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真章 〈終末の使者編〉
晴天
しおりを挟む「……いや、威力強すぎでしょ」
「何しろ砲弾の製作費だけでもアトラス金貨一枚分の出費だからね……にしても、アイリィ君の設計図を基に作り出したとはいえ、これほどまでの威力があるとは……」
「最早、カラドボルグ級じゃん」
レノ達は浮海に沈んでいく嵐水竜の死体を確認し、いずれは雲の下の海面に落下するだろう。アルト達が現在どこの海域に流されているのかは分からないが、もしかしたら嵐水竜の死骸が海に落ちる場面を遭遇するかもしれない。
『うわわっ⁉ け、煙が⁉』
あまりのフランイングシャーク号の超魔導大砲の威力に全員が冷や汗を流す中、最早ここまできたら現代版の聖遺物と言っても過言ではない。但し、その分に代償も大きかったのか口元の砲門からは黒煙が湧き上がり、艦内にカノンの焦った声の無線が流れる。
「ふむ……まだ試作品だから、色々と不備があったのかも知れないな。彼女が心配だから少し様子を見て来るよ」
「いってらっしゃい」
ホノカが砲台の様子を確かめるために立ち去り、その間にレノは嵐水竜が消え去った浮海を確認し、すぐに異変が気付く。
「雲が……」
「消えていきます⁉」
「これは……大雨期が終わりを迎えたのか?」
レノ達の視界に広がる浮海が徐々に薄れ、やがては周囲一帯を覆っていたはずの雨雲が拡散し、いつしか先ほどの光景が嘘のような晴天が広がる。先ほどまでは雲によって遮られていた海面が下方に広がっており、何時の間にか大陸側にまで移動していたのか陸地まで見える。
「ここはどの辺りなんでしょうか?」
「さあ……無我夢中で逃げてたから」
「あ、あれ見てください‼」
ポチ子がある方向を指差し、全員が視線を向けると海面の上に巨大な氷塊と艦隊で生み出された「船島」を発見し、先ほどの雨雲の影響で津波が発生したとアルトから聞いていたが、まさかここまで流されていたとは想定外である。
当初の海域から随分と大陸側に流されており、折角陸地から離れた場所に造り出したにも関わらず、これではあまり意味を為さない。それでも大雨期が完全に終わりを迎えた事はこちら側にも有利な事であり、もう船上で洪水等を恐れずに済む。
「あ、あそこに港町が見えます‼」
「あれは……アリーゼじゃないか⁉ こんなところまで流されたのか⁉」
「また、面倒くさい事になったな……」
船島から1、2キロほどに離れた場所には港町アリーゼが存在し、これではわざわざ被害が出ない様に離れた海域に船島を作り出した意味がない。
「くそっ……これでは皆の努力が無駄になったに等しいじゃないか‼」
「それでも沈没していない以上は救いはある。港町に随分と近づいたけど、まだ戦えない事もない」
「しかし……距離が近すぎます。敵を上手く船島に誘き寄せたとしても、港町がリバイアサンが熱線の射程距離に入ります」
ジャンヌの言葉通り、作戦通りに海王石でリバイアサンを船島に呼び寄せたとしても、この程度の距離ではリバイアサンの熱線の射程距離内に十分に港町が入っており、下手をしたら町が吹き飛ばされてしまう可能性が高い。
「でも、これ以上は時間を掛けられないんでしょ? だったら覚悟を決めないといけない」
「しかし……今から港町の住民を避難させるにしても時間が掛かり過ぎます。それに住民全員を避難させたとしても、港町が破壊されれば彼等は帰る居場所を失ってしまいます」
「それなら予備の作戦プランでいけばいい」
「ぷらん?」
万が一の場合も考え、アルト達は事前に「船島作戦」以外にもリバイアサンを討伐する方法を考えており、その中には大雨期を迎えて海岸側で戦う事も想定し、海面を凍らせて足場を造りだした後に森人族の魔法で氷塊の上に植物を植え付け、滑りにくいようにさせてから魚人やリバイアサンと戦う方法も考えられている。
今回の船島作戦は最も成功率が高いと考えられて実行されたが、ここまで流された以上はこの船島でリバイアサンと魚人たちを誘き寄せて戦闘に入るしかないだろう。港町アリーゼからそれほど離れていない位置に存在するのが難点ではあるが、泣き言は言っていられない。
「ともかく、一旦アルト達と合流しよう。船で避難しているんだっけ?」
「ウォンッ‼」
ウルが鳴き声を上げ、振り向くと彼が鼻先で港町に向かって移動している巨大な木造船を指し示し、頭を撫でやりながら見下ろす。
「うわっ……どんだけでかいんだ?」
「この飛行船よりも大きいかもしれないな……」
「巨大船アトランティス号ですね‼ あの船は巨人族に数百年間も伝わる船なんですよ‼」
「流石は伝説マニア」
若干興奮したようにレミアが説明を行い、レノ達は全長400メートルを越える巨大な船を確認し、外見は現実世界の教科書で見た「黒船」と似ている。看板にはこちらを見上げている六種族の姿が確認され、その中には代表たちの姿も確認できる。
「あ、アルトだ……なんか気分悪そう」
「この距離から見えるのか⁉」
「ハーフエルフは視力も良いよ」
「……というより、レノが目が良い」
珍しいコトミのツッコミを聞きながらも、レノは肉体強化も使用して視力を上昇させ、甲板の様子を確認する。飛行船が珍しいのか、誰もが驚愕の表情を浮かべながら見上げており、森人族の老人たちに至っては腰を抜かしている者もいる(外見は空を飛ぶ巨大なサメのため、船上で喚き散らす者までいる)。
船の船首には顔色が悪いアルトとレフィーア、その隣でダンゾウとミズナが2人の背中をさすっており、獣王が呆れた様子で彼らを見つめている。どうやら最初の2人は激しい船酔いを起こしており、他の代表達に介抱されているようだ。
「アルトもレフィーアも船に弱かったのか……まあ、あんまり乗る機会なんかないか」
「巨人族と、獣人族はそうでもない。よく、船に繰り出しては魚を取ってくる」
「へえ……だからあんなにでかい船も持っているのか」
「あの船は伝説の海底都市アトランティスに造りだされた伝説の船だぞ?レノも学園に居たときに習っただろう?」
「歴史の授業は単位低かったから……」
言われてみればクズキが授業中にそのような事を説明していたような気がしないでもないが、随分と昔の話なのであまり覚えていない。一応は大将軍ソフィアと副団長レノに昇格してからこの世界の勉強も今更ながらに行っているが、まだまだ歴史に関する知識は疎い。
リノンとレミアの話によると、巨人族は複数の巨大船を所持しており、そのどれもが特別な製法で生み出され、数百年もの間も使用され続けているという。船島作戦に利用されたアルカディア号は最近に造りだされた船であり、それでも巨人族が1年がかりで生み出した代物だという。
「そういえばこの飛行船はどれくらいで造られたんだろ?」
「この船は半年ほどで完成したよ。最も、異世界人の職人を呼び集める事に時間が掛かったけどね」
「いたのかホノカ」
「あ、ホノカちゃっ……まっくろくろすけ⁉」
「ジブリ?」
後方から全身が煤だらけのカノンを抱えたホノカが現れ、わざわざ部下を使わずにここまで彼女を運んできたらしい。カノンは意識はあるようだが随分と疲弊している。
「ど、どうしたんですかカノン将軍⁉」
「その恰好……もしや事故に遭われたんですか⁉」
「いや、砲台が壊れたのは事実だが、彼女の場合は砲撃に集中し過ぎて精神消耗が激しいみたいだ」
「絶対に外してはならないと言われたので……」
どうやら身体自体は何ともないようだが、自分が外したら皆が殺されるという重圧に精神の方が消耗し、レミアとリノンが彼女を抱える。
「砲台の方はどうだった?」
「修理に大分かかりそうだね。部下の話によると、あと三日はかかるそうだ」
「マジか……」
リバイアサンとの決戦前に有効そうな兵器が使用不可となり、ますますこちら側に不利な状況に陥る。
「何しろ砲弾の製作費だけでもアトラス金貨一枚分の出費だからね……にしても、アイリィ君の設計図を基に作り出したとはいえ、これほどまでの威力があるとは……」
「最早、カラドボルグ級じゃん」
レノ達は浮海に沈んでいく嵐水竜の死体を確認し、いずれは雲の下の海面に落下するだろう。アルト達が現在どこの海域に流されているのかは分からないが、もしかしたら嵐水竜の死骸が海に落ちる場面を遭遇するかもしれない。
『うわわっ⁉ け、煙が⁉』
あまりのフランイングシャーク号の超魔導大砲の威力に全員が冷や汗を流す中、最早ここまできたら現代版の聖遺物と言っても過言ではない。但し、その分に代償も大きかったのか口元の砲門からは黒煙が湧き上がり、艦内にカノンの焦った声の無線が流れる。
「ふむ……まだ試作品だから、色々と不備があったのかも知れないな。彼女が心配だから少し様子を見て来るよ」
「いってらっしゃい」
ホノカが砲台の様子を確かめるために立ち去り、その間にレノは嵐水竜が消え去った浮海を確認し、すぐに異変が気付く。
「雲が……」
「消えていきます⁉」
「これは……大雨期が終わりを迎えたのか?」
レノ達の視界に広がる浮海が徐々に薄れ、やがては周囲一帯を覆っていたはずの雨雲が拡散し、いつしか先ほどの光景が嘘のような晴天が広がる。先ほどまでは雲によって遮られていた海面が下方に広がっており、何時の間にか大陸側にまで移動していたのか陸地まで見える。
「ここはどの辺りなんでしょうか?」
「さあ……無我夢中で逃げてたから」
「あ、あれ見てください‼」
ポチ子がある方向を指差し、全員が視線を向けると海面の上に巨大な氷塊と艦隊で生み出された「船島」を発見し、先ほどの雨雲の影響で津波が発生したとアルトから聞いていたが、まさかここまで流されていたとは想定外である。
当初の海域から随分と大陸側に流されており、折角陸地から離れた場所に造り出したにも関わらず、これではあまり意味を為さない。それでも大雨期が完全に終わりを迎えた事はこちら側にも有利な事であり、もう船上で洪水等を恐れずに済む。
「あ、あそこに港町が見えます‼」
「あれは……アリーゼじゃないか⁉ こんなところまで流されたのか⁉」
「また、面倒くさい事になったな……」
船島から1、2キロほどに離れた場所には港町アリーゼが存在し、これではわざわざ被害が出ない様に離れた海域に船島を作り出した意味がない。
「くそっ……これでは皆の努力が無駄になったに等しいじゃないか‼」
「それでも沈没していない以上は救いはある。港町に随分と近づいたけど、まだ戦えない事もない」
「しかし……距離が近すぎます。敵を上手く船島に誘き寄せたとしても、港町がリバイアサンが熱線の射程距離に入ります」
ジャンヌの言葉通り、作戦通りに海王石でリバイアサンを船島に呼び寄せたとしても、この程度の距離ではリバイアサンの熱線の射程距離内に十分に港町が入っており、下手をしたら町が吹き飛ばされてしまう可能性が高い。
「でも、これ以上は時間を掛けられないんでしょ? だったら覚悟を決めないといけない」
「しかし……今から港町の住民を避難させるにしても時間が掛かり過ぎます。それに住民全員を避難させたとしても、港町が破壊されれば彼等は帰る居場所を失ってしまいます」
「それなら予備の作戦プランでいけばいい」
「ぷらん?」
万が一の場合も考え、アルト達は事前に「船島作戦」以外にもリバイアサンを討伐する方法を考えており、その中には大雨期を迎えて海岸側で戦う事も想定し、海面を凍らせて足場を造りだした後に森人族の魔法で氷塊の上に植物を植え付け、滑りにくいようにさせてから魚人やリバイアサンと戦う方法も考えられている。
今回の船島作戦は最も成功率が高いと考えられて実行されたが、ここまで流された以上はこの船島でリバイアサンと魚人たちを誘き寄せて戦闘に入るしかないだろう。港町アリーゼからそれほど離れていない位置に存在するのが難点ではあるが、泣き言は言っていられない。
「ともかく、一旦アルト達と合流しよう。船で避難しているんだっけ?」
「ウォンッ‼」
ウルが鳴き声を上げ、振り向くと彼が鼻先で港町に向かって移動している巨大な木造船を指し示し、頭を撫でやりながら見下ろす。
「うわっ……どんだけでかいんだ?」
「この飛行船よりも大きいかもしれないな……」
「巨大船アトランティス号ですね‼ あの船は巨人族に数百年間も伝わる船なんですよ‼」
「流石は伝説マニア」
若干興奮したようにレミアが説明を行い、レノ達は全長400メートルを越える巨大な船を確認し、外見は現実世界の教科書で見た「黒船」と似ている。看板にはこちらを見上げている六種族の姿が確認され、その中には代表たちの姿も確認できる。
「あ、アルトだ……なんか気分悪そう」
「この距離から見えるのか⁉」
「ハーフエルフは視力も良いよ」
「……というより、レノが目が良い」
珍しいコトミのツッコミを聞きながらも、レノは肉体強化も使用して視力を上昇させ、甲板の様子を確認する。飛行船が珍しいのか、誰もが驚愕の表情を浮かべながら見上げており、森人族の老人たちに至っては腰を抜かしている者もいる(外見は空を飛ぶ巨大なサメのため、船上で喚き散らす者までいる)。
船の船首には顔色が悪いアルトとレフィーア、その隣でダンゾウとミズナが2人の背中をさすっており、獣王が呆れた様子で彼らを見つめている。どうやら最初の2人は激しい船酔いを起こしており、他の代表達に介抱されているようだ。
「アルトもレフィーアも船に弱かったのか……まあ、あんまり乗る機会なんかないか」
「巨人族と、獣人族はそうでもない。よく、船に繰り出しては魚を取ってくる」
「へえ……だからあんなにでかい船も持っているのか」
「あの船は伝説の海底都市アトランティスに造りだされた伝説の船だぞ?レノも学園に居たときに習っただろう?」
「歴史の授業は単位低かったから……」
言われてみればクズキが授業中にそのような事を説明していたような気がしないでもないが、随分と昔の話なのであまり覚えていない。一応は大将軍ソフィアと副団長レノに昇格してからこの世界の勉強も今更ながらに行っているが、まだまだ歴史に関する知識は疎い。
リノンとレミアの話によると、巨人族は複数の巨大船を所持しており、そのどれもが特別な製法で生み出され、数百年もの間も使用され続けているという。船島作戦に利用されたアルカディア号は最近に造りだされた船であり、それでも巨人族が1年がかりで生み出した代物だという。
「そういえばこの飛行船はどれくらいで造られたんだろ?」
「この船は半年ほどで完成したよ。最も、異世界人の職人を呼び集める事に時間が掛かったけどね」
「いたのかホノカ」
「あ、ホノカちゃっ……まっくろくろすけ⁉」
「ジブリ?」
後方から全身が煤だらけのカノンを抱えたホノカが現れ、わざわざ部下を使わずにここまで彼女を運んできたらしい。カノンは意識はあるようだが随分と疲弊している。
「ど、どうしたんですかカノン将軍⁉」
「その恰好……もしや事故に遭われたんですか⁉」
「いや、砲台が壊れたのは事実だが、彼女の場合は砲撃に集中し過ぎて精神消耗が激しいみたいだ」
「絶対に外してはならないと言われたので……」
どうやら身体自体は何ともないようだが、自分が外したら皆が殺されるという重圧に精神の方が消耗し、レミアとリノンが彼女を抱える。
「砲台の方はどうだった?」
「修理に大分かかりそうだね。部下の話によると、あと三日はかかるそうだ」
「マジか……」
リバイアサンとの決戦前に有効そうな兵器が使用不可となり、ますますこちら側に不利な状況に陥る。
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