種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

第一次予選 〈その1〉

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ソフィア達は検査の際に渡された木札を確認し、表面に刻まれている数字を係員に伝えると、即座に試合場まで案内される。レノはブロックが違うゴンゾウとポチ子と別れ、男性の係員の案内の元、約1000名の冒険者達と共に試合場へと移動を行う。


「うわぁっ……こりゃすごいな」
「おいおい……よくこんなもんを作れたな」
「広いな……」


選手の視界には巨大な石畳製の円形状に広がった試合場(リング)が存在し、周囲は水堀となっており、試合場には障害物の代わりなのか至る場所に岩石が設置されており、中央部には試合場を結界で覆うための結界石の柱が存在した。

試合場の周囲には観客席が並び、既に現れた選手たちに歓声を送る者まで存在する。流石に数万人という規模のため、ソフィアの優れた聴覚でも応援に来ているバルたちの居場所は分からず、適当に手を振りながら入場する。


『お待たせしました‼これより、剣乱武闘第一次予選を開始しますよ‼今回は過去最多の6000人を超える参加者という事であり、ブロックごとに分かれて試合形式も変化するっす‼』


何故か聞き覚えのある声が試合実況のアナウンスが流れ込み、ソフィアは周囲を見渡すと観客席の中でも最前列に位置する特等席に見知った顔があり、何故か黒猫酒場を離れてバルルの商団の下で働いているはずのカリナが実況を行っていた。



(何してんの⁉)



カリナは普段よりもテンションが高めに実況を行い、そんな彼女の隣にはこれまた見知った人物が座り込んでいた。


『あ、ソフィアたんだ‼やっふぃ~』
『ちょっ、巫女姫様だめっすよ‼ 世間体があるんだから個人の選手の応援をしたら問題大有りっすよ⁉』
『え~……』


どういう事なのかカリナの横にはヨウカが座り込んでおり、彼女も実況を手伝うのかソフィアの方向に向けて手を振り、ソフィアはどうしてこうなったと驚きを隠せない。


「お、おい……ソフィアってもしかして……」
「ああ……あの大将軍の名前じゃねえか?」
「巫女姫様がおっしゃってるんだから間違いねえ……この中に居るのか⁉」


参加選手たち騒ぎ出し、全員がソフィアの容姿までは知らないのか慌てふためきながら彼女を探し始める。ソフィアは自分の正体に気付かれていない事に安心する一方、そこまで自分が知名度が低い事に頭を悩める。


『ねえねえ、漫才をやってないで先に進めたら~?』
『あ、そうだった‼それでは試合を始める前に手短に自己紹介を行うっす‼試合進行役のカリナと、試合の実況役を志願した巫女姫様、そして時折見せる毒舌が冷やっとさせるミズナ様が解説役を行います‼』
『よろしくね~』


まさかの三人組の登場に周囲がどよめく中、選手たちは闘技場の上に上がり込み、これから1000名ずつ試合が開始される。ソフィアは事前の情報ではブロックごとに別れて同時に行われると聞いていたが、どういう事か闘技場の上に移動したのは1000名の選手たちだけだった。


『尚、この場にいない選手の方々は既に交易都市のホノカ様が開発した最新型の転移魔方陣によって特別試合場へ移動をしているっす‼それぞれの試合の中継は観客席に存在するミラークリスタルを通して確認できるのでご安心ください‼』
『あ、ゴン君とポチ子ちゃんが映ってる‼頑張れ~‼』
『こっちの声は聞こえないんじゃない?』


カリナの言葉通り、観客席のあちこちには5メートルを超えるミラークリスタルが幾つも存在し、表面にはそれぞれの試合場に移動したと思われる選手たちの姿が映し出されていた。


『わ、わふぅっ⁉ いきなり知らないところに出ました⁉』
『ここは……見覚えがあるな』


どうやら音声まで放映されるのか、ミラークリスタルには丁度ゴンゾウとその肩の上に乗るポチ子が映し出され、二人の他にも複数の参加者が存在し、彼等は周囲は平原が広がっており、そこはソフィアも見覚えのある場所だった。


『おおっと⁉ 番号札が4番だった選手は約一年前に魔王討伐大戦が勃発したアルカナ平原の試合場に移動したようっすね‼』
『う~ん……私には嫌な思い出しかないなぁ』


カリナとミズナの言葉から察するに、どうやら木札の番号が4番だった選手は嘗て王国軍が魔王に洗脳された人魚族が相対した平原地帯に移動したらしく、ポチ子たちは平原の上に特設された大理石製の石畳の上に乗っていた。


『あ、ここってホノカちゃんとこの砂漠かな?』
『おおっと‼ 2番の選手の方々はどうやらアマラ砂漠に転移したようっすね‼まだ試合前なのに砂漠の熱で倒れる人も少なくないっす‼』
『あ、3番はあの船島に転移したみたい~廃船の上で落ちないように慌てふためいているね~』


どうやら他の選手も随分と遠方の土地に移動したらしく、1番だった選手のみはこの闘技場の試合場で予選を開始されるので転移を行わずに済んだが、それが幸運だったのかはまだ分からない。ソフィアは先ほどから妙に覚えのある嫌な感覚が広がっており、試合場の各所に存在する岩石を見つめる。


「ん? どうした姉ちゃん? 今更怖がってるのか?」
「へっへっへっ……もう遅いぜ、試合が始まったらせいぜい逃げ回る事だな」
「ちょっと、そんなに脅したら可愛そうじゃない? この子震えてるわよ?」
「誰ですかあんたら」


何時の間にか自分の周囲に冒険者の輪が出来ており、こちらを見つめて妙に笑みを浮かべてくる。ソフィアは自分が狙われている事に気付き、よくよく考えれば今回は武器になるような物は持ち合わせていない(龍爪は本戦で使用する予定のため、所持していない)。


「あんた、武器も持ち合わせていないところを見るとエルフの中でも飛び切りの間抜けか、それとも箱入りのお嬢様ってところだね?あんたみたいな何の覚悟も抱いて無さそうな奴が出てくるのは無性に腹が立つんだよ」
「まあ、悪く思うなよ?試合が始まった瞬間に俺らが優しく相手してやるぜ……」
「はっ……今夜辺り、エルフの女の身体を味わうのも悪くないな……」
「試合まだかな~」
「おい、聞いてんのかお前⁉」
『はいそこっ‼試合前の揉め事は禁止っすよ‼あと、汚い手でうちの大事な姉さんに触るなっす‼失格にされたいんすか!!』
『さっき、個人の応援は駄目とか言ってなかった~?』



ソフィアに詰め寄ろうとした冒険者にカリナが注意を施し、彼等は渋々と下がる。それでもソフィアが標的なのは変わらないのか、武器を握りしめながら試合が始まるのを待っている。



(さてと……だいたい30人か)



その間にもソフィアは自分に向けられてくる明確な「殺意」の数を把握し、周囲に潜んでいる森人族の刺客に注意を払う。彼等は明らかにソフィアの正体に気付いており、中には前回の大会でも使用した吹き矢を隠し持っている者も伺える。


(いい加減にしつこいなぁっ……レフィーヤからも許可は貰ってるし、多少は手荒な真似をしても問題ないかな)


ソフィアは両手を確かめるように握り締め直し、久しぶりにこの姿で大暴れをするために軽く腕を振り回し、試合開始の合図を待つ。


『それじゃあ試合を開始する前に規則を説明するっすよ。今回重要なのは選手の皆さんに渡された木札っす‼この木札を破壊された選手は即座に失格、木札を破壊されなくても気絶しても失格、魔力枯渇現象を引き起こしても失格、木札が奪われて試合終了までに取り返せなくても失格になるようですね。あと、相手を必要以上に傷つけるのも禁止っす。つまりは故意の殺人は禁止って事ですね』
『傷ついても私達が治すけど、あんまり怪我しないようにね~』
『それと各試合場には交易都市から輸送された危険種指定されている魔物も潜んでいるので注意するっす。ちなみに今回は前回と違って大乱戦方式(バトルロイヤル)なんで、選手同士の潰し合いも問題ないっすよ~』
『でも、いつまで戦うの~?最後の1人に残るまで殺し合うの?』
『そんなグロイ事させないっすよ‼ミラークリスタルの一番上の方を見て下さい。数字が描かれているでしょ? あれは現在の選手の人数を表してるんすよ』
『あ、本当だ。6240?』


カリナの言葉通り、闘技場内に存在する全てのミラークリスタルの上部の水晶部分には丁度参加選手の人数と同じ数字が表示されており、どうやら選手が所持している木札と共通して表示されているらしい。


『察しの通り、この数字は選手たちに配布された木札と連動してるっす。この数字が既定の合格者数である1800人にまで減少した瞬間に第一次予選は終了となるりますね』
『木札が壊されたら負けになるの?他の人から奪っても大丈夫(セーフ)?』
『それは駄目っす。あくまでも木札は自分が最初に渡された物だけっすね。いくら他人の木札を奪おうが、壊そうが、自分に与えられた木札が壊れたら失格っす。それと木札は必ず他人から目に見える場所に装備するようにして貰います。木札には紐も取り付けられているはずですから、首に掛けたり腕に巻き付けてるのもありっす。まだ付けてない人は着けた方が良いっすよ~?木札を隠し持っていると判断されたその場で失格ですから』


カリナの言葉に参加選手全員が木札を取り出し、慌てて自分の身体に装備する。ソフィアは木札をペンダントのように胸元に掲げ、準備を整える。


『それではまもなく試合開始っすよ‼次にこの闘技場の鐘が鳴り響いた時が試合の始まりっす‼』



最後のカリナの言葉に選手達が大きく反応し、ソフィアは自分に向ける視線が増大した事に気が付く。



(……大半はあいつらだけど、武器を持ってこなかったのは不味かったかな)



周囲を伺えば殆どの冒険者がソフィアを見つめており、彼女だけが武器らしい物を身に着けておらず、真っ先に狙われる立場だった。


(まあ、いいか)


ソフィアは腕試しに丁度いい人数だと確信し、この三週間の間に訛っていた身体の切れも取り戻し、他種族が交わる1000人の対戦相手に不敵な笑みを浮かべ、そんな彼女の態度に周囲の冒険者たちは不審げな表情を浮かべるが、すぐに雰囲気が変わったことに気付いて身構える。
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