種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

船島

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「大船同士を繋げる? そんな事が可能なのか?」
「繋げるというよりは船同士を接合させると言った方がいいかな……森人族の魔法で木造の船を一時的に活性化させ、船同士を繋げる手筈になっている。この「船島作戦」でリバイアサンを討伐する」
「船島……?そんな事が本当に可能なのか?」
「なるほど」


皆が首を傾げる中、レノだけは納得したように頷く。大分昔の話だが「樹の聖痕」を宿していたアルファの事を思い出し、彼は自在に植物を操っていたことを思い出す。恐らくは一部の森人族は植物を操作する魔法を覚えており、アイリィも樹の聖痕の力で水人華を一気に成長させた時もあった。

アルトによれば流石に樹の聖痕ほどの力は発揮できないが、大多数の森人族が力を合わせれば既に加工された木材だろうが一時的に成長させる事も可能であり、木造の船に力を注ぎ込めば新しい樹木が誕生し、船同士を成長させた樹木を絡み合わせる事で固定させる。

実際にそんな事が出来るのかとレフィーアに問い質した所、彼女が1000人規模のエルフを動員させれば不可能ではないと約束してくれた。但し、一度加工された木材を活性化させるには相当の時間が必要らしく、それに船同士を結合させればもう元の状態には戻せないらしい。


「船同士を繋げてリバイアサンや魚人との戦闘の足場を固定するんだな? 確かにその方法なら繋げた船同士が揺れをある程度は軽減させてくれると思うが……それでもこちら側に不利な事に変わりはないな」
「大船を連結させる作戦は良いのですが……完全に揺れが収まるわけじゃない。船上での戦闘に慣れていない私達が不利な事に変わりはないな……」
「この作戦には続ぎがあるんだ」


アルトは決戦場の海域を指差し、今度は船の周囲を塗りつぶし、右側に矢印を書き込んで「氷結」と書き込む。


「森人族の力で艦隊を接合させ、そして空を飛べる人魚族が上空から魔法を展開して周囲一帯の海面を凍らせる。そうすれば、より一層に足場が固定されて戦いやすくなる」
「凍らせるって……そんな事も出来るの?」
「氷属性を習得した一部の人魚族の方々には既に協力を申し込んである。ただ、この方法だとどれほど頑張っても半日以上は必要らしい」
「その際は私もナナを憑依させて手伝います」



船同士を接合させ、さらには海面を凍らせてしまえば、例え船上でも陸上で動くのと変わらないほどに足場が固定される。しかし、この作戦には色々と不安要素も多い。

まず、この海域に大量の大船を集めること自体が難しく、現在の王国は50隻程度の船しか所有していない。他の種族も似たり寄ったりであり、この海域に動かせる船を全て移動させるだけでも半日は必要らしい。特に巨人族や獣人族、魔人族の場合は位置的に遠いため、それぞれの領土で船を出航させるにしても数日の時が必要とし、戦場となる船は王国軍が全て用意しなければならない。

但し、その分に他の種族も他方面での協力を約束し、巨人族は食料品を、獣人族は火炎石(魔王討伐大戦で使用された魔石)と呼ばれる火属性の魔石を用意する事を約束し、魔人族はライオネル自らが出向いて精鋭部隊を引き連れてくることを約束する。


「海面を凍らせておけば魚人たちも出現する場所が限られてくるだろう。だが、この方法だと周囲を取り囲まれる危険性がある」
「それでも足場がしっかりとしているなら私達に分がある。揺れる船上と比べれば十分に戦えるな」
「ですが……リバイアサンの熱線はどう対処するのですか? あれを我々に目掛けて放出されてしまったら、折角用意した足場も破壊されてしまいます」


リバイアサンの熱線はゴーレムキングを遥かに規模も火力も上回る砲撃であり、仮に海面を凍らせようが船同士を樹木で接合させようが、あの一撃を真面に直撃すれば一たまりも無い。船は焼却され、氷結させた海面も蒸発し、全滅は免れないだろう。


「その点については僕たちも頭を悩ませたが、ここは盗賊王ホノカに協力してもらう。2機の飛行船を用意してもらい、上空から魔導大砲で牽制してもらう。話を聞いたところ、熱線を放出させるまでに幾分かの時間が必要と聞いているから、その間に魔導大砲を被弾させればリバイアサンだろうと放射できないはずだ……恐らくは」
「最後の一言が物凄く不安を感じるんですが……」
「となると、魔導大砲を発射する人間の技量が試されるな」
「わ、私が皆さんの命を握る事になるかも知れないのですね……自信はありませんが、全力を尽くします」
「教官なら、大丈夫だ。俺達は信じている」
「貴女以上に頼りになる人なんていません。私達は教官の腕を信じています‼」
「ゴンゾウ君……リノンさん」


魔導大砲の発射係を任命されたカノンが責任重大であり、そんな彼女にゴンゾウとリノンが励ますように声を掛ける。元教え子だった二人の言葉にカノンは感銘を受け、期待を背くわけにはいかないと彼女は力強く頷く。


「それで、作戦の決行日まで俺達が出来る事ってないの?」
「そうだな……船の手配と必要物資は既に準備させているが、実は浮揚石が不足しているんだ。王国や他種族が保存している浮揚石を回収してきてほしいんだが……」
「さっきから何度か言ってるけど、浮揚石ってなに?」
「物体を浮き上がらせる能力を持つ魔石です。加工によって大きく浮力が変化し、大きな船や飛行船などにも使われていますね。あの放浪島も過去に魔王によって数十万の浮揚石を仕掛けられ、浮き上がったと言われています」


先ほどから名前が出ている浮揚石という言葉にレノは首を傾げるが、隣にいたレミアが説明を行う。すぐにレノは魔王リーリスが地下迷宮の地下三階層に生息する魔物達を地上から隔離するために仕掛けた事を思い出す。


「浮揚石は巨人族の領土で発掘されているんだが……大雨期の影響で鉱山の発掘が中断されている。それで不足分の浮揚石を別の所から回収しないといけないんだが……問題なのが発掘できる場所だ」
「というと?」
「……巨人族の鉱山以外で浮揚石が発掘される場所は限られている。そして、その中の1つが僕たちも一度だけ訪れた事がある場所だ」
「勿体つけずに早く言ってよ」
「……その場所というのが、放浪島の地下迷宮なんだ」


地下迷宮という言葉にカノンとレミアは首を傾げるが、その他のメンバーは驚愕する。まさか、再びこの状況でその単語を耳にするとは思わず、何人かがレノに視線を向ける。彼は恐らくは歴史上でも唯一と言っていいほどの地下迷宮に住んでいた人間(ハーフエルフ)であり、アルトの発言にどんな反応を返すのかと皆が息を飲む。


「ふ~ん……そうなんだ。あそこにそんな物あったのか……」


特に反応らしい反応を示さず、逆にアルト達が呆気に取られる。レノとしては別に地下迷宮に対して強い思い入れは無く、自分が成長した場所である事には間違いないが、それ以上の感想は無い。強いて言えば地下迷宮に残したミノタウロス(ミノっち)が元気にしているのか気になる程度だ。


「ず、随分と反応が薄いな……レノにとってはそれほど感慨深い場所じゃないのか」
「いや、それほどは……北部山岳の頃の方がきつかったし」


環境的には地下迷宮よりも北部山岳の方がきつく、出現する魔物は地下迷宮の方が圧倒的に種類が多く、ゴーレムなどの厄介な魔物も出現するが、どちらにしても今のレノならば特に問題が無い場所である。
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