種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

腕力比べ

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ジャンヌたちとロスト・ナンバーズのメンバーが決着を終えた頃、鳳凰学園の正門入口では二組の強者たちが激しい戦闘を繰り広げていた。


「うおぉおおおおっ!!」
「餓鬼がぁあああああっ!!」
「うらぁっ!!」
「ふんっ!!」


ドゴォオオオンッ!!


激しい土煙が舞い上がり、お互いの武器を叩き込むゴンゾウとゴーテン、その隣には拳同士を叩き込むレノとマドカが現れ、それぞれが並の巨人族とは比べ物にならない腕力と打撃力を保有している。


「くそがくそがくそがっ!!」
「ぬうっ……!!」


何度も黒棒を叩き付けるゴーテンに対し、ゴンゾウは棍棒で受け止め、徐々に纏っている「紅炎」が縮小していく。その間にもレノとマドカはお互いに魔術師とは掛け離れた肉弾戦を繰り広げ、両腕に魔鎧を纏わせたレノに対し、男のマドカは馬鹿げた腕力で攻撃を仕掛ける。


「おらおらぁっ!!この程度じゃないだろう!?あの姿に変化したらどうだ!?」
「いちいち、うるさいっ!!」


以前に戦闘した際に見せた「魔力暴走(オーバーリミット)」と呼ばれる技を使わず、マドカは純粋な肉体能力だけで戦い続ける。レノは肉体強化と魔鎧の組み合わせで戦うが、戦況はほぼ互角と言えた。


「邪魔なんだよてめえら!!」
「おっと!!」
「あんっ!?」


不意にゴーテンが怒りの表情でレノ達に目掛けて黒棒を振るいあげ、仲間であるはずのマドカごと吹き飛ばそうと試みる。すぐに2人は難なくそれを回避すると、マドカが彼に怒声を張り上げる。


「おい!!その武器は俺にもきついんだぞ!!気を付けろクソガキッ!!」
「うるせぇっ!!全員ぶっ殺して……がふぅっ!?」
「よそ見をするなっ!!」


ズドォオオンッ!!


ゴーテンが隙を見せた瞬間にゴンゾウの金剛石製の棍棒が脇腹に叩き込まれ、そのまま勢いよく吹き飛ばされる。その姿を確認し、レノはすぐに彼の元に移動すると、消えかけている棍棒に掌を触れ、すぐに魔装術を施す。


ギュオォッ……!!


「すまん……」
「いちいち言わないで良いよ」


既に何度も棍棒に魔槍術を施しており、今のレノの魔装は持って1分が限界である。そのため、戦闘の合間に隙を見てゴンゾウの武器に魔力を送り込まなければならない。


「くそが……ぺっ!!」
「たくっ……口だけは達者な癖に、役に立たねえな」
「何だと……!?」


地面に倒れ込んだゴーテンにマドカが見下すように視線を向け、彼は憤る。いつもならば黒棒の能力を発動させて周囲に存在する全て生物に不快音を発生させ、相手の感覚を乱してその隙に叩きのめすだけだが、レノの防御型の魔鎧によって完全に無効化されてしまい、どうにも調子が出ない。

それに今回の相手がゴンゾウという事もあり、どうにも頭に血が上り過ぎて自分本来の戦い方が出来ない。マドカは後方の結界の様子を確認し、まだ完全に「あれ」が目覚めるのに時間が掛かる事を確認しながら、懐から「スマートフォン」を取りだす。


「仕方ない……ヒカリ、後は任せた」
「……?」


スマートフォンを耳元に当てるマドカに対し、レノは疑問を抱く。前から思っていたことだが、どれほど耳を澄まそうとスマートフォンからは返事は聞こえない。仮にあのスマートフォンが本物だったとしても、彼女が「ヒカリ」と呼ぶ者がどのような方法と手段でマドカと協力しているのかが分からない。

レノとゴンゾウはお互いに力を合わせて戦う一方、マドカとゴーテンはそれぞれが勝手に動き、お互いを邪魔に思い合いながらも自分の定めた標的だけを狙う。正確に言えばマドカがそれを利用してゴーテンの動きを把握し、追撃の好機の際にゴンゾウの武器の魔槍術が限界を迎え、レノが補充しなければならないというパターンが多い。


(あんまり時間が掛けられないって言うのに……隙が無い)


正直に言えばレノとマドカは戦闘方法が似通っている。どちらもハーフエルフという種族である事が関係しているのか、片方の性別は魔法、もう片方の性別は肉弾戦を得意とし、レノも出来る事ならソフィアに変化して戦いたいのだが、ゴンゾウの武器は防御型の魔鎧でなければゴーテンの攻撃を防ぐことは出来ず、それに迂闊に変身しようとすればその隙を狙われてしまう。

一方でゴンゾウの方も汗を流しており、先ほどから何度も渾身の一撃を叩き込んでいるにも関わらず、ゴーテンは倒れない。伊達に巨人族の血を引いてはおらず、同じハーフであるリュウケンと違って彼は生まれたときから巨人族の戦士として鍛錬を行っており、真面に戦えば勝機は無い。

実の父親の死で一方的に決別した一方、育て親である養父の謝罪によってゴーテンの精神は非常に混乱しており、無我夢中に攻撃を仕掛けてくる。それが功となってゴンゾウの反撃をいとも容易く許してしまうのだが、実は魔装によって施された彼の武器にも弱点はある。

現在のレノの魔鎧の本質は「防御型」であり、全身をまるでゴムの様な弾力性の高い素材で覆っている事に等しく、渾身の力で叩き付けても逆にその衝撃も殺されてしまう。実際、ゴーテンの身体に棍棒が衝突した際、衝撃の殆どが外部に逃げてしまい、派手に彼が吹き飛んだように見えるのはゴンゾウがゴーテンの身体を武器を密着させた状態で力任せに飛ばしているだけに過ぎない。だからこそ、見た目ほど損傷は与えられない。



――この場にいる全員が「奥の手」を隠しているが、それを使用した後は全員が後戻りできず、今後どんな事態に陥るのか誰も分からない。下手をしたら勝敗に関係なく、四人とも戦闘不能に陥る可能性も高い。だが、最初に口火を切ったのはやはりゴーテンだった。



「面倒臭いんだよぉっ!!てめえら全員よぉおおおおおおおっ!!」



身体を起き上げ、ゴーテンは役にも立たない自分の武器を放り投げ、服を引き千切る。すぐに彼の近くにいたマドカが舌打ちし、仕方なくその場を離れる。レノとゴンゾウも彼の意図に気が付き、態勢を整えるために下がった瞬間、



「――ガァアアアアアアアッ!!」



まるで魔獣を想像させる咆哮を放ち、ゴーテンの身体に異変が起きる。全身の血管が浮き上がり、身体の皮膚が赤黒く変色し、筋肉が肥大化する。その姿を確認して三人は冷や汗を流し、明らかに彼の纏っている雰囲気が変化しており、身体全体から熱気が沸きだしているように思える。


「鬼人化……」
「仕方ない奴だな……おい、レノ!!場所を移動するぞ!!」
「どういう意味?」
「部外者の俺達は邪魔だって事だよ……そこの坊主もやる気満々のようだし、ここは退け」
「ゴンちゃん?」
「……すまないレノ」


ドスンッ……!!


ゴンゾウは自分の棍棒を地面に埋め込み、自分の上半身の服だけを脱ぐと、ここは自分に任せろとばかりにレノに頷く。そんな彼に対して溜息を吐き、任務を優先するならば共に行動するべきだが、レノは了承してマドカに招かれるままに移動する。


「何処に行く?」
「こいつらの邪魔にならないところ……この中だよ」
「結界……?」


マドカは後方の結界を指差し、すぐに結界石を取りだす。レノも懐に結界石を装備しており、明らかに罠の香りがするが、当初の目的であった結界の侵入のためも彼に続く。2人の身体が結界に触れた途端、波紋が広がって瞬時に飲み込まれた。



――残されたゴンゾウはゴーテンと向かい合う形であり、彼も覚悟を決めて「鬼人化」を発動させる。この戦闘を最後にもう発動できなくてもいいという覚悟で、ゴンゾウは力を解放する。



ビキビキィッ……!!



「うおぉおおおおおおっ――!!」



全身の皮膚が赤く染まり、体中の血管が浮き上がる。それだけではなく、今までと違って全身の筋肉が縮小し、体格が一気に縮まる。正確には縮小ではなく凝縮であり、いつも通りの鬼人化ならば理性を失うにも関わらず、今回は意識がはっきりと残っているた。だが、ゴンゾウは今までにない感覚に戸惑う様子も無く、こちらを睨み付けるゴーテンと向き合い、彼も今のゴンゾウ同様に鬼人化を発動させても理性は掻き消えず、真っ直ぐに視線を向けてくる。


「死ねやぁっ!!」
「こいっ!!」



――ズドォオオオオオンッ!!



2人の拳が混じり合い、周囲一帯に凄まじい轟音と衝撃波が広がった――
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