種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

束の間の休息

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全ての選手の第一回戦が終了し、一時間の休息の後、続いて勝ち残った32名は第二回戦が予定されるため、各選手が休憩に入る。レノ達は群がる観光客から逃げ延び、一般人の立ち寄りが禁止されている特等席で昼食を取っていた。

偶然にもレノ達は次の試合も当たる事は無く、皆が揃って食事を行う。中にはアルトやライオネルといった代表達も参加しており、軽い宴のような状態に陥っていた。


「売店で売ってた森人族の野菜弁当結構いける」
「がつがつっ……骨付き肉弁当美味しいです‼」
「放浪島の、パオー肉の弁当も美味い」
「全く……わざわざアルトが用意してくれた食事じゃなく、売店の弁当に夢中になってどうする」
「それにしてもまさか全員が勝ち残れるとは……皆さんの事は信じていましたが、誰一人ぶつかる事がなかったのは幸運ですね」
「そうですね。あ、レノ様こちらの葡萄酒をお召し上がりください」
「……レノ、こっちのジュースも飲む」
「相変わらず人気者だな……お前の所の英雄は」
「そうだね。ところでライオネル、貴方が食べているのはキャットフードでは」
「い、いいだろう‼ こういう時にしか食べられんのだ‼」


特等席の机にてレノ達は豪勢な食事を楽しみ、第一回戦に勝ち残った事を祝う。アルトが皆のために手配した一流の料理人のご馳走が揃っているが、家庭料理を好むレノ達は売店に立ち寄って弁当を食していた。


「それにしても魔人族は全滅か……いや、この言い方だと縁起が悪いな」
「まさかデュラハンさんも負けるなんて……」
「あの試合、凄かったな」


――デュラハンは第一回戦にてシュンと激突し、予想に反して彼女は破れてしまう。レノは試合を見れなかったが、一瞬で決着が着いたらしく、彼の神速の抜刀により大剣を切り裂かれ、さらには両足の鎧も斬られたという。


『申し訳ありませんが、僕はこのような場所で負けるわけにはいきませんので』


それだけを告げると両足を奪われて倒れたデュラハンに刃を構え、すぐにカリナが制止の合図を行う。実体がないデュラハンにとっては痛覚が無いが、足が無ければ真面に戦えることもできず、戦闘不能と判断されて試合は終了したのだ。


「今頃は腕利きの鍛冶職人に大剣と共に鎧を修復されている頃だろう。実体が無いことが幸いしたが、もしも肉体が存在したらただでは済まなかったな」
「わうっ……デュラハンさんは大丈夫なんですか?」
「なに、鎧が修復すれば元通りだ。奴が大切にしていた大剣が折れてしまったのは悲しんでいたが、命があるだけでも良かった」
「シュン……彼は何者なんだろうか?」
「さあ……あの2人も何も話さないし」
「あの……本当にあの方たちを雇うのですか?」
「実力は確かだが、怪しい点はあるな……」


シュンの従者だったカオリとカナは第一回戦に出場したが、カオリは初戦でリノンと当たり、彼女と剣を交えた。2人の技量は全くの互角だったが、魔法剣を使用するリノンと違い、何故かカオリは放浪島で見せた魔法剣を使用せず、そのまま10分間にも渡る斬り合いを制したのはリノンだった。


「……正直に言えば、あの戦いで彼女が本気を出していたとは思えない。勝つには勝ったが、釈然としないな……」
「……私も」


リノンの言葉に隣にいたコトミも眠たげに頷き、彼女はカナと初戦で当たったが、結果的に言えば圧倒的な力で彼女が勝利した。センリ仕込みの水の弾丸を操るコトミに対し、カナは魔術師でありながら魔法を使う様子もなく、まるで戦士のように素早い動きで回避し続けていたが、結局は逃げきれずに場外に追い込まれ、敗北した。

ちなみにこの本戦の試合の規則は場外制も存在し、石畳の試合場(リング)から選手が離れた場合、15秒のカウント以内に試合場に戻らなければ敗北となる。さらにこのカウントは蓄積され、仮に複数回場外に逃れた場合、合計で15秒を過ぎたら反則負けとなる。逆に言えばあくまでも「15秒」以内という時間を守れば何度でも場外に逃れる事は可能であり、空中に浮揚していた場合はカウントされない。


「あの2人がテンペスト騎士団に入れる事は構いませんが、その場合はどこの部隊に配属するか問題がありますね……」
「第四部隊?」
「それだと力が偏り過ぎてしまいます。以前と違い、人員も増加していますから……」


昔は四人しか存在しなかった第四部隊も、ポチ子が部隊長(代理)を勤め、さらには副団長であるレノの直轄の部隊として有名であり、今では1000人を超える部隊として有名だった。

現在のテンペスト騎士団は魔王大戦以来、世界中から志願者が現れ、もはや騎士団というよりは軍隊という存在に近く、総勢7000人を超える団員が世界中に存在する。団長であるジャンヌ、四人の部隊長、なにより副団長のレノによって構成されており、王国内では最も活躍している部隊である。


「カオリさんとカナさんはこの大会で有名になったので、しばらくは私の元で面倒を見ます。デルタさんが戻り次第、各部隊長と相談の上で合議しますが……」
「王国としては優秀な人材が入るのは嬉しい事だが、身元がはっきりとしない者を受け入れるのは抵抗があるな……」
「そう気にする事はないのではないのか? 強い人間が味方になるのだ。喜ぶべき事だろう」
「……あの2人はいい子」


知り合いであるコトミも頷き、ジャンヌはレノに視線を向け、ここはコトミの言葉を信じて2人を受け入れる方向で行く。但し、入団の話は第四部隊長の部隊長を勤める「デルタ」が大迷宮から戻ってきてからであり、この大会中は試合にだけ集中する。


「それにしてもあのホムラという女は何なのだ? 獣人族の代表の選手を威圧だけで棄権させるとは……」
「……わんわん鳴いてた」
「あれはもう、心が折れただろうな……」


運悪く、ホムラと当たった獣人族の代表であり、S級冒険者である犬族の女性は彼女の威圧だけで戦意を失い、試合開始前から危険を申し出てしまう。ホムラとしては戦ってもいないのに負けを告げる相手に不満を抱いたが、どう見ても戦える状態ではなかったのでカリナが試合終了を告げた。

観客としては戦闘をしなかった獣人族の代表を責めることはなく、相手があまりにも悪く、誰もが同情の声を上げていた。ホムラにしては勝手に怯えて棄権したあげく、自分が悪者扱いされているような感覚に眉を顰めたが、無難に勝ち残る。


「それよりも次のレノの対戦相手だな……あのコウシュンという男か」
「センリさんが何か知っているようだけど、姿が見えないな」
「巫女姫ヨウカと一緒に治療中だよ。敗退した選手以外も随分と怪我を負った人間も多かったからね」
「何時から居た」


華麗にワイングラスを飲み干しながらレノの疑問に答えるホノカに視線が集まり、彼女だけは第一回戦を出場すらせずに勝ち残ったのだ。



――偶然にも彼女の対戦相手である選手が試合開始前に失踪し、彼女だけが不戦勝という形で勝ち残る。隠密部隊のカゲマルからの情報によれば昨夜にトーナメントの組み合わせが発表された際、ホノカが対戦相手である選手と共に高級料亭で食事を行っていたという情報もあり、間違いなく裏で取引を行われたのだろう。



「盗賊王か……お前、試合があるのに飲んでいる場合か?」
「問題ないさ。次の僕の試合も不戦勝で終わる事は確定だからね」
「不戦勝、ですか……」
「そう睨まないでくれよ。流石に明日は真面目に戦うさ」


彼女の言葉に騎士であるリノン、レミア、ジャンヌが眉を顰めるが、自分の戦法を見せたくないのかホノカは試合前に対戦相手に裏取引を行い、勝ち残る。別にレノは気にしていないが、正々堂々を信条とする騎士達には不満なようだ。


『え~……場内の皆さん、休憩終了時間まで10分と迫りました。第二試合の選手の方々は待機室に集まってください』


カリナの放送が響き渡り、レノ達は食事を終え、第二回戦の準備を整える。ポチ子とゴンゾウは武器を手に取り、レノは腹ごなしに軽く準備体操を行い、リノン達も表情を引き締める。


「ゴンちゃんは身体は大丈夫?」
「少し痛むが、問題ない」
「それでは行きましょう‼」
「相手も強敵揃いだろう……油断するな」
「大丈夫です。ここにいる皆さんならきっと勝ち残れます」
「では、参りましょうか‼」
「……眠い」


王国を代表する6人(+1人)が席から立ち上がり、アルトとライオネルに見送られる。


「皆、絶対に優勝しろとは言わない……だが、悔いのないように全力を尽くしてくれ」
「立場上は応援は出来んが、いい試合を期待しているぞ」


2人の言葉に皆が頷き、レノを戦闘に全員が闘技場の待機室に向かう。間もなく、剣乱武闘の第二回戦が始まろうとしていた。
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