種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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追想編

魂の繋がり

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甲冑の騎士と成り果てたレイアにより、アイリィは再び命を落とした――はずだった。だが、元々は霊魂だけの存在として成り立っていた彼女に肉体的な「死」など無意味であり、彼女の魂は現世に残り続ける。



 (……そういう事ですか)



霊魂だけの存在に成り果てても彼女の意識は残っており、どうして肉体を失っても彼女の魂が現世に残り続けるのか、それは世界の何処かに存在するはずの魔王と関わりがある。彼女の本来の肉体は既に消失したが、それでも今現在もアイリィと魔王は魂の繋がりが存在する。
 
魔王が生き続けている限りはアイリィの霊魂は現世に残り続け、逆にアイリィが存在する限りは魔王自身も完全に滅びる事はない。二つの存在は聖痕と呼ばれる力で今尚も繋がりが存在し、だからこそアイリィは不死ではなく「不滅」の存在として残り続ける事が出来た。

地下迷宮で憑依していた女囚の肉体を失い、彼女は霊魂だけの存在として再び地上に舞い戻る。そして、運よく地上から帰還していた「カイン」という老人の前に訪れる。



――カインはアイリィが聖痕回収のために放浪島から脱出させた死刑囚の1人であり、彼がまだ青年だった時期に地上へと送り付け、聖痕の調査と回収を依頼したが、彼は独自の方法で「フェンリル」という名前の闇ギルドを立ち上げ、組織を造り上げる。




当初の目的とは大きく外れたが、カインはアイリィの肉体を保つために必要な魔力を補うため、地上から大量の魔水晶を放浪島に送り込む。これによってアイリィは全盛期にはほど遠いが一応は弱体化した力も補われ、代わりとしてカインに地上での行動を自由にさせる。

カインは自分が創設した闇ギルドを利用して様々な事業を取り入れ、莫大な財産と幅広い人脈を築き上げる。だが、そんな彼でも肝心の聖痕の情報を得られず、最近では王国と度々衝突していた。

そんな彼がどうして放浪島に戻ってきたのかというと、この島には死刑囚ではあるが力に有り余った囚人たちが数多く存在し、彼等の中から戦力になりそうな人材を見つけ出して自分の組織に引き込むために度々訪れていた(実際、この放浪島の死刑囚の中には腕利きの冒険者や魔術師も存在する)。

偶然にもカインはアイリィが地上から姿を消した日に訪れており、彼女に一応は挨拶して置くべきかと探したが、この島の囚人達から唐突に彼女が姿を消した事を聞いて疑問を抱き、最後に彼女を見かけたという囚人の情報を頼りに地下迷宮の出入口の一つである古井戸に訪れていた。



「全く……何を考えているんだあいつは……ん?」



カインは探索の途中、古井戸の前で血塗れの「少女」を見つけ出し、彼は行き倒れかと近付くと、違和感を抱く。



――発見した少女の肉体には確かに大量の血液が付着していたが、その割には彼女自身には外傷の類は存在せず、何よりも彼女が握りしめていた薙刀には魔物の残骸だと思われる肉片がこびり付いていた事に気が付く。



この少女がどういう理由で地下迷宮に繋がる出入口の前で倒れていたのかは不明だが、カインの長年の傭兵としての勘が、この少女が只者ではない事を知らせ、すぐに彼は彼女の解放と同時に新しい「手駒」を入手出来た。

少女には自分に逆らえないようにこの放浪島の囚人たちに取り付けられている腕輪と同じ素材の「首輪」を取り付け、もしも少女が自分に害を為そうとした場合は首輪が締め付け、最終的には爆発する仕掛けを施す。まだ幼い幼女を相手に危険な魔道具を取り付けるカインは傍から見れば異常だが、この判断が後々に正しい事が証明される。


「いい駒が手に入った……ん?」


肩に少女を抱きかかえながら、カインは自分の右手の甲に刻まれた「紋様」が反応している事に気が付き、この紋様はアイリィが施した聖痕の居場所を教えるための力が宿っていると聞いたが、実際に反応するのは初めてだった。


「まさか……この娘が?」


紋様が反応している相手はカインが抱きかかえている少女であり、彼は驚いた表情を浮かべる。初めて遭遇した聖痕所持者がこのような幼い少女だった事もあるが、何よりもこの放浪島で遭遇した事である。


「ますます興味深い……だが、殺すには惜しい」


聖痕を回収した場合、アイリィの予測では正当な所持者ではない人間が彼女の聖痕を回収された場合は膨大な魔力を消費してしまう可能性もあり、下手をしたら衰弱死するとは事前に聞いていた。カインとしてはこれから有能な手駒に成長するしかない存在を手放す訳にはいかず、今は聖痕の回収を中止した。



「それよりアイリィの奴は何処だ……?まさか、身投げでもしたんじゃないだろうな……」



カインは古井戸の中を覗き込み、一度だけこの場所にアイリィに案内されたことがあり、この井戸の底が地下迷宮に繋がっている事は聞かされていた。だが、地下迷宮の危険度も彼女からよく聞かされており、決して近寄らないようにしていたが。


「全く……何処に消えたあの女……」
『呼びました?』
「うおっ⁉」


唐突に脳内に聞き覚えのある声が聞こえ、カインは肩に担いでいた少女を地面に落とし、彼女は「ぐえっ」と少女らしからぬ悲鳴を上げるが完全に気絶しているのか目を覚まさない。カインは慌てて周囲を見渡すが、自分たち以外には誰もいない。



『探しても無駄ですよ。今の私は霊魂だけの存在ですから、普通の人間には見えません』
「ど、どういう事だ? 何が起きている⁉」
『今は事情を説明する時間はありません。申し訳ないんですけど、誰でもいいので女囚さんの死体が存在するなら案内してくれません?』
「訳が分からん‼」



――困惑するカインだったが、アイリィの声に従い、彼は少女を連れて頭部監獄に戻る。そして、アイリィの要望通りに特別病棟で保管されていた比較的最近に死亡した女囚の死体の前に案内する。



死亡した女囚は妙齢の女性であり、死亡原因は農作業中に毒性の高い魔虫に噛まれた事によるショック死として処理され、この病棟に送り込まれていたのはしばらくの間は生存していたが、やがて身体中に回った毒の苦痛に耐えきれずに死亡した。

アイリィとしてはもう少し年若い女性の方が良かったのだが、生憎と彼女以外に女囚の死体は存在せず、生前の女性の魂の幸福を願いながら身体に憑依する。幸い、女囚の肉体の毒素は彼女が死亡した時に抜けきっており、腐敗した肉体はアイリィの魂のお蔭で復活を遂げる。


「ふうっ……いたたたっ……腰が痛いですねこの身体は……」
「……化け物め」
「そんな目で見ないで下さいよ。カインさんだってその年齢でロリコンですか?」
「言葉の意味は分からんが、侮辱された事は分かるぞ‼」


カインは目の前で死体だったはずの女囚が起き上がる姿に眉を顰め、アンデットや死人のように襲い掛かってこないのか警戒するように後退する。そんな彼の後ろには先ほどの少女が立っており、彼女は虚ろな瞳で子供には不釣り合いな大きさの薙刀を握りしめていた。



「…………」
「じゃあ、何なんですかその女の子は……? カインさんって、子供さんがいらしたんですか?」
「新しい手駒の候補だ。それよりも何が起きた?」
「……まあ、別にいいですけどね」



後々に自分をもう一度死に追いやる存在を前にしながらも、アイリィは最後の協力者であるカインにこれまで起きた事情を告げる。
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