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剣乱武闘 覇者編
本戦出場者
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最終予選が終了してから一時間後、闘技場の観客達は最高潮に盛り上がっていた。これから行われるのは予選突破の選手たちの紹介であり、実況のカリナの声が響き渡る。
『さあ‼ これで最終予選突破者は集まりましたよ‼ 今回の試験突破者56名、さらに予選免除の8名を加え、明後日から本格的に本戦が開始されるっす‼』
――ウオォオオオオオオッ‼
カリナの言葉に観客達がこれまでにないほど沸き上がり、それと同時に試合場の四方に存在する門が開かれる。
『おおっと⁉ ここで試合場の東西南北の門が開きましたよ‼ そして門の中から出てきたのは……なんと‼ 本戦出場が確定した各種族の代表選手たちです‼』
ガコォンッ……‼
東西南北の扉が開かれ、最初の北門から出てきたのはバルトロス王国代表のレミアであり、彼女は観客達に手を振りながら試合場の方へ歩み寄る。
『最初に出てきましたのは皆さんもご存じ、数々の歴史上の英霊を呼び出し、あの魔王討伐大戦でも活躍した大将軍の一角、レミア大将軍です‼』
『あれが例のか……』
レミアが出現した事に観客達に動揺が走る一方、すぐに大きな歓声となって彼女に声援が送られる。四人の大将軍の中では知名度はカノンに次ぐ古株であり、知らない人間などいない。
「すげぇっ……‼ これで3人の大将軍が揃ったのか‼」
「人間にしては美しいな……」
「あれが憑依大将軍か……」
「英霊を身に宿す……ふっ、腕が鳴る」
選手達の中にもレミアの登場に各々が反応し、ソフィアは慌ててレミアに皆が気を取られている間に移動を行う。この調子だと自分の出番も回ってくるのは間違いなく、急いで準備を整えなければならない。
『続きまして東門からは森人族代表のお二人……えっ』
カリナが続けて西門から現れた2人組の説明を行おうとした時、彼女はその人物を見て硬直する。見知った顔であり、最近は見かけかったダークエルフが最初に姿を現した。
「――ふんっ……なかなか楽しめそうな面子だな」
過去の剣乱武闘に出場し、その圧倒的な強さで周囲の人々を怯えさせた最強のダークエルフであるホムラが出場し、闘技場が静けさに覆われる。
「お、おい……あいつって……⁉」
「嘘だろ……」
「……前の大会でゴンゾウ大将軍を破った奴じゃねえか‼」
ホムラの出現に観客同様に選手たちにも動揺が走り、ゴンゾウが眉を顰める。ある意味ではソフィアの次に因縁のある相手であり、金棒を握りしめて睨み込む。そんな彼の視線に気づいたようにホムラは顔を向け、すぐに視線を逸らす。
「むうっ……」
「完全に貴方の事は眼中にないようですね」
自分の存在を特に気にも留めていないホムラにゴンゾウが眉を顰めると、その隣でシュンが煽るように呟き、彼はホムラに視線を注ぎ続け、
「……駄目ですね。逸材ですが、話を聞くタイプではなさそうです」
「わふっ?」
「おっと、何でもありませんよ」
無意識に呟いていたのか隣にいたポチ子が不思議そうに彼に視線を向けると、わざとらしく手を振りながらその場を立ち去る。従者の2人は本気で彼に仕えるのを止めたのか、ジャンヌの傍で待機している。
『え、えっと……驚きですね。あの化物、失礼……前回の大会にも出場を果たしたダークエルフのホムラ選手の登場です‼』
『ふっ……』
実況席のレフィーアが余裕の笑みを浮かべ、これが彼女の切り札であり、今大会を確実に優勝するためにわざわざ苦労してホムラを出場させたのだ。
「はぁ~……大した人気だな、姐さん」
「誰だお前は」
「だからコウシュンだって言ってんだろ。何度目のやり取りだよおい」
その背後からは予選一日目で検査の際に騒ぎを起こしていたコウシュンと名乗るエルフが姿を現し、観客席の特等席に座っていたセンリが反応する。
「あの男は……⁉」
「え、どうしたのセンリ?」
「何か気になるのかい?」
彼女の隣で何処から持ってきたのかパフェを頬張るヨウカが首を傾げ、そのさらに隣のバルも不思議そうにセンリに視線を向ける。彼女は動揺したように口元を抑え、席から立ち上がって現れたコウシュンに視線を向ける。
「……まさか、あの時の……⁉」
「何だい? 知り合いなのかい?」
「ええ……あの男はミキの、彼女が冒険者時代に所属していたパーティのメンバーです」
「えっ⁉ マザーの⁉」
ミキの名前が出てきたことにヨウカが反応し、センリは数十年前の出来事を思い出す。まだミキが冒険者として活躍していた頃、当時は見習いの修道女だったセンリは彼女が活躍していた噂をよく耳にしており、そして一度だけ冒険者だった頃のミキが所属しているパーティを見た事がある。
A級冒険者として活躍していた頃のミキは周囲の者達と交流し、良き関係を築いていた。そしてコウシュンと呼ばれる男は彼女のパーティの中でミキと並び立つほどの実力者であり、まだ10代のセンリが見かけた時と全く同じ容姿を保っていた。
「……どうしてあの男がこの大会に」
センリが知る限りではコウシュンという男は既に「冒険者」の資格を奪われたはずであり、この数十年は表舞台に名前が挙がっていなかったが、この大会に出場している事に驚きを隠せない。
――彼が冒険者の資格を奪われた理由、それはミキにも大きく関係しており、その秘密はセンリだけが知っている。コウシュンが冒険者を辞めたのは彼が一般人を殺したためであり、その事実を自らがギルドに報告して堂々と立ち去ったのだ。当時はミキの次に「S級冒険者」の座に就くのが近いと期待されていた冒険者だったが、彼がどうして人殺しを行ったのかは分からない。
「……強いねあれは。態度は気に入らないけど、結構やるよ」
「分かるんですかバルさん?」
「酒場をやっていると色んな冒険者がやってくるからね。何時の間にかそういう事が分かるようになっててね」
「え、そんなに強いの?」
「彼は強いよ。一度だけ戦っている姿を見た事がある」
話し込んでいる最中に後方から声を掛けられ、全員が振り向くとそこには何故か大会に出場する予定のホノカが立っており、両手には売店にでも寄ってきたのか様々な土産物を持っていた。
「あれ? ホノカちゃん?」
「どうしてここに……本戦出場者は試合場の方に集まってますよ?」
「僕もちゃんと行くよ。それまではここで過ごそうと思ってね」
「過ごすって……まさか、ここから飛び降りて行く気じゃないだろうね?」
「大丈夫。心配は不要ですよ」
彼女は席に座り込み、試合場に視線を向ける。試合場の階段を登り切り、ホムラとコウシュンが歩み寄ると周囲の選手たちは後退る。特に獣人族は警戒したように獣耳を奮い立たせて距離を取り、ポチ子もゴンゾウの後ろでぷるぷると震える。
『次は南門から巨人族と獣人族の代表選手の登場っす‼ 今回はS級冒険者の――』
続々と選手たちの紹介が行われ、続々と試合場に人が集まってくる。予選落ちした者達は羨望と妬みを込めた視線を本戦出場者に向ける一方、次々と出てくる有名処の選手たちに視線を注ぐ。
『西門からは魔人族代表のミノタウロスのギュウキ選手の出場っす‼ 彼もS級冒険者であり、漆黒の剛拳の異名を持つ優秀な戦士っす‼』
『あれが噂に聞く……本当に黒いな』
西門から漆黒の毛皮に覆われたミノタウロスが姿を現し、観客達に更なる動揺が走る。魔人族ではあるが、ミノタウロスは魔物に等しい存在であり、更に言えば通常の個体よりも一回り程大きい。
「ふんっ……中々楽しめそうだな」
デジャウを感じる台詞を完璧な「人語」で呟きながら、ミノタウロスのギュウキは試合場に移動する。身体中の至る所に傷が存在し、片方の角は折れ、片目を眼帯で覆っている。体格はゴンゾウと同程度であり、ギガノのように鋼鉄製の鉄甲を装備していた。
「そろそろ出番かな……それでは失礼」
「えっ?」
特等席に座っていたホノカが呟き、ヨウカが彼女に顔を向けた瞬間には既に姿が消えており、代わりに彼女の座っていた場所に「転移魔方陣」が存在した。
――ブォンッ‼
「うわぁっ⁉」
「な、なんだ⁉」
「ふむ、上手くいったな」
試合場の中心部に転移魔方陣が出現し、発光と共にホノカが出現する。その光景に周囲の選手たちが驚き、実況席のカリナも反応する。
『おおっと‼ここで交易都市の支配者であり、世界で最も大金持ちと言われているホノカ選手の出場っす‼転移魔方陣を使用しての登場とは力が入ってるすね~‼』
『いや、何故あの女も参加してるんだ⁉』
ホノカが出場した事にレフィーアは今までで一番動揺しており、それは観客達も同様だった。盗賊王として有名ではあるが、転移の力を失った彼女が戦えるのかという疑問が沸き起こるが、次に登場した選手によってそんな疑問など打ち消される。
コツッ……コツッ……
既に開け放たれた北門から足音が聞こえ、最初に気付いたのは場外で待機していた予選脱落者であり、すぐに彼等は目を見開く。
「お、おい……あれって」
「ま、マジかよ……」
「ああ……サインくれないかな」
北側にいた場外の選手達が騒ぎ出し、異変に気付いた試合場の選手達が視線を向け、何人かが笑みを浮かべる。
「来たか……」
「あれが例の……」
「へえっ……見た目は案外可愛いな」
試合場の異変に実況席にいたカリナも気が付き、彼女は笑みを浮かべ、今までで一番の大声で最後に登場した人物を紹介する。
『さあっ‼ ここでやっと今大会の最有力優勝候補の登場っす‼ バルトロス王国最強、雷光の英雄、ハーフエルフの救世主、元聖天魔導士の称号を持つ王国の切り札、レノ選手の出場だぁあああああっ‼』
――ウワァアアアアアアアアアアアアアアッ……‼
闘技場が盛り上がり、北門から試合場に移動するレノは軽く汗を流しながら歩み寄る。急いでソフィアの制服から、この日のために皆が考案してくれた黒と黄色の基調で造り上げられた新しい制服を着こんでいた。
「ふぃ~っ……間に合った」
「大層な格好だな」
石畳の試合場に上がり込むと、正面からホムラが歩み寄り、お互いに向き合う形となる。レノはすぐに彼女が魔槍ではなく、以前に装備していた薙刀と良く似た武器を持っており、紅色に統一された柄と刃だった。
レノはホムラと向かい合い、周囲の選手たちが圧巻される。片方は英雄として有名な実質上王国最強のハーフエルフ、そして向かい合うのは不気味な強さを醸し出すダークエルフであり、この2人が向き合うだけで雰囲気が一変する。
「それ、使うの?」
「まあ……必要ならな。不服なら、お前との戦いの時は捨てるが」
「別にいいよ。それならこっちも用意しておく」
「ふむっ……」
ホムラはレノを確認し、以前に会った時よりも魔力が安定しており、この大会のために最大限の準備を整えた事に気が付いて笑みを浮かべる。自分が全力で相対する相手など希少であり、存分に楽しめそうな予感に口元が自然に緩む。
「私と当たるまで、勝ち残れ」
「言われずとも」
それだけを告げるとホムラはレノの横を通り過ぎ、そのまま開け開かれた門に移動を開始する。それを皮切りに他の選手たちも解散し、最終予選は終わりを迎えた――
『さあ‼ これで最終予選突破者は集まりましたよ‼ 今回の試験突破者56名、さらに予選免除の8名を加え、明後日から本格的に本戦が開始されるっす‼』
――ウオォオオオオオオッ‼
カリナの言葉に観客達がこれまでにないほど沸き上がり、それと同時に試合場の四方に存在する門が開かれる。
『おおっと⁉ ここで試合場の東西南北の門が開きましたよ‼ そして門の中から出てきたのは……なんと‼ 本戦出場が確定した各種族の代表選手たちです‼』
ガコォンッ……‼
東西南北の扉が開かれ、最初の北門から出てきたのはバルトロス王国代表のレミアであり、彼女は観客達に手を振りながら試合場の方へ歩み寄る。
『最初に出てきましたのは皆さんもご存じ、数々の歴史上の英霊を呼び出し、あの魔王討伐大戦でも活躍した大将軍の一角、レミア大将軍です‼』
『あれが例のか……』
レミアが出現した事に観客達に動揺が走る一方、すぐに大きな歓声となって彼女に声援が送られる。四人の大将軍の中では知名度はカノンに次ぐ古株であり、知らない人間などいない。
「すげぇっ……‼ これで3人の大将軍が揃ったのか‼」
「人間にしては美しいな……」
「あれが憑依大将軍か……」
「英霊を身に宿す……ふっ、腕が鳴る」
選手達の中にもレミアの登場に各々が反応し、ソフィアは慌ててレミアに皆が気を取られている間に移動を行う。この調子だと自分の出番も回ってくるのは間違いなく、急いで準備を整えなければならない。
『続きまして東門からは森人族代表のお二人……えっ』
カリナが続けて西門から現れた2人組の説明を行おうとした時、彼女はその人物を見て硬直する。見知った顔であり、最近は見かけかったダークエルフが最初に姿を現した。
「――ふんっ……なかなか楽しめそうな面子だな」
過去の剣乱武闘に出場し、その圧倒的な強さで周囲の人々を怯えさせた最強のダークエルフであるホムラが出場し、闘技場が静けさに覆われる。
「お、おい……あいつって……⁉」
「嘘だろ……」
「……前の大会でゴンゾウ大将軍を破った奴じゃねえか‼」
ホムラの出現に観客同様に選手たちにも動揺が走り、ゴンゾウが眉を顰める。ある意味ではソフィアの次に因縁のある相手であり、金棒を握りしめて睨み込む。そんな彼の視線に気づいたようにホムラは顔を向け、すぐに視線を逸らす。
「むうっ……」
「完全に貴方の事は眼中にないようですね」
自分の存在を特に気にも留めていないホムラにゴンゾウが眉を顰めると、その隣でシュンが煽るように呟き、彼はホムラに視線を注ぎ続け、
「……駄目ですね。逸材ですが、話を聞くタイプではなさそうです」
「わふっ?」
「おっと、何でもありませんよ」
無意識に呟いていたのか隣にいたポチ子が不思議そうに彼に視線を向けると、わざとらしく手を振りながらその場を立ち去る。従者の2人は本気で彼に仕えるのを止めたのか、ジャンヌの傍で待機している。
『え、えっと……驚きですね。あの化物、失礼……前回の大会にも出場を果たしたダークエルフのホムラ選手の登場です‼』
『ふっ……』
実況席のレフィーアが余裕の笑みを浮かべ、これが彼女の切り札であり、今大会を確実に優勝するためにわざわざ苦労してホムラを出場させたのだ。
「はぁ~……大した人気だな、姐さん」
「誰だお前は」
「だからコウシュンだって言ってんだろ。何度目のやり取りだよおい」
その背後からは予選一日目で検査の際に騒ぎを起こしていたコウシュンと名乗るエルフが姿を現し、観客席の特等席に座っていたセンリが反応する。
「あの男は……⁉」
「え、どうしたのセンリ?」
「何か気になるのかい?」
彼女の隣で何処から持ってきたのかパフェを頬張るヨウカが首を傾げ、そのさらに隣のバルも不思議そうにセンリに視線を向ける。彼女は動揺したように口元を抑え、席から立ち上がって現れたコウシュンに視線を向ける。
「……まさか、あの時の……⁉」
「何だい? 知り合いなのかい?」
「ええ……あの男はミキの、彼女が冒険者時代に所属していたパーティのメンバーです」
「えっ⁉ マザーの⁉」
ミキの名前が出てきたことにヨウカが反応し、センリは数十年前の出来事を思い出す。まだミキが冒険者として活躍していた頃、当時は見習いの修道女だったセンリは彼女が活躍していた噂をよく耳にしており、そして一度だけ冒険者だった頃のミキが所属しているパーティを見た事がある。
A級冒険者として活躍していた頃のミキは周囲の者達と交流し、良き関係を築いていた。そしてコウシュンと呼ばれる男は彼女のパーティの中でミキと並び立つほどの実力者であり、まだ10代のセンリが見かけた時と全く同じ容姿を保っていた。
「……どうしてあの男がこの大会に」
センリが知る限りではコウシュンという男は既に「冒険者」の資格を奪われたはずであり、この数十年は表舞台に名前が挙がっていなかったが、この大会に出場している事に驚きを隠せない。
――彼が冒険者の資格を奪われた理由、それはミキにも大きく関係しており、その秘密はセンリだけが知っている。コウシュンが冒険者を辞めたのは彼が一般人を殺したためであり、その事実を自らがギルドに報告して堂々と立ち去ったのだ。当時はミキの次に「S級冒険者」の座に就くのが近いと期待されていた冒険者だったが、彼がどうして人殺しを行ったのかは分からない。
「……強いねあれは。態度は気に入らないけど、結構やるよ」
「分かるんですかバルさん?」
「酒場をやっていると色んな冒険者がやってくるからね。何時の間にかそういう事が分かるようになっててね」
「え、そんなに強いの?」
「彼は強いよ。一度だけ戦っている姿を見た事がある」
話し込んでいる最中に後方から声を掛けられ、全員が振り向くとそこには何故か大会に出場する予定のホノカが立っており、両手には売店にでも寄ってきたのか様々な土産物を持っていた。
「あれ? ホノカちゃん?」
「どうしてここに……本戦出場者は試合場の方に集まってますよ?」
「僕もちゃんと行くよ。それまではここで過ごそうと思ってね」
「過ごすって……まさか、ここから飛び降りて行く気じゃないだろうね?」
「大丈夫。心配は不要ですよ」
彼女は席に座り込み、試合場に視線を向ける。試合場の階段を登り切り、ホムラとコウシュンが歩み寄ると周囲の選手たちは後退る。特に獣人族は警戒したように獣耳を奮い立たせて距離を取り、ポチ子もゴンゾウの後ろでぷるぷると震える。
『次は南門から巨人族と獣人族の代表選手の登場っす‼ 今回はS級冒険者の――』
続々と選手たちの紹介が行われ、続々と試合場に人が集まってくる。予選落ちした者達は羨望と妬みを込めた視線を本戦出場者に向ける一方、次々と出てくる有名処の選手たちに視線を注ぐ。
『西門からは魔人族代表のミノタウロスのギュウキ選手の出場っす‼ 彼もS級冒険者であり、漆黒の剛拳の異名を持つ優秀な戦士っす‼』
『あれが噂に聞く……本当に黒いな』
西門から漆黒の毛皮に覆われたミノタウロスが姿を現し、観客達に更なる動揺が走る。魔人族ではあるが、ミノタウロスは魔物に等しい存在であり、更に言えば通常の個体よりも一回り程大きい。
「ふんっ……中々楽しめそうだな」
デジャウを感じる台詞を完璧な「人語」で呟きながら、ミノタウロスのギュウキは試合場に移動する。身体中の至る所に傷が存在し、片方の角は折れ、片目を眼帯で覆っている。体格はゴンゾウと同程度であり、ギガノのように鋼鉄製の鉄甲を装備していた。
「そろそろ出番かな……それでは失礼」
「えっ?」
特等席に座っていたホノカが呟き、ヨウカが彼女に顔を向けた瞬間には既に姿が消えており、代わりに彼女の座っていた場所に「転移魔方陣」が存在した。
――ブォンッ‼
「うわぁっ⁉」
「な、なんだ⁉」
「ふむ、上手くいったな」
試合場の中心部に転移魔方陣が出現し、発光と共にホノカが出現する。その光景に周囲の選手たちが驚き、実況席のカリナも反応する。
『おおっと‼ここで交易都市の支配者であり、世界で最も大金持ちと言われているホノカ選手の出場っす‼転移魔方陣を使用しての登場とは力が入ってるすね~‼』
『いや、何故あの女も参加してるんだ⁉』
ホノカが出場した事にレフィーアは今までで一番動揺しており、それは観客達も同様だった。盗賊王として有名ではあるが、転移の力を失った彼女が戦えるのかという疑問が沸き起こるが、次に登場した選手によってそんな疑問など打ち消される。
コツッ……コツッ……
既に開け放たれた北門から足音が聞こえ、最初に気付いたのは場外で待機していた予選脱落者であり、すぐに彼等は目を見開く。
「お、おい……あれって」
「ま、マジかよ……」
「ああ……サインくれないかな」
北側にいた場外の選手達が騒ぎ出し、異変に気付いた試合場の選手達が視線を向け、何人かが笑みを浮かべる。
「来たか……」
「あれが例の……」
「へえっ……見た目は案外可愛いな」
試合場の異変に実況席にいたカリナも気が付き、彼女は笑みを浮かべ、今までで一番の大声で最後に登場した人物を紹介する。
『さあっ‼ ここでやっと今大会の最有力優勝候補の登場っす‼ バルトロス王国最強、雷光の英雄、ハーフエルフの救世主、元聖天魔導士の称号を持つ王国の切り札、レノ選手の出場だぁあああああっ‼』
――ウワァアアアアアアアアアアアアアアッ……‼
闘技場が盛り上がり、北門から試合場に移動するレノは軽く汗を流しながら歩み寄る。急いでソフィアの制服から、この日のために皆が考案してくれた黒と黄色の基調で造り上げられた新しい制服を着こんでいた。
「ふぃ~っ……間に合った」
「大層な格好だな」
石畳の試合場に上がり込むと、正面からホムラが歩み寄り、お互いに向き合う形となる。レノはすぐに彼女が魔槍ではなく、以前に装備していた薙刀と良く似た武器を持っており、紅色に統一された柄と刃だった。
レノはホムラと向かい合い、周囲の選手たちが圧巻される。片方は英雄として有名な実質上王国最強のハーフエルフ、そして向かい合うのは不気味な強さを醸し出すダークエルフであり、この2人が向き合うだけで雰囲気が一変する。
「それ、使うの?」
「まあ……必要ならな。不服なら、お前との戦いの時は捨てるが」
「別にいいよ。それならこっちも用意しておく」
「ふむっ……」
ホムラはレノを確認し、以前に会った時よりも魔力が安定しており、この大会のために最大限の準備を整えた事に気が付いて笑みを浮かべる。自分が全力で相対する相手など希少であり、存分に楽しめそうな予感に口元が自然に緩む。
「私と当たるまで、勝ち残れ」
「言われずとも」
それだけを告げるとホムラはレノの横を通り過ぎ、そのまま開け開かれた門に移動を開始する。それを皮切りに他の選手たちも解散し、最終予選は終わりを迎えた――
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