種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

予選結果

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ソフィア達の足元に発動した転移魔方陣により、彼女達は見覚えのある闘技場の光景を目にする。最初に転移された試合場で間違いなく、既に彼女たち以外にも大人数の冒険者達が待ち構えており、恐らくは彼等もPを集めて先に合格した者達で間違いない。実際にそれぞれが激戦を繰り広げたのか、大半の人間が疲労と負傷を負っている。


『おおっと‼ ここで優勝候補のチームが帰ってきました‼ ソフィア大将軍率いるチーム・ブルーと、ジャンヌ団長率いるチーム・ブラッドっす‼』
「なんか勝手にチーム名付けられている」
「……初めての新事実」
「ぶらっ……?意味はよく分かりませんが、何となく嫌な予感がします」



――ウワァアアアアアッ‼



すぐにカリナの実況が闘技場に響き渡り、観客達が歓声を上げる。気が付くと何時の間にか観客席にはいつも通りのミラークリスタルが設置されており、試合場の中央部にも巨大な水晶体が存在した。


「あれは……ミラークリスタルなのですか? なんと大きい……?」
「どういう原理なのかは不明ですが、僕たちの行動は常に放映されていたようですね」


シュンの言葉通り、試合場の中央部に存在するミラークリスタルには放浪島に残っていると思われる選手たちが映し出され、どのような方法で撮影しているのかは不明だが魔物と戦っている姿が映されている。


『どうやらミラークリスタルが気になるようですね? あの水晶は皆さんが所持しているメダルを利用して放映していたんですよ。ですからここで二つのチームが大百足を相手に激戦を繰り広げていた映像も流されていたっす‼』
「メダルで? そんな事もできるの?」
「なるほど……そのような機能も搭載されていたのですか」


どうやら各選手が取り付けられたメダルがカメラの役割を行い、闘技場のミラークリスタルに映像を流していたことになる。どうやら放浪島での戦闘の記録を見られているということであり、戦法も筒抜けである。


『ちなみに各選手の試合は録画されているので、どうしても見たいという方は受付に申し込んで下さいね~』


受付に申し込めば各チームの戦闘記録が確認も可能であり、一見は公平に思えるが大会の出場者はそれぞれがランダムに放浪島に送り込まれ、戦闘を行った魔物達にも違いがある。ソフィアたちは大型の魔物を討伐してきたため、余裕もなく力を発揮したが、他のチームが小型の魔物を討伐し続けて実力を隠して勝ち残った可能性も否定できない。


「この大会……なかなか厄介ですね」
「ああ……放映している事も伝えないとは……この予選で大分実力を見極められるだろう」
「まあ、いいんじゃない? 後は最後の予選を残すだけだし……」
「それはどうですかね? 今の試合場に居る選手たちの数を確認してところ、ここにいるのは恐らく合格規定の7チームが揃っているはずですが、どう数えても48人しかいませんよ」


シュンの言葉に全員が周囲を見渡し、それぞれがチーム別に分かれて待機しているようだが、いくつかのチームが規定の8人ではなく、何人かが欠けている。


「……恐らく、我々のように予選の間に命を落とした人もいるんでしょう……覚悟はしていましたが、人が死ぬ事態に陥るなんて……」
「……あの2人は少し臆病だったが、いい冒険者だった」
「ううっ……カズ、シン」
「……泣くなよ」


今まで黙っていたリノンのメンバーたちが顔を伏せ、大百足に捕食された冒険者と親交があったのか涙を流す者もいる。この大会は確かに人殺しは禁止されているが、あくまでもそれは選手同士の戦いに限り、予選で相対する魔物にはそんな規則は当てはまらない。冷たいようだが死亡した人間は実力が足りなかったと諦めるしかない。


「それより僕たちのチームは大分遅かったようですね。本当にぎりぎりでした」
「それよりって……他に言い方が‼」
「他人を心配している場合ですか? もう最終予選を終了した以上、お仲間ごっこはお終いですよ」


シュンの言葉にリノンが反応するが、彼は真面目な表情で彼女に視線を向け、


「ここから先は僕たちも敵同士です。選手として出場している以上、トーナメントではいずれが戦わなければなりません」
「それは……」
「大会で戦う以上、余計な馴れ合いは不要です。間違っている事を言っていますか?」
「間違ってはいないですが……」
「いや、気を使わないでくれ……俺達も覚悟していた」


暗い表情を浮かべていた冒険者達がシュンとリノンの間に割って入り、首を振る。


「死んでいったあいつらもそれなりの覚悟で予選に出場していたんだ……あんな死に方をするとは思わなかったが、冷たいようだが実力が足りなかっただけだ……」
「けど……」
「もういいんだ‼ これ以上、同情しないでくれ……」
「……そうか」


まだ色々と言いたいことはありそうだが、リノンは彼等の意を汲んで頷き、シュンも肩をすくめながら引き下がる。その間にもソフィアはシュンの言葉が正しいのかどうか人数を確認し、確かに予想されていた「56人」の合格者の内、8人ほど足りない。


『え~……規定の7つのチームが帰還しましたが、予選は続行されます。現在の選手の人数は48人、という事は既定の56人が揃うまで予選は終了しませんので、あと一枠分のチームの空きが存在します‼つまり、次にもしも全員が無事の状態のチームが帰還して来たら予選は終了となるっす‼』
『仮に何人かが欠けた状態で戻ってきたチームがいたとしたら?』
『あ、久しぶりにレフィーア様が口を開きました‼ その場合は次に帰還してきたチームとくじ引きで決めて貰います‼』
『可能性は低いが、どのチームも合格できずに戻ってこなかった場合はどうする?』
『その場合は敗者復活戦でもやるんじゃないですか?まあ、余計な時間を掛けられないので明日に開始されると思いますが』
『休息日に開始か……そうなると敗退者は随分と不利だな。まあ、敗退しておきながら本戦に出場できるのだから文句は言えないだろうが』


カリナとレフィーアの実況を聞き取りながらソフィアは周囲を見渡し、予選を勝ち残っただけはあり、誰もが実力者の風格を漂わせる。その中でも異様なのは試合場の隅で横たわっている「大巨人」であり、彼は腹を掻きながら昼寝を行っていた。


「ぐ~ぐ~……」
「おい、こいつまた寝てるぞ……」
「寝かせてやれよ……また飯を強請られたらたまったもんじゃねえ」


ダイゴロウの周囲には彼と同じ選手と思われる冒険者たちが集まっており、どういう事か彼等だけは随分と小奇麗な格好であり、本当に放浪島で魔物を討伐してきたのかというほど大きな負傷や汚れはない。魔術師の姿も見えない辺り、実力で勝ち残ったのか、それともダイゴロウのお蔭で予選を突破したのかは分からないが。


「……ソフィア様」
「ん? カオリ、だっけ?」
「はい。カナもいます」


服の袖を引っ張られ、振り返るとそこにはカオリとカナの姿があり、主人であるシュンの元を離れてソフィアの前に跪ぎ、


「私達は解雇されました」
「どうか我等をお雇いください」
「急にどうしたの⁉」


唐突な2人の申し出に驚いていると、事情を知っているであろうシュンが歩み寄り、珍しく困った風に彼は頭を搔きながら、


「先ほどからこの調子ですよ……僕よりも貴女に仕えたいと言い出しましてね。まあ、財政的にも余裕がないので2人は解雇させました」
「……酷い男」
「酷いのはこの2人ですよ。あれほど僕に長年仕えて来たのに、魅力的な人を見かけた途端にこれですからね」
「失礼ですがどなたですか?」
「私達はソフィア様と話しています。話に入ってこないで下さい」


ついさっきまで仕えていたシュンに随分な言いぐさであり、明らかに演技臭い彼女達にソフィアは歌がしげに視線を向ける一方、コトミが彼女の耳元に囁きかける。


「……この2人は友達」
「友達?コトミの?」
「……そう。少し変わってるけど、いい子達」
「う~ん……でも、雇うと言っても私は部隊が無いからなぁ……補佐はポチ子で間に合ってるし」
「なんでもします」
「一通りの家事はできます。ご希望とあれば閨の相手も……」
「……それは私の役目」
「なにいうてんねん」


女性の姿であるソフィアに閨を誘うなど、そういう趣味があるのかと勘繰る一方、家事が出来ると言っても大抵の事はソフィア自身も行え、それに彼女が寝泊まりしている聖天魔導士の館は聖導教会の使用人が管理しており、特に必要ない。


「何を話してるんですか? 先ほど閨がどうとか聞こえましたが……」
「あ、丁度良かった」


ジャンヌが不思議そうに近寄ってくると、ソフィアは良案を思いつき、2人に彼女を紹介するように引き寄せる。


「この人は私の弟の上司なんだけど……テンペスト騎士団ていう冒険者を中心とした騎士団の団長なんだ。だから、この人の手伝いを行ってくれない?」
「き、急になんですか?この方々達は……?」
「弟……つまり雷光の英雄様の上司でしたか」
「これは失礼しました」
「な、何なんですか一体?」


レノの上司という単語に反応し、カオリとカナがジャンヌに頭を下げる。彼女は訳が分からないという風にソフィアを見つめてくるが、構わずに話を進める。


「私も弟も仕事柄、ジャンヌと一緒に行動する事が多いからさ。だから普段はこの人の下で働いてくれない?給金の話は後でということで……」
「それがお望みなら……」
「私達に問題はありません」
「どういう事ですか⁉」


あっさりと了承してくれた二人組に対し、ジャンヌが何が起きているのか理解できずに困惑しているが、彼女に詳しい話を説明する前に試合場に異変が訪れる。



――ブゥンッ‼



試合場に転移魔方陣が発現し、数は丁度8つであり、どうやら最後のチームが帰還したらしい。さらには試合場の周囲の場外の地面にも複数の転移魔方陣が発動し、冒険者達が姿を現す。



『お~っと‼ ここで最後のチームが帰還しました‼ それと同時に既定の人数が合格したので、放浪島に残された脱落者のチームの方たちも場外に帰還します‼』
『ほうっ……つまり、試合場にいるのが合格者だけという事か』



闘技場内に次々と魔方陣が誕生し、傷だらけの選手たちが戻ってくる。中には一体何が起きたのか理解できないという風に見渡す者もおり、特に予選を脱落した場外の選手たちは困惑している様子だった。


「うおっ⁉ ど、どこだここ⁉」
「ご、ゴーレムはどこに⁉」
「あれ⁉ 狼男達に追われてたはずなのに……」
「……さ、寒い……って、あれ⁉ 雪がない⁉」


どうやら様々な地方に飛ばされたようであり、自分が急に転移した事に理解が遅れているようだった。その反面、試合場に最後に出現したチームのメンバーは疲労困憊といった状態であり、ソフィアたちの見覚えのあるチームだった。


「な、何だ……⁉ 何処だここ⁉ やっとオオイノブタの奴を倒して飯にしようって時に……」


それはダイアが率いるチームであり、どうやら彼等もぎりぎりで合格したらしい。
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