種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

学園都市帰還

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バルトロス13世が勇者達に誘拐されてから5日が経過し、第四部隊のレノ達が持ち帰った結界石を頼りに鳳凰学園の結界を突破できないか調査した結果、侵入は可能と証明された。王国側は即刻に精鋭部隊を編成して鳳凰学園に侵入しようと試んだが、1つ大きな問題が発覚した。

それはフレイが所持していた結界石が1つだけであり、その大きさも掌に収まる程度。結界を通過するにはビー玉ほどの大きささえあれば十分だが、彼女が所持していた結界石はどう加工しても「8人」の人間しか送り込めない事である。

たった8人のメンバーで結界内に存在する未知数の敵勢力を突破し、学園に設置されている結界石を破壊して外部の王国軍を招き入れる事が可能かどうかは分からないが、少なくともこの8人の枠には王国内部の軍人から慎重に選定しなければならない。

当然、四人の大将軍からは王国最強の称号を有するギガノは当然として、まだ病み上がりのカノンは戦闘に参加できず、レミアも先日の聖導教会の件でミキの力を完全に制御できない不安があり、テラノ将軍に関しては城塞都市をがら空きにするわけにもいかず、彼は除外される。

必然的に残り7人の枠は他の将軍や騎士団団長から選ばれるのだが、実力的に考えても「レーヴァティン」の持ち主であるジャンヌは当然として、王国の王子でありながら「デュランダル」の使い手であるアルト、さらにテンペスト騎士団の中でも最強のゴンゾウも外せず、剣乱武闘で活躍したリノンも本人が強く志望したために選ばれ、当然だが巷では一般庶民に「こいつが一番強いんじゃね?」と呼ばれている雷光の英雄ことレノも参加する。

但し、あまり戦士や騎士だけではバランスが悪いので後方支援が行える魔術師も必要のため、聖導教会からも協力を要請し、巫女姫の護衛をワルキューレ騎士団に任せてセンリが赴くことを約束する。彼女も弟子であるツインがロスト・ナンバーズが関わっている以上、無関係とはいえない。

残りの1人に関しては王国の将軍たちがこぞって志願したが、彼等の多くはバルトロス国王と共に戦場を駆け巡った世代であり、殆どが全盛期を当の昔に迎え、今では若手の育成に励んでいる者ばかりだ。彼等のお蔭で今の王国が存在するのは確かだが、今必要なのは実力が確かな者だけであり、心意気は立派でも老いて若かりし頃の力を引き出せない彼等では心許ない。

だからと言って、若手の将軍や騎士団長の中にはジャンヌやリノン等のクラスの有能な人材は存在せず、この点がバルトロス王国の弱点とも言える。一昔前は大陸最強の人材と領土を誇る大国だったが、時が経つにつれて黄金期を終えた王国は衰退していき、だからこそ多少のリスクを承知して「勇者召喚」を行って戦力増強を計ったのだが、彼等が召喚されて約5年の時を迎えてこのような厄介な問題に陥るなど誰もが予想できなかった。



――結局、あまり時間も掛けられないため残り1人のメンバーの選定は王国側に任せ、レノ達は一足先にアイリィとフレイ(+ウル)を連れて先に学園都市に戻っていた。最も、移動手段は転移魔方陣では相手に気付かれる心配があるため、わざわざフレイの知人のユニコーンに送ってもらい、現在は学園都市の街を3人と1匹で巡っていた。



「……あんまり街の様子は変わってないな」
「まあ、表向きはあの学園は閉鎖されていますからね。学園の周囲に展開されている結界も、ヨウカさんのような魔力眼を持たない人以外には気付かれない様に偽装してますし」
「にしても、この街って変わっているな……前に来た時より変な店が増えてやがる」
「確かに……俺がいた時より随分発達してる」
「ウォンッ……」


レノがまだ学園を通っていたころと比べても街の様子が一変しており、空にはホノカのフライングシャーク号と比べれば随分と小型だが、飛行船も飛んでいる。それだけではなく、5年前よりも観光客の数が増えており、様々な土産物屋が出店している。

その中にはこの世界では珍しい書店も存在し、試しに覗いてみると本というよりは巻物の類を販売しており、中身は子供向けの獣人族や巨人族に伝わる絵本や、大人向けには六大種族の様々な伝記が記されている。


「この都市は1000年前の私が棲んでいた国と似てますね。最も、科学力は私の時代の方が発展してますけど」
「1000年前ってどんな世界だったの?」
「そうですね……まあ、レノさんのいた世界ほどではありませんけど、それなりに発展していましたよ。少なくとも、ホノカさんが使っている魔導電話の類は一般人も普通に扱えていましたし」
「そうなんだ……」


想像以上に1000年前の科学は進歩していたようであり、仮に魔王にバルトロス帝国が滅ぼされていなければ今頃はどれほどの科学が発展していたのか想像できない。


「活性化の影響は魔物だけに及ぼすものじゃありませんからね。星全体が影響を受けて、今までに貴重な鉱石が大量に生成されたり、農作物が何倍にも収穫されたり、六種族にも私やお姉さまみたいな有能な人も生まれますからね。そのお蔭で科学が急速に発達したり、リーリスみたいな厄介や輩もたくさん出て来るんですけど……」
「そうなのか……」


言われてみれば放浪島の地下施設も、元々は活性化現象から発生する星のエネルギーを利用していると聞いており、思った以上にこの活性化現象とは生命に様々な影響を与えるらしい。


「ま、今は当面の目的に集中しましょうか……結局、どうするんですか?」
「う~ん……」
「おい、あんまり近づくと気づかれるんじゃないのか?」
「ク~ンッ……」


話している間にも鳳凰学園が存在する方角を歩んでおり、ここまで移動してみたがどうやらロスト・ナンバーズの類は街中には潜んでいない事が分かる。カゲマルのような隠密の熟練者が相手ならともかく、人並み外れた感覚の鋭さを持つ3人(+ウル)だからこそ、自分たちを監視や尾行する者が全く感じられない事に違和感を抱く。


「街中に手下ぐらい配備してると思ったんですけどね……思った以上に王国側を警戒しているようですね」
「警戒しているなら普通は配備するもんじゃないの?」
「下手に送り込んだ部下を捕まえられたら、情報漏洩の危険性もありますしね。洗脳で操作した人間は単純な暗示しか掛けられないので、潜入みたいな作業は不向きなんですよ」
「へえ……ちなみにもう一度聞くけど、本当に結界の中にリーリスはいないの?」
「いません。例え結界で阻まれようが、あの女が近くにいるなら気付かないはずがありません」


アイリィはリーリスがその身に宿す彼女の聖痕の力を感じ取れるので、少なくとも彼女は学園都市には存在しない事は確からしい。だが、リーリスが所持していない他の聖痕の反応を感じ取り、恐らくだが魔の聖痕を宿す人間がいるのは間違いない。

彼女がわざわざ枯葉の森を離れてレノと行動しているのは、リーリスが戦闘に参加する事を危惧しているからであり、完全に復活を遂げていないとはいえ、今のレノ達では分が悪い相手である。だからこそ、放浪島で長年の間、蓄積していた魔水晶を回収し、いざという時は彼女が出向く手筈だった。


「……これ以上は危険ですね。止まってください」


アイリィに言われてレノ達は前方に見える鳳凰学園を確認し、まだ距離はあるが用心してすぐ近くの路地裏に移動する。


「あれが例の結界ですか……確かに森人族の力で形成してますね。以前のようにカラドボルグやレノさんの魔鎧とやらで破壊する事は無理そうですね」
「そんな事まで分かるの?」
「ヨウカさんほどではないですが、私も魔力を色で捕える事が出来るんですよ。ちょっとしたコツがいるんですけどね」
「この化け物女め……」
「ク~ンッ」


足元で擦り寄るウルを撫で上げながら、レノも路地裏から顔を出して懐かしの鳳凰学園を確認するが、やはり結界の類は目視出来ない。ヨウカのような魔力眼を持たない限りは森人族の結界は見抜けられないが、アイリィは特別な方法で視界を強化させて確認しているのだろう。


「……どうやら相手側も本気の様ですね。そう簡単に破壊されない様に結界の仕組みを変えています」
「どういう風に?」
「そうでうね……詳しく説明するのは省きますが、今までにレノさんが体験した結界は「強化ガラス」の類だと考えてください。ガラスなら大きな力をぶつければ破壊は出来ますが、今回の結界は弾力性の高い「ゴムの塊」だと想像すれば分かりやすいですかね。強い衝撃を与えたとしても、別方向に弾かれるだけで打ち破るには至りません」
「なるほど」


カラドボルグの雷光であろうと、結界に触れた瞬間に明後日の方向に弾かれる想像をし、もしも弾かれた方向に街の類が存在したらとんでもない被害を生み出してしまう。大きすぎる力ほど、大きな被害を生む可能性が高い。
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