種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

大聖遺物の正体

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「リーリスは人間の様な自我が芽生えてから、常々自分の境遇に絶望を抱いていました。いつも誰かに怯える毎日に他者の喰い残しの餌しか得られない日常、あまりにも弱すぎて他の生物を捕食する事も出来ず、長い時を孤独に過ごしていました」
「それだけ聞くと少し可哀想だけど」
「ですけど、ある時に地下迷宮の外部からハーフエルフの双子の姉妹が訪れ、リーリスはこの地獄から抜け出す好機と考えました。この2人のどちらかの肉体を乗り移って、外の世界に逃げる事を決意しました」
「雲行きが怪しくなった」
「ですが、この双子の姉妹は異様なまでに強く、地下三階層の化け物たちですら容易には勝てない敵でした。そのため、最初から双子の片割れを狙うのではなく、妹が召喚した魔獣に目を付けて乗り移りました」
「召喚したって……」


レノの脳裏にトウキョウの街でミキが教えてくれた「召喚魔法」を得意とした原初の英雄の妹(アイル)という言葉が再生され、アイリィに視線を向けると彼女はあからさまに視線を避け、話を続ける。


「……リーリスが乗り移った魔獣は黒狼と呼ばれる種で、力はそれほど強くは無かったんですが生命力が高く、常に双子の姉妹の妹の傍に控えていました。妹の方は特に気にした風も無く、日々実験に励んでいました」
「ねえ」
「そして、2人が地下迷宮から離れてそれぞれが分かれると、黒狼に乗り移ったリーリスは妹の方の天才美少女の方に付き従い、一緒に行動を続けて精神を乗り移る隙を伺っていました」
「お前だろ」
「やがて、長い月日が過ぎてひょんなことから魔術教会とバルバロス帝国が戦争状態に陥り、悲劇にも2人の英雄姉妹はお互いの立場のために戦う事を強要され、姉を心の底から尊敬している健気な妹は自分が死ぬことで姉の立場が守れるのならと思い、自殺を考えました」
「だからお前だろ」
「ですが、流石に本当に死ぬのは怖かったので、天才である彼女は自分の死を偽装する方法を考え始めました。まず、戦争に入ると姉と一騎打ちに持ち込む流れに誘導させ、そしてある程度彼女と戦闘を終えた後、特殊配合で生み出した薬で自分の肉体を一時的に仮死状態に追い込む方法を実行しました」
「そんな事してたの!?初耳なんだけど!!」
「しかし、小賢しい悪魔がこの隙を逃すはずが無く、倒れ込んだ美しい妹の身体に牙を喰いこませ、その肉体を乗っ取って支配しました。いつもの状態の彼女ならば支配なんか簡単に抜け出せましたが、生憎と薬によって真面な思考さえ上手くいかない彼女の身体では抵抗空しく、あっさりと憑依されます」
「そりゃそうだよね!!」
「その後、最悪の悪魔は彼女の姉である美しくも凛々しいお姉さま……もとい、英雄姉妹の姉を殺害し、その肉体を保管すると同時に地上を支配する事を決意しました。ちなみに最初に身体を乗っ取った黒狼については海上王国に封印を行い、何らかの異変が起きた際に目覚めるように封印を施した後、そんな狼の事をすっかり忘れて海上王国の島国ごと天高く島を浮上させ、永久に地上に降りられない様にしましたとさ……めでたくないめでたくない」
「阿保かお前は!!」


全ての話を聞き終え、レノは叫ばずにはいられない。リーリスが諸悪の根源ではあるが、それでもアイリィの油断によって世界がとんでもない方向に進行してしまった事は間違いない。彼女は指先を合わせながら顔を反らし、


「いや~……だって、まさか自分の買っているペットに霊魂が宿っているなんて思いもしないじゃないですか~……それに、私だって当時は若かったんですから色々とやりたいことがあったんですよ!?いくらお姉さまのためだからって、殺されるのは御免です!!」
「それなら争うような問題を起こすなよ!!」


魔術教会とバルバトロス帝国が戦争を引き起こした切欠も、元々はアイリィの発明品であう聖遺物が軍事利用されたからでもあり、それを知った帝国が激怒して戦争に発展してしまったからでもある。まあ、一応はフォローするならば元々教会と帝国は仲が悪く、遅かれ早かれ戦争は勃発していたであろうが。


「くっ……やはり、仮死状態ではなく一瞬で遥か遠方に自分と相手を転移させる転移結晶を使うべきでしたか……!!そう言えばこの間、闘人都市で何故か私の作った転移結晶の力を感じたような……?」
「どうでもいいわ」


彼女が語っている転移結晶とは恐らくはホノカがホムラとの戦闘で使用した物であり、1000年もの時を経て彼女の手に渡った物らしい。


「……リーリスが異様なまでに地下三階層の奴等の事を怖がる理由は分かった」
「まあ、いわゆるトラウマという奴ですね。自分がどれだけの力を手にしても、過去の忌まわしい記憶が纏わりついて消えないんですよ。1000年以上も生きているのに未だに第三階層で過ごした記憶が根強く残っているんですよ」
「同情はしないけどね」


だが、これでリーリスが異様なまでに闘人都市に封印されているという「魔法増幅機」に固執する理由が判明し、不意にレノはある考えに至る。


「あのさ……その封印って魔力を流し込む以外に解除できないの?」
「何ですか急に」
「いや、先に封印を解除してその大聖遺物をぶっ壊せば少しは気が晴れるかなと思って……」


闘人都市の地下深くに眠る大聖遺物の封印を解くには伝説級の聖遺物を犠牲にしないといけないのは分かっている。しかし、レノの脳裏には「カラドボルグ」「エクスカリバー」「レーヴァティン」「デュランダル」の聖剣の類が思い浮かび、どれもが国宝級の貴重な武器だとは分かるが、この中の3つを犠牲にして先に封印を解放し、大聖遺物を修復不可能なほどに破壊すればリーリスの野望は潰えると思うのだが、


「悪くない案ですけど、それは無理です。そんな事をしようものなら、この大陸全土が焦土と化しますよ」
「……どういう意味?」
「闘人都市に眠っている大聖遺物の正体……それは莫大な力を保有する物体なんです。魔法を増幅させる力があるのは事実ですが、実はそれ以上に厄介な存在なのです。もしもこの大聖遺物の正体が地上の人間に発覚したら、間違いなく六種族間で大きな戦争が勃発します」
「戦争って……」
「それほどまでに危険な存在なんですよあれは。だからこそ、私は誰の手にも届かない場所に苦労して再封印したんですから」
「……さっきから気になってたけど、どれくらい魔法を強化する事が出来るの?」


大聖遺物の正体が魔法の力を増幅させる役割を持つ道具、というよりは兵器だという事は分かったが、一体どれほどまでに強化させることが出来るのかを問い質すと、


「そうですね~……もしも仮に魔法覚えたて頃のレノさんが風魔法を使ったとします。そして、大聖遺物の力で最大限に強化したとすると……」
「うん」
「多分、半径10キロのあらゆる存在が吹き飛びます」
「えっ」


レノの脳裏に子供の頃の彼が浮かび上がり、フレイに教わった風魔法を使用した途端、自分を中心に竜巻が発生し、あらゆる物が吹き飛ばされる光景が思い浮かび「はわわわっ……」と変な声を上げながら全身から冷汗が流れる。
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