種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

勇者の告白

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ジャンヌがムメイとの交戦中、リノンは彼女同様に正門から離れて一騎打ちの形でシゲルと剣を交わせていた。お互いに刀身に炎と雷を付与させ、無数の斬撃が行き交い、火花が飛び散る。


「火炎剣!!」
「ライジングブレイド!!」


刃の火力を強めて攻撃を加えるリノンに対し、シゲルは自分の刀剣に雷を走らせ、数十合も刃を交じ合わせる。多彩な魔法を使用できるシゲルに対し、リノンが使用できるのは火属性だけであり、魔石を使用すれば一応は他の魔法も使えるのだが、本職の魔導士と比べると威力が格段に下がってしまう。

彼女は剣を弾き返し、額に汗を流す。長時間の間に全力で火炎剣を使用し続けたため、魔力枯渇の状態に陥りそうだった。彼女は他の面子と違って魔力容量は少なく、実際に一般人の3~4倍程度の魔力しか所有していない。こんな時は膨大な魔力を保有するレノが心底羨ましいが、泣き言は言っていられない。


「火炎乱舞!!」
「むっ!?」


リノンは空中に無数の突きを放ち、刀身から炎が弓矢の鏃のように変化して放たれる。以前に聖導教会でセンリが見せた「光の鏃」を元に造りだした技であり、その速度は本家よりも勝る。シゲルはすぐに刀身の雷を霧散させ、まるでゴルフのように剣を地面に向けて振りかざし、


「ウォーター・スライサー!!」


ドパァアアアアアンッ!!


突如、地面から水柱が舞い上がり、向い来る炎の鏃を全て消火させ、さらにリノンに水の刃が放たれる。その勢いは凄まじく、咄嗟に彼女はその場を避けて攻撃を躱す。


「何て威力……!?」


自分の横を通り抜けた水の斬撃を確認し、通り過ぎた地面には亀裂が走っている。圧縮された水はダイヤモンドさえも切り裂くことが可能であり、水と火では相性的が悪いので防衛することも出来ず、あのまま受けていたら真っ二つにされていただろう。


「良く避けたね……ならばこれはどうだい!!ストーム・バレット!!」
「くっ!?」


ズドォンッ!!


シゲルは刃先から螺旋状に渦巻く風属性の魔弾を発射し、昔にレノが使用してた嵐弾と酷似している。最も、彼と比べたら規模だけはシゲルの方が勝っており、リノンは相手が風属性の攻撃を使用したことに疑問を抱きながらも剣を構え、


「はあっ!!」


バシュッ!!


一刀両断で嵐の弾丸を切り裂き、火属性を得意とするリノンにとって風属性の攻撃は脅威にはならない。彼女を打ち倒すならば風属性の魔法の場合は最大出力の魔法を発現する以外に効果は無く、シゲルは息を荒げながら笑みを浮かべる。


「流石だね……並の剣士なら、防ぐ事も出来ずに木端微塵になるほどの攻撃だったんだが……」
「それは……言い過ぎじゃないのか?」
「……これならどうだい?サンダー・スネイク!!」


ドォオオンッ!!


シゲルが刀身を掲げた瞬間、刃から電流が迸り、巨大な竜の形に変化する。リノンは初めて見る魔法に勇者だけが扱える魔法だと判断し、すぐに懐から魔石を取りだす。


「スネイク・ダンス!!」


グォオオオオッ……!!


どういう原理なのかは不明だが、雷属性の魔力によって形作られた竜(東洋風)は軌道を不規則に移動しながらリノンに接近し、彼女はすぐに取り出した魔石を握り締め、そのまま大きく口を開いて自分に向かってくる電流に向けて投擲する。彼女が今日の戦いのために所持している魔石は全て特別製であり、魔法名を口にする。


「乱刃!!」


ズバァアアアアッ……!!


「何っ!?」


竜の口内に飲み込まれようとした瞬間、三日月状の嵐の刃が形成され、そのまま電気によって形成された身体を切り裂きながらシゲルに向かって放たれる。

事前にリノンは決戦の前に幾つかの魔石の原石を用意し、レノに頼み込んで彼の魔法を封印して貰ったのだ。最も撃雷や雷刀などの肉体に魔力を付与させて行う攻撃魔法を封じ込める事は不可能だが、それでも外部に放出系の魔法は全て封じ込めて貰った。


「このっ!!」


ガキィイインッ……!!


向かってくる巨大な三日月の刃にシゲルは剣で受け止め、そのまま数メートルほど後退りながら、渾身の力を込めて消散させる。並の勇者ならば今の急成長によって強化されたレノの魔法を受け止める事は不可能な威力だが、彼は額の汗を拭って笑みを浮かべる。


「……今のは驚かされたよ……そうか、君は彼の力を受け継いだのか」
「いや、別に受け継いだというほどでは……というか、その言い方だとレノが貴方の中では既に死んでいるように聞こえるのだが……」
「レノ君……雷光の英雄か」


唐突にシゲルが黙り込み、リノンは首を傾げる。レノの名前に反応した当たり、この2人に何か関係があるのかと思ったが、そんな話は一度も聞いていない。少なくとも彼女が知っている限り、シゲルとレノが真面に相対した事は一度もないはずだが、


「……そうだね、そろそろ僕が君たちを裏切った本当の理由を語る時が来たのかもしれない」
「は?」


唐突に語り始めるシゲルにリノンは目を丸くし、そんな彼女を無視して彼は話り始める。闘人都市で交戦した際は、彼は自分たちを召喚したバルトロス王国が実は彼らを元の世界(旧世界)に戻せる方法を知らない事を隠し、さらには勇者という立場を与えながら、その実は魔物の討伐のためだけに召喚した事実を知り、体よく利用されていた事に憤りを感じて抜け出したと言っていたが、


「だけど僕も別に利用されていた事だけを怒っているわけじゃない……実際、他の皆はこの世界にそれなりに楽しく過ごしていたからね……加藤君に至っては妻と子供まで作ってこの世界に馴染もうと頑張っていた」
「加藤殿……」


聖導教会にてロスト・ナンバーズに利用され、デュランダルを使用して暴れているところをジャンヌのレーヴァティンによって浄化された勇者であり、シゲルとも親交はあった。


「加藤君はこんな性格の僕にも面倒臭がりながらも、それでもよく話を聞いてくれたよ。まあ、彼の話の殆どが女性関係の自慢話だったが……そんな彼が1つだけ僕に教えてくれたことがある。本当にこのまま元の世界に帰る事が自分たちの幸せなのかと」
「……どういう意味だ?」
「僕たちの殆どは高校生……君たちで言う所の学生という奴だ。つまり、僕たちは最初に召喚された時はまだ子供同然だった。だが、この世界で過ごすうちに肉体はともかく、精神は成長した。実際、僕も加藤君同様にこの世界に愛着を抱き、元の世界に戻りたいという思いはそれほど抱いていなかった」
「え?しかし貴方は……」


言っている事が闘人都市で出会った時は180度意見が変わっている事にリノンは疑問を抱き、口を挟もうとするとシゲルは掌を前に差し出して制止し、


「……僕はね、引きこもりだったんだよ。意味は分かるかな?まあ、ともかく僕は元の世界では同級生に苛められていて、高校に上がる頃には学校に通わずにずっとオンラインゲームに没頭していた……」
「こうこうせい……おんらいんげーむ?」


初めて聞く単語にリノンは首を傾げるが、とにかく彼が元の世界でも学生であったことは理解し、同時に苛められていたという言葉に驚きを隠せない。こちらの世界での彼は多彩な魔法を使用し、さらには勇者達の中でも一番を誇る剣術の持ち主であり、そんな彼が元々の世界では同世代の人間に虐げられていたなど信じられないが、


「驚いた表情をしているね……?それは君がこの世界の僕しか知らないからだよ。僕は元の世界で言う所の「中二病」という奴でね……自分には他人には存在しない特別な力が芽生え、世界の中でも特別な存在だと信じていた」
「は、はあ……まあ、少し大げさな表現ですが実際にシゲル殿は勇者なんですから間違ってはいなかったのでは?」
「違う。僕が勇者としての力を扱えるようになったのはこの世界に訪れてからさ。実際、元の世界の僕は魔法も力も、何一つ特別な能力を持ち合わせていなかった」
「え?では、何故……?」


リノンは元の世界でもシゲルは今と同じ性格であり、先ほどの発言から魔法の類を既に扱えていたと思い込んでいたが、それならばどうしてありもしない「他人には存在しない特別な力」などという言葉を発言をしたのか疑問を抱く。


「ふっ……魔法という超常現象が存在するこの世界の住民である君には分からないかもしれないが……僕のような中二病は主に子供に発症しやすくてね。僕もその内の1人だったのさ」
「あの……それならば聖導教会で検診を受けた方が……」
「いや、中二病と言っても病気の類じゃなくて……それに僕達の世界の教会はそれほど万能じゃないし、ええとどう説明したらいいのかな……」
「言っている事は良く分かりませんが……そのチュウニビョウ?と、シゲル殿がどうして王国を裏切ったのかが関係しているのですか?」


リノンの質問に対し、よくぞ聞いたとばかりにシゲルは頷き、


「正確には僕は元中二病患者だったのさ。この世界に召喚され、そして魔法という力を得た瞬間、僕は心躍ったよ。夢にまで見た力が現実の物になったんだからね……だが、現実は残酷だった」


ここでシゲルは深いため息を吐きだし、疲れ切った表情でリノンに笑いかけ、


「僕は……もうこの世界にいる事が疲れたんだよ」
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