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剣乱武闘 覇者編
放浪島の昆虫種
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――遥か昔、この世界には魔甲虫以外の昆虫種も存在した。無論、今の時代にも昆虫の形をした魔物は数多く存在するが、昆虫種とは通常種よりも遥かに巨大化した生物であり、その戦闘能力は第一級危険種に指定され、生態系を大きく狂わせかねない存在として有名であり、一時期は大陸全土を支配しかねない勢いで繁殖していた。
昆虫種が滅びた原因は実は魔王と大きく関係しており、大陸を支配した魔王は世界中に生息する昆虫種を標的に定め、全兵力を注いで昆虫種を一匹も残さずに滅ぼした。彼等は魔王に支配されるほどの知能は所持しておらず、本能に従うまま生きる事で生活しているため、魔王にとっては邪魔な存在でしかなく、数多くの悪行を残した魔王ではあるが、数多くの昆虫種を絶滅させたという点では唯一の功績とまで言われている。
僅かに生き残った昆虫種は自然に溶け込み、長い時を掛けて順応し、今では殆どが縮小化して地上に生息しているが、この放浪島には原種の昆虫種が生き残っていたらしく、巨大なダンゴムシの形をした「ダンゴール」がリノン達を追跡していた。
「こっちに向かってますね。どうしますか?」
「逃げようか」
「気持ちは痛いほどに分かりますが……流石に可哀想ですわ」
「このままだと先頭に走っている方はともかく、後方の方たちは踏みつぶされそうですね」
「推定、あと数十秒が限界でしょう」
リノン達は真っ直ぐに湖の方角に進んでおり、速度を計算すると30秒足らずで先行している者達が辿り着くだろう。
「あ、コトミさんが気付いたようです‼ 手を振ってます‼」
「よし、手を振り返そう」
『やってる場合か‼』
普段の面倒臭がりな彼女からは想像できない程に俊敏な動きでこちらに向かってくるコトミに対し、ソフィアはどうするべきか悩む。レノの状態ならば魔法でどうにか対処できるが、回転しながら接近してくる巨大なダンゴールを相手にどのように対応すれば分からない。
ダンゴールの大きさはパオー種と同等であり、だいたい7~8メートルの巨体がタイヤのように転がりながら接近してくる姿は圧倒され、女性陣が後退りする。
「ううっ……喜色悪いですわ」
「小さいと可愛いと思いますけど、でかいとすごく気持ち悪いです……」
『ううっ……流石にあれと戦うのは……』
「シュン様、後は任せました」
「ご武運を祈っています」
「君たち、従者という立場を理解しているのかい?」
ソフィアを除く女性陣がダンゴールの外見に引いており、何度か昆虫型の魔物と戦ったこともあるポチ子も犬耳と尻尾を震わせてソフィアの後ろに隠れこみ、この様子では真面に戦えそうにない。一方で森人族の血が流れているソフィアは虫関連には特に拒否感は抱かず、確かに凄い外見をしているが喜色悪いとは思わず、むしろあれほどの巨体で俊敏に動くダンゴールに感心する。
「俺が止める」
「それは止めた方が良いよ……オチが見える」
ゴンゾウがパオー種を止めようと正面から待ち構えるが、相手は車のタイヤのにように高速回転しながら移動しているため、真正面から衝突すればゴンゾウが漫画の表現のようにペラペラな状態に潰される姿しか思い浮かばない。
正面から止める事はほぼ不可能であり、ならば側面から攻撃してバランスを崩させて倒れこませるかと考えたとき、ソフィアは自分たちが丘の上にいる事を確認し、この地形を利用すれば正面から打ち倒せるかもしれい。
「よし……ポチ子‼伝令役頼める?」
「わぅんっ‼」
「いい返事だね。それならこっちに向かってるコトミたちに真っ直ぐここまで昇ってくるように誘導してきて」
「分かりました‼」
ダァンッ‼
ポチ子が四足歩行でコトミたちに駆け出し、彼女の速度ならば十分にダンゴールから逃げ切れるのは承知済みであり、今度はリオに視線を向ける。
「リオ様……」
「リオでいいですわ‼」
「あ~……じゃあ、リオちゃんで。リノン達が通り過ぎた後にこの丘の急斜面を凍らせる事が出来ますか?」
「何故ちゃん付けなのか分かりませんが……先ほど魔力を大分消費しましたので、一瞬で凍結させることは難しいですわ……」
「私達も手伝います。水属性の魔法なら多少は扱えます」
「斜面に水を振りかけ、その後に冷気を送り込んで氷結させるのはどうでしょうか?」
「それなら何とかなると思いますけど……」
「相談している時間もなさそうですよ」
ドドドドッ……‼
会話している間にもリノン達が接近しており、ダンゴールとの距離は20メートルほどに縮まっており、逃走し続けるのも限界が近い。先に送り込んだポチ子はリノン達と共に並行して移動中であり、作戦は伝えたのか真っ直ぐにリノン達はソフィアたちのいる丘の方角に移動している。
「ソフィア~‼何とかできるか⁉」
「ソフィア様‼申し訳ありません‼」
「……やほっ」
先頭を走っている三人組がソフィア達に声をかけるが、タイミングが肝心のためソフィア達は返事を返さずにそのまま左右に別れ、双子とリオは準備を整えてソフィアの合図を待つ。
「カナ」
「分かってる」
カオリが日本刀を引き抜き、カナが杖を翳すと刃の部分に水滴が集まり、やがては全体に透明度が高い水が形成され、水属性の魔力付与が完了する。その隣でリオは瞼を閉じて杖を握りしめて集中しており、ソフィアはそれを確認して丘を駆け上るリノンたちに声をかける。
「そのまま丘の向こう側に飛び込んで‼」
「分かった‼」
「信じています‼」
「……とうっ‼」
「も、もう死ぬぅっ……‼」
「いいから走れ‼」
ダァンッ‼
リノン達がソフィア達が開けた間を横切り、そのまま丘を乗り越えて跳躍を行って反対側へと落下する。彼女と同行していた最後の冒険者も渡り切ったことを確認すると、ソフィアはダンゴールに目を向ける。
ゴロゴロゴロッ……‼
既に丘の麓までダンゴールは迫っており、そのまま斜面を駆け上ろうとした瞬間、ソフィアはリオ達に合図を送る。
「今‼」
「水の太刀‼」
ドパァアアンッ‼
カオリが刀を振り抜いた瞬間、刃に張り付いていた水分が丘の上に流れ込み、そのまま洪水のように流れ落ちる。直後にリオが瞼を開き、杖先に先ほどの雪の塊を想像させる魔力が形成され、そのまま斜面に振り落す。
「スノウホワイト‼」
――パキィイインッ‼
先に流し込まれた斜面の水分に氷の魔力が流れ込み、一瞬にして草が凍結し、氷の滑り台へと変化する。そのまま斜面を駆け上ろうとしたダンゴールの勢いが弱まり、
ズルルンッ……‼
最初の内は勢いに任せて斜面を登ろうとしたが、一気に氷の滑り台によって減速してしまい、遂には丘の頂上付近で完全に停止する。
キュルルルッ!!
ダンゴールから鳴き声なのか、それとも身体を鳴らしたかのような音が響き渡り、指一本でも触れれば転げ落ちそうなダンゴールに対し、丘の上に待機していたソフィアとゴンゾウが拳を鳴らし、
「行くよゴンちゃん‼」
「おうっ‼」
ビキィイイッ……‼
2人は身体に血管を浮き上がらせ、ソフィアは左拳、ゴンゾウは右拳を振り上げ、
「「撃拳‼」」
――ズドォオオオオンッ‼
二人の拳がダンゴールに激突し、周囲に衝撃波が生じる。王国の大将軍の2人の攻撃を受けたダンゴールはそのまま拳の跡をくっきりと残しながら急斜面を転げ落ち、派手に土煙を上げて動かなくなった。
昆虫種が滅びた原因は実は魔王と大きく関係しており、大陸を支配した魔王は世界中に生息する昆虫種を標的に定め、全兵力を注いで昆虫種を一匹も残さずに滅ぼした。彼等は魔王に支配されるほどの知能は所持しておらず、本能に従うまま生きる事で生活しているため、魔王にとっては邪魔な存在でしかなく、数多くの悪行を残した魔王ではあるが、数多くの昆虫種を絶滅させたという点では唯一の功績とまで言われている。
僅かに生き残った昆虫種は自然に溶け込み、長い時を掛けて順応し、今では殆どが縮小化して地上に生息しているが、この放浪島には原種の昆虫種が生き残っていたらしく、巨大なダンゴムシの形をした「ダンゴール」がリノン達を追跡していた。
「こっちに向かってますね。どうしますか?」
「逃げようか」
「気持ちは痛いほどに分かりますが……流石に可哀想ですわ」
「このままだと先頭に走っている方はともかく、後方の方たちは踏みつぶされそうですね」
「推定、あと数十秒が限界でしょう」
リノン達は真っ直ぐに湖の方角に進んでおり、速度を計算すると30秒足らずで先行している者達が辿り着くだろう。
「あ、コトミさんが気付いたようです‼ 手を振ってます‼」
「よし、手を振り返そう」
『やってる場合か‼』
普段の面倒臭がりな彼女からは想像できない程に俊敏な動きでこちらに向かってくるコトミに対し、ソフィアはどうするべきか悩む。レノの状態ならば魔法でどうにか対処できるが、回転しながら接近してくる巨大なダンゴールを相手にどのように対応すれば分からない。
ダンゴールの大きさはパオー種と同等であり、だいたい7~8メートルの巨体がタイヤのように転がりながら接近してくる姿は圧倒され、女性陣が後退りする。
「ううっ……喜色悪いですわ」
「小さいと可愛いと思いますけど、でかいとすごく気持ち悪いです……」
『ううっ……流石にあれと戦うのは……』
「シュン様、後は任せました」
「ご武運を祈っています」
「君たち、従者という立場を理解しているのかい?」
ソフィアを除く女性陣がダンゴールの外見に引いており、何度か昆虫型の魔物と戦ったこともあるポチ子も犬耳と尻尾を震わせてソフィアの後ろに隠れこみ、この様子では真面に戦えそうにない。一方で森人族の血が流れているソフィアは虫関連には特に拒否感は抱かず、確かに凄い外見をしているが喜色悪いとは思わず、むしろあれほどの巨体で俊敏に動くダンゴールに感心する。
「俺が止める」
「それは止めた方が良いよ……オチが見える」
ゴンゾウがパオー種を止めようと正面から待ち構えるが、相手は車のタイヤのにように高速回転しながら移動しているため、真正面から衝突すればゴンゾウが漫画の表現のようにペラペラな状態に潰される姿しか思い浮かばない。
正面から止める事はほぼ不可能であり、ならば側面から攻撃してバランスを崩させて倒れこませるかと考えたとき、ソフィアは自分たちが丘の上にいる事を確認し、この地形を利用すれば正面から打ち倒せるかもしれい。
「よし……ポチ子‼伝令役頼める?」
「わぅんっ‼」
「いい返事だね。それならこっちに向かってるコトミたちに真っ直ぐここまで昇ってくるように誘導してきて」
「分かりました‼」
ダァンッ‼
ポチ子が四足歩行でコトミたちに駆け出し、彼女の速度ならば十分にダンゴールから逃げ切れるのは承知済みであり、今度はリオに視線を向ける。
「リオ様……」
「リオでいいですわ‼」
「あ~……じゃあ、リオちゃんで。リノン達が通り過ぎた後にこの丘の急斜面を凍らせる事が出来ますか?」
「何故ちゃん付けなのか分かりませんが……先ほど魔力を大分消費しましたので、一瞬で凍結させることは難しいですわ……」
「私達も手伝います。水属性の魔法なら多少は扱えます」
「斜面に水を振りかけ、その後に冷気を送り込んで氷結させるのはどうでしょうか?」
「それなら何とかなると思いますけど……」
「相談している時間もなさそうですよ」
ドドドドッ……‼
会話している間にもリノン達が接近しており、ダンゴールとの距離は20メートルほどに縮まっており、逃走し続けるのも限界が近い。先に送り込んだポチ子はリノン達と共に並行して移動中であり、作戦は伝えたのか真っ直ぐにリノン達はソフィアたちのいる丘の方角に移動している。
「ソフィア~‼何とかできるか⁉」
「ソフィア様‼申し訳ありません‼」
「……やほっ」
先頭を走っている三人組がソフィア達に声をかけるが、タイミングが肝心のためソフィア達は返事を返さずにそのまま左右に別れ、双子とリオは準備を整えてソフィアの合図を待つ。
「カナ」
「分かってる」
カオリが日本刀を引き抜き、カナが杖を翳すと刃の部分に水滴が集まり、やがては全体に透明度が高い水が形成され、水属性の魔力付与が完了する。その隣でリオは瞼を閉じて杖を握りしめて集中しており、ソフィアはそれを確認して丘を駆け上るリノンたちに声をかける。
「そのまま丘の向こう側に飛び込んで‼」
「分かった‼」
「信じています‼」
「……とうっ‼」
「も、もう死ぬぅっ……‼」
「いいから走れ‼」
ダァンッ‼
リノン達がソフィア達が開けた間を横切り、そのまま丘を乗り越えて跳躍を行って反対側へと落下する。彼女と同行していた最後の冒険者も渡り切ったことを確認すると、ソフィアはダンゴールに目を向ける。
ゴロゴロゴロッ……‼
既に丘の麓までダンゴールは迫っており、そのまま斜面を駆け上ろうとした瞬間、ソフィアはリオ達に合図を送る。
「今‼」
「水の太刀‼」
ドパァアアンッ‼
カオリが刀を振り抜いた瞬間、刃に張り付いていた水分が丘の上に流れ込み、そのまま洪水のように流れ落ちる。直後にリオが瞼を開き、杖先に先ほどの雪の塊を想像させる魔力が形成され、そのまま斜面に振り落す。
「スノウホワイト‼」
――パキィイインッ‼
先に流し込まれた斜面の水分に氷の魔力が流れ込み、一瞬にして草が凍結し、氷の滑り台へと変化する。そのまま斜面を駆け上ろうとしたダンゴールの勢いが弱まり、
ズルルンッ……‼
最初の内は勢いに任せて斜面を登ろうとしたが、一気に氷の滑り台によって減速してしまい、遂には丘の頂上付近で完全に停止する。
キュルルルッ!!
ダンゴールから鳴き声なのか、それとも身体を鳴らしたかのような音が響き渡り、指一本でも触れれば転げ落ちそうなダンゴールに対し、丘の上に待機していたソフィアとゴンゾウが拳を鳴らし、
「行くよゴンちゃん‼」
「おうっ‼」
ビキィイイッ……‼
2人は身体に血管を浮き上がらせ、ソフィアは左拳、ゴンゾウは右拳を振り上げ、
「「撃拳‼」」
――ズドォオオオオンッ‼
二人の拳がダンゴールに激突し、周囲に衝撃波が生じる。王国の大将軍の2人の攻撃を受けたダンゴールはそのまま拳の跡をくっきりと残しながら急斜面を転げ落ち、派手に土煙を上げて動かなくなった。
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