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英雄編
それぞれの決意
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宿屋でのロスト・ナンバーズの襲撃から翌朝、レノ達はやっと目を覚ましたギガノの前に集まり、彼の心配と同時にアイリィをメンバーに入れるのかどうかを問い質すと、意外なことにあっさりと了承してくれた。
「まさかあれほどの腕を持つとは……やはり、世界は広い。貴女が味方になってくれるのなら私が反対する理由は無い」
「いいんですか?」
「ああ、むしろこちらから助太刀を願いたい。頼りにしているぞ英雄殿の母親殿」
「そのネタ、まだ引きずっているんですか」
ギガノは結界石の欠片が嵌め込まれた腕輪を取りだし、これを装着すれば鳳凰学園を覆っている結界を突破できる。アイリィはすぐに受け取って装着すると、ギガノは周囲を見渡し、意を決したように告げる。
「作戦決行日は明日の早朝からだ。既に学園周囲の住民達には内密に避難を促しているが、最悪の場合はこの都市全体を巻き込んだ大きな戦になる。それを避けるためにも鳳凰学園での短期決着で終わらせねばならん」
「相手の戦力は分からないの?」
「申し訳ないでござる……拙者たち、隠密部隊が常に鳳凰学園に見張りを行っているのでござるが、相手側が動く様子は無いでござる。引き籠られては拙者たちもどうしようもなく、しかもつい先日にシゲル殿が包囲網を突破して学園内に逃げ込んだようでござる」
一応は鳳凰学園には目立たない様にカゲマルの隠密部隊と、必要最小限の兵士たちで見張りを行っているが、シゲルは堂々と正面から兵士たちを打ち破り、学園に入り込んだらしい。流石に最強の勇者というだけはあり、その動きに隙は無く並の兵士では太刀打ちできなかったという。
このままでは次々と包囲網を破って援軍が到着する可能性も否定できず、最早一刻の猶予も無い。作戦決行日までそれぞれが最期の準備を行い、万全の体勢で勝負を挑まなければならない。
「約22時間後(この世界は1日が22時間)ですか……なら、それまで各自自由行動と行きましょうか」
「そんな悠長な……」
「いや、構わない。最悪の場合、明日死んでしまうかもしれないからな」
「「……………」」
ギガノの言葉に全員が押し黙り、確かに彼の言う通り、明日戦う相手は六種族を相手に堂々と敵に回すほどの組織だ。一体どれほどの戦力が存在するのかも分からず、今までに何度も六種族を窮地に追いやった。
黒幕は冗談抜きでこの世界を一度征服した相手であり、彼女がどれほどの力を有しているのかは分からないが、今まで通りに犠牲者無しで勝てる相手とは考え難い。幸いにもアイリィによれば鳳凰学園には彼女の力は感じられないらしいが、それでも油断はできない。
明日の鳳凰学園での決戦で何人の人間が犠牲になるかは分からない以上、最悪の場合はレノ達が失敗したら大勢の人間が死んでしまう。王国の兵士だけではなく、この学園都市で平和に暮らしている何の罪もない人間達も犠牲になるだろう。
「悔いが無いように今のうちにやりたい事をやってくれて構わない。怖いのならば他の者と交代してくれ。覚悟の無い者を連れていく事は出来ないし、責める気もない。もしも作戦に参加できないのならば明日の早朝までに私の部屋に腕輪を返却しに来てくれ……最後に一言だけ言おう」
ギガノは一度間を置き、
「生きたいという想いは決して間違いじゃない、恥ずべき事でもない、生きようとする意思こそが世界で何よりも偉大だ。例え、どのような理由があっても生きたいという意思は正しい事だ」
何かを思い出すように語り、全員がその言葉に対して頷く。
――センリは聖導教会からの救援支援ではなく、自分から前線に志願したのは無き親友の仇を討つため、これまでに聖導教会に対して侮辱してきた彼らを許さないため、同時に次の世代の者達のために今の災害の芽を残さないためにも、戦う事を決意した。
――ジャンヌは自分の最愛の妹を奪い、奴等に狂わされた彼女を救うために生きてきた。そして目的を果たした後も、自分たち姉妹を苦しめた彼等を討つために王国に仕えてきたと思っていた。しかし、今ではカトレアのためだけではなく、これ以上の共に過ごしてきた仲間達を犠牲にしないためにも戦う事を誓う。
――アルトはバルトロス国王を救うため、そして人間という種の尊厳を守るためにロスト・ナンバーズを駆逐し、魔王という輩を打ち倒して、これからも一緒に心強い友人たちと共に王国を支えていく事を決める。
――リノンは王国のため、友人のため、何よりも自分たちにとっては大切な学び舎を汚したロスト・ナンバーズを許せず、様々な思い出がある場所で戦う事は辛いが、同時に何かの運命を感じていた。自分の中で最も大切な場所で成長した仲間達と共に敵を討つ。まるで童話のヒーローのような展開だが、自分達に敗北は許されない。何が起きても彼女は諦めず、敵を打ち倒す事に集中する。
――ゴンゾウは考え込む。正直に言えば彼が王国に仕えているのは別に忠誠心があるわけではない。王族であるアルトの事は好きだが、彼を自分の一生仕える人物とは思えず、そもそも巨人族である自分が仕えたところで王国内では立場はそれほど変わらない。良くてもアルトの護衛か、せいぜい騎士団の副団長に任命されるのが限度だろう。だが、そんな彼がずっと王国に仕えていたのはかけがえのない友人たちがいたからであり、これからも彼等と行動を共にするためならばどんな事でも行う。今回の戦いが苛烈を極めるとしても、アルトやリノンやジャンヌやレノが参加するのならば彼等の盾となるために自分は前に出続けるだけだった。
――ギガノは黙り込む。今回の作戦、正直に言えば不安要素は尽きない。何せ、殆どの人間がまだ将来性が高い者達ばかりであり、戦力的に考えても彼等が優れていた事から仕方がないこととは言え、未来ある若者を戦線に立たせることに思う所はある。昔ならば頼りになる仲間達が数多く存在したが、他種族との戦争によって彼等の殆どは亡くなり、生き残ったのは自分と戦線を離れて隠居している者達ばかりだ。ならば、彼等の分も自分が役目を果たさなければならない。例え、この命が尽きようとギガノは国王のためにも、そして次の世代である若者達のためにも任務を果たすと闘志を燃やす。
――アイリィは黙り込む全員を前にし、若干罪悪感が湧き上がる。元を正せば自分の油断のせいで肉体をリーリスに奪われ、世界をあの女の手によって狂わされた。そのせいで数多くの人を巻き込みながら、長い時を放浪島で過ごしていた。しかし、今更後悔したところで状況は変わらない。彼女の最愛の姉はもう戻らないし、あの時代に帰れる事も出来ない。ならば最後の後始末は自分の手で終わらせるために自らが動く事を決心した。
――レノは今までの事を思い返し、不意にクズキとミキの顔が思い浮かぶ。2人はレノにとって人生の師であり、そしてこの2人以外にも様々な人と交わり、成長できた。数多くの人間との関わりを持つ事で、いつしか自分も彼らのお蔭で強くなれた。だからこそ、恩返しの意味も込めて戦うだけだ。いい加減にロスト・ナンバーズとの因縁も終わらせ、ホムラとの決着をつける為にも、奴等を逃す気はない。
「……全員、よく考えてから行動してくれ」
ギガノはそう告げると振り返り、その場を離れる。残された者達は顔を見合わせ、無言で解散した――
「まさかあれほどの腕を持つとは……やはり、世界は広い。貴女が味方になってくれるのなら私が反対する理由は無い」
「いいんですか?」
「ああ、むしろこちらから助太刀を願いたい。頼りにしているぞ英雄殿の母親殿」
「そのネタ、まだ引きずっているんですか」
ギガノは結界石の欠片が嵌め込まれた腕輪を取りだし、これを装着すれば鳳凰学園を覆っている結界を突破できる。アイリィはすぐに受け取って装着すると、ギガノは周囲を見渡し、意を決したように告げる。
「作戦決行日は明日の早朝からだ。既に学園周囲の住民達には内密に避難を促しているが、最悪の場合はこの都市全体を巻き込んだ大きな戦になる。それを避けるためにも鳳凰学園での短期決着で終わらせねばならん」
「相手の戦力は分からないの?」
「申し訳ないでござる……拙者たち、隠密部隊が常に鳳凰学園に見張りを行っているのでござるが、相手側が動く様子は無いでござる。引き籠られては拙者たちもどうしようもなく、しかもつい先日にシゲル殿が包囲網を突破して学園内に逃げ込んだようでござる」
一応は鳳凰学園には目立たない様にカゲマルの隠密部隊と、必要最小限の兵士たちで見張りを行っているが、シゲルは堂々と正面から兵士たちを打ち破り、学園に入り込んだらしい。流石に最強の勇者というだけはあり、その動きに隙は無く並の兵士では太刀打ちできなかったという。
このままでは次々と包囲網を破って援軍が到着する可能性も否定できず、最早一刻の猶予も無い。作戦決行日までそれぞれが最期の準備を行い、万全の体勢で勝負を挑まなければならない。
「約22時間後(この世界は1日が22時間)ですか……なら、それまで各自自由行動と行きましょうか」
「そんな悠長な……」
「いや、構わない。最悪の場合、明日死んでしまうかもしれないからな」
「「……………」」
ギガノの言葉に全員が押し黙り、確かに彼の言う通り、明日戦う相手は六種族を相手に堂々と敵に回すほどの組織だ。一体どれほどの戦力が存在するのかも分からず、今までに何度も六種族を窮地に追いやった。
黒幕は冗談抜きでこの世界を一度征服した相手であり、彼女がどれほどの力を有しているのかは分からないが、今まで通りに犠牲者無しで勝てる相手とは考え難い。幸いにもアイリィによれば鳳凰学園には彼女の力は感じられないらしいが、それでも油断はできない。
明日の鳳凰学園での決戦で何人の人間が犠牲になるかは分からない以上、最悪の場合はレノ達が失敗したら大勢の人間が死んでしまう。王国の兵士だけではなく、この学園都市で平和に暮らしている何の罪もない人間達も犠牲になるだろう。
「悔いが無いように今のうちにやりたい事をやってくれて構わない。怖いのならば他の者と交代してくれ。覚悟の無い者を連れていく事は出来ないし、責める気もない。もしも作戦に参加できないのならば明日の早朝までに私の部屋に腕輪を返却しに来てくれ……最後に一言だけ言おう」
ギガノは一度間を置き、
「生きたいという想いは決して間違いじゃない、恥ずべき事でもない、生きようとする意思こそが世界で何よりも偉大だ。例え、どのような理由があっても生きたいという意思は正しい事だ」
何かを思い出すように語り、全員がその言葉に対して頷く。
――センリは聖導教会からの救援支援ではなく、自分から前線に志願したのは無き親友の仇を討つため、これまでに聖導教会に対して侮辱してきた彼らを許さないため、同時に次の世代の者達のために今の災害の芽を残さないためにも、戦う事を決意した。
――ジャンヌは自分の最愛の妹を奪い、奴等に狂わされた彼女を救うために生きてきた。そして目的を果たした後も、自分たち姉妹を苦しめた彼等を討つために王国に仕えてきたと思っていた。しかし、今ではカトレアのためだけではなく、これ以上の共に過ごしてきた仲間達を犠牲にしないためにも戦う事を誓う。
――アルトはバルトロス国王を救うため、そして人間という種の尊厳を守るためにロスト・ナンバーズを駆逐し、魔王という輩を打ち倒して、これからも一緒に心強い友人たちと共に王国を支えていく事を決める。
――リノンは王国のため、友人のため、何よりも自分たちにとっては大切な学び舎を汚したロスト・ナンバーズを許せず、様々な思い出がある場所で戦う事は辛いが、同時に何かの運命を感じていた。自分の中で最も大切な場所で成長した仲間達と共に敵を討つ。まるで童話のヒーローのような展開だが、自分達に敗北は許されない。何が起きても彼女は諦めず、敵を打ち倒す事に集中する。
――ゴンゾウは考え込む。正直に言えば彼が王国に仕えているのは別に忠誠心があるわけではない。王族であるアルトの事は好きだが、彼を自分の一生仕える人物とは思えず、そもそも巨人族である自分が仕えたところで王国内では立場はそれほど変わらない。良くてもアルトの護衛か、せいぜい騎士団の副団長に任命されるのが限度だろう。だが、そんな彼がずっと王国に仕えていたのはかけがえのない友人たちがいたからであり、これからも彼等と行動を共にするためならばどんな事でも行う。今回の戦いが苛烈を極めるとしても、アルトやリノンやジャンヌやレノが参加するのならば彼等の盾となるために自分は前に出続けるだけだった。
――ギガノは黙り込む。今回の作戦、正直に言えば不安要素は尽きない。何せ、殆どの人間がまだ将来性が高い者達ばかりであり、戦力的に考えても彼等が優れていた事から仕方がないこととは言え、未来ある若者を戦線に立たせることに思う所はある。昔ならば頼りになる仲間達が数多く存在したが、他種族との戦争によって彼等の殆どは亡くなり、生き残ったのは自分と戦線を離れて隠居している者達ばかりだ。ならば、彼等の分も自分が役目を果たさなければならない。例え、この命が尽きようとギガノは国王のためにも、そして次の世代である若者達のためにも任務を果たすと闘志を燃やす。
――アイリィは黙り込む全員を前にし、若干罪悪感が湧き上がる。元を正せば自分の油断のせいで肉体をリーリスに奪われ、世界をあの女の手によって狂わされた。そのせいで数多くの人を巻き込みながら、長い時を放浪島で過ごしていた。しかし、今更後悔したところで状況は変わらない。彼女の最愛の姉はもう戻らないし、あの時代に帰れる事も出来ない。ならば最後の後始末は自分の手で終わらせるために自らが動く事を決心した。
――レノは今までの事を思い返し、不意にクズキとミキの顔が思い浮かぶ。2人はレノにとって人生の師であり、そしてこの2人以外にも様々な人と交わり、成長できた。数多くの人間との関わりを持つ事で、いつしか自分も彼らのお蔭で強くなれた。だからこそ、恩返しの意味も込めて戦うだけだ。いい加減にロスト・ナンバーズとの因縁も終わらせ、ホムラとの決着をつける為にも、奴等を逃す気はない。
「……全員、よく考えてから行動してくれ」
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