種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

義弟

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「どうして……お前が」
「生きているのかって?」


レノの目の前に立つ枯葉の森の洋館で死亡したと思われた「ディン」は自嘲気味の笑みを浮かべ、そのまま弓矢を構える。明らかにレノに対して敵意を抱いており、数年ぶりに再会した義弟の姿に彼は後退り、一体何が起きたのか問いただす。


「あの時……何があった? 今まで何処に……」
「……兄ちゃんは何も知らされていないんだな、俺等がどんな目に遭ったと思う? あんたを誘き寄せる人質として、俺達は奴等に連れていかれた。教えてやるよ……お前のせいでどれほど苦痛の日々を味わったのかをなっ‼」



―――ディンがゆっくりと過去の事を語り始め、あの日の出来事を騙る。時期的にはホムラが枯葉の森の洋館に忍び込む少し前に森人族の「影」が現れ、レノを誘拐するために訪れたという。



ムメイは楔の一族であるレノを確保するため、森人族の刺客を送り込み、枯葉の森にレノが所属している黒猫盗賊団が存在する情報を入手する。森の外に追放したレノをどうして引き戻そうとしたのかというと、当時に集落に拘束されていたフレイがある病気に犯され、一時的に命の危機が迫っていたからだという。

楔の一族であるフレイが亡くなればバジリスクの封印を解く際に不都合が生じるため、ムメイはレノを保険代わりとして連れ戻す事を決め、森人族の「長老会」という組織に依頼して影を送り込んだらしい。

しかし、結果は影が洋館に辿り着く前にレノは街の方に出向いており、館に残されていたのは幼い人間の子供達だけだった。影たちは彼等を人質に洋館に待機してレノの帰りを待っていたが、予想外にもホムラの出現によって計画が狂わされ、彼等は子供たちを連れ出して退避を免れなかったという。

結局、その後はホムラから生き延びたレノはクズキによって救助され、そのまま消息が掴めず。彼等は折角確保したアル、エル、ディンの三人の子供達も使い道が無くなり、だからと言って森人族の掟で他種族であろうが子供を殺すことは禁じられているため、彼等は奴隷という形で教育を行う。



そして数年の月日が経過し、一番年上のアルが2人の義弟を連れて森人族の集落から抜け出そうとしたが、直前でアル以外の2人が影に捕まってしまい、脱走を試みた罰として深淵の森に送り込まれ、彼等は森人族の影として再教育を施される。



残されたエルとディンだが、元々病弱だったエルは長い奴隷生活に耐え切れず、呆気なく朝の水汲みの最中に死亡してしまった。残されたディンは一気に2人分の奴隷の仕事を押し付けられ、過酷な人生を送ったという。

だが、バジリスクの復活によってムメイが深淵の森の集落を放棄する機会が訪れ、その隙に「長老会」と呼ばれる組織に加入して森人族の影として活動していたアルによって保護された。その後は彼の指導の下で一流の暗殺者に育て上げられ、組織内でも一目置かれる存在に成長したという。



――現在の2人は森人族代表のレフィーアの直属の影として仕えているが、今回は彼等の所属している長老会という組織の任務により、自分たちの目的のために邪魔な存在であるレノと対峙した形になる。



全ての話を聞き終え、レノは黙り込み、まさか自分のせいで三人の義弟がそこまで酷い過去を送っていたことに衝撃を隠せず、そんな彼にディンは弓矢を構える。



「言っておくが、僕は別に兄ちゃんに同情してもらいたいわけじゃない。確かにあんたが切欠で酷い目に遭わされたとは想っていたが、今はそれなりに今の仕事を楽しんでるんでね」
「……どうして、もっと早く知らせてくれなかった」
「必要ないからさ。もう、僕とアルもあんたとは赤の他人さ。バルの姉さんには色々と世話になったが、今の僕たちの居場所は長老会なのさ」


ディンは建物の下に視線を向け、カゲマルたちの行動を伺う。レノが何も行動を移さないせいか、彼女達は黙って見守っていた。


「……話はここまでだ。あんたのせいで同僚を殺す羽目になったからな……悪いが、ここであんたとの兄弟の縁を完全に断ち切らせてもらうぜ」


それだけを告げるとディンは弓に矢を番え、レノに構える。その瞳には決して憎悪心は存在せず、あくまでも自分の仕事の都合上で悪い相手と判断したからこそ、レノを抹殺する意思が見られた。

変わり果てたディンの姿にレノは動揺し、どうしてこんな事に起きたのか理解できないが、少なくとも目の前の彼が自分の事を殺そうとしている事は間違いなく、身構えようとした時、不意にディンが苦悶の表情を浮かべる。


「あぐっ……!?」
「ディン?」
「まさか……レノ殿‼ その者は怨痕を宿しているでござる‼」
「怨痕……」
「くそっ……早すぎるだろ……‼」



ディンの額には黒蛇を想像させる紋章が浮かび上がり、彼の瞳の色が赤く変化する。そんな彼の変化にレノは驚愕するが、すぐに右手の甲から違和感を感じ取る。この感覚はアイリィから刻まれた聖痕を吸収する紋様が発動した時と同じ感覚であり、彼女の浄化と共にその力は失われたはずだが、どういう事か目の前のディンからあの悪しき力が感じ取れる。


「まさか……ディン、お前……⁉」
「よそ見、すんあ‼」


ズドォンッ‼


至近距離から弓矢が放たれ、レノは咄嗟に頭を下げて躱すが、先ほどの影達を始末した事を考えても矢には何らかの毒、もしくは呪詛と似通った力が封じ込めらているのは間違いなく、直撃したらたたでは済まない。


「おらぁっ‼」
「くっ……⁉」


続けざまにディンは矢を放ち、それらを紙一重で躱しながらレノは屋根を駆け抜ける。後方からはディンが矢筒から次々と矢を射抜き、執拗に攻撃を仕掛ける。


「レノさん‼」
「助太刀するでござる‼」
「……助けるっ」
「てめえらは大人しくしていろ‼」


レノを助けるために屋根の上に駆け付けようとしたカゲマルたちにディンは怒鳴り声を上げ、そのまま左手を上けた瞬間、


「お前等‼ 出て来い‼」



バリィンッ‼



彼の言葉を合図に周囲の建物の窓から7、8人ほどの黒装束の集団が現れ、カゲマルたちを取り囲む。これほどの仲間がいた事に驚く暇もなく、彼等は武器を振るいあげて襲い掛かる。



「くっ⁉」
「わふっ⁉」
「……邪魔」



カゲマルたちが新手の影と応戦する間、レノはそれを確認してディンと向き直り、咄嗟に右の掌を構えると、彼は笑みを浮かべる。



「そうこなくっちゃな……思えば、あんたと兄弟喧嘩なんて初めてだな」



ディンは距離を開いて弓矢を構え、レノが動く前に彼の身体に矢を射抜く自信はあったが、



「嵐弾‼」
「なっ――⁉」



ズドォンッ‼



一瞬にしてレノはディンの眼前にまで接近し、そのまま嵐の弾丸をディンの腹部に放つと、彼は大きく吹き飛ばされる。その隙にレノは屋根の上から地上に降り立ち、カゲマルたちを取り囲む黒装束の集団に目掛け、地面に掌を合わせる。



「地雷‼」



ドォオオオオンッ‼



「「ぐあぁああああああああっ⁉」」



次の瞬間、地面に無数の電撃が拡散し、カゲマルたちを取り囲む黒装束の集団の足元に電流が移動し、そのまま感電させた。
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