種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

湖に潜む生物

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ソフィア達は眼前に広がる湖の光景に見惚れる一方、リオは険しい表情で湖を見下ろし、瞼を閉じて魔力感知に集中する。それに習い、ソフィアも同じように魔力感知を行うと、すぐに異変に気付く。確かに湖の方角から強い魔力を4つも感じ取られ、何らかの生物が水中に潜んでいるのは間違いない。


「感じますわ……水底に潜んでいる四つの魔物の力を……」
『確かか?』
「リオ様……リオさんが言うなら間違いないよ。でも、水中だと厄介だな……」


貴重な魔物のPを得られるかもしれないのが、湖に隠れられていては手が出せず、迂闊に近寄ればこちらの身が危ない。


「少し前から気になっていたが、この島は繁殖期だと聞いていたが、どうして魔物と遭遇しない?最初のパオー以外、他に魔物の姿は見えなかった」
「基本的に放浪島の西部には大型種の魔物しか生息してないんだよ。小型の魔物と違って、大型種は繁殖能力が低い分、一個体の寿命は長いからね。正直に言えばここに送り込まれたのは運が悪かったかもしれない」
「なるほど。大型種のPだけがやたらと高いのもそれが理由かもしれませんね」


最初のカリナの説明では大型種を撃破した時のPが一番高いと聞いていたが、それは大型種を倒すのが困難な事が理由ではなく、単純に遭遇する機会が少ないと考慮されたからこその配分かも知れない。


「ですが水中ですか……釣りでもして誘き出しますか?」
「餌とかどうすんの?」
『おい、真面目に考えろ』


デュラハンの正論に対し、ソフィアはもう一度湖を見下ろすが、相手が水中に潜む限りは手が出せない。この状態では魔鎧以外の魔法は扱えず、魔法で対処する事は不可能。そもそもこの中の面子で水中戦を得意とする者はいない。


「おう……じゃなくて、り、リオさんの魔法で凍らせることはできないんですか?」
「さ、流石にこの規模の湖を凍結させることは……」
「俺が前みたいに、岩を放り投げるか?」
「流石にあの時とは水量に違いがあるから……」


アクア・スライムが潜んでいた泉に対し、以前にソフィアの魔鎧で武装した岩石をゴンゾウが放り投げて泉を吹き飛ばした事も遭ったが、流石に泉と湖では桁違いの水量差が存在し、同じ方法は通用しないだろう。ゴンゾウの放り投げた岩が水面に潜んでいる魔物に命中する可能性も否定しきれないが、これほど広大な湖の何処に潜んでいるのかもわからない標的に当たるとは考えにくい。


「水中にいるせいか、詳しい位置が分からないのは悔しいですわ……‼」
『私なら水中でも問題なく活動できるが、流石に四体の大型種(推定)を相手には戦えないな』


実体を持たないデュラハンならば水中でも問題なく動けるが、流石の彼女も動きが鈍くなる水の中で四体の正体不明の魔物との戦闘は躊躇し、ソフィアは他に手が無いか考える。

正直に言えばレノの姿に戻ればいくらでも方法はあるが(雷撃を湖に放つ)、この予選まではソフィアの姿で出場する事を決めており、性別変化は行いたくない。場合によっては男の姿に戻る必要があるかもしれないが、出来るならこの状態で勝ち抜きたい。


「……仕方ない、少し潜ってくる」
「危険ですよ⁉」
「でも、中に何がいるか確かめない限りはどうしようもないし……」
『だとしても無謀だろう。水中では自慢の怪力も役に立たんぞ』


水中ではソフィアの身体能力も分が悪く、襲われたとしたら確実に不利だが、相手の正体を確かめない以上は作戦も立てられない。


「長い紐かロープでもあれば身体に括り付けて潜り込んで、いざという時はゴンちゃんに引っ張ってもらって脱出するという方法もあるけど」
「色々と無理がありますね。それならば先ほど僕が提案した相手を釣り上げる案の方が確実ですよ」
「どっちもどっちですわ……」


どちらの作戦も非現実的であり、どうにかして相手を引き寄せられないかと考えていると、不意に湖の方から騒がしい音が聞こえてくる。


「おい‼ 本当に大丈夫なんだろうな⁉」
「平気だって‼ いいからさっさと行けよ‼」
「く、くそっ……あの時、クジで決めようなんて言わなければ……」


丘の上から見下ろすと、どうやらソフィア達以外にも転移された選手たちが湖の傍に存在したらしく、彼等の中には見覚えのある顔があり、巨人族のダイアがパンツ一丁の状態で湖の中に浸かっていた。彼の腹部には炭坑用の作業用のロープなのかは分からないが、随分と太いロープが括りつけられていた。

どうやらソフィアが提案した作戦を彼等も思いついたのか先に実行しようとしており、ダイアは恐る恐る湖の中に身体を沈めていく。


「どうやら僕達よりも先客がいたようですね」
「まさか先にやっている人がいるなんて……」
『いや、ちょっと待て様子がおかしいぞ』


ダイアが湖の中心部に向けて移動し、徐々に彼の身体が水中に沈み始めるが、胸元まで浸かったところで異変が生じる。水中に進み始めてから10メートルほど移動するが、それ以上はダイアの身体が沈むことはなく、彼は首を傾げる。


「おい、どうした⁉ 何かあったのか?」
「いや……この湖、思ったよりも水深が低いぞ?」
「そんな馬鹿な……」
「嘘じゃねえよ‼ まあ、お前等みたいなチビは沈んじまだろうが、巨人族の俺を沈めるほどじゃ……うおおっ⁉」
「今度はどうした⁉」


15メートルほど進んだところでダイアが慌てふためき、彼は派手に水飛沫を上げながらゆっくりと沈んでいく。一気に水深が深くなったのかとソフィア達が様子を見ていると、彼は身体に括り付けられているロープを握りしめ、必死な形相で助けを求めてきた。


「ひ、引っ張られる‼ 何かに足が絡まって……うおおっ⁉」
「おい、大丈夫か⁉」
「早く引っ張れ‼」


岸辺にいる彼の仲間だと思われる冒険者たちが慌ててすぐ傍の岩に括り付けているロープを引っ張り、ダイアの身体を引き戻そうとするが、



ズズズズッ……‼



「す、すげぇ力だ……⁉」
「こ、こっちが引き寄せられる……⁉」
「うおぉおおおおっ‼ 助けてくれぇえええっ⁉」


ロープを掴んでいるはずの冒険者たちの方が逆に引き寄せられ、ダイアはどんどんと水中の中へ引きずり込まれる。流石に丘の上で様子を見守っていたソフィア達も見ていられず、彼等の元に駈け出す。


「いかん‼ 助けに行くぞ‼」
「え? ですが彼等は敵ですよ?」
「わぅんっ‼ 困っている人を見捨てられません‼」
『仕方ない……助けてやるか』
「敵と言えど、命は命ですわ‼」
「一応は知り合いだし……」
「「お供します」」


真っ先にゴンゾウとポチ子が駆け出し、他の面子も後を追いかける。ソフィアは丘を降りる際中に水面に視線を向け、ダイアの身体に何か細長い影のような物が取り巻いている事に気が付き、水中で何か潜んでいるのは間違いない。



「げぶっ……た、助けっ……⁉」



既にダイアは顔半分にまで水中に沈んでおり、もがくことも難しいのか水飛沫も徐々に収まり、彼の身体が引き込まれる。仲間達は必死に彼を救い出そうとするが、彼の身体に取り付けたロープを括りつけているはずの大岩まで引きずられる。


ズズズズッ……‼


「な、なんて馬鹿力……⁉」
「も、もう駄目だぁっ⁉」
「諦めるな‼」


ドォンッ‼


ソフィアが瞬脚の要領で跳躍を行い、そのままゴンゾウとポチ子を追い越して川辺まで辿り着くと、ダイアの仲間達が手放そうとしたロープを掴み上げ、そのまま勢いよく引き上げる。



「ふんっ‼」
「ぶはぁっ⁉ げほっ‼ げほっ‼」


ドパァアアンッ!!


彼女の怪力で完全に沈んでいたはずのダイアが浮上し、何とか息継ぎを行うが、未だに彼の身体に纏わりついた何かからは解放されておらず、そのまま彼の身体を水中に引きずり込もうとする。
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