種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

憑依術の正体

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「それで?その魔晶石と憑依術がどう関係あるの?」
「……魔晶石は生前の人間の能力を所有しており、人格まで存在します。言ってみれば「魂」の一部とも言えます。この魔晶石を生きている人間にその身に宿す術を……」
「……それが憑依術の正体なのですね?」
「え?ど、どういう事なの?」


何か察しが着いたのかセンリは口元を抑えて驚愕し、ヨウカは不思議そうに彼女とレミアの2人を交互に観察するが、レノはつい最近に似たような話を聞いたような気がする。


「魔晶石を使えば……死んだ人間を蘇らせる事が出来るのか?」
「より正確に言えば、生前の記憶と人格を一時的に他者の肉体に宿らせることが出来ます。私の肉体には銀の英雄であるナナと、もう1人の彼の魔晶石が埋め込まれています」
「なるほどね……憑依術の正体は、その体内に埋め込んだ魔晶石の力を利用している訳か」
「え!?そ、そうなの!?」
「その通りです!!流石はレノ様!!お強いだけでなく、頭も聡明なのですね!?」
「今はそう言うのいいから」


英雄マニアである血が騒いだのか興奮気味に迫って来るレミアを押し返し、続きを促す。彼女は「し、失礼しました!!」と大袈裟なまでに頭を深く下げると、


「魔晶石って、だれでも扱えるの?」
「いえ……魔晶石は決して普通の人間には適合しません。ですが、私は幼少の頃から特殊な薬品と食事を摂取し、魔晶石に適合しやすい肉体を造り上げました。それでも魔晶石を宿すのに10年の時が掛かりました」
「10年……」


以前に彼女自身から「10才」の時、3000人のエルフの大軍を他の大将軍たちと共に撃退したという話を思い出し、つまり彼女は憑依術を覚えたす後にあの厄介な森人族を相手に戦い抜いた事になる。


「さっきから気になってるけど、そのもう1人の英雄ってどんな奴?」
「えと、その……」
「れ、レノ様……その話はまた今度にしたらどうですか?」
「まあ、別にいいけど……」


明らかに彼女が明言するのを避けていたにも関わらず、敢えてレノは率直に尋ねると、レミアは顔を反らし、センリも慌てて話を戻す。一体、彼女がどんな英雄を宿しているのかは分からないが、今度事情を知っていそうなカノンにでも聞いてみる事にする。


「ちなみに聞きたいことがあるんだけど……魔晶石の力で英雄を自分の身体に宿して召喚しているのは分かったけど、突然出てくる魔剣や服はどういう原理なの?」


彼女の話を聞く限りでは召喚、というよりは肉体に宿した魔晶石の力でレミアの肉体を変化させているように思えるが、それならばレミアが銀の英雄に変化する際に勝手に出現する「飛燕」や「氷華」等の魔剣や女騎士の鎧や修道服などはどういう原理で現れるのか、


「それはこれのお蔭です」
「……魔水晶?」


レミアは自分の服の両袖に仕込まれている黄色の魔水晶を疲労し、レノも初めて見る色合の魔石であり、彼女は試しに指先を魔水晶に触れると、


「飛燕」
「おおっ!?」


ブゥンッ――!!


突然、彼女の手元にナナの愛剣である「飛燕」が出現し、以前にバルから話したことがある異空間に物品を収める事が出来るという収納用の魔水晶なのだろう。それなりに希少品であり、見るのは初めてだが、まさか服の袖に仕込んでいるなど思いもしなかった。


「私がナナを憑依する際、服装や武器が変化するのはこの収納用の魔水晶(クリスタル)を利用しています」
「へえ……けど、剣は分かるけど服まで変わるの?」
「説明が難しいのですが、この服自体も特殊な仕込みなので……」
「あの……そろそろ本題に入りませんか?」


ナナの裾に仕込まれた魔水晶を観察していると、センリが咳をして話に割り込み、未だに自分たちが呼び出された理由を聞いていない事に気が付き、彼女に視線を戻す。

センリは何処からか赤色の箱を取り出し、長机の上に置く。その大きさは指輪のケースほどであり、蓋を開くと白色の「水晶玉」が収納されていた。


「これは……?」
「……っ!?」
「ヨウカ?」


その水晶玉を見た瞬間、ヨウカの顔色が変化し、動揺したように恐る恐る彼女に視線を向けると、


「まさか……これ、ううんっ……間違いないっ……!!この感覚……!?」
「ヨウカ様……やはり、お気づきになられましたか」
「当たり前だよ!!こんなの、気付かないはずが無い!!」
「ヨウカ?」


いつもの彼女らしからぬ姿にレノは疑問を抱き、一体目の前の水晶玉が何なのか問い質す前に黙り込んでいたセンリが口を開き、


「……先ほどの話、レミア将軍は魔晶石と名付けているようですが、我々聖堂教会の間ではこの石を命石と呼んでいます」
「命……石?」
「我々は死体から回収される特殊な鉱石をそう呼んでいます」
「まさか……!?」


レノは目の前に存在する水晶玉の正体に気が付き、今までの話から察するにある女性の姿が頭に浮かび、ヨウカは大粒の涙を流しながら水晶玉に手を翳し、


「……マザーの、力が感じるよぉっ……!!」



――レノ達の目の前に存在する美しい水晶玉こそ、約2年前に剣乱武闘で大衆を守るために死亡したミキの魔晶石だと気が付く。



「ううっ、ひぐっ……あ、ぁあああああああああっ!!」
「ヨウカ様……申し訳ありませんっ」


センリは泣きじゃくるヨウカを優しく抱きしめ、彼女は地面に涙を染めらせながら、収まる様子は無い。その光景を見てレノとレミアは黙り込み、長机に置かれた水晶玉に視線を注ぐ。


「ミキ……」
「美しい輝き……ミキという方は、きっと優れた魔術師だったんですね」
「そうだよ」


レノにとってもミキは恩人であり、彼女から学んだことは色々と多い。一緒にいた時間は短かったが、それでも彼女ほどに強く、立派で、尊敬できる人間はいなかい。


「……この命石は私自身が彼女の肉体から回収した物です。昔から聖導教会で火葬した者達の遺体か、決して壊れる事も、傷つくことも無い水晶が見つかる事があり、我々はこの功績を保管するように義務付けられています。一体何故、そのような決まりが存在するのかは我々も知らなかったのですが、レミア様の話を聞いてやっと理解できました」
「そうなのですか……眩しくて、それでいて暖かい、優しい光ですね」
「うん……ぞうだよ、マザーば、誰よりもやざしがったよ……」


涙と鼻水混じりの顔でヨウカが頷き、センリの胸元をぐっしょりと濡らしながらも、少しは落ち着いたのか彼女から離れる。


「……それで、これを俺達に見せつけてどうする気?何となくだけど、呼び出した理由は分かるけど」
「私も半信半疑でしたが、レミア将軍の話を聞いてこのミキの命石を用意しました。そして今将軍が語った話を聞いて確信に変わりましたが……」
「蘇らせるのか……ミキを?」
「それは……」


全員の視線がレミアに注がれ、彼女は机に置かれた水晶玉に手を伸ばし、触れる寸前で動きを止めると、



「結論から言いましょう……この魔晶石を私の身体に取り込むことは可能です」



その言葉に全員が大きく目を見開き、ヨウカが何か声を発しようとしたが、



「ですが、私が憑依できるのは全盛期の彼女です。つまり、貴方たちの知るミキさんとは別人の可能性が高いです」
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