞かれた事に答えるだけで自分から話そうとせず、まるで生気を失っているようにも見えた。

それほどまでに彼にとっての管理者という存在が心の中では大きかったのか、レノは少し同情する。カオリとカナの話が真実だとしたらシュンは1000年間も管理者を追い求めていたらしく、やっと管理者の関わりがあると思われるレノの正体を掴み、やっと希望が出てきたところで彼の口から管理者が既に存在しないという事実を聞かされれば失意も隠し切れないだろう。


「……一応は管理者に育てられていたアンドロイドもいるけど、会ってみる?」
「アンドロイド……? ああ、ホムンクルスの正式名称ですか。管理者に仕えていたホムンクルスがまだ残っているのですか?」
「仕えていたというよりは姉妹みたいなものだけど……今は大迷宮に出向いていていないけど、その内帰ってくると思うよ」
「そうですか……いえ、興味はありますがもうどうでもいいことです。管理者がいない以上、もう僕の役目は……」
「それはどうかな」


レノはベータのイヤホンを握りしめ、シュンが訝し気な視線を向けると、彼はこちらの様子を伺っているセンリたちに振り返り、


「テンさん、鍵」
「その呼び方は止めな……本当にいいのかい? こいつ犯罪者なんだろう?」
「私としても反対ですが……この方をあれとめぐり合わせるのは危険すぎるのではないですか?」
「……レノが言うなら大丈夫」
「僕としても興味があるからね。協力すると約束した以上、出来るなら見させてほしいな」
「……どうなっても知らないよ」


センリとテンが顔を見合わせ、コトミとホノカが説得に加担すると、テンは渋々と檻の鍵を取り出してレノに放り投げる。それを受け取ると彼はシュンの入っている扉を開く。


ガシャンッ‼


「……何のつもりですか? 僕をこのまま処刑台にでも連行する気ですか?」
「会わせたい人がいる」
「……?」


扉を開き、レノはシュンを片手で持ち上げると、檻の外で車椅子を用意したセンリが現れ、彼をそのまま車椅子に座り込ませる。


「一体何を……?」
「静かにしてください。貴方は罪人である事に変わりはありません」
「……シュン、お口をチャック」
「たくっ……まどろっこしいね。うるさい奴はこうすればいいんだよ‼」
「むぐぐっ……」


シュンの口元にテンが何処からか取り出した布で塞ぎ、そのまま彼は車椅子を押されて移動する。とは言っても、監獄室の外に出るわけではなく、奥に移動する。


「ここです。この部屋に彼女はいます」
「前に来た時より随分と厳重になってない?」
「……?」


彼が連れてこられたのは監禁室の一番奥の扉であり、鋼鉄製の扉には複数の防御魔法陣が組み込まれており、シュンは首を傾げる。どうしてレノ達の目的が分からないが、口を封じられている以上は黙って見守るしかない。


「今から封印の解除するので、少し待ってください」


カチャンッ……


センリは鍵穴の部分に銀色に光る鍵を射し込み、その後に魔方陣に向けて杖を構える。彼女は詠唱を行いながら魔方陣を杖でなぞると、やがて扉に仕掛けられた防御魔法陣が発光し、消え去る。


ガコォンッ‼


鍵穴に挿し込んだ鍵が自動的に回転し、分厚い扉が自動ドアのように開かれる。その瞬間、部屋の中から冷気が流れ込み、センリは冷や汗を流しながら部屋の奥へ促す。


「どうぞ……眠っているとは思いますが、油断しないで下さい」
「ありがとう」
「これが例の部屋か……随分と冷えるな」
「元々は拷問部屋だからね。この場所が魔術教会と呼ばれていた時代から存在する部屋だよ」
「……寒い」


レノ達は扉を潜り抜け、やたらと冷え込む室内にコトミは震える。シュンは部屋を見渡し、意外なほどに広い事に驚く一方、扉から真正面に位置する場所に人影が存在する事に気付く。


「ふがふがっ……?」
「何を言っているのか分からないけど、言いたいことは分かる」


口元を覆われているため上手く言葉に出来ないが、シュンの疑問にレノは察し、センリたち目の前には大きめのベッドに拘束されている少女の姿が映っていた。



――この少女こそが半年近く前、聖導教会総本部を強襲した張本人である「終末者」であり、彼女はあれから一向に目が覚まさず、この元拷問部屋に監禁されていた。



「もう口封じはいいでしょ……ほらっ」
「ぷはっ……彼女は何者ですか?」


シュンは珍しく動揺したように振り返り、センリたちはどう答えればいいのか分からず、レノに視線を向ける。彼女の正体を知っているのは彼だけであり、レノは車椅子を押しながらシュンをベッドに近づかせる。


「この子が終末者だよ。半年前に現れて、俺達に倒されてから目覚める様子はないけど」
「彼女が……終末者?」


ベッドに横たわっている少女を確認し、よくよく見ると確かに身体の各所が機械で構成されており、生えている髪の毛も違和感がある。外見は人間に近いが、似て非なる存在にシュンは興奮する。


「これがオリジナルのホムンクルス……アンドロイドですか」
「詳しい事は分からないけど、こいつは機能が停止してるのか分かる?」
「調べてみない事には……もう少しだけ近づいてもらっていいですか?」


彼の言葉に従い、レノは彼を近づけさせると観察を行い、その光景が眠っている少女に鼻息を荒くして覗き込む姿にセンリたちが若干引いていると、


「……どうやら休眠状態に入ってるようですね。目覚めるには再起動させる必要があるようですが、起動させますか?」
「しねぇよ」
「では、どうして僕に彼女を見せたんですか……?」


シュンが戸惑ったように質問すると、レノはベータのイヤホンを取り出し、終末者の耳元を確認する。形状は若干違うが、同じ姉妹機ならば取り付けられる可能性がある。


「この耳の部分の機械を取り外し方知ってる?」
「多分、端の方に付いているダイヤルを回せば取り外せると思いますけど……」
「これか」


ガシャンッ‼


レノは終末者の耳元を確認し、ダイヤルの部分を発見して回すと、案外簡単に取り外す事に成功する。旧世界の中でも最高レベルの科学で生み出されたにも関わらず、案外簡単な方法で取り外せる機器に疑問を抱く一方、レノはベータから受け取ったイヤホンを確認する。



――このイヤホン型の機器はベータに渡された物であり、本来はデルタに取り付けられるはずの物だった。この機器にはベータのAIが搭載されており、これをデルタが装着した場合、彼女のAIは上書きされ、ベータのAIに変換されてしまう。だからこそ長らくの間、使い道がなくレノはずっと保管していたのだが、もしもこの機器をベータやデルタと同じアンドロイドである終末者に取り付けた場合はどうなるか試したことは無かった。



「それじゃあ、今から付けるから、皆覚悟して」
「分かりました……準備は出来てます」
「前の様にはいかないからね」
「……暴れさせない」
「僕の方もいいよ」


デルタを囲むようにセンリたちが武器を整い、いつでも攻撃できる体勢で待ち構える。シュンは何をする気なのかと車椅子の上で様子を見守っていると、遂にレノがイヤホンを終末者に取り付ける。


カチャンッ……‼


終末者の右耳にイヤホンが取り付けられ、やがて沈黙が訪れる。数秒ほどは反応が無かったので失敗したのかと思ったが、不意に終末者の口もとが開く。


『……外部、接続確認……』
「喋ったぁっ⁉」
「お、落ち着きなさいテン団長‼」


長らくの間、口も開いたことが無かった終末者が唐突に話し始めた事に動揺が走り、レノは掌を構えながらシュンの車椅子を後方に移動させる。


『……データ解析……パスワード認証……再起動します』



ギュイィイイイインッ……‼



終末者の体内から駆動音のような機械音が発生し、センリたちは不安そうな目でレノを確認するが、彼は黙って観察する。その後ろではシュンは終末者の異変に目を輝かせ、何が起きるのかと期待すると、



『ううんっ……あと五分~』



――終末者がベッドの上で寝転がり、何処か聞き覚えのある声音に変化し、彼女はそのまま定番の台詞を告げると寝息を立てる。そんな彼女の反応に誰もが呆気にとられ、すぐにレノは溜息を吐きながらベッドに近づき、



「起きろや」
『はうっ⁉』



パチィンッ‼



容赦なく尻を叩くと、完全なアンドロイドであるはずの終末者は悲鳴を上げ、叩かれた個所を抑えながら起き上がる。



『あたたたっ……ちょっと痛いじゃないですか? 変な趣味に目覚めたらどうする気ですか‼』
「痛覚あったのか……なんかこの感じ、久しぶりな気がする」


レノの目の前にはベッドの上で身体を伸ばす「終末者(ベータ)」の姿があり、どうやら無事にAIの上書きに成功したらしい。
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