種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

屋敷

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「ここが拙者の家でござるよ」
「でかっ‼」


カゲマルの案内の元、里の南端に存在する彼女の実家に辿り着く。予想していたよりも立派な和式の屋敷であり、下手をしたら聖導教会にある聖天魔導士の屋敷よりも広い。ここは彼女以外に親族と身の回りの世話をする者達が棲んでおり、総勢で100人は超す人間がこの屋敷に住んでいるという。

カゲマルの実家は里の中でも権力が強く、実際に彼女の祖母や曾祖母は忍頭を勤めており、いずれ彼女もその座に就くらしい。ちなみに両親に関しては2人ともある事情で引退しており、里を出て静かに暮らしている。


「カゲマルの両親は何をしてるの?」
「拙者の両親は今は宿を経営しているでござるよ。2人とも、ある任務で忍として活動できないほどに大怪我を負ってしまったござるからな……でも、時々は遊びに行っているでござるよ」
「そう……」


立ち入ったことを聞いてしまったのかと思ったが、カゲマルは特に気にした風もなく屋敷の中へと案内し、入口を開いてすぐに使用人と思われる女性が2人に気付いて驚いた声を挙げる。


「まさか……カゲマル様⁉ お帰りになられたのですか⁉」
「おお、静香殿‼ 久しぶりでござるな‼」
「静香?」


日本人のような名前が引っ掛かり、観察すると黒髪に黒目とこの世界では比較的に珍しい組み合わせの容姿であり、名前の響きから察するに異世界人(旧世界人)の血を引く人間かと思ったが、


「ああ、紹介するでござる。彼女は異世界から召喚された異世界人の静香殿でござる」
「は、初めまして……うわぁっ……なかなかイケメン、いやどちらかというと美少年ですね」
「静香殿……レノ殿はハーフエルフだから聴力がいいので聞こえるでござるよ」


ぼそぼそとカゲマルに話しかける静香の反応が何処となく美香と似通っており、カゲマルの紹介とイケメンという言葉を知っている辺りから「異世界人(旧世界人)」であることは間違いない。この世界には召喚魔法によって稀に現実世界(旧世界)の人間が呼び出される事があり、彼女もその一人なのだろう。


「初めまして……静香さんでいいですか?」
「あ、はい‼ 結構です‼ 名前覚えてくれたら嬉しいです‼」
「は、はあっ……」


何となくだがアルトに反応する美香と姿が重なり、何処となく容姿も似ている気がしなくもない。もしかしたら本当に彼女の親族か何かの可能性があり、今度美香と出会ったらそれとなく聞くべきかと考えていると、屋敷の方から近づいてくる足音が聞こえる。


「……騒がしいと思ったら、貴女ですかカゲマル」
「おお、お婆様‼ お久しぶりでござる‼」
「こ、これは忍頭様‼」


現れたのは初老の女性であり、右手で杖を地面に突きながら歩いてくる彼女の姿を見て慌ててカゲマルと静香がその場で跪き、レノはどう反応したらいいのか悩んでいると、老婆の方から視線を向けてくる。


「貴方は……なるほど、かの有名な雷光の英雄ですね。話はよくアルト様と先代国王様から聞いています」
「え、そうなんですか?」
「私達は王国に忠誠を誓った忍……お二人とはよく顔を見合わせる機会がありました。それにしても話に聞いていたよりは随分と違いますね……それほど屈強な戦士には見えませんが」
「お、お婆様……」


忍頭の言葉にカゲマルがおろおろとレノと彼女の2人に視線を向け、レノとしては別に気にしてはいないが、眼の前の老婆に対して違和感が存在する。


「あの……一つ聞いていいですか?」
「何ですか? 今の言葉で気分でも害されたのなら謝りますが……」
「本当に貴方が忍頭なんですか?」
「っ……⁉」
「れ、レノ殿⁉」
「な、なんて事を……⁉」


唐突なレノの質問に老婆が絶句し、他の2人も呆気にとられたように彼に視線を向けるが、レノとしてはどうしても目の前の老婆がカゲマルが語っていた忍頭とは信じにくい。眼の前の女性からは「ミキ」や「センリ」のような覇気というか、威圧というべきものが全く感じられなかったからだ。

レノが知る2人は高齢の魔術師ではあるが、例え若い頃から力が衰えたからといっても2人は常人にはない雰囲気を纏っていた。一般人なら分からない感覚かも知れないが、これまでの間に数多くのッ強敵と出会ったレノだからこそ感じた違和感だった。

老婆はレノの言葉に驚いた様子だが、すぐに冷静さを取り戻したように眉を顰め、右手で握りしめている杖を左手に持ち替える。


「戦線を離脱したとはいえ……貴方のような傲慢な男に侮辱されるほど衰えてはいませんよ‼」
「ま、待つでござるレノ殿‼ その御方は……‼」


カゲマルが制止の言葉を言い終える前、老婆は左手に掴んだ杖を侍の居合の形で構え、そのまま刃が仕込まれた杖を抜き放つ。右手で横薙ぎに払われた刃は真っ直ぐにレノの胴体に接近した瞬間、


「おっと」
「なっ⁉」


特に焦った様子もなくレノは肉体強化(アクセル)で向い来る刃を片手で、しかも正面からではなく後ろの刃から掴み取り、そのまま受け止める。老婆は斬り裂こうとした刃があっさりと受け止められたことに驚く一方、レノは刃を掴みながら溜息を吐く。

森人族の本能というのか、老婆が地面に突く音だけで最初から杖の内部に何かがが仕込まれている事は気が付いており、最初から彼女が仕掛けて来るならば杖を使用してくることは予想できたため、簡単に受け止める事が出来た。


「くっ……‼ このっ‼」


老婆は受け止められた仕込み杖を取り替えそうと力を入れるが、まるで巨人族に掴まれているように微動だにせず、外見からは想像もできないレノの膂力に驚愕する。その一方でレノは刃の部分を確認し、日本刀の刃とよく似ているが、まだシゲルが装備していた刀剣のほうが研ぎ澄まされており、そのまま左手を手刀の形に変えて振り下ろす。


「雷刀(ライト)」


バリィイイインッ‼


右手に刃状の電撃が迸り、そのまま呆気なく刃は中腹部分で溶解し、その光景に老婆は呆気に取られ、その一方でレノは右手に刃を纏わせたまま彼女に刃先を向ける。


「これ以上、芝居を続けるなら容赦しませんよ」
「ひっ⁉」
「ま、待ったでござる‼ 落ち着くござるよレノ殿‼」


先ほどまでの態度はどうしたのか、レノの言葉に怯えて縮こまる老婆の前に慌ててカゲマルが庇うように移動し、静香は何が起きているのか理解できないのか腰を抜かしている。そんな彼女たちの反応に溜息を吐きながらもレノは右手に宿した雷を振り払う。


「カゲマル、どういう事?」
「も、申し訳ないでござる……この者はお婆様ではなく、拙者と同期のシャドという忍でござる」
「す、すいませんでした‼」
「え、ええっ⁉」


カゲマルの言葉に老婆はその場で土下座を行い、そんな彼女の姿に静香が呆気に取られていると、何時の間にか顔のしわが消えて無くなり、カツラと思われる白髪の被り物が地面に落下し、そこには10代後半と思われる少女が存在した。

どうやら変装で老婆に化けていたのか、顔にはしわだと思われていた塗料が冷や汗で滲んでおり、シャドと呼ばれた少女は額を地面に擦りつける勢いで謝罪を行う。


「え、偉そうな態度を取って申し訳ございません‼ 事前にカゲマル様と忍頭から第一の試練として相対するように言われていたのでつい調子に乗って……」


ぺこぺこと頭を下げるシャドに対し、レノは頬を掻きながらカゲマルに困った風に視線を向ける。いきなり刃を向けてきた事に多少は苛立ちを覚えたが、ここまで頭を下げられては怒る気も失せる。

ちなみにレノが老婆の正体を見破ったのは他にも理由があり、それは杖を必要とするほどに足が悪いとは思えぬしっかりとした足取りと、何よりも杖を握りしめている両手がやたらと若々しかったからでもある。顔がしわだらけにも関わらず、手元の部分だけは年若い女子のようにしわ一つ見当たらないのが決定打だった。


「第一の試練?」
「あ~……説明するのを忘れていたでござるが、実はこの里を訪れた外部の人間は三つの試練を受けてもらう決りがあるでござる。仮に一つでも試練を落としたら即座に追放処分となり、逆に三つの試練を乗り越えた者は最高級の持て成しを行うという決まり事があるでござる」
「そういう事は事前に言え」
「え、ええっ⁉ シャド様が忍頭の恰好……ええっ⁉」
「こっちの人、凄い混乱起こしてるけど伝えてなかったの?」
「いや……それは拙者も予想外でござった。てっきり、静香殿も知っているものとばかりに……」


屋敷に入って早々に面倒事に巻き込まれたレノは速くも帰りたくなってきたが、カゲマルに付き合う約束をした以上は残りの二つの試練を乗り越え、忍頭とやらと対話しなければならない。
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