種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

インビジブル

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「魔人族の代表……何故、このような真似を!!」
『王子か……先ほども言ったはずだ。私はリーリス様の騎士としてお前たちを駆逐しに来た』
「リーリスね……あの性悪ババアは元気?」
『挑発しても無駄だ。あの御方はお忙しい。いちいち羽虫を相手にわざわざ姿を現さん』
「羽虫ね……」
「下がれレノ……いやソフィア君、この男だけは俺が相手をする。君たちは先に行け……!!」
『ギガノか、お前との因縁もここで着けるか』


ギガノが一番前に出ると「ゼロ」と名乗る甲冑は大剣を構え、魔人族の代表とバルトロス王国最強の騎士が向かい合う。どちらも大陸有数の実力者である事に間違いなく、戦闘が起きれば巻き添えは免れない。ソフィア達が前方に存在する正門から学園に侵入するためにも、この目の前の存在を何とかしなければならない。

他の場所から侵入するにしても、この学園は周囲を高い外壁に取り囲まれており、上空や裏門からしか入り込む事が出来ない。ソフィアならば跳躍して侵入する事も出来るかも知れないが、アルトとジャンヌには同じ真似は不可能。


「将軍……悪いが、僕たちも時間がないんだ。ここは全員で一気に……」
「しかし……この男だけは!!」
「ギガノ!!僕たちの手には数万人の人間の命が掛かってるんだぞ!!今だけは武人としての誇りは抑え、命令に従え!!」
「っ……申し訳ありません、王子」


アルトの怒声にギガノは衝撃を受けた様に彼の顔を見つめ、それは最早何度も挫折を味わい、時には誤った道を歩んだが、いつしか立派な青年へと成長した彼の姿があり、国王不在というこの状況でアルトは時期国王としての成長を遂げた。

長年の間、彼を見てきたギガノは感慨深い心境であり、同時にアルトの言う通りであり、今は自分の武人としての誇りよりも、この学園都市の罪も無き人間達のために戦わなければばならない。彼はゼロを見やり、長年の宿敵ではあるが今は結界内の呪詛を何とかしなければならない。


「……悪いが魔人王、いやゼロと名乗っていたな、お前との決着を付けさせてもらおう」
『無論、私も最初からそのつもりだ』


ガシャンッ……!!


ワルキューレ騎士団のテンが扱う大剣よりも、さらに一回りは大きい黒塗りの大剣を片手で持ち上げ、ゼロは甲冑の隙間から見える赤い瞳を怪しく光らせ、一歩こちらに踏み出そうとした瞬間、


「らあっ!!」
『ぬうっ!?』


ズドォオオオンッ!!


「「えっ!?」」


強烈な衝撃がゼロの顔面に発生し、そのまま巨体が数十センチ後退る。全員がその光景に呆気に取られ、すぐにソフィアが彼を殴り飛ばしたことに気が付く。彼女は一瞬で肉体強化で身体能力を引き上げ、右腕に魔鎧を形成して攻撃したのだ。

そのあまりの速度にその場にいる全員が攻撃を終えた後に認識し、今までのソフィアとは一味違う。最早、その速度は強化術に匹敵し、しかも今回は完全に理性を保っている。白狼の血液がカラドボルグの影響で蒸発し、残されたのは強靭な肉体のみ。肉体強化を行えば強化術と同程度の速度を生み出せるようになっている。

ソフィアは後退したゼロに対し、拳を握りしめて顔面を殴り込んだ感触に違和感を抱く。一瞬だが、強化術並の腕力に金剛石並の硬度を誇る魔鎧で殴りつけたにも関わらず、目の前の甲冑の騎士の鎧は破壊されるどころか凹んですらいない。


『……驚いたぞ。ここまでの速さ、相当な鍛錬を積んだな』
「あんたこそ、硬いね……右手が痺れた」
「ソフィア君!!その男の甲冑は物理的な破壊は可能出来ない!!奴の甲冑はオリハルコンとヒヒイロカネの合金で生み出されている!!」


オリハルコンとヒヒイロカネという名前に、ソフィアの記憶が確かならば旧世界ではどちらも架空上の金属であり、様々なゲームにも登場している有名な存在だ。こちらの世界でも何度か耳にしており、その硬度は金剛石よりも硬く、あまりにも希少で史上では滅多に手に入手できない。また、世界に存在する武器系の聖遺物の殆どはオリハルコンが使用されており、目の前の相手は意思が存
在する「聖遺物」その物である。

ちなみにオリハルコンは森人族の結界石にも使用されており、現在では地上に存在するオリハルコンは全て掘り尽くされ、最早人魚族が住む海底にしか発掘されない。彼女達の力を借りれば入手不可能な希少金属であり、さらに「ヒヒイロカネ」に関しては火山地帯のみで発掘され、入手困難な上に加工が難しい素材として有名だった。

流石のソフィアでも、相手が聖遺物の材料としても使用されている希少金属の合金だと分が悪く、彼女の魔鎧でも通用しない。それだけではなく、この場にいる全員がゼロの甲冑に対する有効的な攻撃手段を持ち合わせていない事になる。


「オリハルコンとヒヒイロカネの合金で造りだされた鎧騎士……噂には聞いていましたが、まさか本当に実在するとは……!?」
「ジャンヌ!!僕と君の聖剣で叩くぞ!!」
『辞めて置け、その二つの聖剣は良く知っているが、今までに一度も私の甲冑に傷をつけた者はいない』
「……流石は魔族侵攻大戦の時代から生き続ける事はあるな」


魔人王は1000年以上の時を過ごしている存在であり、冗談抜きで彼は今までに何度も聖剣の所持者と相対したことがある。それはレーヴァティンとデュランダルも例外ではなく、彼の言葉通り浄化の炎も最硬の剣も彼の鎧の前では無力と化していた。

さらにこの鎧の特徴は最強の金属というだけではなく、この甲冑にはある特殊能力が存在し、ゼロは大剣をまるで剣道の居合のような体勢で構えると、すぐにギガノは狙いに気付いて大声を上げる。


「いかん!!奴の能力は……!?」
『インビジブル』


ブゥンッ――


次の瞬間、ソフィア達の目には唐突にゼロの周囲の空間が揺らめき、彼の姿が消失する。ギガノ以外の全員が周囲に視線を向けるが姿を確認できず、転移魔法で移動したのかと思ったが、


――ビュンッ!!


ソフィアの森人族特有の優れた聴覚が風切り音を耳にし、反射的に上空に跳躍する。


ブオンッ!!


「うわっ!?」
「何だ!?」


突然にソフィアが跳躍した直後、彼女の後方で様子を見ていたアルト達に風圧が襲い掛かり、ギガノは両手の腕鉄甲(ガントレット)を構えながら、


「全員よく聞け!!奴の能力は透明化だ!!視覚では捉えきれん!!他の感覚で位置を把握しろ!!」
「透明化……!?」
「どうりで……!!」


全員が円陣を組む形で武器を構え、周囲に警戒を配る中、ソフィアだけは肉体強化で五感を強化させ、相手の出方を待つ。

だが、予想に反して十数秒ほど経過してもゼロからの攻撃は無く、全員が訝しむと。もしかしたらゼロの目的はあくまでも結界内にソフィア達を通さない事であり、それならば自分から攻める必要は無く、このまま隠れて時間稼ぎを行う気なのだろう。


「くっ……卑怯だぞ!!姿を現せ!!」
「こっちも多人数で襲ってるからなぁ……」
「うっ……」


アルトが大声を張り上げるが、すぐにソフィアが痛い所を突いて冷や汗を流す。このままでは先に進む事も出来ず、何か手を打たなければならない。


「……仕方ない。皆、少し離れてくれ」
「アルト?」


ズゥウウンッ!!


意を決したようにアルトはデュランダルを地面に突き刺し、剣が振動を開始する。その光景に全員が不思議そうに見つめるが、いち早くソフィアは彼の狙いに気が付き、振動を利用して潜水艦のソナーのように周囲の物体を探っているのだ。


ブゥウウウンッ……!!


地面が揺れ動き、立つのも難しくなる中、アルトは瞼を閉じて意識を集中させ、何かに気付いたように大剣を引き抜いて身構える。


ガキィイインッ!!


「くっ……!!そこか!?」


突然にデュランダルに衝撃が走り、彼の前方の空間に揺らめきが生まれる。どうやらアルトの狙いに気付いて攻撃を行ったようだが、逆にそれが仇となって姿を確認される。


「魔人王ぉおおおっ!!」
「魔弾……!!」


左右の方向からギガノとソフィアが同時に動き出し、お互いに右拳を振り上げ、


「金剛拳!!」
「撃ぃっ!!」
『ぬぅっ!?』


ズドォオオオオンッ!!


凄まじい轟音が周囲一帯に鳴り響く。



※ゼロの甲冑はオリハルコンとヒヒイロカネの合金ですが、アルトのデュランダルはアダマンタイト(先の二つ同様に現実世界では架空上の金属鉱石)と呼ばれる世界で最も硬く重い鉱石で造りだされており、単純な硬度はデュランダルが上ですが、ゼロの場合は特殊な方法で甲冑を保護しているので一度も傷つけられたことはありません。

ちなみにアダマンタイトを破壊するにはホノカの持つ「魔槍(ゲイ・ボルグ)」の消滅の力と、アイリィの「カラドボルグ」の最大出力以外に破壊するしか方法はありません。
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