種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

屋敷への襲撃

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魔王討伐大戦と名付けられた大戦から三カ月の時が経過し、聖天魔導士の屋敷には複数人の使用人と、何故かメイドとして居候しているデルタが雑務を行っていた。彼女はレノの命令で多忙のセンリの手伝いを行っており、屋敷の清掃を行っていた。

普段の彼女は屋敷内の管理を行い、基本的な家事は彼女に一任されている。もちろん、無駄に広すぎる屋敷なので彼女以外にも使用人は大勢要るが、殆どの仕事は彼女が1人で行っている。世界最高峰の技術で生み出されたアンドロイドはどんな仕事でも即座に対応し、裏庭に存在する花壇の手入れを行っていると、不意に自分の体内に内蔵されているセンサーに上空から飛行物体が接近してくることを察知する。



「飛行物体接近。この反応は……」



デルタはすぐに頭上を見上げ、上空から接近する飛行物体が視界に入る。その姿形に一瞬だが彼女の表情が曇り、すぐにいつも通りの無表情で眼の前に着地する相手を出迎える。彼女は背中に取り付けられたブースターを収納し、眼前に立つデルタに視線を向け、



「セカンドシリーズのデルタを確認。情報を提示しなさい」



それだけ告げるとデルタと瓜二つの外見をした少女は右手を前に差し出し、デルタはその両手に視線を向け、彼女が自分の所持しているデータの提供を求めている事に気づき、



「拒否します」
「理解不能。拒否の情報を提示を求めます」
「マスターの許可なく、私の内蔵されているデータを公開する事はできません。そして、貴女に私を命令する権利はありません」
「不可解」



少女は情報を提示しないデルタに首を傾げ、すぐに彼女の両耳に装着されているイヤホン型の機器を確認し、



「デルタは深刻なバグが発生したと判断。速やかに再起動を行い、私に情報を提示しなさい」
「拒否します。貴女に命令権はありません。私に指示を出来るのは主人とベータのみです」



きっぱり拒否をするデルタに対し、少女は黙り込み、ゆっくりと差し出した右手の指を向け、指先から銃口が飛び出す。



「任務優先、デルタを速やかに破壊し、情報を回収します」
「敵対行動と確認。自己防衛モードに入ります」



銃口を向けてくる少女に対し、デルタは掌を翳し、電流が彼女の身体から迸る。彼女は地下施設内に居た姉妹機と比べれば一番戦闘能力が低いが、唯一人間ベースに造り込まれた彼女の肉体は他の姉妹機と違い、この世界の魔法さえも扱う事が出来る。



バチィイイイッ‼



身体から迸る電流の色が変化を起こし、紫色の電流に切り替わる。これはレノの「紫電」を見た際に学習した魔法であり、彼女は少女型のアンドロイドに向けて電流を放出する。



「紫電光」
「……⁉」



ドォオオオンッ‼



レノのオリジナルの紫電よりも電圧が高い電流が放たれ、アンドロイドに直撃する。全身に電流を帯びた事で硬直し、その隙にデルタは距離を取り、裏庭に置かれているバケツを掴み取り、放り投げる。



バシャアァッ‼



電流を帯びた状態で水を浴びせられ、さらに放電させる。少女はその場で跪き、その隙を逃さずにデルタは右腕を掲げ、肉体強化(アクセル)を発動させる。流石にレノやゴンゾウのような強化は出来ないが、それでも人間離れした膂力で彼女を蹴り飛ばす。



ズドォオオンッ‼



「衝撃……⁉」



予想外の衝撃が腹部に走り込み、そのまま彼女は吹き飛ばされるが、瞬時に背中に内蔵したブースターを発動させて体勢を整える。



ゴォオオオッ‼



背中からブースターを噴射させ、少女はデルタに視線を向けると彼女は既に動き出しており、上空に跳躍すると右足を振るい上げ、足元に風の魔力を発動させて解き放つ。



「乱刃」



ドォオオオオンッ‼



三日月状の風の刃が放たれ、少女は迫りくる攻撃に対して右手を翳し、五本の指先の銃口を向け、



「フレア」



チュドドドドッ‼



アンドロイドの指先から小型ミサイルが射出し、デルタの風の刃にミサイルが接触した瞬間、爆発を起こして消散し、その爆風にデルタは体勢を崩して地面に墜落してしまう。予想外の爆発規模であり、彼女が攻撃を行う前に体勢を整えようとするが、



「破壊」



黒煙を振り払い、アンドロイドがデルタに向けて掌を伸ばしながら接近を行い、彼女が反撃に出る前に彼女の顔面を掴もうとした時、



「……水刃」



ズドォオオオンッ‼



アンドロイドの右半身に衝撃が走り、同時に周囲に水飛沫が舞い、そのまま吹き飛ばされる。彼女は何が起きたのかと視線を向けると、そこには杖を構えた状態の寝ぼけ眼の少女が立っており、彼女が杖先から水の弾丸を放出して自分を吹き飛ばしたことに気が付く。



「コトミ様」
「……事情は分からないけど、レノと私の花壇を荒らす人は許さない」



そう言いながらコトミは周囲に水球を発生させ、まるでセンリを想像させる魔法の発現にデルタは彼女のデータを更新する一方、彼女を庇うように移動を行う。



「お下がり下さいコトミ様。貴女は主人から最優先護衛対象として指定されています」
「……難しい言葉は分からないけど、一緒に戦う」
「敵……この世界の住人はエネミーと判断。早急に対処します」



アンドロイドは両手を向け、掌の皮膚が捲れて円形型の紫色の水晶を晒す。それを見た瞬間、コトミは相手も魔法を使用するのかと周囲の水球を掻き集め、



「水晶壁」



センリの「盾」を参考にした方法で自分とデルタの前に盾の形をした水が集まり、その直後に少女は掌の水晶を過熱させ、赤色に変色させると同時に2人に向けて熱線を放つ。



「ブラスター」



ズドォオオオッ‼



アンドロイドの両の掌から熱線が放射され、コトミが形成した水の盾に衝突した瞬間、蒸気が湧き上がる。何時までも放射を続ける相手に対し、コトミは杖を次々と新しい水球を盾に集合させ、熱線に貫通されない様に規模を拡大化させる。



「最大出力」



相手も熱線の規模をさらに強大化させ、徐々にコトミの形成した水の盾が押し込まれていく。すぐにデルタは5秒後に盾が突破されることを計算し、その前に彼女は動き出そうとした時、



「……ふるぱわぁっ」



コトミが杖を天に掲げ、一際巨大な「水の槍」を生成し、熱線を放射する少女に向けて頭上から投擲する。彼女は迫る槍に対し、熱線を中断して両の掌を合わせ、



「ブラスト」



ズガァアアンッ‼



唐突に彼女の両手から爆炎が放たれ、水の槍を吹き飛ばす。それだけではなく、舞い上がった黒煙が周囲一帯を覆ってしまい、視界が塞がれてしまう。



「……何処に行った?」
「視界阻害……センサーに反応無し。迷彩機能も搭載していると判断」



コトミは周囲を見渡し、デルタは内蔵されているセンサーで探索を行うが、どういう事か先ほどま存在した少女の反応が消失している事に気が付く。土中や空中に逃げ込もうがセンサーが彼女を見逃すはずが無く、途轍もなく高性能の迷彩機能を取り付けられている可能性が高い。



「……いない」



やがて黒煙が消散し、周囲には随分と荒らされた裏庭の光景が広がっているだけであり、肝心の少女の姿が消えている事を確認する。どうやら逃げ出したか、それとも隠れているのかは分からないが、デルタとコトミは背中合わせに周囲を警戒していると、



「な、何の騒ぎですか⁉」
「うわぁっ……センリの花壇が無茶苦茶になってる……」
「な、何が起きたの⁉」



後方から聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると驚愕した表情を浮かべる新教代理を務めるセンリと、巫女姫であるヨウカ、護衛役として同行していたレノの姿があり、彼等が現れた事でとりあえずは危機は去った。
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