種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

洗脳

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「な、何なんでござるか⁉ この者達は‼」
「操られているんです‼ 剣乱武闘の時にもこのような事がありました‼」


現在、ジャンヌとカゲマルは回収したカリバーンを所持した状態で噴水広場を駆け回っており、彼女たちの後方から大勢の人間が後を追う。その中には小さな子供や老婆も混じっており、老若男女関係なく2人を追跡する。


「待てぇっ‼」
「よこせっ‼」
「聖剣を渡せぇっ‼」
「ひぃっ⁉ ほ、本当に操られているだけでござるか⁉」
「落ち着いて下さい‼」


後方から叫び声を上げて追跡してくる民衆を相手に2人は駆け抜け、噴水広場から抜け出そうとするが既に周囲は正気を失った者達に囲まれており、逃げ場はない。

彼等の症状は明らかに前回の剣乱武闘が崩壊し、街中を暴れ回っていた冒険者たちと同じであり、何者かに洗脳されている。恐らく、前の時と同じ手順で操られている可能性が高く、彼等の首元にはあの忌々しい黒蛇の紋様が浮かんでいた。



(前回は気絶させれば洗脳は解けましたが……相手は一般人、無闇に手を出すわけには……)



前回の時は洗脳された者達は腕利きの冒険者であり、非常事態という事もあったので手荒ではあるが彼らを力ずくで鎮圧したが、今回の相手の殆どは何の罪もない一般民衆であり、しかも数が多い。少なくとも100名近くの人間が集まっており、中には子供や老人も含まれる。

相手が冒険者や兵士の類ならば気絶させることに躊躇しないが、相手が一般人となると話は別であり、洗脳されているとはいえ彼等に危害を加えるのは避けたい。しかし、他に洗脳を解くには聖属性の魔法で正気に戻す方法だけだが、ジャンヌ1人では全員に対処しきれない。


「拙者の部隊を動かして脱出するでござる‼」
「待ってください‼ ここで逃げたとしても、操られているこの方たちを放っておくわけには……」
「そうは言われても……他に方法があるのでござるか⁉」

 
懐から筒状の道具を取り出し、仲間を呼び出そうとしたカゲマルを止める。だが、このままではジャンヌたちが一方的に不利であり、既に2人は完全に囲まれており、洗脳された人間達が勝ち誇るかのように笑みを浮かべながら接近してくる。


「仕方有りません……まずはこの広場から抜け出します。私が合図したら肉体強化で抜け出してください」
「それならこれを使うでござるっ‼」


そういうとカゲマルは一枚の札を取り出し、ジャンヌが見たことも無い紋様が表面に描かれており、仮にレノがこの場に居ればその札に書いてある文字が旧世界の漢字で「閃光」と読み取る事が出来ただろう。


「ジャンヌ殿、目を瞑るでござる‼」
「は、はいっ‼」



――カッ‼



言われるがままに彼女は瞼を閉じると、カゲマルは札を地面に向けて叩き付け、次の瞬間にまるで閃光弾が炸裂したかのような光に覆われ、周囲を囲んでいた民衆が悲鳴を上げる。


「うがぁっ⁉」
「め、目がぁっ……」
「今の内でござる‼」


事前に視界を閉じていたジャンヌはカゲマルの言葉に反応し、すぐに瞼を開いて彼女と共に肉体強化を発動させ、その場を跳躍する。レノの様なハーフエルフではない彼女達では身体能力を強化させてもそれほどの超常的な力は発揮できないが、それでも民衆を飛び越えて広場を抜け出すことに成功した。


「くっ……待て‼」
「うおおっ‼」
「逃がすかっ‼」


一気に民衆が押し寄せ、彼等の行動に一貫性はない。大勢で追跡するにも関わらず、他の者を出し抜いて捕まえようとする姿を確認し、ジャンヌは洗脳された人間達には仲間意識がない事を確認する。

このまま逃げるだけでは洗脳された人間達が、他の一般民衆に被害を与える可能性も高いが、今の状況では良案が思いつかない。


「もう少しでポチ子殿達の元に到着するでござるよ⁉」
「くっ……」


まだ打開策を思いつかない内にポチ子とコトミ、そして隠密部隊が隠れている指定の場所まで移動してしまい、彼等は噴水広場の近くに存在する廃家に潜んでいるはずだが、異変に気付く。


「あれは……」
「煙⁉」


コトミたちが待機しているはずの廃家から黒煙が漂い、すぐに2人は敵の手が先回りしていたのかと驚愕したが、


ズドォオオオンッ‼


「で、出られました……げほっ‼ げほっ‼」
「……助かった」


直後に廃家の出入口の扉が勢いよく吹き飛ばされ、中からコトミとポチ子が姿を現し、外に出た途端に激しく咳き込む。続けて黒装束の集団が続々と外に逃れ、室内で待機しているはずの全員が出てきたことに驚愕し、慌てて2人は彼等の元に駆け込む。


「だ、大丈夫でござるか⁉」
「何があったんです‼」
「あ、ジャンヌさっ……わふぅっ⁉」


ドドドドッ……‼


こちらに向けてジャンヌとカゲマルが駆けつける姿にポチ子たちが視線を向けると、彼女たちの後方から100人近くの一般人が追跡している事を確認し、ポチ子が驚いたように犬耳と尻尾を逆立てる。


「待てぇっ‼」
「それを渡せぇっ‼」
「俺の物だぁっ‼」
「本当にしつっこいでござる‼」


追いかけてくる民衆にジャンヌとカゲマルは本当に一般人なのかと思うほど、異様なまでに足が早い彼等に冷や汗を流す。ポチ子たちは何が起きているのか理解できず、一先ずは全員が逆方向に走り出す。


「な、何が起きてるんですか⁉」
「……走るのは苦手」
「言っている場合じゃないでござる‼」
「「「…………」」」
「ま、前々から思っていたんですが、どうしてこの方たちは喋らないのですか⁉」
「隠密部隊は無闇に情報を打ち明かさない様に、普段は必要最低限の言葉以外は喋らない様に躾けているでござる‼」


全員が合流し、追いかけてくる民衆から逃げるために街路を疾走し続ける。騎士風の女性達に黒装束の集団が共に駆け出し、それを追うように一般民衆が全力疾走する光景はなんともシュールではあるが、ジャンヌ達は走りながら御互いの事情を説明する。


「これこれこういう訳(状況説明)で、拙者たちは逃げているのでござるが……先ほどの煙は何でござる⁉ 敵襲でござるか⁉」
「あ、いえ……家の中に竈があったんで、お腹も空いていたのでなにか料理出来ないかと調べていたら、いきなり竈の中に設置されていた火属性の魔石(ガスの代用品)が暴発してしまって……」
「……用意周到な罠だった」
「いや、それは罠ではないと思いますが⁉ 明らかに自業自得ですよ⁉」


先ほどの黒煙の原因がポチ子たちの不注意だったことに驚く一方、ジャンヌは後方を振り返る。いい加減に何人かが疲労で立ち止まっていいはずだが、民衆は疲れた様子も見せずに追跡しており、これも洗脳の効果なのかと額に汗を流す。

現在、ジャンヌたちが移動しているのは人通りが少ない通り道であり、まだこちら側は復興が完全には再興しておらず、住民の姿も少ない。逃げるだけならば都合がいいのだが、このままでは一向に問題は解決しない。


「……仕方有りません。応戦しましょう‼」
「い、いいんでござるか⁉ 相手は一般人でござるよ⁉」
「……戦いは非常、自分を殺そうとする相手なら誰であろうと容赦しない……と、レノが言ってた」
「いや、手加減はしてくださいね? 相手を気絶させるだけでいいですから‼」
「……了解」


全員が立ち止まって武器を身構える中、逃走を中止した彼等に反応したように追跡してきた人間達も立ち止まり、人数差は5倍ほどあるが相手は洗脳されただけの一般人であり、ジャンヌたちに分があるように思えるが、



「行きまっ――⁉」



先頭にいたジャンヌが号令を掛けようとした瞬間、反対側に立っている男の1人が懐から武器らしきものを取り出し、全身が黒色で統一された筒状の道具であり、ジャンヌはその形状を見た瞬間に目を見開き、バルトロス王国の大将軍の彼女しか扱えない武器が脳裏に浮かび、



――ズドォンッ‼



周囲一帯に発砲音が響き渡り、男が両手に握りしめた「拳銃」から硝煙が舞い上がり、ジャンヌの身体が崩れ落ちた――
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