種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

お見合い

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オルトロスの討伐を終えてから二カ月の時が流れ、王城にてソフィアは大将軍のお職務を果たすためにゴンゾウと共に訓練を行っていると、アルトが疲れた表情でリノンを引き連れて訓練場に訪れた。


「やあ、2人とも……精が出るね」
「アルト……様はお疲れの様子ですね」
「大丈夫か?」


大勢の兵士達の前のため、流石にソフィアも溜口ではなく敬語で返す。ちなみにゴンゾウは立場上はアルトの配下なのだが、元々巨人族自体が敬語を不得手とする種族であり、ある程度の失礼な口調は見逃される。

アルトはリノンに視線を向けると、彼女も仕方がないとばかりに両手に抱えた大量の書類をソフィアに私、彼女は不思議そうに中身を見てみると、


「……なにこれ?」
「君宛の各地の貴族や豪族からの見合い話だ……王国内では飽き足らず、他にも他種族から友好の証としてソフィア大将軍と結婚を望んでいる」
「マジで?」


敬語も忘れて素で問い返すソフィアに2人は頷き、渡された書類には貴族や豪族、果ては王族の親類まで存在した。


「君はまだ森人族としては子供だが、一応は人間として考えるなら結婚できる年齢だからね(人間は15歳、森人族は18歳で成人)……王国との関係を結ぶため、それに君という戦力を引き入れようという輩が出てきたんだろう」
「ええっ……男の姿の時はそんなのなかったのに……」
「レノの場合は基本的に聖導教会の巫女姫様と一緒にいる事が多いからじゃないか?巷では2人は付き合っていて、ハーフエルフの英雄で聖剣の所持者であるレノなら巫女姫様と添い遂げる資格はあるからと噂されているんだぞ?」
「コトミが聞いたら嫉妬しそうだな……」


どうりでレノ宛の見合い話が来ない事に納得する一方、目の前の書類の山に頭を悩ませる。当人としては結婚など考えたこともないし、そもそも自分の性別すら曖昧なのに恋愛観など考える暇もない。前世(正確に言えば少し違うが)では女として暮らし、この世界では男として生まれたがハーフエルフの特質で今のように女性の姿にも変化できるため、未だに性別が安定していない。

男の姿ならば女性の肉体(特に胸)にも興味はあるが、あくまでも性的な欲求ではなく、知的好奇心を満たすためであり、逆に女の姿で過ごす時は男性に対してあまり興味はないが可愛い服を着こんだり髪形を気にしたりなど女性的な特徴も出てくる。

レノは自分がどちらの性別で暮らすべきなのか悩んだことはなく、ましてや悩む必要もなかった。しかし、今後もずっと性別を自由に変化出来るとは限らない。いずれ訪れる「変換期」で自分がどちらの性別を選ぶべきか選択を迫られる事は解ってはいるが、今のところはこのままの状態で過ごしたい。


「これ断れないの?」
「君が望むなら別に構わないが、ここで断っても連日見合い話は君に届くだろうね」
「いっその事、誰かと形だけでも結婚したらどうだ? 例えば独り身ならゴンゾウかアルトだが……」
「い、いや……ソフィアは魅力的な女性だが、あくまでも友人としか見ていないし……それに僕にはその……」
「何でか告白した訳でもないのに振られた気分になった……」
「俺も、形だけの結婚は、したくない。結婚とは、夫婦の契りを結ぶ、大切な儀式だろう?」
「そ、そうだな……失言だった」


リノンの提案にソフィアが答える前にアルトとゴンゾウが否定し、どのようにして見合い話を上手く断るかだが、いい手段が思いつかない。


「う~んっ……いっその事、生涯結婚はしないと宣言しようかな」
「それは無理があるだろう。いくら口で言ったところでその気になれば結婚できる立場なら見合い話が途切れる事はないし、第一にあの手この手で結婚を迫ってくる輩も出てくるだろう」
「ならもう自分より強い人じゃないと結婚しないとでも宣言する?」
「なるほど……それはいいかもしれない。その方法ならば、ソフィアが誰とも結婚できない」
「確かに……その条件なら誰も結婚できないな」


何気なく答えた言葉にゴンゾウが頷き、アルトも腕を組んで考え込む。この理論だとソフィアと結婚できるのはせいぜいホムラ(同姓、しかも姉妹)ぐらいであり、しかもハーフエルフの英雄として名高いソフィア(レノ)ならば相当な腕自慢の御仁しか見合い話を申し込むことはないだろう。


「よしっ……その方法を実践してみよう。すぐに手配してくれ」
「分かった。幼馴染としてもソフィアが碌でもない男と結婚するのは認められないからな……他にも色々と条件を付けたして置こう」


即座にリノンとアルトはその場を離れ、ソフィアの見合いを断固阻止するために動き出した。






――後日、今度はレミアとジャンヌと共に訓練にソフィアが付き合っていると、またもや渋い表情を浮かべたアルトと頭を抑えたリノンが姿を現し、今度は2人とも両手に書類の山を抱えながら登場した。



「……先日の見合いの件だが、迂闊だったよ……君との結婚が目的ではなく、王国最強と言われている君と対戦を求める者達から大量の挑戦状が送り込まれてきた」
「どうゆう事⁉」
「つまりだな、ソフィアと結婚する気はないが手合わせをしたいという理由で見合い話を持ち込む輩まで出てきたんだ……貴族や豪族の中には実戦にも出た事がないのに腕自慢を誇る者達が多くてな、いくら英雄として有名だからと言って女性であるソフィアに負けるはずがないと言い張る馬鹿……もとい世間知らずの者達から見合い話が持ち込まれてきた……」



確かにレノと比べればソフィアの功績はフェンリルの討伐程度であり、しかも彼女の場合はあくまでも自己申告のため、実際に彼女がフェンリルを討伐したという証拠はない。現にフェンリルを殺害したのはホムラのため、証拠を提示しろと言われても不可能なのだが。

王国内では未だにソフィアの力を疑う者がおり、彼女が本当に英雄と言われるだけの器を持っているのかと問い質す輩まで存在する。


「ソフィア様と結婚など……‼なんと愚かな人たちでしょう‼そんな輩は私が全力を尽くして排除します‼」
「排除という言葉はどうかと思いますが……確かに世間知らずで大した実力も無い愚か者にソフィアさんを任せる事はできませんね」
「じゃ、ジャンヌ? 何だかいつもと雰囲気が違わないか?」


ソフィアの見合い話という言葉にレミアは激昂し、あのジャンヌですら額に青筋を浮かべて口調は冷静だが明らかに不機嫌であり、そんな彼女達にリノンが戸惑ったように声をかける。


「一番良い手があるとすればソフィアが実力を見せつけて彼等の自信を打ち砕き、自ら辞退させるように仕向けるのが一番だと思うが……」
「実力を見せつけろと言われてもね……なにか難しい任務でも達成すればいいの?」
「だが、伝説獣の一件以来、この王国は平和その物だからな……特に大掛かりな魔物の討伐や敵勢力の排除もないし」
「いっその事、大会形式でソフィア様と結婚できる権利を勝ち取るという方法ならばどうでしょう?最後の1人まで勝ち残った人間がソフィア様と戦える権利を得られ、勝利することができれば晴れてソフィア様と結ばれると」
「定番な展開だけど、それ私が負けたらヤバい奴じゃん。いや、負けないけどさ」
「あの……その大会は女性も参加できますか?」
「待て待て待て‼その方法だと大勢の人間が大怪我を負う可能性があるじゃないか⁉その中には大勢の王国関係の貴族や豪族も混じっているんだぞ?もしも取り返しの付かない怪我を負わせたら彼等との関係も悪化してしまう‼」
「何を言うのですか‼国王様は王国の体面とソフィア様ならばどちらが大事だと思っているのですか⁉」
「僕にとってはどちらも大切なんだ‼どちらも失いたくはないし、それにもっといい方法があるはずだ‼ ともかく却下だ却下‼」


漫画のように婚約者を決めるために武道大会を開くという案は却下され、そうなると他にいい案は思いつかない。やはり、ソフィア自身が誰にも真似できないほどの偉業を成し遂げて世間に実力を知らしめるというのがいい案だと思うが、生憎とそう簡単には思いつかなかった。
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