種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

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「……胸部、損傷……」
「……まだ動けるのか」



レノは地面にめり込んだ状態の終末者を一瞥し、天属性の一撃を真面に喰らったにも関わらず、胸元に焦げ跡が出来た程度で大きな損傷を受けていない事に気付く。彼女の胸元を覆っていた装甲が破壊されただけであり、まだ余力は残っているのか逃走を試みようとする。

右腕の解放術式を使用し、今現在の魔力でもう一度同じ個所に攻撃を加えようとした時、唐突に右手を差し出し、指の部分が外れて内蔵された銃口が向けられ、



ズドォンッ‼



「危なっ‼」
「回避……」



咄嗟に終末者の右手を掴んで上空に押し除け、指先から発射された弾丸を回避する。レノは油断ならない終末者に対して胸元に掌を押し当て、



「雷撃‼」
「っ……⁉」



バチィイイイッ‼



駄目押しとばかりに電流を流し込み、そのまま彼女の瞳が点滅し、完全に動かなくなるのを確認する。やっと終わったのかと一息吐く暇も無く、レノの後方から慌ただしい足音が聞こえてきた。



「おいおい‼ 何の騒ぎだい⁉」
「ご無事ですか聖天魔導士様⁉」



やっとの事でワルキューレ騎士団のテンとその部下の女騎士達が姿を現し、裏庭の光景に目を見開く。明らかに普通ではない格好をした少女にレノが押し倒している形であり、一体何が起きたのかと彼女達は説明を求める。



「そいつが侵入者かい?」
「そうだよ……でも、もう終わった、のかな」
「奇怪な鎧を纏ってるね……というか、生きてるのかいこれ?」



レノが少女から離れると、テンが自慢の大剣を握りしめながら倒れこんでいる終末者の身体に刀身を押し当て、何も反応が無い事を確かめながら接近する。



「あ、気を付けて。しばらくは動けないと思うけど、まだ死んだわけじゃないから」
「こんな状態で生きてると思えないけどねぇ……あんた達‼ こいつを拘束しな‼」
「「はっ‼」」



女騎士たちが何処からか鎖を取り出し、以前にレノが装備していた銀の鎖と酷似した魔道具であり、魔術師を拘束するために製造された特別製の鎖である。そのまま彼女達は少女を拘束しようとするが、



「だ、団長‼ この女の子、想像以上に重いんですが⁉」
「も、持ち上がらない……⁉」
「はあ? 一体何を言って……ふんっ‼」



女騎士達が4人がかりで持ち上げようとするが、外見からは想像できないほどの重量であり、テンが自らで仕方なく起き上げようとするが、彼女の膂力ですらも少しだけ浮き上がらせる事しか出来なかった。



「な、何だいこの子……⁉ 重すぎるだろ⁉ 巨人族並じゃないかい……⁉」
「手伝おうか?」
「な、舐めんじゃないよ……‼ これくらい……ふんぬっ‼」
「憤怒?」



そのままテンは他の女騎士と共に少女の身体の上半身のみを起き上がらせ、額に汗を搔きながら鎖で拘束を行う。脱出できない様に雁字搦めに縛りつけ、そのままワルキューレ騎士団全員で鎖を引っ張り上げて少女を引きずる形で移動を行う。



「ふうっ……一応はこれで終わった……わけないか」



レノは後方を振り返り、崩壊した壁を潜り抜けながら大聖堂に移動する。中は終末者とセンリとレノの交戦によって荒らされており、修繕に時間が掛かりそうな光景に溜息を吐きながらも、探索を行う。

どうしてセンリが終末者とここで戦闘を行っていたのかと不思議に思いながらも、聖堂の様子を調べていると、不意に破壊された床の穴を発見して顔を顰める。



「……地下か」



床に出来た穴を覗き込み、どうやら大聖堂の地下に空間が広がっている事を確認し、レノは覗き込むと地下空間に無数の柱を発見し、大聖堂と同じ程度の広間が広がっている事を確認した。



「……あそこと似ているな」



そのまま降り立つと、この大聖堂と繋がっている例のレノが宝物庫代わりに使用している地下室を思い出し、この地下の空間も造りが酷似している。僅かな違いは無数の支柱が存在している事ぐらいであり、中央の方に何やら台座のような物が存在する。

レノはこの大聖堂にこのような地下空間がある事を初めて知り、もしかしたらセンリ達さえも知らない場所なのかもしれない。終末者がオルトロスが封印されている地下に侵入する前、どうして先にこの場所を訪れたのかが気にかかり、レノは右手に魔鎧を発動させて辺りを照らしながら円形の台座の方に近づき、随分と埃が被っているが、黒い箱のような物が設置されている事を確認する。



「……何だ?」



恐る恐る魔鎧で右腕を覆ったまま箱に触れてみるが、特に罠らしきものは発動せず、そのまま台座から取り上げても問題はない。埃を振り払い、調べてみたが材質は金属ではなく木製のように感じ取れ、開閉口は見当たらない。

レノの予想では恐らく終末者がこの大聖堂に訪れたのは、この地下空間の存在をセンサーで把握し、この台座に設置された黒い箱が目的だったのだろう。しかし、地下に潜る前に遭遇したセンリと交戦に入り、目的の物は入手出来なかったという考えるのが妥当だろう。



「これが鍵なのか?」



漆黒の箱を確認し、触れただけでは特別な力が宿っているのかが分からないが、とりあえずはセンリに相談するため、地下空間から抜け出して大聖堂に戻る。丁度、レノの事を探しに来たのか扉を開いたヨウカの姿があり、彼の顔を見た瞬間に笑みを浮かべる。



「あ、レノたん‼ 無事だったんだね⁉」
「ちょっと拳を怪我した」
「無事じゃなかった⁉」



慌てた様子でヨウカが接近し、少しだけ血が滲んでいる彼の両手を確認すると掌を差し向け、



「ほぁちゃあっ‼」
「その掛け声はどうかと……うおおっ⁉」



彼女の掌が薄く光り輝き、瞬時にレノの拳の傷が時間が巻き戻すように塞がれ、元の状態に戻る。確かめるように拳を握りしめ、痛みも無い事を確認しながらヨウカに視線を戻し、



「いい子いい子」
「わぁいっ♪」
「……羨ましい」



そのまま子供をあやすように頭を撫でやると、不意にヨウカの後ろから眠たそうな表情を浮かべたコトミが姿を現し、どうやらずっと後ろに隠れていたらしい。



「いたのかコトミン」
「……頑張り過ぎて少し眠い」
「コトミちゃん、ずっと怪我した人たちを治してたんだよ~」



どうやら2人とも終末者によって打ち倒された兵士たちの治療を行っていたらしく、相当数の人数が今も治療魔導士に治療中との事であり、終末者が聖天魔導士の屋敷を離れた時間帯を考えたとしても、せいぜい30分程度の間で随分と聖導教会総本部に大きな被害が出ていた事になる。

終末者が以前よりも警備が強められている教会内に侵入したのが問題であり、また警備を見直しをする必要がある。毎度襲撃されては警備を改めているつもりなのだが、こうも侵入する輩が多くては聖導教会の信用に関わる。



「……用件、伝える」
「あ、そうだった。えっとね、センリがレノたんを呼んでくれって」
「巫女姫なのに使いパシリにされたの?」
「パシ……? 良く分からないけど、すぐにワルキューレの訓練場に来て欲しいって」
「分かった。なら、一緒に行こうか」
「……おんぶ」
「はいはい。しょうがない子でちゅね~」
「……ばぶぅっ」



コトミが背中に抱き付き、そのままよじ登るようにしがみ付いて来たので仕方なく彼女を抱え込み、ヨウカが羨ましそうな瞳を向けてくるのを感じながらも、レノは総本部の中に存在するワルキューレ騎士団の訓練場に移動する。
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