種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

キメラ

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ゴンゾウにゴーテンを任せ、マドカの案内されるままにレノは結界内に入り込むと、すぐに視界に広がる光景に目を疑う。約6年ぶりの荒れ果てた学園の風景が広がっており、同時に疑問を抱く。何故ならば結界内部で充満しているはずの呪詛が感じられず、外部では結界全体が黒色に染まっていたにも関わらず、若干薄暗いがそれ以外に異変は感じられない。


「これは……!?」
「驚いたか?まあ、外から見たら危なさそうだが、中身は案外綺麗なもんだろ?ムメイの奴が結界石を調整して少しずつ結界を変色させてたってわけだ」
「……また小細工か」


良く考えたら結界の外見を変化させるなど森人族にとっては容易い事であり、実際に深淵の森でも同じことを行っていた。だが、アイリィの話では間違いなくこの結界内部に腐敗竜と同じ力を感じさせる存在が居るのは間違いなく、レノは何時でも魔鎧の全身武装の準備を整え、奥の手を発動させる。


「ソフィア」


ボウッ……!!


一瞬だけ身体が発光し、すぐに青髪の少女に変化すると、マドカはその光景を見て口笛を吹く。


「その恰好だよ……今回はこっちも最初から本気で行くぞ」
「また、あの力を使う気?」
「お前だって似たような事は出来るんだろ?」


指の骨を鳴らすマドカに対し、ソフィアは周囲に視線を向ける。確かにまだ内部は呪詛に侵されていないが、それでも何処からか嫌な魔力を感知する。正直に言えばあまりソフィアの姿では魔力感知の技能は得意ではなく、正確な位置は把握できないが腐敗竜との戦闘で感じ取った嫌な感覚が広がる。


(……講堂か?)


不意に校舎から離れた位置にある講堂が気にかかり、ただの勘だが内部に何かが潜んでいるように感じられる。だが、その前にまずは結界を展開している結界石の把握とバルトロス国王の救助が先であり、戦闘態勢に入っているマドカに問い質す。


「国王は何処?」
「安心しな。あいつには人質の役割があるから安全な場所に避難させてるよ」
「少し意外だな……」
「別に俺達も快楽殺人者じゃないからね。けど、あの爺さんはもう長くは持たないな」
「……どういう意味?」
「そう睨み付けんなよ……こっちが何かする前に自害しかねない勢いだからな。ムメイの魔法で眠らせて、この学園の保健室で寝かせてるよ。但し、もう寿命が尽きかけてるけどな」
「どうしてそんな事が分かる?」
「無駄に長く生きてると人の生死って奴に敏感でね……お前もいずれは分かるさ」


マドカは深い溜息を吐き出し、話は終わりだとばかりに彼は上着を脱ぎ捨て、瞳を怪しく光り輝かせる。レノも同様に構え、肉体強化を発動させようとした時、


ドォンッ……!!


「あっ?」
「えっ?」


講堂の咆哮から音が響き渡り、戦闘に突入しようとした2人は視線を向けると、そこには異常な光景が広がっていた。建物の窓や扉から黒い瘴気が溢れ出し、すぐに何かを察したようにマドカは目を見開き、


「馬鹿な……早すぎるだろうが!!」
「くっ……!!」


ソフィアは瞬時に全身に魔鎧を発動させ、完全武装を果たす。マドカも懐から聖石と思われるペンダントを取り出し、右手で握りしめて構える。



――ドガァアアアアンッ!!



直後、講堂の内部から爆発でも起きた様に鋼鉄製の扉が吹き飛ぶ。ソフィア達が存在する場所まで建物内に蓄積されていたと思われる呪詛が放出され、一方は魔鎧によって堪え、もう一方は聖石の力で周囲2メートルの範囲を浄化させて耐え凌ぐ。


「くそっ……!!早すぎるだろうが!!」
「何が起きてる!?」
「30人分の勇者の力を喰らった化物だよ……出てきやがった」


ガシャンッ!!



――講堂の出入口からゆっくりとそれは姿を現し、ソフィアは最初に抱いた感想は「巨人」だった。外見はゴンゾウよりも頭二つ分ほど身長が高く、さらに彼以上に筋骨隆々であり、衣服の類は纏っていない。それどころかまるで裁縫によって繋ぎ合わせた様に身体の至る箇所には繋ぎ目が存在し、髪の毛の類は存在せず、頭皮が剥き出しであり、全身の皮膚は白と黒が入れ混じり、胸元には腐敗竜の核と思われる黒色の宝石が埋め込まれ、鼻と耳も見当たらず、両目の部分が宝石のように赤く光り輝いている。極め付けには左腕の部分であり、それは最早、腕というよりも銃器の類を想像させ、まるで大砲の筒身を想像させる形をしていた。



『う、あがぁああああっ……』



化物は講堂から出た瞬間、ゆっくりと身体を動かし、ぎこちない動作で2人が立つ方向に視線を向け、


『おぉおおおおおっ……!!』


その声音は魔物や動物の類ではなく、本物の人間の声であり、どういう事か複数の人間の声が重なっているように聞こえた。ソフィアは今までに見た事が無い怪物に冷や汗を流し、まるで地下施設で出会った謎の生物以上に不気味さを感じる。


「くそっ……やっぱり暴走してやがる」
「ちょっと……あれは何?」
「……キメラ、ムメイの奴はそう言っていたよ」


キメラという言葉にソフィアの頭の中に「合成生物」という単語が浮かび上がり、恐らくは腐敗竜の核と先ほどマドカが呟いた「30人分の勇者」という単語から察すると、恐らくムメイの手によって何らかの改造を施された生物で間違いない。

だが、腐敗竜の呪詛を感じられるにも関わらずにその外見は人型であり、腐敗竜の面影が全く残っていない。だが、身体から纏う威圧感は間違いなく伝説獣クラスであり、先ほどから2人は嫌な汗が止まらない。


「元々はムメイの奴がお前らを殲滅するために造りだしてたんだがよ……あの女、失敗してとんでもない奴を目覚めさせちまった。こうなったら、もう誰にも止められねえ……俺は逃げるぜ」
「……どうやって?」


この結果内は外部から完全に遮断され、転移魔法は使用できない。必然的に自分の足で結界の外に避難しなければならないのだが、相手がそれを許すとは思えない。


「なあ坊主……1つ提案がある」
「なに?」
「ここはお互いに手を組んで逃げるか、それとも三つ巴の状態で戦うかどっちがいい?」
「……2人で戦うという選択肢は?」
「それもありかもな」


ソフィアはマドカに視線を向け、彼は真面目に答えているのか今までにない真剣な表情であり、それほどまでに彼が恐れる相手なのかと視線を戻すと、


ガシャンッ……!!


唐突にこちらの様子を観察していたキメラがゆっくりと左腕を上げ、右腕で固定しながら2人の方向に左腕の大砲を向けると、すぐに意図を察したソフィア達は瞬時に顔色を変えて交互に別れる。


『りぼるばぁ』


まるで魔術師のように魔法名と思われる言葉を発言し、直後に怪物の左腕に異変が生じる。内部に陥没した腕の穴から肉が蠢きあうような音が聞こえ、



――ドゴォオオオオオオオンッ……!!



嘗て、闘人都市でソフィアを狙ったシャドウが放った「漆黒の光線」を想像させる砲撃が放たれ、その規模と威力はあの時の数十倍であり、そのまま回避行動に移っていた2人の横を通過し、後方に存在する校舎に貫通した。


ドガァアアンッ……!!


その威力は正に聖遺物級であり、光線が放たれた後の地面には熱線の軌道が刻まれ、校舎を貫通した向い側の結界の部分に到達したのか、まるで地震が起きた様に周囲が震える。あれほどの質量の攻撃を喰らえば幾ら魔鎧や聖石の力でも耐え切れるはずが無く、直撃していたとしたら間違いなく死んでいただろう。


「くそっ!!あんな状態の癖に勇者の魔法まで使えやがんのか!?」
「……最悪だな」
「前言撤回だ坊主……あれは力を合わせたところでどうにもならねえ、それこそリーリス様でないとあれは制御出来ねえ」


何時の間にかマドカは身体が震えている事に気が付き、ソフィアも動揺を隠せない。今までに様々な相手をしてきたが、ここまでデタラメな存在など相対したことが無く、1つだけ分かるのは今から戦う相手は間違いなくカラドボルグやエスクカリバー級の聖遺物が存在しなければ勝てないという事だけだった。



※合成獣(キメラ)――ムメイが回収した腐敗竜の核を勇者の1人に埋め込み、腐敗竜の呪詛を生み出す生物を造り上げようとしたが実験の段階で暴走し、昏睡状態に陥っていた勇者達を喰らい始める。死人というよりはアンデットであり、その光景に危機感を抱いたロスト・ナンバーズはすぐに退去し、ムメイが講堂内を封印して隔離する。

本来の目的はリーリスさえも脅威を抱く「ホムラ」を殺害するために造り出された怪物であり、計画では結界内に突入したレノ達と戦闘させようと試みたが、予想に反して自力で封印を破壊して出現。その戦闘力は「魔槍(ゲイ・ボルグ)」を装備していないホムラに匹敵し、勇者達の能力の使用や、呪詛を練り固めて放つ熱線を左腕から放出する事も可能。
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