種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

リバイアサン討伐作戦

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大雨期が経過してから6日目が経過し、大陸各地に降り注ぐ大雨は最高潮に達する。海岸側に存在する港町に配備された王国軍は連日に襲い掛かる魚人たちを撃退し続けたが、大雨によって地面は泥の海と化し、常時雨に打たれ続けながら魚人と戦闘を繰り広げた事で体調を崩す者も続出し、王国軍は一時的に撤退を余儀なくされた。

幸い、既に海岸側の領土の大部分の住民達は避難を終えており、港町アリーゼだけは避難を拒否した住民達が存在するが、この港町だけは一度も魚人の再襲撃がなく、とりあえずは王国軍は撤退を開始する。連日の激戦によって流石のゴンゾウたちも披露しており、転移魔方陣で帰還した彼等は医療魔導士の治療を受ける。

捕獲した魚人を実験したところ、どうやら魚人たちは陸に上陸した個体は一時間以内に必ず全身に「海水」で浸さなければ全身が異常に干からびて死亡する事が発覚し、少なくとも陸上したところで内陸側に攻め寄る事は出来ないと判断された。また、港町アリーゼに王国軍の戦力を集結させ、万全な体勢でリバイアサンの襲来を待ち構える。事前に配置されていたレノとリノンは王都に呼び戻され、ゴンゾウたちが休んでいる王城の医療室にてアルトから直接作戦内容を伝えられ、全員が驚愕する。


「――海戦を挑む⁉」
「そうだ……それが僕たちが出した結論だ」
「しょ、正気なのか? 相手は海の王者だぞ‼」
「分かっている……」
「むうっ……」
「むにゃむにゃ……」
「ごろごろ……」


王城の医療室にてゴンゾウたちがベッドの上に横たわり、レノが林檎を剥いて皆に差し出している最中にアルトが部屋に訪れ、先ほど決定した作戦を告げる。誰もがその内容に耳を疑い、よりにもよって相手の土俵で戦いを挑む事に驚愕を隠せない。


――作戦内容は大雨期が終わりを迎えた直後、王国軍と各種族の船を海に出航させ、そこで魔人族の「海王石」を囮にリバイアサンを誘き寄せて仕留めるという。


それを告げられた瞬間にリノンが声を荒げ、他の者達も神妙な表情を浮かべる。相手は海中を移動する化け物であり、明らかにこちら側が不利である。しかも、未知数の魚人達を従えており、慣れない船の上でリバイアサンと魚人の大群を同時に相手に出来る等、到底不可能にしか思えないが。


「僕たちは盗賊王、いやホノカさんが用意してくれた飛行船に乗船する。上空からリバイアサンに接近し、カノンが操作した魔導大砲で攻撃を仕掛ける用意は済んでいる」
「わ、私がですか?」
「君以上に適任はいないからね」


カノンが驚きの声を上げ、同時に全員が納得する。射撃という点においては彼女以上の逸材など存在せず、フライングシャーク号の魔導大砲も自在に扱えるだろう。彼女は銃以外の火器にも精通しており、魔導大砲も扱える。

だが、問題なのは魔導大砲では伝説獣に致命傷は与えられず、止めを刺すとしたら必ず聖剣の力が必要となる。カリバーンが頼れない以上、アルトのデュランダルとジャンヌのレーヴァティンが頼りだが、二つとも遠距離攻撃は苦手とし、その点も対抗策を考えなけれなばならない。

それに一番の問題点は相手側に有利な海上で戦闘を行う事であり、大量の大船を用意したところでリバイアサンには通じない。海中から攻撃されたら木造の船など簡単に破壊され、海に落ちた乗組員達は魚人たちの餌になるのは確実だろう。


「一体誰がこんな作戦を立てたんだ? 無謀にも程があるぞ……」
「すまない……だが、地上に誘き寄せる作戦はもう使えない以上、海の上で奴を叩くしかない」


既に大陸の海岸側では大雨の影響を受けて川が氾濫し、水没した地域も少なくはない。王国軍が早々に撤退したのもこれが原因であり、元の状態に戻るまでに最低でも一ヶ月以上は必要らしい。


「今までの襲撃の回数、そして大方の魚人の数を計算した結果、奴は一日に1000匹近くの魚人を生み出す事が判明した。時間を掛ければかけるほど、奴等は勢力を増やして脅威を増すんだ……それに影響を受けるのは僕たちだけとは限らない」
「どういう意味だ?」
「……生態系の崩壊。もしも、魚人たちが人間以外の生物を食すようになったら海の生態系に大きな影響が出るから」
「その通りだ……」


現在確認されているところ、魚人は人間のみを餌としている傾向が見受けられるが、もしも大量の魚人が海中の生物達も食していた場合、今までの生態系に大きな変化が訪れる。リバイアサンが毎日のように魚人を産卵し、そして生まれてきた無数の魚人たちが海中に存在する生物達の捕食を開始した場合、生態系が大きく乱れた場合、冗談抜きで世界規模で影響が生じる。

幸いなことに魔人族の資料によれば魚人の殆どは雄として生み出され、リバイアサンの体内に棲んでいる「女王種(クイーン)」と呼ばれる雌のみが卵を産卵できる。この個体は自分の寿命が終わりを迎える直前のみに雌の個体を生み出す傾向があり、必ず生まれてくる雌は一匹のため、爆発的に魚人たちが増殖する危険性は無い。

逆に言えば一匹の雌が1日に1000匹もの卵を散乱している事となり、そう考えるとある意味ではリバイアサンよりも厄介な存在かも知れないが、逆に言えばこの個体を打ち倒せばもう魚人たちが生み出される事は無く、リバイアサンと共に討伐出来れば問題ない。


「しかし……海上で戦うにしても、相当な犠牲を覚悟の上で望まなければなりませんね……」
「ほ、本当に他の案は無かったのですか? 私なら、ミキに憑依して空から戦えますが……」
「いや、この作戦には続きがあるんだ」


アルトはそこで笑みを浮かべ、全員が首を傾げる。すぐに彼は長机を用意させ、港町アリーゼの周辺の海図を広げる。ベッドから動ける者は全員覗き込む。ちなみにポチ子とコトミは仲良く隣同士で熟睡しており、起きる様子はない。

彼は羽ペンを取り出し、まずは港町アリーゼから矢印を書き込み、だいたい10キロほど離れた何もない海域に大きな円を描く。


「ここがリバイアサンとの決戦上だ」
「……この場所を指定した理由とかあるの?」
「アリーゼから出航すればそれほど時間は掛からない位置で、これだけ港町から距離があればリバイアサンの熱線の射程範囲外だからだ」
「なるほど」


先日に見せたリバイアサンの熱線は凄まじい威力だったが、確かにこれだけ離れていれば港町に被害が及ばないだろう。アルトは海図に描いた円の部分を指差し、事前に用意していたのか船の形をした木造の人形を並べる。


「これを一つ一つが船だと思ってくれ……まず、港町アリーゼに存在する全ての大船をこの海域に集中し、他の港町からも大船を集めさせる。途中、リバイアサンと遭遇する危険性もあるが、獣人族と巨人族、そして魔人族もこの海域に船を進めさせる事を約束してくれた」
「ここに六種族の船を集めてリバイアサンと決戦を挑むのか? しかし……」
「違う……いくら船を集めたところで、海中を移動するリバイアサンには通用しない。船底を破壊されればどんな大船だって沈んでしまうからね。だが……」



アルトは円の中に置いた船を横一列に並べ、そのまま左右に溝を生まない様に張り付ける。その行為に何人かが彼の作戦の糸に気が付き、驚きの声を上げる。


「……全ての船を連結させ、浮揚石を仕込めば例え船底を破壊されてもしばらくの間は海面に沈むことはない。例え、魚人たちが襲い掛かってきたとしても船同士を連結させて固定すれば船の揺れも大幅に解消されて十分に戦えるはずだ」


まるで現実世界の三国志演技の「赤壁」の戦で使用された「連環の計」を想像させる作戦内容にレノは感心する一方、三国志演技では船同士を鎖で繋げた事で火計を仕掛けられたため、逆に船全体に火が広がって敗北したことを思い出し、不安要素は拭えない。
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